訳も解らずスープ
一晩明けたらマーちゃんのハウスは
きれいに片付けられていた。
役人に命令されて木元のじいさんがやったんだろう。
仲間が死んだりいなくなったりするのには
慣れているつもりなのだが、
こういう事があるとどうしても気持ちが沈んでしまう。
自分がまだ家庭と職を持ち、人並みに働いていた頃は
「乞食になるくらいだったら自殺する」
なんて傲慢な事を考えていたような気がするが、
人間、なかなか自分で自分を、という訳には行かないようだ。
しかし、心のどこかでマーちゃんを羨ましく思う気持ちもあり、
考えれば考えるほど何だか訳が解らなくなってくる。
そんな事を考えながらブラついていたら、
袋ラーメンのスープの粉が落ちているのを見つけた。
ありがたく頂いてお湯で溶き飲むと
体が温まると少し眠くなってきた。
昨晩あまり眠れなかったせいだろうか。
きれいに片付けられていた。
役人に命令されて木元のじいさんがやったんだろう。
仲間が死んだりいなくなったりするのには
慣れているつもりなのだが、
こういう事があるとどうしても気持ちが沈んでしまう。
自分がまだ家庭と職を持ち、人並みに働いていた頃は
「乞食になるくらいだったら自殺する」
なんて傲慢な事を考えていたような気がするが、
人間、なかなか自分で自分を、という訳には行かないようだ。
しかし、心のどこかでマーちゃんを羨ましく思う気持ちもあり、
考えれば考えるほど何だか訳が解らなくなってくる。
そんな事を考えながらブラついていたら、
袋ラーメンのスープの粉が落ちているのを見つけた。
ありがたく頂いてお湯で溶き飲むと
体が温まると少し眠くなってきた。
昨晩あまり眠れなかったせいだろうか。
マーちゃん
今朝、マーちゃんが死んだ。
うどん鍋のとき、声をかけても寝ているままだったから、
調子が悪かったのか。
木元のじいさんが連絡したのだろう、
昼前には青いビニールシートでくるまれて運ばれていった。
身元不明のマーちゃんは、これで仏さまの所属になった。
だれも何もいわない。
「片付けようか?…んん…後でいいか」
とヤマさんがマーちゃんのダンボール小屋を覗きこむ。
壊れたラジオがひとつころがっていた。
うどん鍋のとき、声をかけても寝ているままだったから、
調子が悪かったのか。
木元のじいさんが連絡したのだろう、
昼前には青いビニールシートでくるまれて運ばれていった。
身元不明のマーちゃんは、これで仏さまの所属になった。
だれも何もいわない。
「片付けようか?…んん…後でいいか」
とヤマさんがマーちゃんのダンボール小屋を覗きこむ。
壊れたラジオがひとつころがっていた。
悪魔
朝からヤマちゃんが困り顔。
潰してまとめておいたアルミ缶が
少し目を離した隙に持ち去られてしまったというのだ。
犯人に心当たりは無いかと訪ねると
「はっきりとはわかんねぇけど、
絶対アクマの野郎だよ…
センさんと一緒にあいつも帰ってきたらしいからな…」
とがっくりした様子でつぶやいた。
アクマ!あいつも帰ってきたのか…
伸ばしっぱなしの半分剥げあがったザンバラ髪に
彫りの深い目、突き出した顎に鷲っぱな…
「悪魔」という形容がピッタリの近寄り難い風貌に加え、
社交的ではないその性格が災いして皆から
「アクマ」と呼ばれ、恐れられていた。
タクマだかワジマだかが訛ってアクマになったという説や、
自転車を蹴飛ばしたり、通行人を急に怒鳴ってみたり、
その粗暴な行動から近所の小学生がアクマと呼び始めた、
という説もあるが、とにかく謎と問題行動が多い男なのだ。
ただ一人、覗き仲間のせんずりセンさんだけには
心を許しているらしいが、どちらにせよ、
あまり誉められた男ではない。
センさんの顔の広さと、こうりゃん先生のフォロ-の
お陰で何とか公園でやっていけてはいるが、
親分が仕切っているガード下辺りで揉めたら、
面倒な事になる恐れがある。
一度、センさん、こうりゃん先生に相談して、
早いうちに手を打って置いた方が良さそうだ。
潰してまとめておいたアルミ缶が
少し目を離した隙に持ち去られてしまったというのだ。
犯人に心当たりは無いかと訪ねると
「はっきりとはわかんねぇけど、
絶対アクマの野郎だよ…
センさんと一緒にあいつも帰ってきたらしいからな…」
とがっくりした様子でつぶやいた。
アクマ!あいつも帰ってきたのか…
伸ばしっぱなしの半分剥げあがったザンバラ髪に
彫りの深い目、突き出した顎に鷲っぱな…
「悪魔」という形容がピッタリの近寄り難い風貌に加え、
社交的ではないその性格が災いして皆から
「アクマ」と呼ばれ、恐れられていた。
タクマだかワジマだかが訛ってアクマになったという説や、
自転車を蹴飛ばしたり、通行人を急に怒鳴ってみたり、
その粗暴な行動から近所の小学生がアクマと呼び始めた、
という説もあるが、とにかく謎と問題行動が多い男なのだ。
ただ一人、覗き仲間のせんずりセンさんだけには
心を許しているらしいが、どちらにせよ、
あまり誉められた男ではない。
センさんの顔の広さと、こうりゃん先生のフォロ-の
お陰で何とか公園でやっていけてはいるが、
親分が仕切っているガード下辺りで揉めたら、
面倒な事になる恐れがある。
一度、センさん、こうりゃん先生に相談して、
早いうちに手を打って置いた方が良さそうだ。
なんとかワシントン
ノリさんが、にこにこ笑っていた。
雑誌拾いから足を洗い、
ビックイシューを始めたのだというが、
今日、仕入れた20冊全部が売れたのだという。
雨で思うように売れず、
それでも1日3冊売れれば600円とがんばって、
今日は朝仕入れた20冊が午後の3時くらいには完売。
売り上げの2000円で、
明日また仕入れるかどうか悩んでいるというのだという。
実は、自分はこの仕入れというのが苦手で、
一度ビックイシューは失敗している。
最初いきなりすごく売れたので興奮してしまい、
売り上げの2000円で、
1冊90円を限度額いっぱい22冊仕入れてたのに全く売れず、
どうにもならかったことがあるのだ。
もともと最初の10冊はただでもらえるので、
損をしているわけじゃない。
だから今度は最初の20冊売り切れたところで、
仕入れをしないでおくと、
それはなんだか人気俳優の特集だとかで、
他の人間はひとりで100冊近く売ったとかいう話になる。
完全に仕入れのセンスがないことと、
街角で声を張り上げるのがどうしても恥ずかしく、
長続きしなかった。
ノリさんは
「なれるよ。とにかく売れればうれしくて声も出てくるようになる」
といっていたが、自分には向いていないみたいだ。
今号はデなんとかワシントンとかいう黒人が表紙で、
「これ売れると思う?」
とノリさんがしつこく聞いてくるがなんとも答えられない。
知らないんだよなあ。
でも若いやつの間ではすごい人気なのかもしれないし…。
情報が商売になるという話をバブルの頃はよく聞いていて、
どういうことかピンとこなかったけれど、
こういうことなのかと思い知る。
雑誌拾いから足を洗い、
ビックイシューを始めたのだというが、
今日、仕入れた20冊全部が売れたのだという。
雨で思うように売れず、
それでも1日3冊売れれば600円とがんばって、
今日は朝仕入れた20冊が午後の3時くらいには完売。
売り上げの2000円で、
明日また仕入れるかどうか悩んでいるというのだという。
実は、自分はこの仕入れというのが苦手で、
一度ビックイシューは失敗している。
最初いきなりすごく売れたので興奮してしまい、
売り上げの2000円で、
1冊90円を限度額いっぱい22冊仕入れてたのに全く売れず、
どうにもならかったことがあるのだ。
もともと最初の10冊はただでもらえるので、
損をしているわけじゃない。
だから今度は最初の20冊売り切れたところで、
仕入れをしないでおくと、
それはなんだか人気俳優の特集だとかで、
他の人間はひとりで100冊近く売ったとかいう話になる。
完全に仕入れのセンスがないことと、
街角で声を張り上げるのがどうしても恥ずかしく、
長続きしなかった。
ノリさんは
「なれるよ。とにかく売れればうれしくて声も出てくるようになる」
といっていたが、自分には向いていないみたいだ。
今号はデなんとかワシントンとかいう黒人が表紙で、
「これ売れると思う?」
とノリさんがしつこく聞いてくるがなんとも答えられない。
知らないんだよなあ。
でも若いやつの間ではすごい人気なのかもしれないし…。
情報が商売になるという話をバブルの頃はよく聞いていて、
どういうことかピンとこなかったけれど、
こういうことなのかと思い知る。