はじめての方、ようこそ。再来、応援してくださっている方にありがとうございます。ハクジュと申します。

私の記事の紹介です。メッセージボードとほぼ同じです。内容の振れ幅が大きいので、ご興味を持たれた方はこちらをご覧ください。
“ファンタジー”のリンクに飛ぶと、過去作品が読めます。私のバトル、ミステリー、伏線ゼロのゆるゆる作品にご興味のある方はいらしてください。お時間のない方は作詞シリーズが短くてお手頃かと思います。

前回までのあらじ。
マルコは18歳。母のアネモネをデモンのアレンにさらわれた。マルコは母を取り戻す旅に出て、とうとうアレンと雌雄を決する日をむかえた。しかし、アレンのドラゴン、勘吉の前に防戦一方。マルコ、どうする?!

[キャラクター紹介]

マルコ……18歳。母を取り戻すことを誓った。デモンの山におもむき、アレンと決戦!

アネモネ……マルコの母。アレンにさらわれた。

イカロス……マルコが旅先で仲間になった男性。煩悩剣を操る。アレンに復讐を誓っていたが、勘吉の前に倒れた。マルコに煩悩剣を託す。

アレン……壮年に見えるデモン。アネモネをさらった。

勘吉……アレンのしたがえるドラゴン。水と熱を操る。

花子……勘吉の彼女。冷気を操る。

チャックおじさん……マルコの故郷の牛乳配達屋。ぽっちゃり四十代。

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[マルコの冒険4-2]

僕は勘吉の攻撃を跳ね返しながら、必死で頭を回転させた。
ーー勘吉が初めて現れた時、川の水を使っていた。ここに川はない。何かーー何か水源があるはずだ。それが見つかればーー!
ーーキュー……
僕は自分の背後の壁に蛇口があるのを見つけた。よく見るとそこからホースが伸びていて、勘吉のお尻につながっている。

僕の片手は煩悩剣でふさがっているが、もう片手を空けられる。僕はおもむろに蛇口をつかんでキュッと締めた。

勘吉はしばらく放水していたが、ある時ピタッと攻撃ができなくなった。直後にガスッと煙を吐いて目を白黒。次にひっくり返ってのたうち回り始めた。
「うおぉぉぉ?! 勘吉が空焚き!? どういうことだ」
アレンの前で、勘吉は七転八倒。とうとう体力を使いきってしまい、鼻から黒い煙をあげて目を回してしまった。僕は動揺するアレンの隙を見逃さなかった。全力の一撃。
「ふわっとはずんでツンと上向き、ほんのり桜ピンク、夢の二つ星アタァァァァァック!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ?!」
アレンはとうとう倒れた。彼の最後だった。

僕は彼が動かないのを見届け、母さんのもとに歩み寄った。
「もう大丈夫だよ」
「ちょっとここすわんなさい」
「はい」
僕は彼女と膝と膝を付き合わせた。
「まったくあんたって子は、おっぱいで寄り道して、おっぱいで寄り道して」
「ごめんなさい」
案の定の展開が、なんか落ち着く。母さん笑うと可愛いんだけど、怒ってても意外と可愛い。

彼女は説教を終えて立ち上がった。アレンの所にいく。倒れたキャラをわざわざ揺すり起こす。
「ちょっとここすわんなさい」
今度は彼に説教。
「まったく、女さらっちゃ人に迷惑かけて、女さらっちゃ人に迷惑かけて。あなたね、朝寝坊して、ボタンかけ違えて、料理はサボって、女は口説けなくて、何なの。シャキッとしなさい」
アレンがべそをかきはじめた。
「だっていつもみんな冷たくて、母さんにあんたはダメな子って言われて、おれなんか、おれなんか」
「ダメな子なんかいません!」
「おれに何の取り柄があるんだよ」
「お風呂があるでしょ!」
「お風呂?」

[マルコの冒険 エピローグ]

「番頭さーん、石鹸ないよー」
「へーい、ただいま!」
3ヶ月後、アレンは母さんの指導を受け、僕らの故郷で働き出した。もう赤トンボの季節。勘吉が名水を沸かしはじめるや、町は銭湯の話題でもちきりになった。

一番の目玉商品はラブリードラゴンとお風呂で遊べること。勘吉は女性客と一緒に湯にプカプカ浸かり、花子は風呂上がりの客にアイスクリーム、シャーベット、それからひえひえのハグをプレゼント。めぐりめぐって次の夏になれば、立場が逆転して勘吉はバーベキュー係になるだろう。

アレンはドラゴンにあやかる形で、たちまち二番目の人気者になってしまった。仕事着は客と同じ浴衣。獣の手足が出ていると違和感大爆発なんだけど、それも最初だけだったようだ。僕がアレンちに寄った日は、湯上がりの女性客に囲まれていた。
「番頭さん、手足の獣毛ピカピカ!」
「どういうお手入れしてるの?」
「それは毎日お風呂とトリートメントですよ!」
「やっぱり。ちょっと触っていい?」
「わたしも!」
「えへへ。くすぐったいなあ」
アレンデレンデレン。僕は彼に語りかけた。
「イカロスに会いに来たんだ」
「そうか。喜ぶぜ」
イカロスは最近アレンと和解し、彼の集中治療を受けていた。
「イカロス、入るよ」
僕はアレンの案内で、母屋の集中治療専用和室に迎えられた。すだれをあげて更に奥に入る。
「かー……」
「かー?」
「そこそこそこ」
イカロスが幸せそうに布団に横たわっていた。体長30㎝ほどのたくさんの赤ちゃんドラゴンと重なって昼寝中みたいに見えた。彼が僕に気づいた。
「マルコか、久しぶり」
「元気そうでよかった。イカロス、もう赤ちゃんの相手していいの?」
「相手してるんじゃない」
イカロスに続いて、アレンがにやりと笑った。
「治してもらってるんだ」
「どういうこと?」
僕がたずねると、アレンが説明した。
「勘吉と花子のチビっ子だから能力を受け継いでいるのだ。紅一点の美子はお母さん譲りで湿布ができる」
「なるほど」
美子はイカロスの胸の上にひっついて、のんびりしている。
「でも患者が身体を冷やしてしまうといけないだろ?」
アレンの次にイカロスが言った。
「マルコ、オスのチビッ子の下にもぐりこんでみろ」
僕は両膝を落として、イカロスの腰から脚の上にダンゴ状に折り重なっているチビッ子の下に手を入れた。
「あったかい!」
「そうなんだ。極楽なんだよ」
アレンは自慢気だった。
「男の子達は大きくなると雷を操るんだけどな、まだ小さいから電気毛布でしかないのだ。秋はそう寒くないが、朝晩は冷えるしな」
ぼくは男の子達の下に膝まで入れてしまった。
「やめられない!」
「だろ?」
イカロスが歯を見せて笑った。僕は浴衣姿のデモンを振り返った。
「アレン、煎茶とみかんないかい?」
「オレンジならあるぞ」
思わず注文したら、アレンがオレンジを取りに奥にひっこんだ。すっかり気のきく奴になって。

アレンの3ヶ月後は清々し過ぎるほどだったが、まだ僕がハッピーを見届けていない人がいる。チャックおじさんだ。ぼくと母さんが故郷に帰還した日、彼は祝福に来ようとして、あわてて階段から落ちてしまった。

僕と母さんが居心地のいい貸家で再出発してから、もう彼の怪我の治る頃だ。僕はおじさんの牛乳が恋しくなった。

「アネモネさん!」
会いたくなったら、おじさんはたちまちカムバックした。呼ばれたみたいに僕たち親子の前に現れる。白タキシードに薔薇の花束のいでたち。
「アネモネさん!」
おじさんは20メートルほど向こうから、母さんめがけて走りはじめた。
「アネモネっすぅぅわあぁぁぁぁぁぁん!!」
途中でけつまづき、前のめりに転倒。両足が浮き上がった状態で、顔だけで母さんの方にじょりじょりスライディングしてゆく。しっかり花束を握って。ーーおじさんの恋の行方が気になるが、それはまた別の話。
(終わり)

[感謝!]

次のファンタジーシリーズに入る予定です。マルコの後書きは気が向いた時に書きます。応援ありがとうございました!