今回の記事は12/12からの続きで、片頭痛の薬物治療の二本柱のうちの残りの1つである Ⓑ の「頭痛発作が起こらないようにする予防(=発作予防)」 について触れさせていただきたいと思います。


 

■片頭痛の発作予防

 

◇なぜ片頭痛発作の予防が必要なのか

片頭痛の発作が頻繁になると、それだけで日常生活に支障を生じ、QOL(生活の質)を低下させてしまいます。

また、発作治療薬であるNSAIDs(消炎鎮痛剤)やトリプタンを月に10日以上服用している場合、薬物乱用頭痛(MOH)という新たな頭痛を誘発してしまう可能性があります。
(*NSAIDsだけでなくトリプタンでもMOHになるのですね。知りませんでした驚きあせる

 


薬剤の使用過多による薬物乱用頭痛(MOH)の症状は、片頭痛そのもの+神経過敏による症状 です。

 

めまい感や耳鳴りの他、脳が痛みに敏感になり、通常であれば痛みを感じない程度の刺激でも痛みが生じてしまう アフロディニア(異痛症) と呼ばれる現象が起こります。

 

アロディニアが起こると、たとえば皮膚も敏感になり、頭や顔や上肢、体などに少し触れただけで違和感を感じたり激痛が走ったりするようになります。

 

これらを防ぐためも Ⓑ の "頭痛発作が起こらないようにする予防" が必要となるのです。

 

 

 

◇片頭痛の発作予防薬とその作用
 

頭痛発作が起こらないように予防する薬は『発作予防薬』と呼ばれ、下の表のように"Group1(有効)"から" Group5(無効)"の5段階に分類されています。

 


(*この画像は「日本頭痛学会 慢性頭痛治療ガイドライン」から引用の上、改訂させていただきました)

 

 

 

抗てんかん薬 は、神経の異常興奮を抑制する薬(=脳の安定化作用)であり、片頭痛で異常興奮しやすい三叉神経を抑制する働きがあります。
片頭痛では最初に脳幹の三叉神経核が異常興奮するといる点から、まさに理にかなった薬といえます。

 

抗てんかん薬である バルプロ酸 は、妊娠中に服用すると胎児の知的障害や発達障害のリスクが高くなるというデータがあり、米国では妊娠の可能性のある女性には禁忌、日本では慎重投与となっています。

β遮断薬Ca拮抗薬ARB/ACE阻害薬 は高血圧の治療薬で、血管を拡張させる作用(=血管を収縮させない、血管安定作用)があります。

 

抗うつ薬 には脳内のセロトニンやノルアドレナリンの量を調整する作用があります。

片頭痛にはセロトニンやノルアドレナリンも関わっているため、抗うつ薬も片頭痛の予防に有効とされています。

 

 

 

◇発作予防薬はどんな時に必要か
 

これらの発作予防薬を使用する基準は、最新の『頭痛の診療ガイドライン2021』では以下のようになっています。

 

・月に2回以上の片頭痛発作がある場合

・生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある場合

 注意 旧ガイドラインでは"月に6日以上"でしたが、今回の改訂で短縮されました)

・発作治療薬のみでは日常生活に支障をきたす場合

・発作治療薬を使用できない場合

・永続的な神経障害をきたし得る特殊な片頭痛の場合
 (片麻痺性片頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛、遷延性前兆を伴う片頭痛など)

 

 

 

◇『頭痛の診療ガイドライン2021』で新たに追加された新薬

上の表に黒字で記載されている従来の発作予防薬は、そのほとんどが、もともとは他の疾患の治療薬です。
が、片頭痛に対する予防効果が認められたという理由で、発作予防薬に転用する形でこれまで使用してきたのです。

そのため、これらの薬剤で十分な効果が得られる患者がいる一方、安定して効果が出るまでに2~3カ月はかかり、その間に副作用が出て脱落してしまうケースも少なくありませんでした。

というのも、既存の発作予防薬は血液脳関門(BBB)を通過するため、眠気やめまいといった中枢神経系の副作用が起こりやすいためです。
(*血液脳関門につきましては右差しこちらなどで触れさせていただいてます) 

 


また、バルプロ酸は催奇形性の懸念があるため、妊婦や妊娠の可能性にある女性への投与は禁忌とされており、片頭痛患者が多い若年女性への予防療法の選択肢はさらに限られていました。


そんな中、片頭痛の病態に深く関わっているとされる CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド) をターゲットとした新たな抗体医薬である 『抗CGRP抗体』 と 『抗CGRP受容体抗体』 が相次いで発売されました。

そして2010年代以降、国内外における大規模試験で高い片頭痛抑制効果が早期に発現し、副作用も少ないこと、既存の片頭痛予防治療薬無効例にも有効性が高いことが実証され、『頭痛の診療ガイドライン2021』 では最も有効とされる"Group1"に以下の薬が追加されました。(*表では青字で表記してあります)

・抗CGRP抗体のガルカネズマブ(エムガルディ)、フレマネズマブ(アジョビ)、

 eptinezumab(国内未承認)
・抗CGRP受容体抗体のエレヌマブ(アイモビーグ)
・CGRP受容体拮抗薬のrimegepant、atogepant(いずれも国内未承認)



これらのうち、

日本で使用が可能なガルカネズマブとフレマネズマブはCGRPに結合するヒト化モノクローナル抗体で、エレヌマブはCGRP受容体に結合する完全ヒトモノクローナル抗体で、下図のように、いずれもCGRPがCGRP受容体に結合するのを阻害します。




これにより CGRP受容体シグナルの伝達を阻害し、片頭痛発作の発症が抑制されると考えられています。
(*ちなみに急性期治療薬として広く使用されているトリプタンは、セロトニン(5-HT1B/1D)受容体に作用することで、CGRPの放出を抑制 します)


2021年現在、3剤とも40カ国以上の国・地域で承認されており、海外では実地医家での抗体医薬の使用や患者による自己注射も行われているそうです。
が、国内でこれらの薬を処方できる医師は、現時点では、頭痛診療に5年以上の臨床経験を有する専門医(日本頭痛学会、日本神経学会、日本脳神経外科学会の各専門医、および日本内科学会の総合内科専門医)に限定されています。

 

ちなみにいずれも1カ月に1回投与の皮下注製剤で、フレマネズマブのみ3カ月に1回投与の用量もあります。

 


CGRP関連薬剤の最適使用推進ガイドラインによる投与対象患者の用件は、以下となっています。

 

なお、 CGRP関連抗体薬は、既存の予防薬との併用も可能 とされています(エビデンスは不十分)。

 

 

 

◇発作予防薬の効果判定

これらの発作予防薬は、通常低用量から開始し、有害事象がなければ十分な効果が得られるまで増量していきます。

ここでいう"十分な効果"とは、一般的には"発作頻度または日数の50%以上の減少"とされています。

2-3か月かけて効果を判定し、忍容性が良ければ6-12か月程度継続しますが、コントロール良好な状態が続けば発作予防薬は漸減~中止も可能です。

通院は重症度により1週間~3か月ごとに行い、6か月以上発作がない場合は終診となることもあります。

 

 

 

◇『頭痛の診療ガイドライン2021』で新たに追加されたその他の予防治療

 

上記の新薬の他に、新ガイドラインでは非侵襲的ニューロモデレーションについての項目が新たに設けられています。

具体的には:

・非侵襲的迷走神経刺激(nVNS)

・経皮的三叉神経刺激(eTNS)

・単発経頭蓋磁気刺激(sTMS)

・経皮的複合後頭神経・三叉神経刺激(e-COT-NS)

・遠隔電気ニューロモデレーション(REN)

・経皮的耳介迷走神経刺激

 

など

 

 

これらは、現時点ではまだ日本では保険適応されていませんが、海外ではすでに実際の治療に用いられています。

これらのニューロモデレーションは比較的安全性が高く、今後の片頭痛治療において重要な選択肢になり得ることが期待されているそうです。

 

 

 

 



―― 以上までが、片頭痛の治療についてのまとめになります。

最後に、新ガイドラインでの他の主な変更点について触れさせて下さいお願い




■片頭痛とMOH(楽物乱用)

 

旧ガイドラインでは

 

「 慢性片頭痛とMOHは区別されなければならない」

 

との位置付けでしたが、新ガイドラインでは

「 『慢性片頭痛』と『薬剤の使用過多による頭痛(MOH)』の両診断基準を満たす患者は、両方の診断名を与えられる」

 

とはっきり記載されるようになりました。
 

 


■小児の片頭痛

旧ガイドラインの『小児の頭痛』は、『小児・思春期の頭痛』へと名称と範囲が変更されました。

その『小児・思春期の頭痛』の章では、小児の片頭痛急性期治療薬の第一選択薬としてイブプロフェンが推奨されるようになりました。

 

旧ガイドラインでイブプロフェンと並び第一選択薬と位置づけられていたアセトアミノフェンは、
「イブプロフェンほどではないが有効であり、いずれも安全で経済的な薬剤である」
との記載に変更となりました。

小児の片頭痛予防療法では、非薬物療法で改善しない例に対して、アミトリプチリン、トピラマート、プロプラノロール、塩酸ロメリジンの使用を推奨しています。

また、不登校・不規則登校を伴う頭痛への対処についての項も追加されました。






一般的な片頭痛の治療方法については以上です。

これらを踏まえた上で、次回、息子が実際に受けました治療とその成果について紹介させていただき、最後にしたいと思います筋肉