午前3時半にアラームの音で目を覚ました。
散らかした荷物をまとめ、ゴミが落ちていないか床をチェックする。
4時前には荷物を自転車に括り付け、出発の準備が整った。
さて、今日も一日頑張るか、とストレッチをしていると、Nさんがやっ
て来た。昨日のUさん(息子が僕とソックリさん)も一緒である。こん
な時間にどうしたものかと思っていると、
「今さんま料理持ってくるから、食べて行きなさい」
と言って家のほうに戻っていった。Uさんと自転車旅の話などをして
いると、Nさんはお盆に数品のさんま料理を乗せて戻ってきた。
それは、さんまの刺身、さんまのつみれ汁、さんまの佃煮であった。
つみれ汁は、例の下駄屋さんが作ってくれたそうだ。こんな朝早くか
ら、そんなに手間のかかるものを・・・・・・。もはや感謝の言葉もない
。感謝しつつ、さんま料理を頂く。
新鮮そのもの
上品な味わいのつみれ汁
つみれ汁は上品な味わいであった。澄んだスープには、さんまの出
汁がよく効いている。NさんとUさんに囲まれ飲むつみれ汁は、心ま
で温かくさせてくれた。
とても美味しいさんま料理を食べつくすと、Uさんが国道45号までの
近道を車で案内してくれるという。その裏道を使えば、だいぶショート
カット出来るのだそうだ。ありがたく申し出を受ける事にした。
そして最後に、今日のお昼にでも、とおにぎりと蒸しパンを持たせて
くれたのである。
午前4時30分、Nさんの家を出発した。
Uさんは車に乗って送ってくれるつもりらしい。Nさんは自転車で途中
まで着いてくるとの事。
人気のない真っ暗な宮古の町を、45号線目指し走る3人。
道はすぐに上り坂に入った。しばらく着いて来ていたNさんだが、坂の
途中でお別れになった。北海道に着いたらまた連絡すると約束し、い
つか宮古に遊びに来ることを誓った。
道は徐々に険しくなる。なるほどショートカットというのはこういう事で
あったか・・・・・。Uさんの車は半クラッチの状態で、ゆっくりゆっくり進
んでくれる。マラソンの先導車のように。
しかしそのUさんの親切とは裏腹に、僕の肉体はこの度始まって以来
の大ピンチを迎えていた。
・・・し、死ぬ!!
こんな急勾配を一気に駆け上がることは今までなかった。
いくらゆっくり走ってくれているとはいえ、車の速さである。そして多分、
Uさんは僕の事を鉄人のように思っている。あの子にはこんな坂はち
ょろいものなんだろう、と。
僕の太ももにはかつてないほど乳酸が溜まり、心臓はのどから飛び
出しそうである。しかし、僕の苦痛に歪んだ顔は闇に消され、激しい
呼吸音は車の窓から聞こえる事はない・・・・・・・。
もう、後一分でもこれを続ける事は出来ない。しかし考えてもみろ!
ここで自転車を降りたら俺のヘタレ伝説は一気に広まり、宮古中の笑
い者になるぞ!死んでも走り続けるんだ!!
激しい葛藤と闘っていると、Uさんの車が止まった。
「ここまでしか送れないけど・・・、今日も頑張ってね。たろうと小本の
峠は厳しいけど。気をつけて!」
そう言ってUさんは走り去っていった。礼を言った僕の顔は引きつっ
ていたに違いない・・・・・。
思わぬ山場を迎えた僕は、自転車から降りると冷たいアスファルトに
座り込み、
「これも旅のうち」
と呟き、一人笑った。止め処なく溢れる汗は、岩手の冷たい空気に
触れ水蒸気となり、街頭の明かりに照らされゆっくり立ち昇っていっ
た。




