球恋記 -3ページ目

横顔

「ゆきの部屋来るの凄い久しぶりだな・・。」

一志はゆきの家に寄っていた。



「だねぇ!昔は毎日きてたのにね・・。」



幼なじみでも思春期を迎え、男女二人きりの部屋ではやはり意識してしまう様だ。



・・・・・・。




お互いに沈黙したまま刻々と時間は過ぎて行く。




「・・・・・・だよ。」


「えっ!今なんて?」

ガチャッ!!
「一志君。夕食はウチで食べていきなさい。」

部屋の扉を開けたのはゆきの母だった。


このムードを破ったのはゆきの母であった。


「お邪魔したかしら・・?ごめんなさいね。」



・・・・・。      

「い・いえっ!大丈夫です!!夕飯ごちそうになります。」

一志は焦って答えた。


「フフッ・・。たくさん食べてってね。ゆき、夕飯の支度を手伝って!」

「はぁーい。カズ君また後でね・・。」

ゆきはそう言うと部屋を出ていった。
一志の目の前を通ったゆきのなびく長い髪から、
ほんのり甘く優しい香りがした。


(ゆきのヤツ大人っぽくなったなぁ・・。横顔がかわいかったな・・)

一志は顔を赤らめた。



夕食はゆき、ゆきの母、一志で食事を囲み、心なしか会話が弾んだ。
話題はゆきの兄の事だった。

ゆきには二つ歳の離れた兄がいる。名前は弘人。中学時代はシニアリーグに所属し活躍した。
現在は年々、力をつけている《創志館高校》に進学し寮生活をしている。


一志と弘人はキャッチボールやゲームをする程、親しかった。一志の憧れの人でもある。

食事を食べ終え一志は帰りの準備をした。

「ごちそうさまです。お邪魔しました。」


「いいえ~。また遊びに来なさいね。」

「カズ君。後で絶対メール送ってよ!!」

ゆきは念を押しながら一志を見送った。




〈今日はありがとう。さっきゆきに言い掛けたやつ・・。また今度話すね(^^)vまた明日な。〉


一志は少し照れ臭そうにメールを送った。


つづく


この物語はフィクションであり、人物・団体・出来事などとは一切関係ありません。

未熟

「大瀬一志です。宜しくお願いします。」

一志は自己紹介をしてペコりと一礼した。
すると・・。


部員達は拍手を一志に贈った。


「まぁ、みんな仲良くしてやってくれ。実力は統英野球部に居たから問題は無いだろう。」

川名はそう言って一志の肩にポンと手を置いた。


「大瀬君よろしくな!」

キャプテンの副島が手を差し伸べた。


「こちらこそ。よろしくお願いします。」

一志も手を伸ばし副島と握手をした。



練習は再開され、一志は練習着に着替え、練習に参加した。


「よーし。マシン打ちの続きをするぞ!」


そして10分後。一志に順番が来た。


一志はベンチに戻りバットを取りに行くと、そこには木製バットしか置いてなかった。


「副島君。金属バットは無いの?」

一志は副島に聞くと副島は首を立てに振り、

「ウチはバッティング練習は木製バットしか使わないよ。だから木製バット使ってね!」


中学軟式では金属バットを使用するのが常識である。木製バットを使うチームは極少数である。


しかし、この練習の意図を一志はまだ解らないが後に身をもって知ることになる・・。


「じゃあ、ボール入れまーす!!」

係がボールをマシンに入れた。




パシュン!!



高速回転した二つのタイヤ間からボールが放たれた。


一志はバットを振った。



ガシャン!!



一志の振ったバットにはボールは当たらなかった。
この日、一志はこのマシン打ちで一回も快音を響かせられなかった。


(何で打てないんだ・・
スピードのある球じゃないのに・・)



(考えろ!一志。野球は頭でやるんだぜ)

川名はニヤリと笑って職員室に戻っていった。



「大瀬君。あれを打つには振るんじゃなくて当てるんだよ。ボールに印付いてんじゃん!?その印をバットに付いてる印の所で打つんだよ。」

一人の部員が一志に声を掛けた。
彼の名前は曽我畑浩三。
後に一志の良き理解者となり、ともに甲子園を目指す仲間になるのだった。


練習が終わり、一志は自分の未熟さに奥歯を噛み締めながら帰路についた。


(あの練習はバットの芯を捕らえる練習。ボールをよく見る練習でもあったんだ。俺はバットやボールの印にすら気付かず、ただのマシン打ちと考えていた俺は・・未熟だ!)


すると・・。


「カズ君♪一緒に帰ろう♪」
校門前には天使の様な笑顔でゆきが迎えてくれた。


一志の顔が少し赤みを帯びた。


つづく


この物語は人物・団体・出来事などとは一切関係ありません。

真相

「こんなコントロールの良い投手、中学生にいるんですか!?」

一志は声を荒げた。


「ばーか。プロでも居ないよ!!」
川名は笑いながら言った。

「トリックはなぁ・・。キャッチャーにあるんだよ!小柳!!おいで」

川名は一人の選手を呼び寄せた。

しかし小柳という男。キャッチャーとは思えないくらいの小柄。おそらく155センチくらいであろう身長体重も50キロもない細身である。


「先生。小柳君のキャッチングに秘密があるんですか?」


川名はニヤリとした。

「何言ってんだ。小柳のこの体格に秘密があるんだよ♪♪」


一志は首をかしげた。


「全く・・。一志!マウンドに立ってみろ!!
小柳ぃ!この鈍感野郎にお前の秘密教えてやれ!!」

一志はマウンドに立ち、小柳はプロテクターを付けてキャッチャーボックスに座った。


「ちっせー的だな。」
一志はそうつぶやいた。


しかし・・。小柳がミットを構えた瞬間、一志は状況を把握した。


(ミットが大きく見える!?まるで俺がキャッチャーミットしか見えなくなってしまったかの様に)


「解ったか!?一志!!
これがトリックだ!!
小柳がしゃがむと身長は2分の1になるってこと。
そんな小柳がキャッチャーミット構えてみろ!
キャッチャーミットがでかく、ダーツの的の様に見えてくんだよ。」


(すげぇ・・こんな野球あったんだ・・)

一志は身震いが止まらなくなり、不思議と笑みがこぼれていた。


川名も、またニヤリと笑った・・。
そして川名はこう叫んだ。


「一志!鬼(統英)退治なら家来が必要だろ!?
俺等が家来なってやるよ!!」


この日。大瀬一志は桜台中学校野球部に入部した。


つづく


この物語はフィクションであり、人物・団体・出来事などとは一切関係ありません。