忘れていた感情とか、封印していた感情が、ある時急に出てくることがあります
人間関係で相思相愛の《しあわせ》な時にそれが出てくるのは何故か❓
相手に問題をぶつけてしまいがちですが
それは相手に問題があるのではなくて、自分の問題なのよね😓
むしろ影に隠れていたその感情を昇華出来るチャンスである場合が多い👍
しあわせな時だからこそ癒やされるべき
今回はテヒョン中心のお話です
テヒョンとジョングクがより深い絆を繋ぐために、深層心理に閉じ込められていた子どもの頃の感情を出させてみました
前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【心に閉じ込めていたもの】
テヒョンは残っていた仕事を片付ける為ほぼ1日中執務室に籠もっていた。
ジョングクに貰ったお気に入りのガウンコートを羽織り、机一杯に広げた書類と向き合っている。
特に年内に間に合わせる必要もない内容のものであったが、何かに集中していないと考えたくない記憶に苛まれて、ただベッドの中に引き籠もるだけになりそうで、それだけは避けたかった。
執務室はテヒョンが走らせるペンの音と、時々パチパチと弾ける暖炉の薪の音と、書類を捲る音だけが聞こえた。
「デイビス。」
テヒョンの昼食を執務室に運ぶために、厨房に来ていたデイビスにスミスが声を掛けた。
「スミス様!」
「テヒョン様のお食事か?まだ執務室にお籠りなのか?」
「はい。」
「ここ2日間、真夜中まで執務室の灯りが点いていると聞いたのだが。」
「根を詰められてお仕事をされていらっしゃいます。」
『かなり葛藤されていらっしゃるのだな』スミスはテヒョンの心中を察した。
「デイビス、それは私が持っていこう。」
「え?宜しいのですか?」
「テヒョン様に用があるのだ、丁度よい。」
「分かりました。では宜しくお願い致します。」
スミスはデイビスから昼食が乗ったワゴンを預かるとテヒョンの執務室に向かった。
「テヒョン様、昼食をお持ち致しました。」
スミスは扉を開けてワゴンを執務室に入れた。スミスの声にテヒョンが書類から視線を上げる。
「なんだスミス珍しいな、どうしたのだ?」
「はい。テヒョン様にお会いしたくてデイビスの仕事を取り上げて参りました。」
スミスの冗談に笑いながら書類に視線を戻した。
「おや、側近としてのジョングク様はいらっしゃらないのですか?」
「うん、貴重な休暇だ。セオドラ卿と親子水入らずで過ごす方を優先させた。」
「そうでしたか。本当にお優しい。」
食卓を整えながら、わざとジョングクの名前を出してテヒョンの様子を覗った。
「さあどうぞ、お支度が整いましたのでお食事になさって下さい。」
『うん』と返事をして、きりの良い所まで書き込みをするとペンを置いた。
「さぁ、ではせっかく久しぶりにスミスが用意してくれたのだからすぐに頂くとするか。」
伸びをしながら机から離れて食卓に着くと食事を始めた。
スミスは黙って食事の世話を続けていた。皿がだいぶ進んだ頃テヒョンが口を開く。
「なにか言いたい事があるのだろう?スミス。」
「さすがでございますね。私の思う事はお見通しでいらっしゃる。」
「もう何年一緒にいると思っているのだ?当然であろう。」
スミスは笑いながら食後の紅茶をカップに注ぐと、ソーサーに乗せてテヒョンの前に置いた。
「テヒョン様、もうそろそろご自身を解放して差し上げて下さいませ。」
その言葉に顔を上げた。スミスは笑顔で続ける。
「貴方様はずっと我慢をなさりながら背伸びをして来られたではありませんか。」
「・・・何を言っておるのだ?」
静かな声で探るように訊いた。
「私はちゃんと見て参りましたよ。貴方様が影で人知れず涙を流してらした事も、《子どもらしさ》を閉じ込めて《大人らしく》振る舞おうとしてこられたことも。」
「・・・・・」
テヒョンは黙り込んだ。
ジョングクにも見せたあのカードを出して黙ってテヒョンの前に置いた。
手に取ってしばらく表紙を見ていたが、そっと中を開いて見た。
「覚えていらっしゃらないかもしれませんね、、テヒョン様が4、5歳の頃のことですから・・・」
テヒョンはふっと笑みを漏らすと首を振った。
「いや、覚えているよ。私が熱を出した時に書いたものだ。」
「覚えておいででしたか。あの時なかなかお熱が下がりませんでしたから、心配で心配で・・・」
「スミスがずっとそばにいてくれたな。夜は添い寝までしてくれた。」
カードを見ながら呟くように言った。
「辛くて不安でいらっしゃったのでしょう、私の腕にずっとしがみついておいででした。」
スミスはテヒョンの椅子の横にしゃがんだ。
「あとにも先にも貴方様が私を信頼して甘えてくださったのはあの時だけ。私にとっては涙が出るほど嬉しいことでございました。」
「私が熱に苦しんでいたのにか?」
「はい、申し訳ございません。」
二人は笑った。
スミスは続けてしっかりとした口調で話す。
「無理に気持ちを封印などせず、テヒョン様の周りにいた者達に寂しいと甘えて、我儘を仰ってよかったのですよ。」
「、、、私が一人で頑張ることが逆に心を許していない、ということになってしまうのだな。」
「そうですね。テヒョン様の周りでお世話をしていた者達は、皆待っていたと思います。ですからこのカードを頂いた私は1番の幸せ者でございます。」
テヒョンはスミスにカードを返した。
「スミスには私の心はお見通しなのだな・・・」
「私が何年おそばでお世話をさせて頂いたとお思いで?当然でございますよ。」
二人は顔を見合ってまた笑った。
「ご聡明なテヒョン様でいらっしゃれば、もうお気付きでございますよね。」
スミスは立ち上がり食器を1つづつ片付けながら言った。
「テヒョン様の心の封印を解いた方が現れたから、昔の閉じ込めていたお気持ちが飛び出してきたのですよ。」
テヒョンはスミスの言葉を聞いて、羽織っているガウンコートを掴んだ。
「紅茶の御代わりはいかがですか。」
「うん、頼む・・・」
スミスはティーポットを持ってくると空いたティーカップに紅茶を注いだ。
「テヒョン様の《心の鍵》を持っていらっしゃる方は、両手を広げられていらっしゃいましたよ。」
テヒョンはティーカップを持つと紅茶を一口含んでゆっくり飲み込んだ。
喉元を流れる温かい紅茶が、直接心にしみていくような気がした。
12月29日
早朝からキム公爵家の宮殿の厨房は忙しく動いていた。よく見るとフランシス嬢が交じって何やら作っている様子。
宮殿内の敷地には氷室があって、そこでも人が集まって作業をしていた。
こちらにはジョングクとジョンソン男爵が立ち入って作業を見ていた。
そこに、
「どうだ、こちらは上手く進んでいるか?」
大公が様子を見に来た。
「これは大公殿下。おはようございます。」
ジョングクが迎えた。
作業していた者達も手を止めて大公に挨拶をした。
「大公殿下、こちらにおります者は近衛騎兵連隊のジョンソン男爵でございます。」
「大公殿下には初めてお目にかかります。トーマス・ジョンソンでございます。本日はお邪魔をさせて頂いております。」
「君がジョンソン男爵か。フランシス嬢の婚約者であるな。そうだ日取も決まったのだな、おめでとう。」
「有難き幸せにございます。」
ジョンソン男爵は深々と頭を下げた。
「今日は皆裏から回って来たのだな。」
「はい。各々目立たないように致しました。」
「よし、そろそろテヒョンの起床時間になる。厨房も賑やかになっているし、勘が鋭い息子のことだ、ここも危険だな。」
「いかが致しましょう。」
大公は少し考えていたが、にっこり笑って言った。
「よし、私が遠乗りに誘う事にしよう。テヒョンからクリスマスにライディングコートを貰ったのた。私と遠乗りに行きたいと言っていたから丁度よいな。」
「急に宜しいのですか?」
「構わんよ。テヒョンを連れて行きたいと思っている場所もあるのだ。」
大公は楽しそうに言った。
「ジョングク、ここはジョンソン男爵に任せてお前も来るか?」
ジョングクは笑って首を振ると、
「いいえ、どうぞお二人でお出掛けになって下さい。」
と大公の誘いを辞退した。
「そうか、、、ま、今日までの辛抱だからな。」
大公は肩を叩いて励ました。
【〜結(繋ぐ)〜】
テヒョンが部屋で朝食後の紅茶を飲んで寛いでいると、扉を威勢良くノックする音が響いた。
「テヒョン!起きているか。」
大公の声だ。
「はい父上、どうぞお入り下さい。」
デイビスが慌てて扉に向かった。
扉を開くと乗馬服姿の大公が入ってきた。
「どうなさったのです?あ、そのライディングコートは・・」
「お前がくれたコートだぞ。どうだ?なかなかいいだろう?」
「ええ、よくお似合いです。贈らせて頂いた身としては凄く嬉しいです。」
「お前も支度をせい。遠乗りに出かけるぞ。」
「今からですか?」
「そうだ。年末の仕事もやり切ったそうではないか。もう充分だ羽を伸ばせ。」
「テヒョン様、ではすぐにご用意致します。」
デイビスは食器を片付け始めていたが、遠乗りの準備の為に早々に部屋を出ていった。
「今日はお前を連れて行きたいと思っていた所に行くぞ。」
「それは楽しみです。どんな所なのですか?」
「ま、行ってからのお楽しみだな。」
大公は久しぶりに息子と出掛ける事に嬉しさを隠せない様子だった。
半ば強引な誘いではあるが、父がまるで子どものように喜んでいる姿を見て、テヒョンも楽しくなってきていた。
そこにデイビスが乗馬用の衣装を一式持って戻ってきた。
「では着替えが終わったら厩舎まで来るのだぞ。」
「はい、分かりました。」
大公が部屋を出た後、ずぐに着替えに取り掛かった。
支度を終えるとポンチョを羽織り外へ出た。厩舎に向かって歩いていくと賑やかな笑い声が聞こえてくる。
中では大公が焚き火を囲み馬丁と談笑していた。
厩舎の職員達が気さくに話をしてくれる大公の周りを囲んで、和やかな空気が漂っている。
「殿下、お待ち致しておりました。」
テヒョンの到着に馬丁が立ち上がって迎えた。
「準備は万全だな。馬の準備が終わるまでここに座って暖を取るといい。」
大公が振り返りテヒョンを手招いた。
言われるまま隣に座り焚き火にあたる。
「殿下、乗馬はお久しぶりでございますね。アーサーが寂しがっておりましたので、今日お会いできたら喜びます。」
「そうだな。早い内に父上に遠乗りに誘って頂けて良かった。」
「私のヴィンセントも元気で可愛かったぞ。さっき会いに行ったら3年ぶりだというのに忘れずに懐いてきてな。」
大公の愛馬は《ヴィンセント》という名前の美しい栗毛の馬だった。
嬉しそうに懐かれた話をテヒョンに聞かせた。
「お待たせ致しました。ヴィンセントもアーサーも整いましてございます。」
馬丁がそれぞれ馬を引いてきた。
アーサーはテヒョンに気付き飛び跳ねて鳴いた。
「アーサー、よしよし。」
テヒョンは横から近付いてアーサーの首を撫でてやった。
「さっ!出掛けるぞ。」
大公はポンチョをひるがえし颯爽とヴィンセントに乗った。
テヒョンも難なくアーサーに乗った。完璧に乗馬への恐怖心は無くなっているようだ。大公もそれを見守っていた。
「では参るぞ。」
二人を乗せた馬が動き出すと、少し離れて私服の警護二人も馬に乗って付いてきた。
大公はいつものメインの出入り口ではなく、西側の植物園がある方の門から外へ出た。ここからはロンドンの下町に繋がる道が続く。貴族が暮らすような建物は殆ど無く言わば庶民の街が広がる。
しばらく宮殿に関連した施設が続き、いよいよ下町に差し掛かる。
「父上、いい香りがしますね。パン屋でしょうか。」
「そうだな、焼き上りの香りだな。」
パン屋の斜め向かいにはレストランがあって、お肉を焼くいい香りが通りにもれてくる。店の中は客で一杯だった。
テヒョンは活気づいた街の営みに興味津々だ。
「生活そのものを感じるだろう。私は何もかも整然と整えられた場所よりも、人々の活気で溢れるこの空間が好きでな。」
テヒョンは大公の話を聞きながら街並みを見回した。
それぞれが別々な事をしていて、建ち並ぶ店の種類も並びも、特に計画されて造られてはいない。
しかし、人々は器用に組み込み街を造って動いている。雑多に見えはするものの《流れ》になって各々の目的を果たしているのだ。それがまた市民の役に立つことに繋がっている。
「分かっておると思うが、国の根幹は全て庶民達の生活から成り立っている。」
「はい。父上から教えられました。」
「この街並みがあちこちの地域や地方に根付いているからこそ工業も商業も動
いていける。」
大公は話しながら慈しみを込めた視線で街を見回した。
「時代の変化を知るにも彼等の中に入って空気で感じる事が大事だな。」
大公は言い終わらないうちに馬上から降りると、近くのパン屋に一人で入って行った。警護の二人が慌てて後を追おうとしたので、テヒョンが大丈夫だと手振りで制した。
しばらくすると包を2つ持って店から戻ってきて1つをテヒョンに渡した。
「わぁ、プレッツェルですね!」
「まだ温かい、移動しながら食べよう。」
大公が言うなり包を口に咥えると軽々騎乗したのでテヒョンは笑った。
テヒョンは公式の時と私生活の時の父のギャップが好きだった。威厳に満ちた表情にリーダーシップの頼もしさがあり、少年のような健康的な笑顔は人々に元気と楽しさを与えた。
「テヒョーン、遅れるなよ〜。」
「はーい、父上。」
テヒョンはガブリとプレッツェルにかぶりついた。
「う〜・・ん、美味い。」
馬に揺られながら食べるおやつは格別だった。
しばらく行くと大きな通りの街角に赤レンガ造りの可愛らしいカフェが見えてきた。すると大公が振り向いた。
「着いたぞ。」
「ここでございますか?」
大公はにっこり笑って頷いた。
「君達も中で昼食を摂りなさい。」
警護の二人にも声を掛けた。
大公達は馬を店の馬留につなぐと中へ入る。
「いらっしゃいませ。」
白髪でシワの深い笑顔の店主が迎えた。
「これは!大公殿下では・・・」
「シー・・忍びで来たのだ。」
大公が唇に指を立てて言った。
「失礼致しました。どうぞこちらへ。」
店主は奥のゆったり座れる席に大公とテヒョンを案内する。警護の二人は少し離れた席に座った。
「来るたびにこの席に座ったものだ。よく覚えておったな。」
「それは勿論でございますよ。当店御馴染みの大切なお客様ですから。それに致しましてもお懐かしゅうございます。」
店主が涙目になりながらにっこり笑うと顔の深いシワが更に深くなった。
「デニス、これは私の息子だ。」
「はじめまして。キム・テヒョン・テディ・マクシミリアンです。」
「おお!貴方様が今のキム公爵でいらっしゃいますか。なんと見目麗しい!
私はこの店の店主のデニス・ポートマンと申します。」
「テヒョン、この店はな私とお前の母であるローレンとのデートコースの場所だったのだ。」
「え、そうだったのですか。」
「よくお二人でお忍びでお越し下さいました。」
「デニスあれを頼むよ。いつも食べていた。」
「はい、かしこまりました。お飲み物はいかが致しますか?」
「私はコーヒーを頼む。」
「では私は紅茶で。」
「はい。お待ち下さいませ。」
「ここにお前を連れて来たいとずっと思っていた。」
「父上と母上の思い出の場所なのですね。」
「実はな、出逢いもここなのだ。」
「そうなのですか?」
「私がローレンのドレスの裾を踏んだことがきっかけだ。」
「父上らしいですね。」
「待て、待て、わざとではないぞ!」
「疑ってなどおりませんよ。」
二人は笑い合った。
「そのお話は初耳でございますな。」
店主が料理を運んできた。
「フィッシュ(白身魚のフライ)にポテトチップス(フライドポテト)でございます。」
店主が一旦戻り飲み物を持ってきた。
大公にコーヒーのカップを置き、テヒョンの前に紅茶のカップを置きながら、
「キム公爵、このカップは妃殿下がお使いのものでございますよ。」
と言った。
「これで母上も?」
「はい。それに同じように紅茶を飲まれていらっしゃいました。」
店主は大公と大公妃のカップだけは、他の客には使わせていなかった。
テヒョンは感慨深げにカップを見ていた。
「テヒョン、冷めないうちに食べてごらん。」
大公に勧められて先にフィッシュの方を食べてみた。
「うわ、衣がサクサクですね、美味しい!」
次にチップスも食べてみた。
「んーー、じゃがいもの香りが香ばしい。これも美味しい。」
大公はテヒョンの目の前でフィッシュとポテトチップスを一緒にフォークで重ねて食べてみせた。あまりにも美味しそうに頬張るので、テヒョンも真似て食べてみる。
「こんなに美味しい食事があったのですね。」
テヒョンが言いながらすでに次を口に入れた。
「私もこうして街に出るまでは知らなくてな。ローレンが教えてくれたのだ。」
「ローレン様はお付きの方も連れずに、いつもお一人でご来店されましたから、てっきり一般のお金持ちのお嬢様かと思っておりました。」
店主がフィッシュとポテトチップスを追加しながら話した。
「私もだ。」
大公は店主と一緒に笑った。
「だけれども、粗野なフリはしても佇まいの美しさは滲み出てしまうものだ。お前の母はとても美しい人だったのだぞ。」
「そうでございましたね・・・。妃殿下のみならず大公殿下もひときわ際立っていらっしゃいましたよ。お忍びでお二人がご来店なさっても、周りがすぐに気付いて公然の秘密のようでしたからね。」
「そうだったのか?」
テヒョンと店主が笑い出した。
「デニス、息子にあれを見せてやってくれるか。」
「はい、かしこまりました。」
店主は大公達のテーブル席の壁側に行くと壁に掛かったカーテンの紐を引いた。
するとそこに大公妃の肖像画が出てきた。
「父上、これは・・・。」
よく見ると大公妃が乳飲み子を抱いている。
「お前を抱いているローレンだ。どうしてもテヒョンと一緒の肖像画が欲しいと頼まれて描いてもらったのだ。」
「それがどうしてここに?」
「大公殿下がこの店に寄贈して下さったのでございます。」
「ローレンはお前が大きくなったら、親子3人でここに来たいとずっと言っていたよ。この店は私達夫婦の原点であるし、この料理も大きくなったお前と一緒に食べたかったのだろう。だからここに居させてやりたいと思ったのだ。」
テヒョンは絵を見ながら胸が一杯になった。母からの愛情を一身に受けている自分がきちんとそこに描かれていたからだ。
「大公殿下、立派にご成長なさったお子様をお連れ頂きありがとうございます。この絵は大公殿下と大公妃殿下のご結婚記念日に毎年公開しておりましたが、絵の中のお子様のお顔を見る度に、どんなお方に成長なさったのか本当にお目にかかりたいと思っておりました。」
「随分長いこと待たせてしまったがな。」
「いいえ、時間は関係ございません。」
「デニスさん、今度は私一人で忍びで来ても宜しいですか?」
テヒョンは母の生前の話を聞きたいと思った。
「勿論でございます。しかし、こんなに眩く麗しいお姿でいらっしゃると、お忍びにはならなくなりますね。」
今度は大公が笑った。
テヒョンはもう一度母の絵を見た。
自分には母親という存在が早くから居なかったけれど、母の愛情は既に自分の心に遺してくれていたのだと感じた。
「妃殿下がこうして繋いで下さったのですね・・・」
店主は嬉しそうにテヒョンの顔を見て言った。
※ 画像お借りしました