群青と真紅 55 【GIFT〜贈り物《結》〜②】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

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ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆

17ヶ月26日、17ヶ月27日
テテとグクが帰って来るまでの日数です

日々近付いていくよ照れ


前回の物語




物語の続きが始まります✨✨✨



【昇華する心】


「今日は有意義な時間が持てた。お前とこうして出掛けられたのも楽しかったしな。」
デニスのカフェを出て、大公とテヒョンは宮殿に向かっていた。
「父上と母上の馴れ初めを伺えて私も楽しかったです。」
「そうか、ローレンが聞いたら喜ぶだろう。」
当たり前な事なのかもしれないが、大公が未だに変わらず大公妃を愛しているという事を感じて、その変わらない想いにテヒョンは満たされた気持ちだった。
「懐かしい話ばかりであった。デニスもすっかり年を取って貫禄が出ておったしな。あの店は私とローレンが落ち着いて過ごせる憩いの場所だったのだ。」
帰り際にそのデニスはテヒョンにこう話していた。
「大公子殿下、もし大切な方がいらっしゃるのでしたら、御父上や御母上のように是非ご一緒にご来店下さい。私も大切におもてなしをさせて頂きます。」
あの深いシワの笑顔に真心を感じた。貴族社会とは違う飾らない雰囲気に、大公が彼を信頼して足繁く通っていたことも分かる。

「テヒョン、母が早くにいなくなって寂しかったであろう・・・」
「父上・・・」
「私もお前がまだ少年であった時期に海外へ出てしまって心残りだった。」
「それは仕方がありませんよ。父上もお仕事の他にご公務がおありでしたから。」
「それ!その物分りの良い言いようだ。お前を早く大人にしてしまった私の罪だ、許せ。」
「・・・今日はスミスにも言われました。もっと寂しいと言って甘え、我儘を言っても良かったのだと。」
「スミスの言う通りだな。」
「しかし父上、謝らないで下さい。・・自責の念をお持ちでも、、、謝られたら私が本当に可哀想な子どもになってしまいます。」
「なるほど、、、本当にお前は大人になってしまったのだな。」
テヒョンは笑った。
「当たり前ではありませんか、私はとうに成人を迎えておりますからね。」

「だがなテヒョン、これだけは分かってほしい。ローレンは旅立つ直前までお前のことが生き甲斐だったのだぞ。」
大公の声が少し震えていた。
「本当に愛情深い優しい母親だった。お乳を与えている時も、子守唄を歌っている時も、泣いているお前をあやしている時も、全部が彼女の幸せだった、、、」
どれほど愛情が注がれたのか、テヒョンの胸に自然と感謝の思いが溢れてくる。
「それに、お前は母親以外の者の腕の中では泣いて泣いて大変だったのだぞ。お前の記憶に残ってはいないことが残念だがな。」
「いいえ、いいえ父上。頭の記憶にはなくても、私の心には既に母上の愛情が宿っておりました。あの肖像画の母上を見てそれに気付いたのです。」
大公はテヒョンの言葉を聞いて、何も言わずにただ満足そうに頷いた。
「父上、陽がだいぶ傾いて寒さが増してきました。急ぎましょう。」
「そうだな、早く帰るか。」
テヒョン達は馬の歩みを常歩から速歩に変えて家路を急いだ。


ようやく西門に辿り着く。
植物園を抜けて宮殿の入口にまで来ると、オルブライト、スミス、デイビスが出迎えのため外に出てきた。
「お帰りなさいませ。」
大公とテヒョンは馬から降りると、ヴィンセントとアーサーを労って馬丁に手綱を渡した。
「大公殿下もテヒョン様もお疲れ様でございました。お着替えをなさいましたらすぐにお夕食に致しますか?」
スミスが訊ねた。
「いや、かなり食べて来たので今夜は少し遅めでいいぞ。テヒョンはどうする?」
「私も遅い方が。」
「かしこまりました。」
デニスのかなりのもてなしで、二人は随分食べていた。
「父上、今日はありがとうございました。」
「私も楽しかった。時間を作ってまた行くぞ。」
「はい、是非に。」
二人は満足気に笑って部屋に戻って行った。

テヒョンはデイビスと部屋に向かっていた。
「デイビス、今日は忙しかったのか?」
階段を上りながら訊いた。
「別段そんなに忙しかったわけではありませんが・・・。」
「ズボンの裾が汚れているぞ。」
「これは大変失礼致しました!すぐに着替えて参ります。」
「ああ、よいよい大丈夫だ。払えば落ちる程度の汚れであろう。」
「恐れ入ります。申し訳ございません。」
テヒョンがふふ・・と笑った。
デイビスは恐縮していた。従僕が汚れた制服で主人のそばに付くことが、どれ程無礼に当たるのか重々承知していたからだ。
テヒョンが言うように手で払えば済む位の汚れではあったが、汚れの程度の問題ではなかった。教育実習の頃であったら教官の雷が落ちる程の失態だ。
しかし、足元の軽度の汚れに気付く主人の眼光に今更ながら驚き恐ろしさを感じた。
「今日は早朝から賑やかな宮殿内であったな。」
訊ねるわけでもなくボソッと話す言葉にデイビスはハラハラした。


「スミス様!」
執事室にノックの音が響いた。
「はい、入りなさい。」
扉が開くとデイビスが入ってきた。
「おおデイビスか、なんだどうしたのだ。」
「殿下の鋭い勘の良さに恐れおののきました。これ以上隠していられるか自信がございません。」
「だから何度も申しているだろう。平静を装うのだ。あと1日ではないか。」
「しかし、今朝は殿下のお目覚めはゆっくりでいらっしゃいましたのに、早朝の喧騒に気付いておいででした。場所もかなり離れていたはずなのにですよ。」
驚愕する様を見てスミスはほくそ笑んだ。
「それと私の制服のズボンの裾のこの汚れを瞬時に見付けられました。」
その一言にスミスの顔色が変わった。
「馬鹿者!!何を呑気に申しておるか!!」
デイビスはスミスの声に驚いて姿勢を正した。執事室にいた他の者も何事かとスミスとデイビスを見る。

「奉仕をさせて頂いているお方の前に出る時には、身なりのチェックを怠ってはならぬと厳しく習ってきたのではないのか!」
「申し訳ありません!」
「あろうことかそれをテヒョン様から指摘されるとは・・・それで、テヒョン様は何と申された?」
「はい、私が着替えて参りますと申し上げましたが、よいと・・・」
スミスは大きくため息をついた。
「お前は自分の行いのために、主人であるテヒョン様に気を使わせてしまったのだぞ。それに今は御用を言いつかっておるのではないのか?」
「はい、お飲物をお持ちせねばなりません。重ね重ね申し訳ありません。」
「私に謝った所でどうにもなるまい。テヒョン様の所へ戻る前に、きちんと着替えをしてまいれ。急ぐのだぞ。」
「はい、失礼致します。」
デイビスは急いで従僕達の詰所に向かった。 

デイビスが執事室を出てからしばらくすると、今度はテヒョンがやってきた。
「スミス、入るぞ。」
「はい。」
扉の近くにいた者がテヒョンを迎え入れた。テヒョンは入るなりキョロキョロ見回すと、
「なんだ、ここにもおらんのか。」
と腰に両手を掛けて言った。
「デイビスをお探しですか?」
「うん。ココアを頼んだのだが少し時間が掛かっておるからな。厨房におらんのでここに寄っていると思ったのだが・・・」
「申し訳ございません。テヒョン様をお待たせしている上に、自らお探しまでさせてしまいまして。」
「デイビスがどこにおるか知っているか?」
「はい、只今着替えをさせております。」
「なんだ、あの汚れのことか?よいと申したのに。」
「デイビスのご無礼をお許し下さいませ。まだまだ至らぬ所がございます。全て任せずに私がしっかり指導をしておくべきでございました。」
「失敗も学びの内。私も一緒に育て上げていけばよいであろう?」
テヒョンはニコニコ笑って言った。
「それに、今日のデイビスは気の緩みではない。朝から忙しすぎたせいだ。それはちゃんと分かっておる。」
「恐れ入ります。」

スミスは頭を下げながら、テヒョンの五感で周りを見る察知能力の高さと、懐の広さを再確認した。デイビスにはまだそれを感じ取る余裕はないだろう。
「デイビスが服装の確認の為に戻ってきたら、ココアは急いでいないからその代わり、自らとびきり美味いものを淹れて来るように伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
スミスは笑いがこみ上げる。デイビスにとっては超難問な課題になるからだ。
テヒョンも笑っていた。
「そうだ、スミス、、、」
「はい。」
「今日、、、母上に《お会い》してきたぞ。」
話をするテヒョンの表情が柔らかく明るいので、スミスも笑みが漏れる。
「大公妃殿下にお会いして、いかがでございましたか?」
「とても息子思いでお優しい方だということがよく分かったよ。」
スミスがうんうんと頷いた。
「不思議なことに、母上の事を聞いているあいだ、ずっと私の隣で懐かしそうに笑っていらっしゃるお姿が感じられたのだ。」
「きっと本当におそばにいらっしゃったのですよ。」
テヒョンはスミスが真剣に受け止めてくれることが嬉しかった。
決して《そんなことがあるわけがない》というような否定的な言葉を言わないのがスミスだった。相手が感じたことを疑似体験するように、寄り添える心を持ち合わせている人格者だ。
スミスもテヒョンが精神的に落ち着いている様子だったので安心していた。


その後、超難問を仰せつかったデイビスは、渾身のホットココアを作り上げてテヒョンの元へ戻る。
おずおずと差し出したココアをテヒョンは一口飲んでにっこり笑うと、
「うん、今日は初日だからな。」
と言った。
痛烈で優しい駄目出しだった。デイビスは予想通りの結果に、この《試験》はこれから先長く続くのではないかと覚悟する。
「あの、、、殿下。」
「なんだ?」
「不躾ながらお訊き致します。殿下がお認めになるホットココアとはどういう物なのでしょうか。」
「私が認めるホットココアか?」
テヒョンはカップを置くとそれを横にずらした。
「私が認めるホットココアはジョングクが淹れたものただ一つ。淹れ方も彼だけにしか分かるまい。」
デイビスは訊ねたことを後悔した。超難問が更に難しさを増しただけになった。



【GIFT〜結(むすび)〜】


12月30日
真冬にしては朝から穏やかな空気で明るい光が窓から差し込んでいた。
この日のスタートは誰もが《ある言葉》を口にしないように気を付けていた。
テヒョンにはそれが何か気付いていたので、敢えて訊ねることもしないで付き合ってやることにした。
この日の朝食は久しぶりにベッドの上で摂ることになった。
食事をしながらずっと開いていなかった本を開いて読書に没頭する。
テヒョンの部屋には穏やかな時間が流れていた。
「失礼致します。」
デイビスが例によってホットココアを持って部屋に入ってきた。恭しくベッドテーブルの上に甘い香りが溢れるカップを置く。
「どうぞお召し上がり下さいませ。」
テヒョンは両手でカップを掴むと一口飲んだ。徐ろにデイビスの顔を見ると涼しい笑顔で、
「ご馳走様。」
と言った。
その一言を受けてデイビスは頭を下げてベッドから離れた。どうやら不合格らしかった。

朝の着替えを終えてまた読書に入り込む。しばらくするとデイビスがテヒョン宛の郵便物を届けに来た。
今日の郵便物はテヒョンへのバースデーカードが殆どだった。
そう、12月30日はテヒョンの誕生日だった。
毎年沢山のバースデーカードが宮殿に届けられた。国民からも沢山送られてくるので配達員は箱に詰めて届けに来る。執事が選んだ物が実際にテヒョンの元に届けられるので、今目の前にあるのはごく一部ということになる。
バースデーカードが毎年届く事を皆知っているのに、なぜ今年はわざと《誕生日の事》を口にしないのか不可解だった。
だが敢えて深く考えず、とりあえずカードが入った封筒を開封していった。
今年はフランシス嬢を介して寄付をした施設からのバースデーカードが多く見受けられた。その中でも可愛らしい子どもの文字が沢山並んでいるものもあって、テヒョンの顔が自然とほころんだ。

いつの間にか昼に差し掛かる。
部屋の扉をノックする音が響いた。
「どうぞ。」
と応えると、部屋に入ってきたのはスミスと衣装を持ったデイビスだった。そして更にヘアメイクを担当する従僕が付いてきていた。
「なんだ、なんだ?公式行事の支度にはまだ早いのではないか?」
「お誕生日おめでとうございます。テヒョン様。」
スミスの言葉と共に横に並ぶ二人が揃ってお辞儀をする。
「おい、おい、今更か?朝は皆変な一体感で誕生日の《た》の字も口にしなかったではないか。」
皆が何がしたかったのか、わけが分からず笑いが出てしまった。
「それでは殿下、こちらにお座りになって下さいませ。」
ドレッサーに座りケープを掛けられたテヒョンは、観念してこれ以上理由を訊くのをやめた。

髪型が整うと今度はスミスとデイビスが衣装替えに差し掛かった。
テヒョンの好きな深緑のベルベット地の衣装が用意されていた。アイロンがしっかりかけられたハイネックのシャツは、綺麗な流線を描くテヒョンのフェイスラインを際立たせた。
更にジャケットを羽織ると深いエメラルドグリーンを思わせる色が、強い意志を感じる瞳と計算された彫刻のような鼻筋を強調させた。
「いつにも増して凛々しくもお美しい。」
支度を終えてスミスが目を細めてテヒョンを称賛した。
テヒョン自身も鏡に映る誕生日を迎えた《今の自分》を改めて見た。
「それでは参りましょう。」
スミスが先頭で案内する。何やら用意がされているのだなと悟り、言われるがまま従うことにした。

テヒョンは食堂に案内された。
「皆様、大公子殿下のお成りでございます。」
食堂に入るとまず大きなバースデーケーキが目についた。テヒョンは思わず『わぁっ』と驚きの声を上げた。
改めて食堂の中を見ると、フランシス嬢とジョンソン男爵、父である大公とオルブライト、そしてジョングクとその隣には国王の姿があった。
テヒョンは国王に対してお辞儀をする。
「陛下もお越し頂いているのですか?」
「叔父上から正式に招待を受けたのでな。」
国王は楽しそうに答えた。
「今年は公式な行事は無しにして頂いた。」
大公が続けて答えた。
「この度は大公殿下主催ということでご準備をさせて頂きました。」
スミスが話しながらテヒョンを主役席まで案内する。
テヒョンの誕生日は毎年公式扱いで宮廷で行われた。しかし今年は父である大公が帰国したこともあって、ごくごく親しい身内だけでの宴にしたいと、大公自らが国王に願い出て実現したのだった。
「それでは皆様ご着席をお願い致します。」
主役のテヒョンを上座に大公とテヒョンの側近のジョングクが隣に着席をした。大公の隣には国王が座った。今回のパーティーは無礼講ということでこのような席順になった。

「皆様こちらのバースデーケーキをご覧下さいませ。フランシス嬢お手製のケーキでございます。テヒョン様はこちらへ。」
直径が焼窯の大きさギリギリで焼かれた土台のケーキの上に、更に3段まで重ねられクリームで装飾がされたバースデーケーキだった。そしてまた食品で色付けされたアイシングでテヒョンの名前が作られていて、その周りには飴細工のバラの花が添えられていた。テヒョンは席を立ちケーキが置いてあるテーブルの中央まで来た。
「お誕生日おめでとうございます。これは私からキム公爵への贈り物でございます。」
フランシス嬢がそう言ってケーキの蝋燭に火を灯した。
「さぁテヒョン願い事をして一気に吹き消せ。」
大公の号令が掛かる。
「ありがとう、フランシス嬢。」
礼を言って胸に手を当てると、目をつぶり願い事をする。それから一気に蝋燭の火を吹き消した。
「お誕生日おめでとうございます!」
火が消された瞬間、皆が拍手でテヒョンを祝った。

テヒョンはそっとジョングクに視線を向けた。その顔は優しい笑顔で拍手をしていた。お互いに数日前の痛む気持ちはもう無かった。テヒョンが席に戻りつつジョングクの肩に手を置いた。
応えるように立ち上がるとテヒョンの椅子を引いた。近くにいた従僕が慌てて近付いて来たが、ジョングクはいいよと手で合図をして、自らテヒョンを座らせた。
「お誕生日おめでとうございます。テヒョン様。」
「ありがとう。君も一枚噛んでいたのか?」
「まだまだこれからでざいますよ。」
ジョングクはそう言うとウィンクをしてみせた。
厨房に近い方の扉が開いて公爵家の厨房の最高責任者である料理長が、コック帽を脱帽して一礼をすると食堂に入ってきて、そのままテヒョンの席に近付いてきた。
「殿下、お誕生日おめでとうございます。これからチョン伯爵とジョンソン男爵お二人からのプレゼントをご披露致します。」
料理長はまた一礼をして食堂の外へ出た。

今度は扉が両開きで開く。すると大きな装飾台の上に布が被された物があって、4人掛かりで食堂に運ばれてきた。
料理長は徐ろに布に付いている紐をゆっくり引くと、美しい氷彫があらわれた。
おお!と歓声が上がった。
その氷彫は天に羽ばたくユニコーンに天使が跨った形が現わされていたのだ。
「こちらはチョン伯爵とジョンソン男爵がノルウェー産の氷をご用意下さり、私が彫刻のご依頼を頂きまして制作致しました。天使のモデルは殿下ご本人様でございます。」
「なるほど、では宮殿内の氷室に氷を隠していたのだな。」
テヒョンがジョングクに訊いた。
「はい、その通りでございます。」
「料理長の技術もさることながら、チョン伯爵家でのクリスマスでも感じたけど、君の演出の発想力はとても優れているよ。」
ジョングクはテヒョンからの賞賛に照れながらも嬉しさが笑顔に溢れた。

「料理長、見事であるぞ。」
大公が席から立ち上がり氷彫の近くまで寄って作品を見た。テヒョンも父に続いて見に立ち上がる。氷彫は光を浴びながらキラキラと煌めいていた。ユニコーンの飛躍する表現も背に乗る天使の愛らしい様相も素晴らしい。
「料理長、ジョングク、ジョンソン男爵、本当にありがとう。」
その場に居た全ての者達の拍手が湧いた。ジョングクとジョンソン男爵は立ち上がり、料理長に改めて拍手を送った。料理長が深々とお辞儀をした。
テヒョンが席に戻ってジョングクに訊いた。
「料理長が氷で彫刻を作れることをよく知っていたな。」
「以前にテヒョン様からキム公爵家のシェフが、フランスで国王の料理人をしていたと伺いました。宮廷の催事がある時には氷彫をシェフが作られると聞きましたので料理長に伺ったのです。」
「そうだったのか。」
「ジョンソン男爵は割と多方面に顔が広くて、今回の話を打ち明けましたらノルウェー産の氷塊を手配してくれました。」

ジョンソン男爵はその後、一緒にお祝いを差し上げたいとジョングクに申し出たようだ。
しかし、先程からそのジョンソン男爵がやけに大人しいことに気付く。見ると氷彫の出来栄えに感動してひとり涙を流していた。テヒョンとジョングクはフランシス嬢に涙を拭いてもらっている様子を見て笑った。
誕生日のお祝いが一通り済むと料理が次々と運ばれてきた。
今年のテヒョンの誕生日は気心が知れた者だけで、賑やかに楽しく進んでいった。なにしろ主役が一番よく笑っていた。心からテヒョンの誕生日を祝う者だけが集まった、心が温まる宴になって大公もスミスもオルブライトも本人以上に嬉しかった。
国王もずっと祝の席の様子をにこやかに、また静かに見ていた。自分の身分ではなかなかこういうことがままならない。だから喜んで招待を受けたのだった。

フランシス嬢のバースデーケーキが皆の胃袋を幸福に締めくくり、宴がお開きとなった。
国王がテヒョンに近付いてきて抱きしめた。
「おめでとう。よい宴であった。お前の周りは温かい者ばかりで幸せだな。」
「はい。陛下が私の人生で最初に温かい友情を注いて下さいました。感謝しております。」
「そうか。仲間を大事に致せよ。」
「はい。」
国王はテヒョンの頭を撫でると、お付の者達と帰っていく。それを皆でお見送りをした。
親友としていつもそばにいてくれた兄のような国王。しかし、一国の王になってからはなかなか自由にいかない運命に、沢山葛藤も感じたであろう。テヒョンは国王の背中に数知れない苦労の影を見た。

最後に食堂の出口でジョンソン男爵とフランシス嬢を見送る。
「ジョンソン男爵、ジョングクと一緒に本当にありがとう。嬉しかった。」
「キム公爵の料理長が素晴らしい技術の持ち主で本当に感動しました。こちらこそありがとうございました。」
「ああ、もう泣くなよ。」
「トーマス様、主役の方を差し置いて泣いてはいけませんと申しましたでしょ。」
フランシス嬢が呆れたように、また愛がある注意をした。
「フランシス嬢、素晴らしく美味しいケーキをありがとう。大変だったであろう?」
「こちらのシェフの方々にお手伝い頂きましたので、さほど大変ではございませんでした。かえってお仕事を増やしてしまったのではないかと心配で・・。」
「うちのシェフ達は料理が本当に好きな者ばかりだから大丈夫。」
フランシス嬢はホッとして胸を押さえて笑った。
「では今度こそ君達の結婚式で。二人共風邪をひかないようにな。」
テヒョンが満面の笑顔で二人を見送った。

「今日の誕生日は本当に楽しかった。」
テヒョンが余韻に浸るように感想を言うと、ジョングクが急に腕を掴んできて、そのまま食堂を出た。
「どうしたのだ?」
問い掛ける声に答えることなく、腕を掴んだまま大広間を抜け大階段を上がっていく。
テヒョンはジョングクの後ろ姿をただ見つめたまま後を付いて行った。
廊下もどんどん進んで行くと、テヒョンの部屋の隣に与えられた、側近の部屋の扉を開けた。
ジョングクはここで初めて振り向いた。
「どうぞお入りになって下さい。」
テヒョンは促されるまま中に入る。扉を閉めて部屋の中まで来ると、
「どうぞこちらに。」
とソファを勧めた。
テヒョンが黙ってソファに座った。
ジョングクはテヒョンの前で片足で跪いた。次に上着のポケットに手を入れるとそこから小さな四角い箱を取り出した。
「私の本意のお誕生日の贈り物はこちらです。」
そう言うと両手でテヒョンの前に小さな箱を差し出して、蓋をゆっくり開いた。

それはシルク地の布が貼られたリングケースで、中には金とプラチナで作られた指輪が入っていた。ジョングクは指輪を取り出すと、内側に彫られた文字を見せた。
「《Je promets ma fidélité à vie(生涯の忠誠を誓います)》」
テヒョンが読んですぐにジョングクを見た。
「はい。この先何が起きようとも、テヒョン様に一生涯の忠誠心を捧げます。」
ジョングクはテヒョンの右手を取って、薬指に指輪をはめた。そして指輪をはめた薬指にキスをした。
「もう今までに随分忠誠心を尽くしてもらっているよ。でもありがとう大事にする。」
テヒョンは左手で右手を包んだ。
ジョングクはシャツの襟を少し開くと、中からネックレスを引き出した。そこにはテヒョンに贈った物と同じ指輪が通してあった。

「フランスのメレリオ・ディ・メレーで作らせたお揃いの指輪でございます。軍務の関係で指にはめることができませんので、こうしてネックレスに通して身に着けております。」
ジョングクが持っている方の指輪の内側をテヒョンに見せた。
「《ma précieuse Vénus(私の尊い金星)》」
テヒョンは読んで恥ずかしそうに笑った。
「貴方様は何時でも私を導いて下さる金星です。私の部隊の名前にも貴方様を形容する《金星》がついているようにいつも共にいたいし、いて欲しいと思っております。」
テヒョンは頷いてジョングクの指輪を手に取るとそこにキスをした。
「テヒョン様・・・・」
ジョングクの顔が深妙な表情に変わった。

ジョングクはテヒョンの右手を取って自身の心臓の位置に当てた。
「万が一、私の部隊が出動するような事になっても、私の魂は貴方様と共におります。」
「いや、そんな戦闘の場所になど君を行かせない!」
「要請が出たわけではありません。まだ可能性の段階です。」
不安そうな表情のテヒョンに笑顔を見せた。
「例えばのお話です。何が起きようとも貴方様への想いは変わりません。それをお誕生日の日にお伝えしたかったのです。」
テヒョンはジョングクの胸に飛び込んだ。
テヒョンは何も知らないわけではなかった。ヨーロッパ各地でP国の王位継承権争いの火種が跳んで、あらゆる場所で暴動が続いていることは知っていたし、軍を出勤させた国もある。
海で囲まれたこの国には、簡単には火種は飛ぶことはないにしても、決して油断は出来ない状況であるのは否定できなかった。
テヒョンは力いっぱいジョングクを抱きしめていた。


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