またしましてもずい分間があいてしまいましたが、今日は息子の頭痛専門外来受診記の最終回を書かせていただきたいと思います
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これまでの①~④回で、
・片頭痛とは
・片頭痛の発生機序
・片頭痛の急性期(発作時)治療
・片頭痛の予防治療
について調べてきました。
11/11の第①回目の記事で書かせていただきましたように、息子が痛専門外来を受診することを決意しましたのは、中学生の時からある片頭痛が、週3回というこれまでで最多の頻度で起こるようになり、日常生活に支障を来すようになったからでした。
頭痛専門外来では、まずはその頭痛が何であるか、つまり本当に片頭痛なのかそうではないのかをちゃんと鑑別することから始めるそうです。
ただ息子の場合、『閃輝暗点』 と呼ばれる典型的な前駆症状を伴っておりましたこともあり、すぐに片頭痛で間違いないとの診断がおりたようです。
その上で、先生は息子に以下の薬を処方して下さいました。
ⓐ スマトリプタンⓇ 1回1錠 頭痛時屯用
ⓑ ワソランⓇ 1回2錠×1日2回 朝夕食後
(※薬には"一般名"と"商品名"の2つの名称があり、Ⓡは"商品名"をあらわす略語です。"一般名"とは薬の主成分の名称で、"商品名"は製薬会社がつけた名称です。たとえばⓐの"スマトリプタン"は商品名で、一般名は"トリプタン"になります。)
●息子になぜこの薬が処方されたのか
ⓐ は、12/12の第③回の記事でまとめさせていただきましたように、今や片頭痛発作時の第一選択薬として用いられている 『トリプタン』 という種類の薬です。
受診までの間、息子は同じ記事中の表の中の "Group2" に属する 『NSAIDs』 という種類の薬のうちのロキソニンⓇを服用していました。
が、この薬はいったん頭痛発作が起こってしまうとほとんど効果はなく、一眠りしたり、翌朝目が覚めると自然に治まっているのを待つしかありませんでした。
そんな風に、すでにロキソニンⓇが効かないことが分かっていたからか、あるいは息子の片頭痛発作を中等症以上と判断されたからか、先生は最初から 『トリプタン』 を処方して下さったのでした。
次に ⓑ についてですが、こちらは12/16の第④回の記事でまとめさせていただきましたように、発作予防薬のうち "Group2" に属する 『カルシウム拮抗薬』 という種類の薬になります。
この 『カルシウム拮抗薬』 は、本来は高血圧を治療する薬(=降圧剤)です。
そして降圧剤の中では、日本で一番多く処方されている薬でもあります。
カルシウムは主に骨や歯に分布していますが、それ以外の組織にも微量に分布していて、筋肉を収縮させる働き があります。
『カルシウム拮抗薬』 は、血管壁の筋肉に対するカルシウムの作用をブロックすることにより、血管を広げ、血圧を下げる効果を発揮します。
片頭痛に対する効果は、このカルシウム拮抗薬の血管拡張作用を流用したものです。
『カルシウム拮抗薬』 のうち、ガイドラインで片頭痛予防薬として "Group1" に採用されているものはありませんが、 "Group2" にはロメリジン(ミグシスⓇ) と ベラパミル(ワソランⓇ) が、"Gourp3" 以下には全部で4種類のカルシウム拮抗薬が採用されています。
これらガイドラインで採用されている 『カルシウム拮抗薬』 のうち、日本で片頭痛に保険適応があるのは "Group2"のロメリジン(ミグシスⓇ) のみ です。
「保険適応がある」とは、「片頭痛と診断されれば健康保険を用いて3割負担(人によっては0~2割の場合もあり)で処方してもらうことが可能」 ということです。
また、"Group2"の ベラパミル(ワソランⓇ)には保険適応はありませんが、特別に保険適応外使用が認められ ています。
これは 「片頭痛の診断があれば処方はしてもらえるが、健康保険が使えない」 ということであり、薬代がまるまる10割自己負担になってしまうという経済的なデメリットが発生します。
他のカルシウム拮抗薬は保険適応も保険適応外使用も認められていないため、ガイドラインには出てくるものの、「片頭痛」の診断では治療薬として使用することはできません。
(*名目上は、という説もあるようですが!?)
※ちなみに、発作予防薬のガイドライン中に出てくる薬のうち、日本で保険適応が認められているのは、
・バルプロ酸(デパケンⓇ)・・・Group1
・プロプラノロール(インデラルⓇ)・・・Group1
・ロメリジン(ミグシスⓇ)・・・Group2(上述)
のみで、保険適応はないものの保険外使用が認められているのは
・アミトリプチリン(トリプタノールⓇ)
・ベラパミル(ワソランⓇ)
のみなのですって
(*保険適応がないのにガイドラインに出てくる・・・というか、逆に言うとガイドラインで認められているのに保険適応がないなんて不思議すぎます)
ではなぜ息子には、いくつもある片頭痛の発作予防薬のうち "group1" に属する薬ではなく、しかも同じ "Group2" の同じ 『カルシウム拮抗薬』 のうち保険適応のない方のベラパミル(ワソランⓇ) が処方されたのでしょうか
先生がおっしゃるには、保険適応または保険外使用が認められている発作予防薬には、以下のようなデメリットがあるそうです。
・Group1のバルプロ酸(デパケンⓇ) と アミトリプチリン(トリプタノールⓇ) は眠気などの
副作用が出やすい上、効果発現まで数週間~数ヶ月かかる。
・Group1のプロプラノロール(インデラルⓇ) は気管支喘息のある息子には禁忌で、
同じく効果発現まで時間がかかる。
・Gorup2のロメリジン(ミグシスⓇ) は副作用は少ないが、効果発現までに1ヶ月以上を
要する。また海外では使えず日本でしか実績がない(*日本で開発された薬だから?)。
これらと比較して、息子が処方された ベラパミル(ワソランⓇ) には
・海外では最もよく使われており、エビデンスが豊富
・効果発現までが早い(*先生曰く、「キレがよすぎる」とのことらしいです)
・心疾患(心不全や徐脈性不整脈、心筋梗塞など)のある人には禁忌だが、
大きい副作用がないので若い人には最も使いやすい
という特徴があるそうで、先生は息子にもこの薬を処方されたようです。
●これらの薬の使い方
ⓐの発作治療薬の使い方については12/12の第③回の記事でも触れさせていただきましたが、先生は息子に以下のように仰ったそうです。
・片頭痛の頭痛が起こり始めたら、つまり痛くなった瞬間に1錠内服する。
・前駆症状の時に服用してはダメ。まだ広がっていない血管を余計に広げて
頭痛が悪化するから。
ⓑの発作予防薬については、以下のように説明して下さたようです。
・ⓐのトリプタンを飲むような片頭痛発作が起こったら、トリプタンとほぼ同時に
1回2錠×1日2回(朝夕)で内服を開始する。
・その後1週間片頭痛発作が起こらない状態が続けば、1回1錠×1日2回(朝夕)に
減量する。
・その後さらに1週間片頭痛発作が起こらなければ、内服を終了する。
・また片頭痛発作が起こったら、トリプタン内服と同時に1回2錠×1日2回(朝夕)で
内服を再開し、上記と同様に減量→中止へ。
・怖いのは 薬物乱用頭痛(MOH) なので、片頭痛発作を徹底的に予防することが重要。
・体調不良や生活リズムの乱れが発作を誘発するので、 そういう時は前もって
ワソランⓇを飲み始めておいてもよい。
●これらの薬の息子への効果
その後の息子ですが。
息子が ⓐ のトリプタンを飲むのは今回が生まれて初めてでしたが、正直なところ
「多少効いているかも・・・」
という程度なのだそうです
「ピークの痛みも、痛みが治まるまでの時間も、若干短くなった気がするけど、いったん痛くなり始めたのを抑えることはできない。いったん発作が起こると仕事や生活がしづらくなり、寝てしまうしかないのは変わらないかな」
と申しておりました
ですが ⓑ のワソランⓇ については
効果はバツグン
だったようです
「ワソランを飲んでいる間は片頭痛発作が起こらない」
だけでなく、
「仕事で睡眠不足が続く時や発作が起こったら困る時に、直前にワソランⓇを飲み始めるようにしたら、その期間は片頭痛発作が起こることなく乗り切ることができる」
のですって
すばらしいです 先生ありがとうございます
ちなみに息子を担当して下さった頭痛専門外来の先生ご自身も、片頭痛があるらしいです。
そして 「閃輝暗点が出ると仕事ができなくなるから」 と、
エムガルディⓇ
という新薬を使用してらっしゃるそうです(1カ月に1回皮下注射)。
(*12/16の第④回の記事で触れさせていただいてます)
するとこれが効果てきめんで、片頭痛持ちの同僚の先生方もみなさん使っておられるのですって
ただ保険が効いても1回1万円前後かかるそうで、なかなかハードルが高そうです
―― 以上、亀の歩みでようやく息子の片頭痛の話題は終了です
長い間お付き合いいただき、どうもありがとうございました
またこの話題につきまして、コメントでご自身の状況を教えて下さったりアドバイスを下さった方々、本当にどうもありがとうございました