群青と真紅 56【結婚の儀式】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

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ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆

その日まで
17ヶ月17日17ヶ月18日

🎉🎄メリークリスマス🎄🎉
いつの間にか年の瀬を迎えていました
5日後にはテテのセンイルがやってきますよね☺️ 
韓国はマイナス二桁の気温だとか🥶
どうか心穏やかなクリスマスでありますように✨🙏✨


前回の物語




物語の続きが始まります✨✨✨


【友人達の結婚式】


「君は本来、争い事が嫌いだよな。」
「ええ、そうですね、、、」
「それなのに一番過酷な任務を任されるとはな。そのような決まり事を作っている王族の一員として申し訳なく思っている。」
「テヒョン様、そのように仰らないで下さい。チョン家が代々そういう家系なのです。私は士官学校で指揮官になる為の教育訓練とあらゆる軍事訓練を受けて参りました。覚悟たるものも既に出来ております。」
ジョングクのにこやかに話す表情が、あまりにも話の内容と相反するのでテヒョンは違和感が拭えないでいた。
「それよりも、、、」
先程からずっと腕の中で離れないでいるテヒョンをぎゅっと抱きしめる。
「、、、今はこうして貴方様のおそばにいられる時間を大切に、幸せに過ごしたいです。」
ジョングクの声がテヒョンの心に切なく響いた。
一番望むことは、こうしてお互いの存在を確かめ合うこと。軍事に携わる業務が増えたジョングクにとって、二人で穏やかな時を過ごすことが何より貴重だった。

Ich liebe dich, so wie du mich,(君が僕を愛するように、僕は君を愛する)・・・」
テヒョンが歌を歌い出した。
「あ、ヴェートーベンですね・・・」
テヒョンが顔を上げて頷いた。二人は一緒に歌い始める。

君が僕を愛するように
僕は君を愛する
夕べにも そして朝にも
君と僕が お互いの苦しみを
分かち合わない日があるなど
1日たりともあり得ない
だからこそ その苦しみは
君と僕にとって容易く
耐えられるものとなる
君は僕の悲しみを慰めてくれて
僕は君の悲しみに涙を流すのだ
神様の祝福が君にありますように
君よ 僕の人生の喜びよ
神様が君を守って下さることを
さらに僕のために
君を支えて下さることを
僕達二人を守り 支えて下さる事を願う

歌いながら二人は慈しみを込めてお互いを見た。
静かな暮らしの中ではあったが、外の世界では不穏な風が飛び交っている。不安に苛まれないようしっかりとお互いの手を繋ぐ。
「ジョングク、、、これから先、喜びは勿論のこと厳しいことが起きても分かち合うと約束してくれるか?」
ジョングクは問われて、テヒョンの目を真っ直ぐに見据えて答えた。
「はい。お約束致します。」
「必ずだぞ。」
テヒョンはジョングクの腕を掴んで念を押した。
「では貴方様も、何事も必ず私に打ち明けて下さいますね?」
自分の腕を掴むテヒョンの手をもう片方の手で包んで訊ねる。
「勿論、僕も約束するよ。」
お互いがお互いの《心の幸せ》を願わずにはいられなかった。
こうして二人が出会った年が暮れていく。動き出している運命の歯車は、重くギシギシときしむ音を立てながら徐々に加速していくだろう。
新しい年がどんな試練を用意して待っているのか・・・・
二人はまだ知らない。


新年を迎えてテヒョンとジョングクは宮廷に出向いていた。
新年の挨拶の為に謁見の間には首相や大臣、陸・海軍元帥、各国の駐在大使が勢揃いしている。
謁見の間の隣の控えの間に国王が入ってきて、テヒョンとジョングクと挨拶を交わす。
「新年おめでとうございます、陛下。」
「おめでとう。今年も変わらず客人が沢山来ておるな。テヒョンもジョングクも今年も頼むぞ。」
「はい。心して公務に励みます。」
国王はニコリと笑うと、他の王族の元を回った。
「陛下の軍事関連のご公務が増えましたから、ずっと色々な場所に出向かれてお忙しそうです。」
ジョングクが国王の背中を見ながら言った。
「それでも決して疲れたお顔を見せる事をされないから、逆に心配になってしまうよ。」
ただでさえ通常の公務の量が多い国王をテヒョンは心配した。
「それでは国王陛下も皆様方も謁見の間へご移動をお願い致します。」
侍従長の声が掛かった。
新年最初の謁見が始まり宮廷もあらたに動き出した。


この日は朝から賑やかだった。
テヒョンもスミスも正装をして準備を整えていた。
ジョングクは前日からテヒョンの宮殿に泊まり、今は正装用の軍服を身にまとっている。
三人はこれからジョンソン男爵とフランシス嬢の結婚式に出席するために出掛ける用意をしているのだ。
「馬車のご用意は済んでおります。皆様方はいつでもご出発して頂けます。」
「ではそろそろ出掛けるとするか。」
テヒョンが二人を促した。
「なぜだかわかりませんが、私は緊張して参りました。」
「スミスの結婚式でもあるまいに、どうした?」
テヒョンが笑い出す。
「ジョンソン男爵の事をふいに考えておりましたら、昔の自分の結婚式の時より緊張してきたのです。」
「あー・・色々心配にはなりますね。」ジョングクも思い当たる節を思い浮かべた。
「二人共ジョンソン男爵の事は何も考えるな。考えるだけきりがないぞ。」
テヒョンはそう言って先に部屋を出た。

三人を乗せた馬車はロンドンの結婚式が行われる教会に向けて出発した。
二人が結婚式を執り行う聖バーソロミュー教会はテムズ川の北にあって、ロンドン最古の教会と言われていた。フランシス嬢にとっては、慈善活動の拠点にもなっている場所であり、長く市民からも愛されていて、人々に寄り添った市民憩いの場所になっていた。
「選んだ教会が本当に彼女らしいな。」
テヒョンが納得をして頷く。
教会に近づくと参列者達の馬車が並んでいた。
牧師が一人テヒョン達の馬車に小走りで近付いて来るのが見えた。
スミスが窓を開ける。
「キム公爵とチョン伯爵、スミス伯爵でございますね。専用の場所がございますのでこちらへ。」
牧師はそう言うと御者にも案内を伝えた。

テヒョン達の馬車は牧師が案内する方へ付いて行った。
教会の敷地の中に入ると、広い馬車留めの場所が造ってあってそこに案内される。
教会の聖職者専用の入口の前で三人は馬車を降りた。
待っていた牧師がテヒョン達を迎えた。
「ようこそキム公爵、お待ち致しておりました。チョン伯爵もスミス伯爵もようこそ。」
「あなたは?」
「申し遅れました。私はこの教会の牧師でバーデンと申します。どうぞ式場内にご案内致します。」
教会の中に入るとジョンソン男爵とフランシス嬢のそれぞれの両親がテヒョン達を迎えた。
「キム公爵、本日は私共の息子、娘の為にご参列誠にありがとうございます。私はトーマスの父アルヴィエでございます。」
「私はフランシスの父リオンヌでございます。」
「本日はおめでとうございます。アルヴィエ伯爵、リオンヌ伯爵。」
テヒョンは二人の両親達と挨拶を交わした。ジョングクとスミスも続けて挨拶をする。

結婚の儀式が行われるまでテヒョン達三人は、教会の控室で休む事ができた。
ジョンソン男爵とフランシス嬢はテヒョン達を主賓として扱ってくれたようだ。
しばらくして今日の儀式を司る主教が挨拶に来た。またキム公爵家と懇意にしている貴族達が挨拶に来たりもした。
「失礼致します。」
バーデン牧師がやってきた。
「もう間もなく結婚の儀式が始まります。お席にご案内致しますのでどうぞこちらへ。」
テヒョン達はバーデン牧師の後について部屋を出た。
祭壇近くの出入り口からチャペル内に入る。身廊を挟んで参列者は既に着席をしている。テヒョン達の姿が見えると参列者達がざわついた。これを見越して挙式の直前まで静かに控室に居られるよう配慮をしてくれていたようだ。

テヒョンとジョングク、スミスは親族席の次に席が用意されていた。
全ての参列者が揃うと主教が恭しく祭壇の前に現れた。そして新郎のジョンソン男爵が内陣前に立ち扉口の方を向いた。
パイプオルガンの音色と共に新婦のフランシス嬢が父リオンヌ伯爵の腕をとり共に扉口から現れ身廊を歩いてくる。
フランシス嬢は黒ではなく純白のウェディングドレスにベールを被り、背筋を伸ばして歩みを進める。参列者の皆がその立ち居振る舞いの美しさに目を奪われた。
テヒョンは不意にジョンソン男爵に目を向けた。すると彼の目に涙が溜まっているのに気が付いた。今にも溢れそうだ。
隣りに居るジョングクの腕に肘を当てジョンソン男爵を見るように目配せをした。ジョングクはそれを確認をすると直ぐにテヒョンを見る。いつあの涙が溢れ落ちてくるのか気が気でなかった。

会場内に響き渡る荘厳な音色に、フランシス嬢のエレガントな歩みはそそと進む。
フランシス嬢とリオンヌ伯爵が祭壇の前に到着すると、リオンヌ伯爵はフランシス嬢の手を新郎のジョンソン男爵に託した。その途端、ジョンソン男爵の両目から一気に涙が溢れ落ちた。
気付いたリオンヌ伯爵や親族、参列者達が目を見張る。が、
「あらあら。」
とフランシス嬢は落ち着いて自分の袖口からハンカチーフを取り出すと、涙で濡れる頬を拭いてやった。その光景に一気に会場の雰囲気が柔らかく温かく変わる。
二人の微笑ましい姿に、幸せな新郎新婦そのものを皆が感じた。
「あの二人はきっといい夫婦になるな。」
テヒョンも優しい眼差しで見ていた。
「本当にお似合いの夫婦ですね。」
ジョングクもテヒョンの隣で笑って見ている。
しかし、スミスはジョンソン男爵に負けないくらい涙していた。二人はスミスのむせび泣く姿に驚いたがそっとしておくことにした。

いよいよ結婚の儀式が始まった。
聖歌隊の賛美歌が歌われお祈りが続く。そして主教が参列者の方を向いて起立を促した。
「皆様方これから神の御言を提唱致します。それでは今お隣になられている方々と手を繋いで下さい。」
身廊側の席の始めにいるテヒョンは隣のジョングクと手を繋ぎ、ジョングクはスミスと手を繋いだ。
参列する全ての人が隣り合わせの人と手を繋いでいく。
主教が祭壇に深々と一礼をして皆の方に向き直る。主教の説教が行われた。

「今日という トーマスとフランシスお二人の門出の日。
ここに集う皆様は古(いにしえ)より御縁を繋いで参りました。
《御心が一つに集う》大切な時を刻んでいるのです。

思い出して下さい。あなた方一人一人に命を授けてくれた人達のことを。
この日を迎える為にどれだけの魂を繋いで来たのかを。

今、隣にいる方との出会いは偶然ではありません。この良き日に一つに成るために《運命》で導かれてきた同志です。
この二人の結婚という幸せの結びつきを以て、あなた方は全員《魂の融合》を目撃した証人となったのです。

ここに集まられた愛ある魂の方々の、尊い志が世の闇に光を届けられるように神は見守って下さるでしょう。」

主教の話を聞いてジョングクが握っているテヒョンの手をしっかり握り締めた。
それに応えてテヒョンも握り返した。

再び賛美歌が響き渡る。参列者も全員で 
Make me a channel of your peace を合唱した。

神よ、私をあなたの平和の道具と
してお使いください。
憎しみがあるところに慈愛を
争いがあるところに赦しを
分裂があるところに調和を
疑いのあるところに信仰を
誤りがあるところに真理を
絶望があるところに希望を
闇あるところに光を
悲しみあるところに喜びを

神よ、私に
慰められることよりも慰めることを
理解されることよりも理解することを
愛されることよりも愛することを
望みとさせてください
私たちは与えることによって与えられ
自ら赦すことによって赦され
人のために命を投げ出すことによって
永遠に生きることが出来るのですから  

「それでは皆様ご着席下さい。」
皆が着席をしたことを確認すると、主教は新郎新婦が繋ぐ手の下に聖なる智書をかざした。
「神の御前で誓いの言葉を申し上げるこの若き二人の心を見届け給え。」
ジョンソン男爵とフランシス嬢はお互いに顔を見合うと誓いの言葉を述べる。
「私、トーマス・ジョンソンは」
「私、フランシス・ルイーズ・ド・リオンヌは」
「幾日も心通わせ、良き日も悪しき日も相手を思い、尊びそれを愛とし、慈しむことを約束致しました。
今日これからはお互いを唯一無二の伴侶として、愛を育み一生涯を共にすることを誓います。」

主教は助手の牧師から指輪を預かると、1つを新郎に渡した。ジョンソン男爵はフランシス嬢の左手薬指に指輪をはめた。そしてもう1つを新婦に渡すとフランシス嬢がジョンソン男爵の左手薬指に指輪をはめた。
指輪の交換が終わると、ジョンソン男爵はフランシス嬢のベールをめくり二人は誓いのキスをした。
ずっと見守っていたテヒョンとジョングク二人の頬に、一筋涙が流れた。


【披露宴にて】


滞りなく無事に結婚の儀式が終わった。
パイプオルガンの音色と共に、新しく夫婦となった夫トーマスと妻フランシスは退出する。
扉口を出ると沢山の子ども達が花びらを降って二人を祝った。フランシスと馴染のある近所の施設の子ども達だった。
フランシスは子ども達の一人一人にキスをしてお礼をした。
心から二人を祝福する思いを持った者たちばかりが集ったとても幸せな結婚式だった。

「良い結婚式でございましたね。」
スミスが控室で教会側が用意してくれた紅茶を淹れながら言った。
「結局三人とも涙を流したことになるのか。」
「あの雰囲気に涙が出ない方がおかしいのですよ。」
人の思いというものは良い気が集まれば心を揺さぶる波動になる。それを実感する結婚式だった。
三人が休んでいると控室の扉をノックする音がした。
「ジョンソンでございます。」
フランシスの声がした。
「どうぞ。」
扉が開いてフランシスとトーマスが入って来た。
「キム公爵、チョン伯爵、スミス伯爵、本日は本当にありがとうございました。」
フランシスが深々とお辞儀をして礼をした。
「とても素晴らしい結婚式だったよ、おめでとう。」
テヒョンが二人と握手をして称えた。
「もう二人は夫婦になったし我々も友人だ。ジョンソン男爵はトーマスと呼ぼう。フランシス嬢もミセス・ジョンソンでは堅苦しい、フランシスと呼ぶことにする。」
「名前で呼んで頂けるなんてとても光栄なことですわ。」
「その代わり、キム公爵やチョン伯爵はなしだ。僕らのことはテヒョン、ジョングクと名前で呼んでもらおう。」 
「私も宜しいのでしょうか?大佐。」
テヒョンの言葉にトーマスはジョングクにもお伺いを立てた。
「勿論だ。私を大佐と呼ぶのは軍務の時だけだぞ。」
ジョングクがトーマスの肩を叩きながら言った。
「僕達は運命に導かれて魂の融合をした者同志だからね。」
テヒョンが主教の説教を引用して言う。

フランシスはテヒョンが手振りをする度に右手に光るものがある事に気付いた。
視線をジョングクの右手に移すと同じ物が光っていた。
この日テヒョンとジョングクは、あのお揃いの指輪を二人揃って右手の薬指にはめていた。
ジョングクは軍務がないのでこの日はネックレスから外して右手に指輪をはめていたのだ。
フランシスは嬉しくなってテヒョンにそっと訊いた。
「テヒョン様、今とてもお幸せなのですね。」
言われて思わず右手の指輪に触れた。
フッと笑いを漏らすと、
「うん、とてもね。」
と応えた。フランシスに対して自分の胸の内を明かせる安心感は変わらなかった。
「皆様方、そろそろ次の会場へ移りませんと。さぁ主役のお二人は尚更ですぞ。」
スミスの声掛けでジョンソン夫妻とテヒョン達は控室を出ると教会を後にした。

馬車で披露宴が行われる会場へ向かっている最中、テヒョンがとても機嫌よく過ごしているので、スミスが目を細めて見ていた。そして、ふと右手の指輪に気付く。テヒョンの隣で窓の外をあれやこれやと指を指して説明しているジョングクの指にも、同じ指輪がある事に気が付いて目を閉じて感慨深げに笑う。
「うん?どうしたのだスミス。」
「いえ、テヒョン様がいつになくご機嫌がよろしいので嬉しく思っておりました。」
「そうか?私は本当に普段そんなに怖い顔をしているのか?」
スミスは笑っていた。
「思慮深いお顔をされていらっしゃるのですよ。」
ジョングクがすかさず褒めると、嬉しそうな顔で、
「そんなに褒めるな。」
と言って二人で笑った。スミスは次回からは決してこのお二人と同じ馬車には乗るまいと決めた。

トーマスとフランシスの披露宴は、美術館を借り上げた場所で行われることになっていた。
宮廷画家達によって描かれた、歴代の国王や王妃、王太子達が沢山飾られている事でも有名な美術館だった。
テヒョン達は入口から入り階段を登ると回廊に差し掛かった。しばらく行くと真ん中に飾られた絵の前で止まる。
「ジョングク、この間話した王位継承権を返上された伯父上だ。」
「ああ、この方なのですね。」
乗馬服の王太子 ベリスフォード・ヴィンセント・サミュエル殿下》とキャプションが付けられている。
「これは亡くなられる一年前のお姿でございます。」
「そうかスミスはお会いしているのだな。」
「王太子殿下はよくキム公爵家に遊びにいらっしゃいました。」
スミスは懐かしそうに絵画を眺めた。

披露宴会場へは程なく着いた。トーマスとフランシス、両家の両親が入口で来賓者を迎えていた。
テヒョン達の姿を見つけると揃って深々とお辞儀をして迎えた。
「キム公爵、遅ればせながら御礼申し上げます。」
リオンヌ伯爵がテヒョンに申し出た。
「どういう事でしょう?」
「はい、大公殿下からお祝いにと殿下ご自身がご出資なさっているフランスのシャトーで作られたワインを贈って下さったのです。」
「そうだったのですか。」
「本日の披露宴で皆様にお召し上がり頂きます。」
「父が申しておりましたよ。フランスに駐在すると決まった時、リオンヌ伯爵にたいそうお世話になったと。」
「私はできる範囲の事をさせて頂いたまで。それに、この度は御子息の貴方様から娘に責任ある大事をお任せ頂いて、誠に光栄この上こざいません。」
「御縁があったのですよ。親子共々リオンヌ伯爵家には助けて頂きました。」
リオンヌ伯爵はテヒョンの言葉に深々と頭を下げた。

さあさあ中へどうぞと会場係に席まで案内された。会場には室内管弦楽団が揃っていて、モーツァルトの曲を奏でている。
全ての来賓者が揃うと新郎新婦が拍手の中迎えられた。
その後にウエディングケーキが会場に運ばれた。これは新婦のフランシスがフランスから結婚式に参列する為にやって来た、従姉と一緒に作ったものだと紹介されると会場から歓声が湧いた。テーブルからの高さが140cmを超えたもので、下二段がケーキになっていて、上一段は砂糖細工で彫刻が施されていた。
新郎トーマスと新婦フランシスのこのウエディングケーキへの入刀で披露宴が始まった。

「フランシスは凄いな。僕のバースデーケーキといい、自身のウエディングケーキといい職人顔負けだ。」
テヒョンが感心して言った。
「彼女のお菓子はまた格別ですよね。何度も堪能出来て幸せです。」
テヒョン同様フランシスのお菓子のファンであるジョングクも嬉しそうだった。
セレモニーを終えたウェディングケーキは、一旦下げられて切り分けられるとデザートとして出されることになる。
会場内に新しい曲が奏でられると、各テーブルに一斉に食事が運ばれた。
和やかな雰囲気で談笑しながらの食事が始まる。
テヒョンやジョングク、スミスの席には各々顔見知りの者達が挨拶に来たりと忙しい。社交界ではよくあることなので慣れていた。ただ主催する側の執事は席次を決めるのにも、それぞれの交友関係等を考慮しなくてはならないので大変苦労をする所だ。

だいぶ挨拶にくる者が落ち着いた頃、テヒョン達の席にフランシスが従姉を伴ってやって来た。
「テヒョン様、皆様、私の従姉を紹介させて下さいませ。」
「フランシスに最新のお菓子を教えてくれる方だね。」
「はい。私の母方の従姉でガブリエル・テレーズ・ド・ボワイエでございます。」
紹介されるとカーテシーでお辞儀をした。
「初めてお目に掛かります。ガブリエルとお呼び下さいませ。フランシスが大変お世話になっているそうで、ありがとうございます。」
「あなたのお陰でだいぶお菓子の味の舌が肥えましたよ。」
「まあ。キム公爵はとてもユニークな一面がおありなのですね。」
ガブリエルは初対面でも気さくに話をしてくれるテヒョンに驚いていた。
「フランスでもキム公爵は名高いお方として女性達の憧れの的でございます。」
「私はだいぶ美化されているようだな。」
「とんでもございません!お噂通りお美しく凛々しいお方でございます。フランシスが親しくさせて頂いていると伺った時はそれはもう驚きました。」
ガブリエルの人懐こい雰囲気に、フランシスに似ているなとテヒョン達は思った。

食事が進みメイン料理が終わる頃、新郎新婦が楽団の前に広く場所を設けたスペースに呼ばれた。
するとヴァイオリンが軽快な音を奏で始め、二人は《La Volta》を踊った。
ルネサンスの時代を彷彿とさせるダンスに会場が湧いた。そして仲睦まじく踊る二人をはやし立てた。
「トーマスがあんなにダンスが上手いとは驚きだな。」
「本当ですね。私は日頃のトーマスの兵士としての動きが印象強いだけに尚更です。」
二人のダンスが終わると拍手で称えられた。次に楽団長からホーンパイプフォークダンスの誘いが出た。
「ジョングク、踊れるか?」
「え?は、はい。」
「では行こう!」
テヒョンがジョングクの手を取って、先程トーマスとフランシスがダンスをした場所まで引っ張って行った。スミスが積極的なテヒョンを見て手を叩いて送り出した。

テヒョンとジョングクが出てきたので会場中がどよめいた。宮廷の舞踏会にもなかなか顔を出さない二人が出たからだ。
フランシスもそれを見てトーマスとガブリエルを連れて出ていく。
来賓者の中から更に二人の婦人と一人の紳士が出てきた。
テヒョンを先頭に紳士が四人、婦人も四人が並ぶ。
曲はヘンデルの《水上の音楽(Water Music)》アラ・ホーンパイプが奏でられた。
テヒョンとジョングクのダンスの身のこなしは、腕から指先までの柔らかい動きに、ステップも軽やかで継ぎ目が流れるように鮮やかだった。
貴族であればダンスは一通り踊ることが出来て当たり前なのだが、テヒョンとジョングクには洗練されたダンスセンスがあった。二人共社交界が苦手なだけでダンスは好きなのだ。今回は親しくしている友人達のお祝いだからこそ盛り上げたいと思い進んで参加したのだった。
その場に居合わせた来賓者達はテヒョン達の気品のあるダンスに引き込まれた。
そして、テヒョンが思った通り披露宴は大いに盛り上がった。

「キム公爵もチョン伯爵もダンスを披露されるのは珍しい事ですね。」
リオンヌ伯爵がスミスに話しかけた。
「ええ、私も久しぶりに拝見致しました。」
「この披露宴を更に盛り上げて下さり本当に有り難い事でございます。」
アルヴィエ伯爵も喜んでいた。
スミスは世間から気難しい印象で通っているテヒョンの本来の温かい人柄が、真心が分かる人には通じている事が何より嬉しかった。
ダンスが終わると大きな拍手が湧いた。楽団の者達も拍手を惜しまなかった。


※ 画像お借りしました
ナショナルジオグラフィック