追悼 すぎやまこういち -初期ドラクエの懐かしい音楽いろいろ- | れぽれろのブログ

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作曲家のすぎやまこういちさんがお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

すぎやまこういちさんは1931年の東京の生まれ。戦後長きにわたって作曲家として活動され、「花の首飾り」(ザ・タイガース)、「学生街の喫茶店」(ガロ)、などの曲を作曲された方です。
自分は小学生のときにファミリーコンピュータ、いわゆるファミコンで遊んだ世代ですので、世代的にはすぎやまさんと言えば、なんといってもファミコンRPGゲーム「ドラゴンクエスト」、いわゆる「ドラクエ」の音楽の作曲者として記憶しています。自分は初期ドラクエであるドラクエ2,3,4を小学生のときにプレイしましたので、ファミコンRPGと言えばドラクエ、ドラクエと言えばすぎやまこういち、という形で覚えている作曲家です。(逆にドラクエ以外のすぎやまさんの作曲活動はあまり知らなかったりします。)
当時(80年代後期)の多くの子供たちはドラクエをプレイしており、このプレイ中は繰り返し何度もゲーム内の音楽を聴くことになりますので、大人になった今でもドラクエの音楽を覚えているという人は多いのではないかと思います。

ということで、今回はファミコンの初期ドラゴンクエストの音楽を7曲ほど並べて、その楽しさについてコメントしてみたいと思います。ファミコンは容量の制約上和音が出せず、使えるのは3音のみ、その制約の中ですぎやまさんは面白い音楽をたくさん制作されています。
JRPGのゲーム音楽については、実は自分は3年前に一度記事化しています。(→[懐かしいゲームと音楽について] ) この記事でファミコン音楽の特徴などについて少しまとめており、すぎやまさんの音楽についても、「勇者の挑戦」(ドラクエ3)、「ジプシーダンス」「のどかな気球のたび」「悪の化身」(以上ドラクエ4)を取り上げ、分散和音、変拍子、十二音技法などの面白い作曲上の特徴についてコメントしています。
今回はこのときに取り上げなかった7つの音楽を取り上げ、その面白さについてコメントしてみたいと思います。有名な音楽からマニアックな音楽まで登場します。

なお、すぎやまさんは実はとくに晩年に国粋的・右傾的な政治的立場を取り続けていた人でもあるのですが、政治的立場はそれはそれとして、音楽それ自体を楽しむことはできます。
国粋的・右傾的といえば、戦前の山田耕筰や戦後の黛敏郎などもこういった政治的立場の作曲家でしたが、今日彼らの音楽はそういった文脈とは別に鑑賞され、評価されています。自分はこういった政治的立場に同意するものではありませんが、すぎやまさんの音楽は音楽として楽しみ、今後も折に触れて思い出す音楽になることだ思います。



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・ロトのテーマ,序曲 (ドラクエ1,2,4)

 


まずは超有名音楽から。
ドラクエの中でも最も有名な音楽、ドラクエ1,2,4のオープニング音楽であり、ドラクエ1~3においては伝説の勇者ロトのテーマでもあるという曲です。今年の東京オリンピックの入場にも使われた曲で、耳にされた方も多いのではないかと思います。
この動画では最初がドラクエ1、1分15秒からがドラクエ2、2分38秒からがドラクエ4の音楽となっています。(ドラクエ3はオープニング音楽がありませんが、エンディングのここぞという所でこのテーマ音楽が使われており、この曲が感動を喚起する構造になっています。)

冒頭が3連符主体の2拍子のファンファーレ(少しリズムが取りにくい)、10秒あたりからが行進曲風のメインテーマになっています。これから冒険が始まる、という感じの勇ましい音楽になっているように思います。
ドラクエ2もドラクエ1とほぼ同じですが、ドラクエ4は編曲がかなり異なります。2分38秒からが雄大なファンファーレ付きの序奏で、2分58秒あたりからがメインテーマになりますが、ドラクエ4ではこのメインテーマの裏のリズム(低音部)が3連符になっており、単なるマーチではなく、より荘厳な雰囲気になっているように思います。4分2秒あたりからは後奏も入り、雄大な雰囲気で終わる序曲になっています。



・love song 探して (ドラクエ2)

 

(1:25以降ループ)

続いてはドラクエ2の音楽です。
ドラクエ1,2はゲームを記録・再生するためにパスワードの入力が必要であり、この曲はドラクエ2のパスワード入力画面で流れていた曲です。ドラクエ2は毎回ゲーム開始時に50文字以上あるパスワード(無作為な文字列)を入力するのがたいへんで、入力には数分を要し、この音楽はその際に毎回聞く音楽なので、非常に耳に残りやすいです。

ドラクエ2はドラクエ1の数百年後の世界という設定だったと思います。すぎやまさんはかつてインタビューで、1のあとの世界なら2は音楽もポップになっているはずだ、ということでかなりポップスっぽく作曲した、というようなことを語っていた記憶があります。その通りこの曲はかなりポップなメロディで、確かポピュラー音楽のミュージシャンが歌も出していたはずです。
冒頭はト長調のメロディですが、30秒あたりからト短調に転調し、後半は少し陰りのある音楽になります。しかし1分15秒あたりから長調に復帰してきれいに終わる、ポップスっぽい音楽になっているように思います。

ちなみに自分はドラクエ1はプレイしておらず、初めてプレイしたのがこのドラクエ2になります。なので音楽も印象に残っています。
しかしドラクエ2はとくに後半が非常に難しいので、自分は最後まで進むことができず、途中で終わってしまったゲームでもあります 笑。



・王宮のロンド (ドラクエ3)

 

(0:45以降ループ)
※この動画は貼り付けきないようですので、リンク先でどうぞ。

こちらはドラクエ3のお城の音楽です。
ドラクエ3はドラクエ1の数百年前の世界という設定、なので音楽もクラシックなはずだ、ということでドラクエ3は徹底してクラシック風に作曲したと、同じくすぎやまさんはインタビューで語られていたように記憶しています。この言葉の通り、このお城の音楽もクラシカルで、どちらかというとバロック風の音楽になっているように思います。

冒頭はハ長調で明るく開始しますが、20秒あたりで一瞬ハ短調に転調し、この20秒あたりからはなんと4度のフーガになっています。2フレーズのみの短いフーガですが、フーガが登場するあたり、かなりバロックを意識した作曲になっているように思います。
なお、この曲のタイトルはロンドとなっています。このゲーム版音楽だけ聴くとどこがロンド形式やねんということになると思いますが、オケ版を聴くと繰り返し時に別のメロディが登場し、冒頭~20秒の部分が実はロンド主題であったことが分かるようになっています。



・戦闘~生か死か~ (ドラクエ4)

 

(0:58以降ループ)

ここからはドラクエ4の音楽を4曲取り上げます。
ドラクエ4は自分は小学生のときに発売日に並んで買った(2月11日の寒い朝に地元のおもちゃ屋さんの前で並びました 笑。当時は人気ゲームは並ばないと発売日に買えなかった時代でした。)ソフトですので、思い入れがあるということもありますが、何よりドラクエ4の曲はたいへん面白い曲が多いので、つい多めに取り上げてしまうことになります。(前回のゲーム音楽の記事でも、ドラクエ4は例外的に3曲も取り上げました。)

これはモンスターとのバトルの際に流れる音楽で、16分音符が連続するせわしない感じの音楽、非常に緊迫感のある音楽に仕上がっているように思います。
冒頭から16分音符の下降音型で始まり、その後もリズムは一貫して16分音符、20秒あたりからクレッシェンドで上昇音型が続く部分もかっこいいです。(一般にファミコン音源には音量調整機能はないらしいのですが、この部分のクレッシェンドをどうやって表現しているのかは謎です。)
続いての31秒あたりからは変拍子の嵐、9/8→9/8→9/8→2/4→7/8→7/8、の2回繰り返し、でしょうか? 複雑なリズムですが、この部分もかっこよくて、楽しい音楽になっているように思います。



・呪われし塔 (ドラクエ4)

 

(1:32以降ループ)

続いては塔の音楽です。ドラクエシリーズではダンジョンの1つに「塔」があり、この塔の音楽はだいたい不気味な音楽で作曲されていることが多いです。このドラクエ4の塔の音楽もなかなか面白くて、その特徴は音の数が少ないこと。

メロディ部分は後半までレ♭とソ♭の2音しか登場せず、ベースも2度で延々動くリズム感のみの音楽になっています。途中まではずっとレ♭のオクターブ下降→3度下のソ♭のオクターブ下降が繰り返され、空虚5度っぽいメロディになっており、調性感も不明瞭で不気味さが際立っています。
その後2フレーズ目の後半(52秒あたり)から一瞬、ラ♭、ミ♭も登場しますが、ここまでピアノで言う黒鍵のみでメロディができているということになります。

1分5秒あたりから一瞬伴奏が消えるのも不気味、この後メロディと伴奏がオクターブカノン風の構成になり、最後は打ち込みっぽいリズムのみで終わるという楽曲になっています。
塔ではモンスターが常に一定間隔で現れ、常に戦闘の音楽に切り替わるので、この1分5秒あたりまで曲を聴くことは実はゲーム中は少ないのです。しかし、たまにこの部分まで聴けると不気味さが際立ち、手に汗握るような感覚になったことも覚えています。



・街でのひととき (ドラクエ4)

 

(0:46~ループ)

複雑な曲が続きましたので、続いてはのんびりしたほのぼのミュージックです。これは街や村の中で流れる音楽。

つい口ずさんでしまう楽しいメロディですが、構成的には面白く、前半はハ長調の明るいメロディですが、後半22秒あたりから変ホ長調になるというちょっと変わった転調となり、終盤は少し陰のあるメロディから、最後は中音(ソ)の連打で終るのでどことなく不思議な感じがします。それでいて冒頭のハ長調に心地よく接続するのが良いですね。

今でもときどき鼻歌で歌ってしまう楽曲です。



・終曲 (ドラクエ4)

 

 

最後はドラクエ4のエンディング曲を取り上げます。この動画では映像もゲーム時のそのままの映像が使われています。
10分弱ある長い楽曲ですが、1サイクルで同じ主題が2回登場し、それが計3回繰り返される構成ですので、覚えやすい楽曲ではあります。しかし、各サイクルの間にこれまでの音楽が次々とコラージュ風に挿入される部分があるのが、このエンディング曲の面白いところだと思います。

冒頭の前奏の後、48秒あたりからがメインの主題になり、やはり分散和音(ファミコン音源は和音が出せないので、和音をアルペジオ風に分散させて伴奏を作る)が印象的。1分53秒あたりからメイン主題が帰ってきますが、この部分はバックの目まぐるしい6連符の伴奏が非常に楽しい部分です。
2分37秒あたりからが1度目のコラージュ。ドラクエ4は第1章から第5章まであり、章立てで冒険が進むという構成になっているゲームなのですが、このうち第1章から第4章までのテーマ曲が変奏されて次々と登場するのがこのコラージュ部分の面白いところ。まずメインテーマ(この記事の1曲目で取り上げた曲)のメロディが一瞬登場し、そのあと1章から4章までのテーマ曲が次々に登場します。
この後メイン主題が帰って来て2サイクル目に入りますが、4分58秒あたりからが2度目のコラージュになります。こちらはお城の曲が流れた後、第5章の2つのテーマ曲がポリフォニーで登場するところが面白く、ゲームプレイ当時は感激したのを覚えています。この後再び主題が帰って来て、一連の流れを繰り返しておしまい。
これまでのゲーム音楽を思い出すことができるコラージュ音楽はエンディング曲として面白く、これ以降いろんなゲームでこのコラージュの手法が使われるようになったのではないかと思います。



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ということで、すぎやまさんによるファミコンの初期ドラクエの楽曲の中からいくつかを取り上げ、コメントしてみました。
なお、自分はスーパーファミコン以降はドラクエとは縁遠くなりましたので、これ以降の音楽については詳しくはありません。聞いたところによるとドラクエ6などでは、オペラのライトモティーフ的に同一主題が複数の楽曲で変奏されて使われる、ということもやっているようです。ハードウェアが変わっても、そのハードの性能を生かしつつ、引き続きいろんなチャレンジをやられているというのも面白い話ですね。