群青と真紅 65【国王の秘めた想い】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

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終活のガイドをさせていただきます

現在、BTSの底なし沼にハマり浸かっております
ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆


小説のイメージ画をラフスケッチで描いてみました☺️
瞳を描かなかったのは、読んで下さっている皆さんの「キム公爵チョン伯爵」の各々のイメージがあると思ったから

今後も時々イメージ画を描いていこうかなと思っています✨✨✨


前回の物語


物語の続きが始まります✨✨✨


【国王の孤独な苦悩】


国王が倒れた次の日、大公とテヒョンは午前中から宮廷に参内していた。
他の王族も顔を揃えて今後の国王の公務代行の協議が行われる。

まず国王の代行がそもそも出来ないものについては、王位継承が一番近く既に信任を受けている大公が務める事となった。それ以外の公務はテヒョンを含め他の王族と平等に振り分けられた。
「これだけの公務の数を改めて目に致しますと、いかに陛下のご負担が大きかったかが分かりますな。」
「これではまたお体に障ります。この際ですから今後も我々王族方で担うことにしてはいかがでしょう。」
王族達から色々な声が上がった。

「皆様、ありがとうございます。陛下はご自身の目や耳で直接確認なさりたいという事で、一気に引き受けてしまわれる所がございました。しかし、皆様からのご提案を頂戴し今後は振り分けて、陛下には皆様方と共に携われるということで承認下さるようお話致します。」
国王の体調が回復した頃に大公が代表して王族の総意を伝える事になった。
今までの公務の膨大な数に皆が驚きを隠せなかった。また、テヒョンは他の王族達が皆喜んで公務を引き受けようとする気持ちが嬉しかった。

協議が終わり、テヒョンは国王の私室に向かった。
控えの間で侍従長に会う。
「今、陛下は眠っておられるのか?」
「いいえ、滋養のお薬を服用なさっていらっしゃる所でございます。」
「お会いできるか?」
「はい、殿下ならば大丈夫でございます。どうぞ。」
侍従長が扉を開いてテヒョンを中に通した。

国王は投薬が終わりベッドに横たわっていた。
「テヒョンか、、」
声にいつものような張りがなく辛そうに見えた。
「・・・すまないな、、迷惑をかけて、、」
「お辛そうです、、無理にお話にならないで下さい。」
「体が物凄く重いのだ・・・」
「陛下は働き過ぎでございます。どうかご公務の事は我々に任せて、今はしっかりお休みになって下さい。」
国王は深く息を吐いた。
「もう少しお元気になられたら、父がお伺い致します。」
「うん。」
「これ以上はお体に障りますから、私は失礼致します。」
国王は目で会釈して応えた。
テヒョンは扉までくると振り返り、国王が目をつぶって眠りに入ったのを確認して部屋を出た。

「あの、、殿下、、」
部屋を出た所で侍従長に呼び止められる。
「なに?どうかしたか。」
「実は、、、」
侍従長はテヒョンを呼び止めたものの、言っていいものかどうか迷っている感じだった。
「何かあるのならきちんと申せ。」
「はい、、あの、陛下が夜中に何度もうなされているご様子で、、」
「それはお倒れになったせいであろう?」
「そうなのでございますが・・・」
先程から侍従長の言葉の歯切れの悪さが気になる。
「なんだ、どうしたのだ?いつもの侍従長らしくないではないか。」

侍従長は意を決して言った。
「うなされながら、、あのお方のお名前を呼ばれていらっしゃるのです。」
「あのお方?」
テヒョンは少し考えていたが、ハッとして思い出した。
「まさか、、マルティナ・シャルロッテ姫のことか!?」
「はい、、」
テヒョンは驚きと共に愕然とした。
マルティナ・シャルロッテ姫とは、政略結婚で東ヨーロッパにあるウェルハイム帝国の皇帝ハインツ2世の皇妃になった女性だった。

彼女はルクテンダーク公国の大公アウグスト3世の公女だった。
ルクテンダーク公国と隣接するウェルハイム帝国が臨戦態勢であった為、母である公妃の実家がある英国に、娘のマルティナ・シャルロッテ姫が避難する形で来ていた。避難して来たとはいえ公国の公女という立場であったので、王室は宮廷への出入りを歓迎した。
そこで国王と公女は知り合い、母国の行く末を案じ心を痛めている彼女の支えになったのだ。

当時宮廷では国王と公女のロマンスが噂された。
「昨夜のことは他に誰が聞いている者がおるのか?」
「私だけでございます。」
テヒョンはひとまず安心した。
既に異国の君主の后になっている人の名前を大国の王がうなされている中とはいえ、口に出すなどスキャンダルになりかねない事だ。ましてや以前にロマンスが噂された相手ともなれば、話に尾ひれが付いて最悪の場合外交問題に発展しかねない。

しかしテヒョンは国王の《心》を心配していた。
なぜならこのロマンスの噂は、噂などではなく本物であったからなのだ。国王の周辺ではテヒョンと侍従長と大公だけが知っていた。
「夜は陛下の私室から人払いせよ。仕える者達を控えの間で待機させるのだ。」
「かしこまりました。」
今夜からの対策はこれでよいだろう。
だけれど、国王がまだマルティナ姫を忘れられないでいるのだとしたら、こんないたわしい事はなかった。

国王とマルティナ姫は年が同じで、彼女の気さくさは国王の快活な性質に合って、二人はすぐに打ち解けた。
どちらも出生が君主の子息、息女であったのでお互いの気持ちの理解も出来た。
また頻繁に顔を合わせる事が多くなり、お互いが恋に落ちるまでにはそんなに時間は掛からなかった。

国王自身は彼女を后として王室に迎え入れたいと考えていたし、ルクテンダーク側も大国の国王と婚姻が結ばれれば、強い後ろ盾が出来ると密かに考えていた。
しかし、ルクテンダークとウェルハイムが更に緊張状態に陥り、どうしても戦争を回避したかった両国は、和平を結ぶ為に双方の婚姻で同盟を繋ぐ案を同時に出したのだ。
先に英国王がマルティナ姫を后にすると宣言してしまえば二人はめでたく夫婦になれたのだか、なんと彼女は自らウェルハイムの皇帝の后として輿入れする事を選んだのだ。

国王は彼女の意思を尊重した。
国の行く末を案じながら安全な土地で暮らしていた彼女が、自らの幸せの為に祖国と国民を見捨てるような事は出来ないと分かっていたからだ。
ハインツ2世からの正式な婚姻の申し入れから1年後、マルティナ姫は帰国してすぐにウェルハイムに輿入れとなった。公女の輿入れはウェルハイムの国民に平和の女神として歓迎され、この政略結婚は成功し、両国の同盟が正式に表明されると武装解除は直ぐに行われた。

それ以降国王の職務は激務へと変わっていく。確かに仕事熱心な国王ではあったが、もしかしたら最愛の人を忘れる為にも仕事に没頭していたのかもしれない。
国王という立場ゆえ誰にも何も言えない孤独の中で、どんな日々を送っていたのか、、、。
あの飄々とした笑顔の裏に隠された苦悩を思うと、テヒョンは胸が締めつけられる程苦しくなった。


国王が重い過労で公務を休むことが国の内外にも知れ渡り、国民や各国の駐在大使からお見舞いが寄せられた。
各国の王族、皇族からも見舞いが届けられたが、その中にルクテンダーク公国のアウグスト3世の名前があり、更にウェルハイム帝国の皇帝ハインツ2世とマルティナ・シャルロッテ皇妃の名前も連名で書かれてあった。


国王は2週間目にやっとベッドの中で座れるまでに回復した。
それから数日後、テヒョンは司令本部に来ていたジョングクに会うと、揃って国王の見舞いに来た。
テヒョンは事あるごとに一人で見舞いに訪れていたが、ジョングクは国王が倒れた日以来久しぶりだった。

「陛下、来ましたよ。今日はジョングクも一緒です。」
部屋の中に入ると国王は読書をしていた。
「おお。忙しいのに二人共よく来てくれたな。」
声の張りはだいぶ戻っているようだった。ただ、こちらに向けてくる笑顔が穏やか過ぎてなんとなく違和感を感じた。
「陛下、そのように沢山の本を読まれたりなさって大丈夫なのですか?」
テヒョンはワゴンに積まれた本の数があまりにも多いので心配をした。
「ずっとベッドの中で何もしないのは退屈すぎるのだ・・」
国王は言いながら目を瞑ると黙った。
そして首を振った。
「いや、違うな。」
テヒョンはベッドの脇まで来ると国王を見守った。

「私は仕事がないことが怖いのだ。」
「陛下・・・」
「どうも夜中にうなされているみたいでな、、、」
込み入った話になるのかと思いジョングクが立ち上がる。
「あの、、私は席を外しましょうか?」
「いや、いいのだ。お前ももう私の身内同然だ。一緒にいて聞いていてくれ。」
国王の言葉にテヒョンを見た。テヒョンは瞼を閉じて『いいよ』と頷いてみせた。
ジョングクが座り直したのを見て、国王は持っていた本を閉じた。

「倒れたあの日からずっと夢を見る。毎晩毎晩昔のことが夢に出てくるのだ。」
テヒョンもジョングクも黙ったまま聞いていた。
「やはり無理やり忘れようとしても無理なのだな、、」
そう言った途端、国王の左の目から一直線に涙がスーーっと落ちた。真顔な表情にあまりにも涙が合わなくてテヒョンとジョングクが動揺する。
「陛下、、」
テヒョンが国王の手を掴んだ。
「仕事をしなくなった途端、辛くて仕方がないのだ。・・・あの方がまだ私の中におるようで。」
今度は右目からも涙が流れた。
ジョングクはびっくりしてただただ聞いているだけしか出来ない。
国王が目の前で涙を流し、誰かを想い辛いとこぼしている・・・。一国の王の個人的な打ち明け話を聞くなど、それだけで恐れ多い事で衝撃的だった。

「侍従長から伺っておりました。陛下はうなされながらお名前を呼んでいらっしゃると。」
「そうか、、、」
国王の気持ちが昂ぶっていくのが分かった。
「でも、どうして忘れられよう!心から愛した人だ。頭ではもう決着はついている。だけど、、想いは消えないまま、まだずっとそばにいるのだ。もう手の届かない所へ行ってしまった人なのに、、、」
テヒョンがベッドに座り、国王の肩を抱きしめる。
「私はまだ、、愛しているのだ・・・愛しているのだ・・・!!!
絞り出すように愛しい人への想いを口にする国王に、誰も見ることが許されないような孤高と高潔さが滲み出ていた。
それを目の当たりにしているテヒョンとジョングクは、その切なくて苦しい国王の佇まいに圧倒されてしまった。

お互いに愛を見出し、心を繋いた者同士が《国家の安寧》という責任を担い《決別》を選択する。社会的に見れば尊い決断として美談になるのだろう。
しかし、一人の人の人生として見れば、これほど残酷な重責はないだろう。
争う国の双方の君主が意地を張らずストップを掛ければ済んだ事だ。しかし国を背負っているからこそ簡単には出来ない。そのせいで何世紀にも渡って同じような《犠牲的な取り引き》がされてきた。
テヒョンの目の前にいる国王は、マルティナ姫が帰国してから一切を沈黙した。
自分と彼女とのロマンスの噂についても、一言だけ否定をしただけで追求を許さない雰囲気を醸し出した。

それでも愛することは止められないのだ。テヒョンは人を想う心の強さを感じた。
「陛下、もう忘れなくてもいいではありませんか!閉じ込めようとなさるからお辛いのです。今はまだお気持ちを大事になさるべきです。」
どれほど辛い時間を過ごして来たのか。それもたった一人で、、、。君主の立場であるために、個人的な事はずっと封印しなければならなかった。これ以上何をこの方に強制できるというのか。
「フレデリック兄様、、、」
テヒョンは小さい頃に呼んでいた、国王のフレデリックという名前ごと抱きしめた。国王としてではなく、一人の人間として、友として、兄として尊厳を守るように名前を呼んだのだ。
本気で一人の人を愛していたのだから、成就しないからといって気持ちや想いが一瞬で消えるわけがない。諦めなければならないからといって、想いまでは道連れには出来ない。たとえ王であっても平民であっても老若男女誰であろうと皆それに違いなどない。《心》とはそういうものだ。

「陛下、、、打ち明けて下さりありがとうございました。でなければ人としての陛下を見失う所でございました。
陛下の尊い想いはいつか昇華され落ち着いてゆくと思います、、、。」
国王は次第に落ち着きを取り戻していった。
すると今度は泣き声が聞こえてきた。テヒョンと国王が顔を上げる。なんと、ジョングクが泣きじゃくっていた。
「何でお前が泣いているのだ?」
国王は呆れたように言う。
「申し訳、、、ありません。・・・陛下の御心を思うと、、、どうしようもなく涙が、、、」
「君の泣き上戸だけは、なかなか治らないね。」
テヒョンが笑う。
「それだけジョングクの感受性が豊かな証拠だということだな。」
国王が初めて笑顔になった。

「二人共愛しておるぞ。お前たちだけには心から話が出来る。よい重臣、よい友、よい弟達を持てて私はヨーロッパの王の中で一番の幸せ者だ。」
国王はテヒョンの頭をクシャっと撫でた。そして離れて座るジョングクに近くに来いと手招きをして呼び、同じように頭をクシャと撫でる。
国王は晴れやかな顔をしていた。
まだ癒えるところまでは程遠いのかもしれないが、心の丈を口に出して聞いてもらった事で、何かが変わったのは確かだった。

扉を叩く音がする。ジョングクが応対した。
「陛下、間もなくお食事のお時間になるそうでございます。」
「そうか。お前達も一緒に、、と言いたい所ではあるが私はまだ流動食なのだ。」
「さすがにそれはご遠慮申し上げます。」
テヒョンが即座に断った。
「おいおい、あまりにも冷たい言いようではないか。」
「その代わりお元気になられましたら、是非お忍びで街にお食事に参りましょう。」
「おお、それはいい考えだ!その日が待ち遠しいが文句を言わずに流動食を頂くぞ。」
「是非美味しくお召し上がり下さい。では陛下、また参ります。読書のし過ぎも程々になさいませ。」
「分かっておる。ではまたな。今日は本当に感謝しておる。ありがとう二人共。」
テヒョンとジョングクは笑顔で応えた。

二人は国王の部屋を出た。
廊下を歩きながら二人は感慨深く国王の話を思い出していた。人を愛するということは素晴らしいことであるが、結ばれなかった時の怖さも併せ持つ、強くて繊細な感情だとしみじみ思う。
テヒョンがふとジョングクを見ると鼻の頭が赤くなっていた。
「君が泣いていたお陰で、陛下が笑って下さった。」
「お役に立てたのでしょうか、、?」
「勿論だ。陛下のお話が重いままで終わらなくて済んだじゃないか。」
テヒョンが指でジョングクの鼻先を弾いた。

「テヒョン様、陛下がお話になっていた方とは、昔お噂がされていた方なのでしょうか。」
「うん、秘密だけどそうだよ。」
「ああ、、そうだったのですね。陛下に婚姻のお話が入って来てもなかなか進まないと聞いておりましたので、もしかしたら想い人がいらっしゃるのかと思っておりましたが、、、こういうことがあったからなのですね。」
「切ないな、、、。身分違いで結ばれない者達がいる話はよく耳にしたが、同じ身分であっても結ばれない場合もある。高貴な方々であればあるほど、尚更自分達の意向だけでは立ち行かぬことは多い。」
ジョングクは自身の宿命を思い巡らせる。テヒョンはその様子に気付いた。

「でも、、、」
ジョングクが見上げている視線に、自分の視線も合わせると言葉を続けた。
「これからは、解決の方法や打開策などいくらでもあるぞ。僕達は先人達が造り通ってきた道を歩いているだけだ。未開拓な場所は自分が足を踏み入れて道を造ればいい。」
言い終わると、にこにことジョングクを見た。
「そうだろ?」
テヒョンの明るい前向きな言葉と笑顔につられて笑う。
「はい。確かにそうですね。」
ジョングクは歩きながらそっと隣の手に触れた。テヒョンは前を見据えたまま握り返した。


【愛される国王】


何もかも話してしまった、、、。
国王はまだ少し考えていた。マルティナ姫が輿入れした後、ウェルハイムのハインツ2世の政策が変わっていったのは知っていた。対外交重視から国民へ向けての政策が多くなっていったようだ。
ただ、皇帝夫妻に世継ぎの話が出てこないので国王は複雑な思いだった。
国王とマルティナ姫は既に体の結びつきはあったのだが、彼女が輿入れの意思を固めた後は一切彼女には触れなかった。
相手の皇帝への配慮でもあったが、間違って子を身ごもってしまったら彼女の意思が台無しになってしまう。

マルティナ姫が帰国をする前夜、最後の別れの際にお互いに寄り添い唇は近づいていったが、寸での所でためらってただ抱きしめ合った。彼女の首筋に鼻を当て心地よい香りを感じることだけ自分に許した。
そして、自分の元から走り去る靴音と扉が重く閉じる音だけが国王の部屋に残った。
それから後の記憶はない。
マルティナ姫の香りだけは今でも国王の脳裏の奥深くに残っていた。
まだ愛おしく胸が高鳴る想い人ではありながら、国王は国の為に勇気を持ってたった一人で飛び込んでいった彼女が、伴侶に愛され幸せに暮らしていることを心から願っていた。



テヒョンとジョングクは宮殿から近いレストランの個室にいた。
二人だけで外出しての食事は初めてだ。
個室に通されてから、二人はずっと無言のままだった。
国王の話にかなり圧倒されていた。
人を想うことで伴う苦しみや切なさを二人は経験して知っている。
だが、国王のそれはスケールが違い過ぎる。
「陛下は強いお人だ、、。」
テヒョンが呟く。
「陛下はご自身の弱さを自覚なさっていらっしゃるからお強いのでしょうね。」
「弱さを自覚なさっているから、、、か。」
「そうでなければ、あの様に私達に苦しみや悲しみを打ち明けるなど出来ない事でございます。」

ジョングクの言葉を噛み締めてテヒョンは頷く。
「僕は陛下のあの尊い想いをお守りして差し上げたい。」
「私も同じ様に思っておりました。」
「僕達はずっと陛下のお味方でいて差し上げような。」
「はい。」
国王の悲恋がいつか美しい思い出に昇華されることを心から願った。
二人はテーブルの上で手を繋いでお互いの意思を確かめ合った。

食事が運ばれて来て昼食が始まった。
それぞれ違うメニューを注文したので、互いの料理を食べさせ合ったりして楽しんだ。日常ではなかなかそんな事は出来ない。ここは個室なので誰にも邪魔されずにマナーも気にせず二人だけの食事が楽しめた。
この幸せが何かの事情で引き離されるなど耐えられないと二人は思う。
だからずっと大切に育んでいきたいと切に願うのだった。


国王がベッドから立ち上がれるまで体力が回復した頃、大公が見舞いを兼ねて国王の私室にやってきた。
「陛下、お加減は如何ですかな。」
「叔父上。お陰様で立てるまでにはなりましたよ。」
「ははは、良うございました。しかし、無理は禁物ですぞ。」
「ええ。テヒョン達にも言われましたから、気をつけております。」
「どうぞベッドで楽になさって下さい。」
大公はそう言うとベッド横の椅子に座った。

「今日は陛下のご回復後のご公務についてお話しに上がりました。」
「そういえば皆さん方で公務を代行して下さっているんでしたね、ありがとう。特に叔父上には重要事項もやって頂いて申し訳ない。」
「そんな事は気にしないで下さい。
それよりも今後はある程度、仕事を各王族に振り分けて下さい。これは皆様方からの申し出ですよ。皆が陛下のお体を心配しております。今回、振り分けをしてその膨大な公務の数に驚いておりました。」
「叔父上、、、」
「皆さん頼りにして欲しいのですよ。陛下とご一緒にお仕事が出来ることを望んでいます。もっと親族に甘えて下さい。」
大公が国王の肩にそっと手を置いた。

「お仕事に埋もれて忘れたい事もおありだったのでしょう?」
国王は驚いて大公の顔を見た。大公は優しい笑みを見せる。
「私にも覚えがありますよ。
妻を亡くした時はその寂しさや苦しさを感じる事が怖かったので、仕事に逃げましたから、、。でも、私にはテヒョンがおりました。あの子がいてくれたから救われました。」
国王は黙って話を聞いていた。
「私にとって貴方様は兄上の息子で、私の甥ですけれど、勝手に息子だとも思っております。大したお力添えは出来ぬかもしれませんが、父と思って頼りにして頂きたいのです。愛しい思いはテヒョンと一緒でございますよ。」

「叔父上、、ありがとう。」
国王は初めて大公の肩に寄りかかった。
大公はそんな国王の肩をしっかり掴むと数回叩いて大丈夫と合図した。
国王は身内である王族達の愛情に今更ながら気付いた。国王が頼りにしてくれるのをずっと待っていた事にも気付いたのだ。
国のため、国民のため、と先頭で頑張って引っ張っていかねばと思っていたが、皆のためになることは、一人だけでは立ち行かぬ。その為には皆の力添えがなければならないのだと思った。

「テヒョンも大分役に立つ公爵になりましたぞ。充分に力を借りてやって下さい。兄の役に立てることはあの子の幸せにもなりましょう。」
「はい。もう既に充分力を借りておりますよ。私の後をちょこちょこ付いてきていた小さい弟が、しっかり私の気持ちを思いやってくれる頼もしい紳士になっておりました。」
「そうでしたか。貴方様もテヒョンも幸せであって欲しい。私の今の願いはそれだけでございます。」

大公は何かしら国王の苦悩には気付いていたようだった。付かず離れず見守ってきていたのだ。フランスに駐在中も何かと贈り物や手紙を送っていたのもその為だ。
今更ながら自分がとても愛されていたことに気付く国王だった。
体が悲鳴を上げて倒れなければ、もしかしたら精神的にボロボロになってしまったかもしれないと思うのだった。
重度の過労で倒れた事は、神か天国の父王が気付きのために降ろしてくれたものだったのかもしれないと思った。


一ヶ月が過ぎて国王はすっかり元気を取り戻した。普通食も食べられるようになり、筋力の衰えも回復させた。
そして、療養中にテヒョンとジョングクと約束をしていたお忍びでの食事をしにロンドンの街に出たのだ。
お忍びとはいっでも国王を乗せた馬車の両脇にはしっかり警護が着いている。
ただ馬車は宮廷の公用車であったので、誰が乗車しているかは分からなかった。
「随分暖かくなっていたのだな。」
国王は少しだけ窓を開けて外の風を入れた。
外はすっかり春の季節になっていた。

「しかし、テヒョンよ。」
「はい。」
「見目麗しい紳士3人がこうして一緒に街に繰り出しては、目立ち過ぎるのではないか?」
テヒョンはにこにこしながら応える。
「陛下の本領発揮でございますね。もうすっかりお元気になられて本当によかった。」
「いやいや、真面目に言っているのだぞ。」
ジョングクは国王とテヒョンのことの成り行きを黙って見ていることにした。
「ここに父上が居なくてよかった。」
「なんだ、どういうことだ?」
「父上も陛下と一緒に同じ事を申したと思いますので、収拾がつかなくなるのですよ。」
「見目麗しいのは本当の事ではないか。こらジョングク、黙ってないでお前も何か申せ。」
テヒョンが何も言うなというように首を横に振った。

ジョングクが国王とテヒョンの板挟みになって困惑しているうちに、馬車は目的地のレストランに到着した。
国王が言うように3人共に見目麗しいのは間違いなく、馬車を降りてから居合わせた街の人々から注目を浴びた。
お忍びなので目立たない服装になってはいたが、元々持っている品位は隠せない。『まぁ、どちらの殿方達かしら?』『素敵な方々ですわね。』『どこの名士の方々であろうか?』とざわつき始めた。護衛達がこのままではまずいと、3人を早々にレストランの中へ誘導した。

中に入ると国王が、
「ほら、私の言った通りであろう?」
とウィンクをしてみせた。テヒョンとジョングクは二人で吹き出してしまった。
しかし、国王の久しぶりの明るい声に安堵した。
通されたテーブルは全く初めての一般席であった。但し目立たない奥まった場所を依頼した。
今回は国王としてではなく、フレデリックという一人の個人として、レストランでの食事を楽しんでもらうことにした。
メニューも普段食べない庶民のメニューにして、アルコールも庶民にポピュラーな物を選んだ。そしてそれらの注文は全てフレデリック国王にお任せした。

飲み物が運ばれて来て3人で乾杯をする。
「私が頼んだものがちゃんと来たな。」
初めて注文したものが、ちゃんと届いてフレデリック国王は嬉しそうだった。
すると、今度は熱々の料理が次々に運ばれてくる。かしこまった盛り付けではなく豪快な皿盛りに3人共大いに喜んだ。
人の目を気にせずテーブルマナーもうるさくなく、食べたいように食べ食事中のおしゃべりも気兼ねなく出来て、本当に有意義な食事になった。
そして本来であれば支払いは宮廷の出納部に店側が請求をして支払いが行われるのだが、今回は一般客と同様にテーブルで会計をした。何から何まで一般的な食事会にしたのだ。

帰りの馬車の中でも国王は終始ご機嫌だった。
「テヒョン、ジョングク、また街に繰り出すぞ。次も計画を立ててくれ。」
「はい。また行きましょう。」
宮殿に戻った国王はにこやかに自室に戻って行った。
後日侍従長から、その日の国王は早目にベッドに入り、途中一切目覚めることなく熟睡出来ていたと聞いた。


次の物語に続きます