群青と真紅 63【敬剣の日〜テヒョンのはからい〜】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

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アラフィフの生活や周辺で起きたことを書いています☆
そしてときどき
終活のガイドをさせていただきます

現在、BTSの底なし沼にハマり浸かっております
ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆

今年のさくら🌸の開花は遅いみたいですね
でも待つのは長いけど、咲いたら咲いたであっという間に散ってしまうもの照れ
潔いいのか、儚いのか・・・

今年はお花見したいなぁ←花より団子だけどね🤣🤣


毎度お待たせしております群青と真紅でございます

前回の物語

文中注記
【頸飾~けいしょく~】
簡単に言うと「首飾り」ですが、主に国や王室での大きな行事で正装する際に
勲章などをつけたようです
Wikipediaより
頸飾の例として借りましたこの画像は、日本の最高位とされる勲章で
大勲位菊花章頸飾(だいくんいきっかしょうけいしょく)といいます

ルイ15世が身につける頸飾

この私達の物語の中での頸飾は
国王はダイヤモンド
王位継承第一位の大公はルビー
王位継承第二位の大公子はサファイア
と致しました(宝石の順位順)

また
テヒョンが着ていたロングマントのイメージはこんな感じ
このロングマントの上に頸飾をつけます
ロイヤル・アッシャーより
ウィリアム皇太子とキャサリン妃
 

物語の続きが始まります✨✨✨


【テヒョンの帰郷】

馬車は夕刻前に宮殿に到着した。
宮殿の出入口前にはデイビスとミセス・ブラウンが待っていた。
馬車が停まるとデイビスが扉を開けた。
テヒョンが降りてくると同時に、
「お帰りなさいませ、殿下。」
と迎える。
「ただいま。執事代行ご苦労だったな。皆変わりないか?」
「はい、変わりございません。」
「テヒョン様、お疲れ様でございます!」
元気な声が飛んできた。
「ただいま、ミセス・ブラウン。あなたの元気な声を聞くと安心するよ。」
「これは失礼致しました。お耳障りにはなりませんでしたでしょうか?」
「ははは、大丈夫だ。あなたのその声はエネルギーになるのだから、そのままでよいのだ。」
「まぁ、恐れ入ります。
テヒョン様もうじきにご夕食のお時間になりますが、お疲れでしたらお部屋にお運び致しますか?」
「いや、食堂に行くよ。」
ミセス・ブラウンは頷くと、旅疲れしているであろうテヒョンに早く中に入るよう促した。

「デイビス、父上はいらっしゃるか?」
「はい、大公殿下はご自身のお部屋にいらっしゃいます。」
「そうか、ではご挨拶に行ってくる。その後着替えて食堂に行くぞ。」
「かしこまりました。では私は殿下のお部屋でお着替えの準備を致しましてお待ち申し上げます。」
デイビスは一礼をしてテヒョンの部屋へ向かった。
「では私はお食事のお時間を多少ずらすように、厨房へ申し伝えて参ります。」
ミセス・ブラウンも一礼をして厨房へ向かった。
「ではスミス、参ろう。」
「はい。」
テヒョンとスミスは大公の部屋に向かった。

部屋の扉を叩くと中からオルブライトが出てきた。
「これは、お帰りなさいませテヒョン様。」
「ただいま。」
扉が大きく開かれて中に入る。
「テヒョンか?」
大公は机で書類に書き込みをしていたが顔を上げた。
「ただいま戻りました父上。」
大公は立ち上がり『お帰り。』と息子を抱きしめた。
「旅行は楽しめたか?領民達はどうであった?皆元気で暮らしていたか?」
「父上、いっぺんには無理でございますよ。」
テヒョンは笑ってしまった。

「色々募るお話はございますが、、、父上、まずご報告がございます。」
テヒョンが真剣な面持ちで話しを始めた。
「例のニールという者の件だな。まぁ座りなさい。」
ソファに座るよう勧めた。
「大公殿下、まずこちらをご覧下さいませ。ニールの監視役のゲインズから旅行中に逐一上がってきた報告書でございます。」
スミスが報告書の束を渡した。
報告書を受け取った大公は椅子に腰掛けてそれを丁寧に読み込んでいった。
「なるほど、敬剣の日にニールは謁見を申し入れたわけだな。人がかなり集まる日だ。」
「はい。何かしら決心のようなものも感じますが、彼も貴族としての教育を受けた経験者ですから、覚悟はしているのだとは思います。」

大公は頷きながらテヒョンの話を聞いていた。
「今回のニールに対する罰は勇気が要ったろう。」
「・・・はい。その権利が私に与えられているだけに、、、」
「だか私は領主として取ったお前の判断は正解だったと思うぞ。」
「父上・・・」
「国王に対しての誤った見解は、野放しにしてはならない事だったと思う。ましてやニールは土木の責任者であろう。部下がいる立場での発言に対する責任は重い。」
「はい。」
「お前の取った処置について、ニール自身がどう受け止めているのか、敬剣の日が楽しみであるな。」
大公は最後には楽しんでいるようだった。
楽観的な父の性格は分かってはいたが、その何事にもブレない強さを尊敬した。


旅行帰りの我が家での食事は、多忙を極める父との久しぶりの食事でもあった。
食事の後テヒョンは領地での農作業の体験話や焚き火を囲んで領民達と食事をした話、領民の家で小さい子どもに絵本を読んでやった話などを身振り手振りで大公に話した。
大公は楽しそうに話すテヒョンの充実した旅を思い、笑顔のままずっと話を聞いていた。
テヒョンの方は旅の思い出を父に話しながら、その楽しかった風景の中には、ジョングクの姿がすぐ隣にあった事を思い出していた。
ジョングクも今、夕食の席でセオドラ卿に旅の話をしているのだろうか。
「どうした?疲れたか?」
話の途中で物思いに黙り込んたテヒョンに大公が声を掛けた。
「馬車に長時間揺られて疲れたであろう。今夜はもう早く寝た方がよいな。」
「はい、、、失礼致しました。では部屋に戻ることに致します。」

テヒョンは部屋に戻った。デイビスが部屋の中を整えてくれていて、暖かい空気が既に出来ていた。
「デイビス、寝る前にジャスミンティーをくれるか?」
「かしこまりました。」
デイビスが部屋を出るとテヒョンは一人でパジャマに着替えて、お気に入りのあのガウンコートを羽織った。
既に窓のカーテンは全て締められていたが、庭園側の窓まで行くと少しだけカーテンを開いた。真っ暗な外は遠く市街地の方に灯りが見える。ジョングクの屋敷もその先にあるのだ。テヒョンはあの先に想いを馳せて右手の薬指の指輪に唇を当てた。
約三週間片時も離れることなく、そばにジョングクがいた。旅行前になかなか会えない時期があった時より、今の方が寂しさが深いので驚いた。数時間前までは一緒にいたというのにだ。


駅で別れて数時間。
ジョングクの方も夕食の時にセオドラ卿に旅行の話をしていた。
絶大なる信頼を受けて旅行に同行させて貰い、最後までテヒョンを守り抜いた事を労われた。
そして、一人になってからはとてつもない寂しさに襲われていた。
この三週間の間、いつも特等席でテヒョンのそばに居られた。手を伸ばして触れることも抱きしめることも許された。
その度に見せてくれた甘美な視線も、優美に上がる口角も自分のためだけだと確信し、そこが居場所なのだと実感したのだ。
テヒョンもジョングクもお互いが近くなればなるほど、離れた時の切なさが同じ分だけ押し寄せてくるのを感じた。
そんな恋慕すら愛しく思えて仕方がなかった。



【敬剣の日】

いよいよ《敬剣の日》を迎えた。
この日は〈流血を避け紳士的で尊い戦いを遂げた戦士達を敬って制定された〉国民の祝日だった。当時、陸軍を率いていた連隊の隊長が敵の総督に向かって、自らの剣を腰から下ろして献上し、言葉で説き伏せたという武勇伝が伝説となって伝わっていた。
献上された剣は後に相手国から正式に返還されて、敬剣として国宝扱いとなり宮廷が管理していた。
この日は軍祝として扱われたが、功績のあった者は軍関係者のみならず表彰される。また、それとは反対に罪を抱えたものは直々に国王へ自ら罪告をして処罰を受けることになっていた。
今で言う《自首》をするということだ。

国中の軍人、王侯貴族達が宮廷にやってくる。全員というわけにはいかないので、各々代表が数人ずつ選ばれて参内する。
この日は大公もテヒョンも正装をしベルベットのロングマントを羽織った。
ロングマントの胸元には、大公はルビー、大公子であるテヒョンはサファイアの宝石が飾られた金の頸飾が掛けられている。オルブライトもスミスもこの日は正装で参内した。
宮殿に到着した大公達は、国王の私室である王の間に通された。

「おはようございます、国王陛下。」
「おはよう。皆ご苦労だな。」
国王の出で立ちは最高司令官として軍服を着用し、ロングマントの胸元にはダイヤモンドの宝石を飾った頸飾が掛けられていた。
「そうだ、テヒョンは旅行帰りだったな。有意義な旅であったか?」
「はい。お陰様で領民達への礼をする事が出来ました。」
「関心だな。お前ほど領地を気に掛ける貴族達はなかなかおらぬからな。」
「彼等なくしては国は動きませんから。」
「全くだな。領地があって領民がいることが当たり前だという驕りは、いずれ身を滅ぼすことになるだろう。」
国王とテヒョンの話に皆が一様に頷いた。

一旦大公とテヒョン達は、専用の控室に入る。デイビスがここで控えていた。
皆呼び出しがあるまで待つことになった。
しばらくすると扉を叩く音がした。
デイビスが扉を開けると、ジョングクがセオドラ卿とハンスと共に立っていた。
「チョン伯爵、おはようございます。」
「おはよう。」
「さ、中へどうぞ。」
声に気付いたテヒョンは、
「ジョングク!」
と、思わず駆け寄った。
「おはようございます、テヒョン様。今日はまた一段と素敵です。」
「君こそ。もうすっかり軍服を着る姿が様になっている。」
二人はお互いの出で立ちにときめいた。

「ジョングクは軍服が似合う体格になったな。誰よりも秀でた様相だ。」
大公が褒めた。
「父としても鼻が高いですな。」
セオドラ卿が目を細めて応えた。
テヒョンが軍服にミリタリーコート姿のジョングクを見るのは二度目になるが、
以前より肩幅が広くなり威厳に満ちた胸厚に、スラリと伸びた脚が美しいラインを現していた。そして逞しい胸には身分章や階級章の他にも新たな勲章が増えていた。
テヒョンがあまりにも熱い眼差しで自分を見ているのでジョングクは、
「見つめ過ぎです。」
と、思わず右手でテヒョンの両目を伏せた。
「何をするんだよ。」
テヒョンはその手を掴んで離すと二人で笑った。


宮殿の会場にはかなりの数の軍人、貴族達が集まっていた。
謁見を申し出ている者達は隣の部屋に集まっている。セレモニーが見えるように可動式の仕切り壁が大きく開け放たれていた。
「国王陛下のおなりでございます。」
いよいよ号令が掛かり雑然としていた人々が整列をして静かになった。
国王を先頭に大公、テヒョンと続いて会場に入る。テヒョンのそばにはしっかりジョングクが付いていた。王族が続いて入場をして一同が揃い、来場者からのお辞儀を受ける。

セレモニーがすぐに始まって表彰式が行われた。会場内は熱気に溢れ真冬だというのに扇子で仰ぐ人が出てくるくらいだった。会場にいた係の者達が窓の上部を開けて空気の入れ替えを始めた。
表彰式が滞りなく終わると、少し時間を置いて謁見が始まる。
「もうすぐですね、テヒョン様。」
「うん。スミスが先程ゲインズに会ったそうだ。ニールも予定通り来ているようだぞ。」
テヒョンは少し緊張もしていたが、ニールがどんな様子で参内しているのか、どう国王に目通りするのか楽しみになっていた。
「そうだ、テヒョン。ニールが謁見の他に罪告の申し入れをしてきたぞ。」
「え!?」
国王の言葉に驚いた。
「聞いていなかったか?」

今回のニールの《罪》については国王への報告はしていない。わざわざ本人自ら直接国王に罪告するつもりか?それで敬剣の日を選んだのだろうか。
とにかくテヒョンは成り行きを見守ることにした。
軍人達と貴族達が会場を出て、謁見者達との入れ替えが終わった。
「それではこれから謁見を行います。名前を呼ばれたら前へ出て下さい。」
玉座の国王を中心に大公とテヒョンが両脇に立つ。そして謁見を申し入れた者達が真ん中に列を作り並んだ。予め名前が呼ばれる順番が知らされていたので、列はその順になっている。
一人づつ名前が読み上げられ国王の前に歩み寄り、挨拶をすると陳情や提言など各々の言葉で申し出た。

しばらく謁見が進んで行くとゲインズとニールの姿が目に入った。ニールは見違えるほど洗練された装いで、堂々としている様にも見える。大勢の参列者の中でもひときわ目立っていた。ニールの姿を確認したテヒョンはジョングクと目を合わせた。
いよいよニールの名前が呼ばれた。
ニールはゲインズと共に国王の前に歩み寄ると、まず国王にお辞儀をし、続いて大公に頭を下げ、最後にテヒョンに深々と頭を下げた。ニールのその立居振舞は領地で見た時の粗野な感じなどどこにも見られず、スマートな身のこなしだった。
「私はキム公爵家のご領地、プロスペクトニー領の管理責任者をしております、モーガン・ゲインズと申します。本日はここにおりますニール・アンダーソンの後見役として参りました。」
「ニール・アンダーソンでございます。先に献上致しました領内用水路計画書の発案者でございます。」
「二人共よく来たな。用水路の計画書はよく見せてもらった。」
国王が後ろを振り向いて侍従に合図を送る。

しばらくして書類の束が手渡された。
国王はそれをニールに見せて話し始める。
「なぜもっと早く謁見を申し込まなかったのだ?」
「はい、、申し訳ございません。」
ニールが慌てて応えた。その場に緊張感が漂った。テヒョンはニールをじっと見た。
「こちらもな、同じ事案をずっと抱えていたのだ。キム公爵の領地に隣接するサンドリア侯爵の領地でもアレキサンドリア湖からの用水路計画の陳情があって、地形の関係から何度も見直しがされている。私も何度か現場を見に参っていたのだ。」
ニールが顔を上げた。
「そなたがもっと早くこれを出していたなら、事業は既に進んでいただろう。」

テヒョンがニヤリと笑った。ニールはテヒョンの顔を見た。
「ニール・アンダーソンに申す。
そなたをこれよりアレキサンドリア湖用水路計画の推進責任者に任命する。よってキム公爵の領地とサンドリア侯爵の領地の土木事業を統括せよ。」
国王はそう言って侍従に書類を渡すと、代わりに任命書を受け取りそれをニールに差し出した。ニールは驚きを隠せない様子だったがゲインズに押されて両手でしっかりと受け取った。
「よく最適な計画を発案してくれたな。これからは二つの領地を見なければならないぞ。この宮殿にも参って進捗状況を報告に参れ。多忙を極める事になるが頑張って成し遂げてくれ。」
「ありがとうございます!肝に銘じまして力をふるいたく存じます。」
ニールは深々と頭を下げた。

「これはありがとうございます!国王陛下!」
いきなりニールの隣に駆け寄ってきた男が言った。ニールはその顔を見て即座に顔色が変わった。
「申し遅れました、私はこのニール・アンダーソンの父、チャールズ・アンダーソンと申します。」
国王をはじめテヒョンとジョングク、スミスが一斉にこのチャールズ・アンダーソンという男を見た。
「そなたは、、、」
国王は怪訝そうな顔を向けた。
「ち、、父、、」
ニールが父上と言い掛けた所でテヒョンが口を出した。

「待たれい!チャールズ・アンダーソン子爵!」
「はい!」
アンダーソン子爵はびっくりしてテヒョンを見た。
「あなたの御子息はまだ幼少のはずですよね。」
「は、、はい。ですがこれは私の、、」
「除籍をした息子だと言いたいのですか?」
その言葉を聞いたニールがテヒョンを見た。
徐々に会場内がざわつき始める。
「ですが、、殿下、それには理由が・・」
「その理由を今、陛下の御前と満場の人々の前で言っても宜しいのか?」
テヒョンの表情が険しくなった。
アンダーソン子爵の顔が青ざめる。
「都合の良い時だけ《息子》ですか?またその手柄に便乗しようとは。あなたは恥を知るべきだ!」
アンダーソン子爵はすっかりテヒョンの気迫におののき、逃げるようにして会場を出て行ってしまった。

「お恥ずかしい所をお見せして申し訳ありません。」
ニールが頭を下げた。ゲインズがニールの肩を抱えるように慰めた。
「そなたが謝ることではない。顔を上げなさい。」
国王が静かに言った。
「謁見はまだまだ続く。そろそろ次の者に譲ってやってくれ。それと、そなたは罪告を申し出ておるな?後で王の控えの間まで来るように。」
「はい。ありがとうございました。」
ニールは深々とお辞儀をした。
「では失礼致します。」
ゲインズは涙声になっていた。
こうしてニールの謁見は終わった。
「テヒョン様、お見事でございました。」
ジョングクは怒りの表情のままのテヒョンの背中にそっと手を添えた。


謁見が全て終わり、敬剣の日の一連の行事が一通り終わった。後はニールの罪告のみとなる。
大公とテヒョン達は国王の私室で、遅い昼食を摂ることになった。
「ニールの素性はある程度調べておったが、まさか父親がのこのこ出てくるとはな。」
国王は呆れていた。
「あの男が来た時にはどうなることかと思いました。テヒョン様が即座に対応下さりよろしゅうございました。」
スミスがやっと安心したように言った。
「誠に痛快であったな。」
大公がテヒョンの肩を叩いた。
「私もあれで怒りを抑えるのに必死でした。子どもは親の駒ではございませんから。」
「そうだな・・・。」
皆がテヒョンの言葉に大きく頷いた。

食事と少しの休憩が終わり、皆が身なりを直して最後の罪告が行われる控えの間に向かう。
ニールは既にゲインズと共に控えの間で待機していた。
扉が開くと国王とテヒョン、ジョングク、スミスが入ってきた。ニールとゲインズが起立をしてお辞儀をする。
「では早速始めるぞ。ここに居る者は全て証人として見届けよ。」
「「「はい。」」」
「ではニール、そなたが罪告をしたいものとは何だ?申してみよ。」
ニールはその場に跪くと話し始めた。

「恐れながら申し上げます。キム公爵の面前で私の誤った視点から国王陛下を愚弄致した罪にございます。」
「ふ・・・む、そうか。」
国王は少し困惑したような反応をした。
「それで、何か社会的に問題が起きたのか?」
「え?、、、いえ、あの、、」
今度はニールが困惑した。
「そなたキム公爵を怒らせて、もう罰を食らっているのであろう?」
国王は笑いながら言った。
ニールは呆気にとられてゲインズの方を向いたり、テヒョン達の方を向いたりしていた。

「ニール、私は今まで既に沢山の誹謗中傷を受けておる。それで被害を被ったり公務に支障が出たことはないのだ。
そなたが発したという愚弄についても同じだ。私は何も痛手を負ってはいない。全て私に直接伝わってはいないからだ。」
ニールは驚いた顔で国王を見た。
「確かに宮廷で直接私に暴言を吐いたのなら、そなたはその場で取り押さえられ逮捕されたであろうな。そしてそなたのその暴言が国を脅かす暴動へと扇動したのであれば重罪になろう。」
国王はそばに並ぶテヒョンとジョングクの肩に手を回すと言葉を続けた。
「しかし、私はいつも助けられている。このように頼りになる者達が私と国を思い、先手で動いてくれているからだ。」
国王とテヒョン、ジョングクが信頼の笑みで見合った。
「それとな、ニール。逆を言えば《言いたいことは本人に直接言わなければ伝わらない》ということでもあるのだぞ。」

ニールは自分が行ったことの浅はかさと愚かさを改めて恥じた。そして一連の醜態についての罰を真摯に受けようと思った。
「キム公爵、どうぞ私に罰をお与え下さい。」
テヒョンは笑った。
「ニール、謁見の時ちゃんと陛下のご命令を聞いていなかったのか?」
「え?」
「陛下はお前にこう申されたのだぞ。『アレキサンドリア湖の用水路計画の推進責任者に任命する』と。」
「はい、、、いえ、でもしかし・・・」
「それに私の領地とサンドリア侯爵の領地の土木事業の統括も任されたであろう?どういうことか分かるか?これはもう国の事業だということだ。
国王陛下から直々に公職の任命を受けた者に罰など課せるわけがなかろう。」
ゲインズが泣き出した。周囲の目もはばからず嗚咽をしながらわんわん泣いていた。

テヒョンがゲインズの前に出てしゃがみ込み両肩を掴んで言った。
「今日までニールの監視役と後見人をやり遂げてくれてありがとう。色々ご苦労であったな。」
「殿下、、私は、、私は、、」
ゲインズは言葉に出来なかった。
「ニール、ゲインズのこの涙の意味は分かるな?お前の身を思う心は父親と同じであろう?ここまで心配してくれる他人などいくら領地の責任者とはいえおらぬのだぞ。」
「はい。感謝をしても足りません。」
ニールはゲインズに寄り添うと肩を持って立ち上がらせた。
テヒョンは国王の隣に戻ると言った。
「ニール、領主として命じる。陛下より賜った職務に真摯に向き合い必ず計画を成し遂げるように。」

ニールはテヒョンの前まで進むと跪き、ロングマントの裾を持つとそこに口づけをした。
「私、ニール・アンダーソンは生涯を掛けてキム公爵にお仕えし忠誠をお誓い申し上げます!」
中世の騎士のような宣誓に皆が見入ってしまった。
「公爵、数々の無礼な振る舞い、申し訳ございませんでした。貴方様の叱責とお導きがなければ、取り返しのつかない傲慢な人間に墜ちていたかもしれません。」
「よくここまで自らを律することが出来たな。」
「今までの愚かで幼稚な思考を恥じております。」
「お前を信じて従う現場の者達を大事に、大役を務めてくれ。」
「はい!」

「しかし、昨今の敬剣の日では罪告を申し出る者が殆どおらぬというのに、ニールは奇特なやつだな。」
国王の呟きに皆が笑いを漏らした。
「それにな、私はどんな重大な罪を犯したのかと、内心緊張しておったのだぞ。」
「陛下、大罪を期待されてワクワクされては困ります。」
テヒョンの注意に皆が笑い出した。
ニールもつられて笑っていたが、国王とテヒョンの器の大きさに感服していた。
この二人の先を見越した物の捉え方、考え方は王になるべくして存在されている方々なのだと実感するのだった。

ニールとゲインズが帰る準備をする。そこへテヒョンとジョングクがやってきた。
「殿下、なんとお礼を申したらよいかわかりません。本当にありがとうございました。」
ゲインズはすっかり落ち着いたようで、テヒョンにやっと礼を言えるようになった。
「全ては国王陛下次第だったのだから、私より陛下に礼をするべきだな。」
テヒョンは笑った。
「帰りの道中も長いだろう。気を付けて帰れよ。」 
「今日は途中の宿で一泊して参ります。」
「うん。ゆっくり休むことだな。」
「キム公爵、改めまして感謝申し上げます。」
ニールがそう言うと、テヒョンの右手を取って口づけをした。
その行動にジョングクが真っ直ぐにニールを見つめたまま動かなかった。
ニールの忠誠心の口づけに他の意味までも見出したのだろうか?

ゲインズとニールは部屋を出ると帰って行った。
「やれやれ、やっと今日の行事は全て終わったな。」
テヒョンがそう言いながら部屋を出ようとした。しかし急に後ろから強く抱きしめられて動けなくなった。
「お会いしたかった・・・」
ジョングクの切ない声が耳元でして、それがテヒョンの胸を優しく締め付けた。
ちょっとの間だけ離れていただけなのに、どうしようもなく会いたいと思ってしまう気持ちが、ジョングクも同じなのだと知って嬉しくなった。

「僕も同じだ。離れた瞬間から君に会いたかったよ・・」
抱き締める腕にテヒョンの右手が触れた。ジョングクはその右手にはめてあるあの指輪を指で撫でた。ずっとはめたままでいてくれているのが嬉しい。そして今の想いを口にする。
「私がこんなにも独占欲が強くて嫉妬深いなんて自分で驚いています。」
「もしかして、ニールにやきもちを妬いたのか?」
「あなた様の手に触れて口づけをした瞬間、体中の血が熱く湧きました。」
テヒョンはふふっと笑ったが、愛しさが一気に湧いた。
大人に対してこんなにも可愛いと思えるとは、、、。それに、嫉妬したことを正直に伝えてくれた事が嬉しいのだ。
ジョングクと出会ってから色んな感情を感じさせてくれることに、この上ない幸せを思わずにはいられなかった。
 

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