先日、この記事の完成間近で操作を誤って全て消してしまい、いろいろ試行錯誤してみましたが復旧できず、数日間呆然としておりました魂が抜ける

 

 

が、気を取り直して再度、片頭痛の治療方針についてまとめていきたいと思います。

 

 

(今回は11/23の「息子の頭痛専門外来受診記②」からの続きになります)

 

 

 

 

2021年の10月、8年ぶりに日本における頭痛診療のガイドラインが改訂されました。

新しいガイドラインでは、頭痛の診断と分類は2018年に公開された『国際頭痛分類第3版(ICHD-3)』に準拠しています。

そして、旧ガイドラインでは独立していなかった二次性頭痛についての章などが追加されたことによって、ガイドラインの名称も 『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』 から 『頭痛の診療ガイドライン2021』 に変更となりました。

新ガイドラインの内容は、基本的には旧ガイドラインのものが引き継がれているそうです。

そのためこの記事では、8年間にわたって使用されてきました 『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』 に沿ってをまとめていき、適宜今回の改訂における変更点について触れさせていただきたいと思いますお願い

 

 

■片頭痛の薬物治療の二本柱

片頭痛に対する薬物療法は、大きく

Ⓐ 頭痛が起こった時の治療(=急性期治療)
Ⓑ 頭痛発作が起こらないようにする予防(=発作予防)


の2種類に分かれます。


以下、それぞれについてまとめていきたいと思います。

 



■片頭痛の急性期治療

Ⓐ、つまり片頭痛発作が起こった時に用いられる薬は 『急性期治療薬』 あるいは 『発作治療薬』 と呼ばれ、下の表のように"Group1(有効)"から" Group5(無効)"の5段階に分類されています。


*ただし"Group5(無効)" に分類される薬は現時点では存在しないため、表では省かれています。

(*この画像は「日本頭痛学会 慢性頭痛治療ガイドライン」から引用させていただきました)

 

 

 

以下、代表的な薬について簡単に説明していきたいと思います。

 


トリプタン 

 

ここでちょっと思い出してみますと、前回の記事の一番最後で、片頭痛の発生機序につきまして超簡単に

CSDなど何らかの原因により、硬膜血管に分布する三叉神経終末が活性化される

神経ペプチドの遊離(㋑)が起こる

硬膜血管の拡張(㋺)や神経原性炎症(㊁)が引き起こされ、痛みが生じる

その痛みが頭痛として脳の三叉神経核(㋩)に伝わる

末梢の三叉神経、つまり硬膜血管に分布する三叉神経がさらに活性化され、
さらなる増悪が引き起こされる


とまとめさせていただきました。



トリプタンは "選択的セロトニン受容体作動薬" と呼ばれる薬です。

脳のセロトニン(=5-HT)受容体に選択的・特異的に作用し、具体的には以下のような働きを持っています。

 

・硬膜血管周囲三叉神経終末の5-HT1D受容体に作用して、神経終末からの

  神経ペプチド(CGRPなどのいわゆる"痛み物質")の放出を抑制する

 ⇒ ㋑㊁を抑える
・脳血管の平滑筋にある5-HT1B受容体に作用して、異常に拡張した硬膜血管を

 収縮させる  ⇒ ㋺を抑える
・三叉神経核の5-HT1F受容体に作用して、三叉神経核における痛みの伝達の

 抑制などを介して片頭痛発作を鎮める ⇒ ㋩を抑える


このように、トリプタンは片頭痛によって引き起こされた神経系のさまざまな変化(㋑㋺㋩㊁)を、1つずつ正常な状態に戻すよう働きます。

つまり トリプタンは片頭痛による頭痛の痛みを抑えることにのみ特化した薬 であり、これまでの一般的な鎮痛剤(痛み止め)とはまったく異なった薬といえます

 

 

 

もう一点、トリプタンには一般的な鎮痛剤(痛み止め)との大きな違いがあります。

 

それはトリプタンを服用するタイミングに注意が必要なことです。

 


片頭痛の予兆期や前兆期から頭痛期の初期にかけては、血管が収縮すると考えられています。

ですがトリプタンは血管収縮作用を持っているため、早く飲み過ぎてしまうと血管がさらに収縮し、その反動で後に血管が拡張した際に頭痛をもっと悪化させてしまう可能性があります。

同様の理由で、頭痛発症から時間が経ち、血管が拡張して頭痛がひどくなってから服用するほど、トリプタンの効果は出にくくなるとされています。


そのため、最適な服薬のタイミングは

"予兆期や前兆期ではなく、実際に頭の痛みが出はじめた時(頭痛期の初期)"

とされています。
注意註:"前兆期の内服でも支障はないものの無効の可能性あり"との記載も認められましたが、息子は主治医の先生から上のように注意されたとのことでしたので、一応こちらを採用させていただきました)

 

 


(*この画像はこちらから引用させていただきました)

 

 


その他、トリプタン製剤には以下のような特徴があります。

・トリプタン製剤は、日本では現在5種類(内服薬5種、皮下注射薬1種、点鼻薬1種)

 が使用可能。
・種類によって、作用する受容体や効果発現までの時間、持続時間が少しずつ異なって

 いるため、特徴を理解して使用する必要がある。

・片頭痛患者の60%以上に有効とされており、1度の服用で無効だった場合でも

 同じ薬で3回は効果を試す方がよい。

 また、1つの種類のトリプタンが無効でも、別の種類のトリプタン製剤なら有効である

 こともある。
・15才未満の患者には原則使用できない

・一錠が500円から1000円(3割負担の保険の人で150円から300円の自己負担)と

 高価である。
・発売されて20年以上経つ現在も、重篤な副作用の報告はほとんどなく、極めて

 安全性の高い薬と考えられている。
・それでも約10%以下で動悸(不整脈による)、胸痛(虚血性心疾患による)、

 倦怠感や脱力感、悪心嘔吐、めまい感、眠気、体の痛みなどが内服後約30分で

 出現しはじめ、1~3時間ほど続くことあり。


◇その他の薬について

アセトアミノフェン・非ステロイド系消炎鎮痛薬(いわゆるNSAIDs) は、血管内外の炎症(=㊁)を抑え、痛みを鎮める作用を持っています。

 

強力な抗炎症剤である ステロイド も、NSAIDsと同様の作用があるとされています。

かつて急性期治療の中心だった エルゴタミン製剤 は、トリプタンの登場により次第に使用されなくなってきています。

制吐剤 は片頭痛の悪心嘔吐の症状を抑えるのに有効な薬で、通常はトリプタンまたはNSAIDsと併用します。

 


◇どの発作治療薬を選択するか

『頭痛の診療ガイドライン2021』では、発作治療薬の選択方法について以下のように記載されています。

・上の表中の薬剤の中から、日常生活への支障の重症度に応じて治療薬を選択する

  (→これを"stratified care(層別治療)"と呼ぶそうです)。
・軽症~中等症であれば、まずはNSAIDsを使用し、無効の場合にトリプタンを使用する。
・中等症~重症の時は、最初からトリプタンを使用することが推奨されている。
・効果については、服用後2時間以内の頭痛消失または明らかな頭痛軽減があるか

 どうかで判断する。
・トリプタンのみで効果が不十分な場合は、トリプタンとNSAIDsの併用を考慮する。


これまでは、わざわざ病院を受診しなくても薬局などで入手しやすいアセトアミノフェン・非ステロイド系消炎鎮痛薬(いわゆるNSAIDs)による治療が一般的でした。

 

しかしトリプタンの有効性・安全性の高さが証明されたこと、また効果が不十分なNSAIDsを使用し続けることで引き起こされうる 『薬物乱用頭痛(MOH)』 を予防するためにも、トリプタンを積極的に使用していく方針となっています。

 


◇『頭痛の診療ガイドライン2021』で追加された新薬

上述のように現在の片頭痛発作時の治療の主役はトリプタンですが、新しいガイドラインでは以下の薬がトリプタンと同じ "Group 1(有効)"に位置付けられています。

ⓐ ditan系薬(5-HT1F受容体作動薬)のlasmiditan
ⓑ gepant系薬(CGRP受容体拮抗薬)のubrogepantとrimegepant


いずれも日本ではまだ未承認ですが(*そのため英語表記になっているようです)、ⓐのlasmiditanは開発元の日本イーライリリーがすでに国内で承認申請中だそうです。


ⓐ はセロトニンの 5-HT1F受容体をブロックする薬剤で、前述のトリプタンの説明のところ(紫字の部分)で出てくる ㋩ を抑える作用があります。

トリプタンと違う点は、5-HT1B/1D受容体に対する作用(=紫字の部分の㋑㋺㋩)がないことです。
つまり ⓐ は血管収縮作用を持たないため、トリプタンが禁忌とされている心筋梗塞などの虚血性疾患や脳血管障害などの既往がある患者にも使用が可能なのだそうです。

ちなみに 日本イーライリリーからのPress Release(2019)には

「正確な機序は不明であるものの、投与2時間後の痛みの消失、ならびに悪心・光過敏・音過敏などの改善効果が認められた」(要約)

と記載されていました。

ⓑ は、前回記事の「③三叉神経血管説」のところで出てきましたカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の作用をブロックする薬です。
ちなみにこのカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は、脳硬膜血管に分布する三叉神経終末から放出される神経ペプチドの1つです。
(*詳細は次回の発作予防薬のところであらためて触れさせていただきます)

 

 

 

以上、長くなってしまいましたので、続きは次回とさせて下さいお願い