群青と真紅 64 【揺さぶり〜喜怒哀楽〜】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

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終活のガイドをさせていただきます

現在、BTSの底なし沼にハマり浸かっております
ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆

こんにちは 
【群青と真紅】です🔵✨🔴

いきなりですが
恋愛感情とは頭ではコントロール出来ないものだと私は思っています
例えば、本人達は隠しているつもりでも
周囲に勘付かれるとか🤣🤣🤣
社内恋愛がすぐバレるパターン、沢山見てきませんでしたか❓(笑)www
それとか
思ってもいない事を口走ってしまったり・・・本気の恋であればあるほど〈揺さぶり〉って起こる😅

または、喜怒哀楽が予期せぬ状況で湧いてくるとか←1番厄介😅

そして、、、
コントロール出来ないということは
勿論、他者や社会からもコントロール出来ないということですよね☺️

ということで
今回はそんなテヒョンとジョングクの心の機微を書いてみました


前回の物語

物語の続きが始まります✨✨✨


【国王のアフタヌーンティー】


ニールとゲインズを見送った部屋で、テヒョンとジョングクはしばらく二人だけの時間を惜しんでいた。
次またいつ会えるか分からない、そんな事を思うと寂しさで動けなくなってしまう。
二人は何も話さず、何も求めず、ただ寄り添っているだけで他に何もいらなかった。更にこの尊い貴公子達には阻むものすら存在しない。唯一あるとすればお互い身にまとっている衣服だけだ。
それであってもお互いの情熱は、幾重にも織り廻らされた糸の繊維の隙間を簡単にくぐり抜け外に溢れ出てしまう。
しかしそれは本人達は気付いていないことだった。
呼応する魂は深い場所でお互いの情熱を燃やし続けることになる。

「そろそろ戻らないと、デイビスやハンスが探しに来るかもしれないな。」
「はい、、そうでございますね。」
とは言うものの言葉とは裏腹に、体はどちらからもなかなか離れようとはしなかった。
徐々に傾いていく陽の光が部屋に差し込んでくると、離れられないでいる二人の影を少しずつ伸ばしていった。やがて置き時計の時を打ち鳴らす音が現実に戻そうと試みる。

それが功を奏してようやく体が動いた。
だか、ジョングクは離れようとするテヒョンの手首を掴むと強く自分の胸に引き戻し、もう片方の腕は逃さないというように腰を抱き寄せた。
捕まえられて『しょうがないな・・・』というような表情で視線を向ける。でも実はドキドキして嬉しそうなテヒョンの笑みが更にジョングクを煽った。
捕らえた褒美を頂くように、こめかみに唇を当ててそのまま頬を伝って首筋まで辿ると軽く噛んだ。テヒョンは思わず吐息を漏らして天井を仰ぐと、フレスコ画に描かれた天使をぼやける視線で眺めた。

「本当にもう戻らないと・・・」
天使から目を逸らして我に返ったように言った。そしてジョングクにまた捕らえられないように素早く手首を掴んで引っ張った。
「あ!・・テヒョン様、危のうございます!」
注意の声に構わず掴んだ手首をグイグイ引いて急いで部屋から出た。
あまりにも勢いよく出たので、廊下の灯りを灯していた宮廷職員にぶつかりそうになった。
「失礼!」
テヒョンは謝りながらやり過ごした。
まさか大公子が飛び出してくるとは予想もしていなかった職員はびっくりして、走り去るテヒョンとジョングクの後ろ姿を呆然と見ていた。

「ああ、危なかった。当たり所が悪ければ火だるまになるところだ。」
立ち止まると息を弾ませて言った。
「冗談ではございませんよ、、あなた様を火だるまになぞ絶対させられません!」
ジョングクが少し怒ったように言う。
「まぁ怒るな。あのまま、、君の胸にいたままだったら、僕は逆に戻りたくないと君を困らせたはずだ。」
テヒョンの言い方があまりにもいじらしくて、気がおかしくなりそうな位胸が騒いだ。
「あーー・・でも、そんな我儘であれば耳元で囁いて頂きたいものです、、」
ジョングクが甘い顔をして言ってくるので、テヒョンはドキッとしたがこれ以上はマズイと思いまた走り出した。
「あっ!テヒョン様!ロングマントに足が引っ掛かかってしまいますよ、、」
宮殿の長い廊下に二人が走る足音と、ジョングクの声が響き渡った。


ようやく慌ただしくテヒョン達の控室に戻った。
「殿下!どちらにいらっしゃったのですか?ハンス殿と一緒にお二人を探しに行って戻って来た所でございます。」
扉を開けたらデイビスがすぐそこにいて、開口一番に尋ねられた。テヒョンはジョングクと顔を見合わせクスッと笑った。
「お二人共走っておいででしたか?息が上がっていらっしゃいます。」
「うん、、2人分の水をくれるか。」
「はい。中へお入り下さいませ。」
テヒョンとジョングクが控室に入ると、セオドラ卿も中で控えていた。
「父上もいらっしゃったのですね。」
「陛下のアフタヌーンティーに呼ばれたのだ。こちらで待機するように言われている。」
夕方の4時から国王の私室でアフタヌーンティーが振る舞われることになった。
大公とテヒョンにオルブライト、スミス、ジョングクとセオドラ卿が呼ばれている。

「テヒョン様もジョングク様も正装からお着替え直しをして下さい。その為にデイビスとハンス殿はお二人を探しておりましたからね。」
スミスがいたずらっ子達を窘めるように言った。
テヒョンとジョングクは水を飲み干すと、着替えを手に待ち構えているデイビスとハンスにそれぞれ別室に連れて行かれた。
暫くすると大公がオルブライトと共に控室に戻って来た。国王と打ち合わせがあって、王の執務室に出向いていた。
「テヒョン達は戻って来たのか?」
「はい。只今お着替えをして頂いております。」
スミスの言葉が終わるか終わらないかのうちに、それぞれ着替えている部屋からデイビスやハンスに、文句をつけているような声が聞こえてきた。

「何を騒いでいるのだ?まるで子どものようではないか。」
大公の言葉に皆笑った。
「先ほども走ってこちらに戻ってきたようです。」
セオドラ卿も笑いながら言う。
「しかし、無邪気な所は残ってはいても、あれであの二人の心はもう大人なのだろう?」
「はい。ここ数ヶ月ですっかり変わられました。」
大公の後にスミスが実感を込めて言った。
「やはり、なんとなく雰囲気で察しておりましたが、、通わせたのですね。」
セオドラ卿も加わった。
大人達は言葉を濁してはいるが、皆もう気付いていた。テヒョンとジョングクが心を通わせている仲だと。
「テヒョンは特に分かりやすいのだ。すぐ態度に出る。」
「ジョングクも同じです。隠す気すらないでしょうなぁ。」
なんとも初々しく無邪気な貴公子達に大公達は笑った。

「なんだかとても楽しそうではありませんか。父上何のお話ですか?」
着替えを終えたテヒョンが出てきた。
少し遅れてジョングクも出て来た。
「我々は成熟した真の大人の話をしておったのだ。まだまだ若いお前達には分かるまい。」
大公の言葉にセオドラ卿やオルブライト、スミスが笑った。
テヒョンは訳が分からないといった感じで首を振った。


国王とのアフタヌーンティーが始まった。皆が正装衣装から着替えてくつろいだ雰囲気でお茶を楽しんだ。
国王にとって今目の前にいる者達は、気を張る事がない落ち着ける《仲間》なので、賑やかで笑いが耐えない時間が癒しになっていた。
超過密スケジュールを熟す国王にとっては、リフレッシュが出来る貴重なひと時だ。テヒョンもジョングクも国王が顔をクシャクシャに、心から笑っている様子が見られて嬉しかった。

「テヒョン、よくニールという逸材を見付け出したな。」
「いいえ、見付けたわけではなく彼が私に食ってかかってきたのが発端ですよ。」
「おお、そうらしいな。お前、あの者の鼻先に剣の刃を向けたそうだな。」
国王は言いながらケラケラ笑った。
「もうそんな話がお耳に入っているのですか。」
テヒョンは苦笑いをした。
「警護の者達の任務報告書に上がっておったぞ。」
「あ〜〜、、、警護に口止めするのを忘れておりました。」
テヒョンは頭を抱えて唸った。警護の任務報告書は一字一句落とすことなく、《あったこと》を報告するということをすっかり忘れていた。
「テヒョンは隠すという事が苦手なのだから口止めした所で無理だな。」
大公が輪をかけてからかうと、そこにいた誰もが笑い出した。

からかわれ憮然とするテヒョンに、
「テヒョン様、私は決して笑いませんよ。」
ジョングクが慰めた。が、しかし、
「そう言う割には、口角が緩んでないか?今にも笑い出しそうな、、我慢をしていますと言っているように見えるが。」
とテヒョンに見抜かれた。
「やめて下さい、、必死なのです。」
「必死だと?ほらみろ!」
ジョングクはたまらず笑い出した。
「大丈夫でございますよ、殿下。我が息子も大概隠し事は出来ませぬ。分かりやすい者でございます。殿下が今まさに見抜かれた様に。」
「確かに!そうですね。」
テヒョンが今度は笑い出した。
「父上、、、」
ジョングクがあまりにも情けない声を出したので皆が大いに笑った。

国王は和気あいあいとした雰囲気に満足そうな顔をして、皆の顔を見回していた。
「私はしばらく笑っていなかったかもしれぬな・・・」
国王が静かに呟いた。
「ずっとご公務に付きっきりでいらっしゃいましたからね。」
そばで聞いていた大公が労う。
「昔はテヒョン達とよく笑って走り回っておったな・・・。そういえば、いたずらをして叔父上に叱られた事もありました。」
「懐かしいですな、、、。テヒョンが案外やんちゃでございましたから、どちらかというと陛下は巻き込まれた方ですな。」
「ははは、、本当にそうでした。ですが小さい者のせいには出来ません。」
「ええ、よく辛抱されていらっしゃった。君主としての素質が備わっていらした証ですな。私が不在になってからはよく面倒を見て下さったようで、誠に有り難く思っております。」

「私にとって陛下は兄のようなお方ですから、小さい頃はご衣装の裾をよく掴んでついて回っていたことを覚えております。」
国王と大公の昔話にテヒョンも加わった。
「ああ〜!覚えております。それはそれは、お二人共にお可愛らしいお姿でございました。宮廷内では名物となっていた光景でございます。」
スミスが追憶して語った。
「ご幼少の頃のテヒョン様もさぞかし可愛らしかったのでしょうね。」
ジョングクが更に加わる。
「そうだな。静かにしている時は天使のような可愛らしさがあったな。」
「陛下、静かにしている時は・・とは正直に言い過ぎではありませんか?」
先程からいじられて、テヒョンは少し拗ね気味だった。
「その頃のテヒョン様にもお会いしたかったです。」
ジョングクがしみじみ言って、皆の注目を浴びた。
「確かに、、ジョングクは分かりやすい。」
恍惚とした表情のジョングクを大公がからかう。
「そうでございましょう?」
セオドラ卿もニヤリと笑った。
「何でございますか?」
「いや、いいのだこちらの話だ。」
大公があしらった。
ジョングクはテヒョンの方を向いて目で訴えるが、テヒョンも首を傾げるだけだった。


【揺らぐ心】

敬剣の日から数週間が経過した。
テヒョンはまた通常の日々に戻った。
大公も前の年に帰国をしても忙しいのは相変わらずで、なかなか在宅する時間がなかった。
変わったことといえば、テヒョンは他の領地との共同事業が始まった為に、領主としての仕事が増えた。
今回の用水路計画は他の類似工事の規範になるとして、関係官庁の実務者が多数、測量の段階から視察に来るなど注目事業になっていた。
テヒョンのみならず、責任者のニールは当然かなり忙しくなった。プロスペクトニーの領地自体が来訪者が増えて賑やかになった。
「プロスペクトニーは今や観光地のような賑やかさだそうですよ。」
スミスがテヒョンの着替えを手伝いながら言った。
「そうらしいな。のどかさが良い地域であったが、さぞかし騒がしくなってしまったのだろうな。」

着替えを終えて執務室に向かう。
中に入るとデイビスが書類を分けていた。最近では山のように届く書類の整理の為、デイビスだけではテヒョンの身の回りの世話が追いつかなくなっていた。
それでスミスが急遽補佐としてテヒョンの日常の世話に当たることになった。
「殿下、ゲインズ殿から私信が届いております。」
「うん。」
テヒョンは机の上に置かれたゲインズからの私信を取ると、椅子に腰掛けてナイフで封を切った。
いくらか目を通すと声をあげた。
「スミス!ゲインズがニールを養子に迎え入れたぞ。」
「おお、それは良うございました!」
「ニールの実の父親のことだ、何かと息子に取り入ってくるのではないかと心配していたが、ゲインズの息子になればもう何も言えまい。」
テヒョンはめでたい報告に喜びが隠せなかった。
『この吉報をジョングクにも早く知らせたい。』

一方のジョングクの方は、新しい兵器の導入で構造やシステムの講習や、極秘での演習などでこちらも多忙を極めていた。
しかし、もう一つ厄介な事があった。
年頃の娘を持つ軍上層部の者達数名から婚姻の申し入れをされているのだ。
ジョングクの家系は自由に一般人との結婚は出来ない。だがそれを知らない者達から面会と言っては娘を呼んで、ジョングクに紹介しようという魂胆があった。
若くして早々に大佐の階級を持ち、伯爵の家督がある上に見目麗しい独身男性ともなれば、放っておかれるわけはなかった。
ジョングクも丁重に断ってはいても、自身の美貌に自信がある者は、実力行使のように色仕掛をしてきた。だからもう逃げるのに必死だった。『こんな所をテヒョン様に見られたくない!』と何度も断り抵抗した。

しかし、噂というのは良くも悪くも広がるもので、久しぶりに宮廷で顔を合わせる事があった時に、テヒョンの口から一番に出たのがその事だった。
「最近君の周りでは沢山の女性達が求婚を迫って来るらしいね。」
「テヒョン様、・・・なぜそれを?」
「嫌でも噂というのは耳に入るものだろ?」
静かな物言いだったが、不機嫌そうなのはよく分かった。
「結婚など今の私には考えられませんし無用のものです。」
「そうか、、では考えていたらその女性達の中から誰かを選んだわけだな。」
「どうしてそうなるのですか?」
理不尽な屁理屈にジョングクもムキになった。

「君が誰を選ぼうとも君の自由意志だからだ。」
「本気で仰っているのですか?せっかくお会い出来たというのに、、、」
「ああそうだよ!・・せっかく会えると思っていたのにな。」
テヒョンは少し赤く涙目になっていた。
「大公子殿下、国王陛下が執務室でお待ちでございます。」
そこに侍従がテヒョンを呼びに来た。
「チョン伯爵も同席なさいますか?」
「彼は今日は私の側近ではなく軍務で宮廷に来ておるのだ。」
「かしこまりました。では殿下少しお急ぎ下さいませ。」
「分かった。ではまたな、《チョン伯爵》。」
テヒョンはジョングクを見ようとはしなかった。

ジョングクは落胆した。喧嘩などするつもりはなかったのだ。お互いに束の間でも久しぶりに会えると、楽しみにしていたはずだった。それなのにくだらない噂がテヒョンの耳に入って、不快にさせてしまった。
あの時強気で言い返しながらも、赤く涙目になっていたテヒョンの表情を思い出して胸が締め付けられた。最後の《チョン伯爵》と久しぶりに他人行儀で呼ばれた名前が切なかった。
考えあぐねても仕方がないので、もう仕事を遂行する事に意識を集中させようと思った。気持ちを切り替える為に胸を数回叩く。そして宮殿内にある司令本部に向かって歩いて行った。

国王の執務室では久しぶりにニールの顔を見た。テヒョンの姿を見るとニールはすぐに挨拶にやって来た。
「お久しぶりでございます、大公子殿下!」
「うん。元気でやっているようだなニール。」
「はい、お陰様で。」
「そうだ、ゲインズと養子縁組を結んだそうだな、おめでとう。」
テヒョンが手を差し出して握手をした。
「ありがとうございます。今は名前もニール・ゲインズと改めております。何もかも大公子殿下のお陰でございます。」
「私は何もしてはおらぬぞ。全てはなるようにしてなった事だ。」
テヒョンはニールをよく見た。以前とは違って顔つきが変わっていた。自信に満ちた皆を引っ張るリーダーの表情になっている。テヒョンはニールに対してはもう何も心配することはないと思った。

執務室での会議は夕方までかかった。
テヒョンは国王の隣に座っていたのだが、様子がいつもと違った。水をよく飲んでいて脂汗のようなものが額に光っていた。
「陛下、汗をかかれてますが大丈夫でございますか?お顔色もよくありません。」
国王は何か返事をしようとしたが椅子からそのまま崩れ落ちた。
「陛下!!・・・誰か!陛下の主治医を呼べ!早く!」
テヒョンの叫び声に侍従が執務室から飛び出して行った。
テヒョンが意識を失った国王を抱えた。
執務室が一気に騒然となった。
宮殿内が一気に慌ただしくなる。
国王が倒れた情報は各所に次々に伝わって行き、ジョングクがいる司令本部にも伝わった。
ジョングクはすぐさま飛び出して執務室に向かった。

国王は私室のベッドに運ばれた。
駆けつけた主治医が診察をしたが、すぐに重い過労であることが分かった。
意識はすでに戻っていたが、深く眠っている。
「陛下はもう大丈夫でございます。今はこのままお休み頂いた方が宜しゅうございます。では私はまた後ほど参りますので。あとは宜しくお願い致します。」
主治医はそう言うと一礼をして国王の部屋を出ていった。
テヒョンは国王のベッドの脇で椅子に座って見守った。

国王の私室の前では会議に参加していた者達が、心配そうに診察が終わるのを待っていた。
主治医が部屋を出た後、侍従が説明をした。
「国王陛下は過労のためにお倒れあそばしました。今は落ち着いて眠っておられます。皆様にはご心配頂き有り難く存じます。今回の会議の続き日程につきましては追ってご連絡致します。今日は大変ご苦労さまでございました。」
皆が侍従の言葉に安堵の声を漏らした。そして各々帰って行く。しかし、ニールだけはそこに残りテヒョンを待った。

ジョングクが国王の私室の前に到着した。ニールがドアの横の椅子に座っている。
「久しぶりだな、ニール。」
「これはチョン伯爵、その節にはお世話をおかけ致しました。」
ニールは立ち上がり挨拶をした。
「ここで何をしているのだ?」
「会議に出席されていた他の皆様はお帰りになったのですが、私は大公子殿下をお支えする為に控えておりました。」
「・・・そうか、ありがとう。」
「チョン伯爵がいらしたのなら安心でございます。私はこれで下がらせて頂きます。」
ニールはそう言うと一礼をしてその場を離れて行った。ジョングクはニールの後ろ姿をずっと見送った。

国王の私室の扉を叩く音がした。侍従が応対するとジョングクが入って来た。
「テヒョン様。」
ジョングクがテヒョンが座る椅子の横に立った。
「ああ、ジョングクか・・・陛下がお倒れになったのだ。」
「はい。その一報がこちらにも入りまして驚いて参りました。」
「重い過労だそうだ・・・陛下の過密スケジュールはもうお体には限界だったのだ。」
テヒョンが憔悴した様子で言う。
「ずっとその事を我々も心配しておりましたからね。」
テヒョンとジョングクは敬剣の日のアフタヌーンティーでの国王の笑顔を思い出していた。

「テヒョン様、ニールがずっとこのお部屋の前におりました。」
「なんだ、あいつも忙しいのだからすぐに帰って良かったのだ。」
「私と入れ替えに帰りましたよ。」
「そうか、ならいいが。」
ジョングクは少しためらってから言う。
「あなた様をお支えする為に、ニールは部屋の外におったのです。」
「なんだ。律儀なやつだな。」
テヒョンがやっと笑う。
ジョングクは敗北感を感じた。ニールがテヒョンへ忠誠を誓った姿を思い出していた。
今日の自分はただテヒョンを不安にさせて、目を赤く涙目にさせてしまっただけだ。テヒョンと相思相愛である事に少しでも驕りの気持ちがあったのではないのか?

「殿下、チョン伯爵がいらして下さったのですから、もうお早くお休みになられて下さい。陛下はもう大丈夫でございますよ。」
侍従がそう言ってきた。
「分かった。では後は頼みます。陛下の今後のご公務については父上と協議になるな。」
「はい。大公殿下と大公子殿下にはお力添えを頂くことになりますが、宜しくお願い申し上げます。」
「うん。ではな。」
「おやすみなさいませ。」
侍従が深々と頭を下げると、テヒョンとジョングクを見送った。

二人は無言のままテヒョンの控室まで廊下を歩いていた。ジョングクは思い切って話し掛ける。
「昼間は大変申し訳ありませんでした。」
「・・・いや、僕が謝るべきだろう。君は何も悪くない。」
「でも、私の身の回りの事でテヒョン様に不快な思いをさせてしまったわけですから。」
テヒョンは少し言いづらそうな口をなんとか開けた。
「僕は嫉妬をしたんだ。僕には君に会える時間がないのに、彼女達は自由に君にまとわりついてるから。」
「テヒョン様、、、」
ジョングクの胸が少し弾む。
「・・・こんなこと位でザワザワする自分に驚いているんだ。だって僕らしくないじゃないか。」

ジョングクはテヒョンが追いつけていない感情を吐露してくれているのがいじらしかった。
「嬉しいです、、、私はとても嬉しいです。」
「なぜだ?、、こんな感情可笑しいだろ?」
「いいえ、あなた様がご自身でコントロール出来ない位、私を想って下さっているのが分かって嬉しいのです。」
以前にも似たような事があった。
テヒョンの誕生日の為のサプライズで、少し蔑ろのような状況にしてしまった時だ。しかしあの時は友情関係に関する事で今回とは違う。
ジョングクは柱の後ろにテヒョンを誘導した。そしてふわりと抱きしめた。

「もう、なんなんだよ、、、」
テヒョンは理由がわからぬというように拗ねてみせた。
「もしも、あなた様と私とが逆の立場であったなら、私も絶対に嫉妬したでしょう」
テヒョンは黙って聞き入って続きを待った。
「私があなた様への想いにオロオロしていたら、あなた様もそんな私を愛しみ下さるのでしょうか、、、?」
テヒョンはその言葉を聞いて、ジョングクの背中に手を回し強く抱きしめた。
「勿論だよ。どんなジョングクであっても、僕は君が愛おしいよ。こんな想いは初めてだよ。」
「初恋の時よりも、、、ですか?」
「え?、、そんな子どもの頃のことをまだ覚えていたのか?」
「当然でございます。私はあなた様の全てが欲しいのですから。」
「欲張りなやつだな。」
「はい。《あなた様》だからこそ何もかもが欲しいのです。私の全身全霊はあなた様だけに向いています。」

ジョングクはテヒョンの柔かい髪を優しく撫でながら、目の前にある大切なものを確かめていく。『蝋燭の暗い明かりの中でも輝いて見える瞳。その瞳の上でいたずらに弾くまつ毛の一本一本。自分を抱きしめてくれるすらりと長い指を備えた手・・・。』
並べきれないほど愛しい人の全てが宝物だった。

優しい眼差しで自分を隅々まで見つめてくれるジョングクの視線をテヒョンの視線が追う。
人を想うということは、喜怒哀楽の感情を全て感じることになるのだと二人は気付いた。その心の機微は頭では到底追いつけない領域だった。

「実は・・・先程ニールが静かにテヒョン様を待っている姿を見て、私は負けた思いが致しました。」
「なぜ君が負けるのだ?」
「こういった事は勝ち負けではございませんが、ニールの忠誠心に負けた気がしたのです。」
「忠誠心が?」
「はい。ニールのテヒョン様をお支えするという姿勢には、無償の思いがあります。私のあなた様に対する忠誠心には、その無垢な思いが無い気がするのです。」
テヒョンがそれを聞いて笑った。
「当たり前ではないか。僕達は《想い人同士》だろう?ニールとは主従の関係だ。忠誠心に違いが出るのは当然だろう?」

ジョングクは力が抜けて笑った。テヒョンの言うように単純な違いがあっただけだった。それに、テヒョンが言ってくれた《想い人同士》の言葉に胸が熱くなる。
「そもそも比べられるものじゃないじゃないか。」
更にテヒョンの言葉に想いが溢れる。ジョングクは愛しい人を強く抱き締めた。
「しかし、陛下がお倒れになった後だというのに僕達は不謹慎だな。」
「陛下のお体が大事に至らなかった事が不幸中の幸いですし、お陰で私達はこうして仲直り出来ました。」
「仲直り?喧嘩などしていないぞ。あんなのはじゃれ合いに過ぎないだろ。」
テヒョンがジョングクの両頬を掴んで言った。喧嘩だと捉えていなかったテヒョンに、やはりこの方は世界一とても素晴らしい人なのだと改めて思った。


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