『砂男』読了
小説雑誌に掲載されたまま、単行本にも文庫にも収録されてこなかった有栖川有栖作品の短編集。
・江神二郎が探偵役の学生アリスシリーズから二編
『女か猫か』『推理研VSパズル研』
このニ編は学生アリスシリーズの短編集が出る時に収録されるそうですが、いつになるか判らないからと収録。
あとがきに有栖川さんが『作者はこの小説の着想をどこから得たのだろう?と考えるのが癖で、「こういうことでした」と裏話を聞くのが好き』と書いておられますが、私は、学生アリスシリーズと作家アリスシリーズのそれぞれのアリスが着想得たのはいつか?を考えるのが好きです
。で、作家アリスが『女か猫か』の着想を得たのは『猫と雨と助教授と』の時の、火村との会話だと思う!「貨物列車いっぱいの雌猫か?」の前後の会話の。
『推理研VSパズル研』の着想は作家アリスシリーズの『猿の左手』で火村の『猿の手』の解釈を聞いた時。『自分も有名な既存の物語を、独自解釈する江神二郎と後輩たちのEMCのわちゃわちゃを書いてみよう』って思ったとかありそうだなと。
作家アリスの着想は、火村との何気ない会話からだなぁと、学生アリスシリーズや他のシリーズや読み切りを読んでいて感じます。作家アリスシリーズを何度も読んで細かいところも覚えてないと出来ない楽しみ方です。
・ミステリ作家とその弟子
読み切り。
二人のやり取りが、作者の有栖川さんが開催している小説の塾『有栖川有栖創作塾』ではこういうことしてるのかな?っていうのが垣間見えるようで楽しかったです。
・作家アリスシリーズからニ編
『海よりも深い川』『砂男』
二編とも二十年以上前の作品でファンはずっと読みたかった作品。
前者は、文庫に入れ損ねているうちに法律が変わってしまい、新刊に収録するには作品が古びてしまったからとのことで、他の歴史改変したシリーズ『ソラシリーズ』の一巻『闇の喇叭』にそのアイディアを使うことにされたので、どっちかを先に読むとどっちかのネタバレを含みます。
私は『闇の喇叭』を1年前に読んだばかりで、どういう内容か覚えていたので、『海よりも深い川』は初めて読んだのにほぼネタバレ状態で読んだことになります。
シリーズ的には作家アリスシリーズの方が好きですが、ミステリ的には歴史改変されてる世界観で『徴兵制度で成人男性は検査時に指紋が軍で登録・管理されているのに、指紋の登録がされていない男性が他殺体で発見された。この殺された男は誰なのか?北のスパイなのか?』って前提がある『闇の喇叭』の方が面白いと思うので『闇の喇叭』を先に読んでおいて良かったなと思います。
そして、ソラシリーズは作家アリスと学生アリスのどっちのアリスが書いたのか?は、真相を再利用してる時点で、ソラシリーズは学生アリスが書いた作品っていうことになります。作家アリスは火村と関わった事件を絶対に自分の作品に流用したりしないって決めてますからね。そして学生アリスは、『母校の大学で教授(准教授)になった』『妻(親友)とは大学時代に出逢った。今では助手』って設定が好きだな?ってなりました(主人公の叔父夫婦の馴れ初め)。
『砂男』はもっと膨らませて長編にしたいと思ってたけど出来なかったまま、インターネットが登場して普及したために実現できなくなったからお蔵入りの未収録だったそう。でも十分面白かったです。長編へはお蔵入りだそうですが、怪談要素を足して『濱地健三郎シリーズ』で読んでみたい気もします。インターネットに情報が一切載らない探偵ですし(依頼者はどこからともなくやってくるけど、解決されても喜びをネットには一切書かないから)
この作品で、真野さんには姉がいて、小学二年生の甥がいて泊りにきたりもする。船曵警部は下の娘は小学五年生っていうことが判明しました(最低でも娘二人。長男もいる可能性はあるから子ども何人かは相変わらず不明)。
船曵班って独身率高いから船曵警部が結婚してるとして、今もそうなのか、離婚とかしてるのかサッパリ判らなかったので知れてよかった。
鮫山さんはアリスたちより三歳上だけど結婚してるのかな。あと、兵庫県警の野上巡査部長(40代半ば以上)のお子さんが大学生の娘と息子で、京都府警の柳井警部の娘さんが大学生になった年頃ってことを考えると、船曵警部は上の娘さんが中学生にしても二人よりは結婚遅めだったのかな?船曵警部は何歳か不明ですが、五十代っぽい。船曵警部と柳井警部は娘がいるってことですが、樺田警部はどうなのかな?次の長編はきっと兵庫県警だと思うので、そういうちょっとした部分も知れたらいいな。
あと、新聞記者は声は若々しいけど、実際にはアリスより数歳年上ってことも判明(見た目は年上だろうっぽく書いてたけど)。
・小さな謎・解きます
ショートショートくらいの日常の謎。探偵事務所兼何でも屋な主人公と姉の息子(小学四年生)と依頼者と。
甥っ子は学校帰りに探偵事務所に立ち寄りますが、依頼者が来たら帰ります。でもさっきまで甥っ子としていた何気ない会話が、依頼者が持ち込む謎を解く取っ掛かりになる。探偵の叔父さんと小学生の甥っ子でなんかほのぼのしていて好きです。甥っ子に好かれてる叔父さん。
あと、以前有栖川さんがXで、アリスの大阪弁は~ってポストされていたので、アリスやEMCが話す大阪弁にも注意して読みました。(ドラマ版アリスはどうなってるんだろう?ドラマ版は好きじゃなくて(脚本と演出が。ドラマのシャングリラうざ過ぎ。俳優さんは原作の解釈とは違うけど素敵な人たちだと思います)二回目観る気になれなくて確認不能ですが)
大阪弁で小説を書く場合、「~しとる」ではなく、「~してる」にしてほしい。
— 有栖川有栖 創作塾 (@sousakunet) February 1, 2024
広い地方で使われている「~しとる」を、私は「大阪以外のどこかの言葉」と感じます。
私自身も、作中のアリスの言葉遣いも「~してる」です。
(有栖川)
私が生まれて成人するまで暮らした地域は、阿倍野橋駅から各駅停車で20分、準急10分の地域ですが、↑のポストは同意。私も『~しとる』は使いません『~してる』です(~してんの?してへんのかな?~してんのちゃうん?など)。でもアリスたちは『いてる』(いる)を使いますが私は『おる』『おらへん』(いる・いない)を使うので、ちょっとの距離でも違いところもあります。私は『せや』じゃなく『そや』(そうや)って言うし。でも10歳下の妹は『せや』って使うので、人によるのかもだけど(私の両親は鹿児島出身で後天的に大阪弁話者になり(18歳で大阪に)、私は親が20歳頃の子なので、生粋の大阪人とは言えない程度の大阪人ですが。大阪弁使いながらの敬語で話せない。敬語で話そうとすると標準語になる)この前妹に薦められて名探偵野田を観ましたが、野田さんは『そや』って言ってた(最近関西人のそういう違いに注意して聞くようにしてる)。私は文章は標準語ですが、妹は文章も大阪弁で書きます(メールとか)。
作家アリス学生アリスを再読される方はアリスの大阪弁にも注目されて読んでみてください。生粋の京都人の漫画家さんの描かれている『であいもん』は「~してる」になってますが、北海道出身の作者さんの『舞妓さんちのまかないさん』は「~しとる」になってた。関西人は「~しとる」のイメージが強いんだなと思いました。滋賀、奈良、兵庫、和歌山、関西ではないけど近畿ではある三重あたりはどうなんでしょう。大阪でも地域によるとかはあるのかな。大阪でものほほんとした地域と激しいお祭りがある地域で言葉遣いは違うし。私が暮らしたのは大阪と奈良の中間地域だけど(遠足や林間学校は奈良です。小学生には遠いから充分新鮮で楽しい)、海側で他県から遠い地域では言葉遣いは違うだろうし。
大阪弁に関してはこんなポスト(まとめ)も。