ロックミュージックと政治・戦争・社会 -9.11・イラク戦争・アメリカ- | れぽれろのブログ

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政治と音楽シリーズ。
前回は戦争やナショナリズムに関わりの深いクラシック音楽を並べて、19世紀以降の西洋音楽と政治の関係についてあれこれとまとめてみました。( → こちらの記事
今回はゼロ年代初頭のロックミュージックをいくつか取り上げ、音楽と政治・戦争・社会との関わりについて考えてみます。

20世紀初頭までのヨーロッパはいわゆる制限選挙の時代、先進的な音楽文化を享受できるのは社会の特定の階級のみで、クラシック音楽は上流階級(19世紀当時のブルジョワジー)のための音楽でした。
20世紀前半からは大衆社会の時代、レコードの普及と音楽の大衆化により、西洋クラシック音楽から派生した軽音楽、ジャズやポップスやロックと言ったジャンルの音楽が広く大衆に聴かれるようになります。
こういった流れの中で、とくに戦後になるとナショナリズムのための音楽よりも、カウンターカルチャーとしての音楽、政治に対し抵抗する音楽や戦争に反対する音楽が流行するようになります。60年代から70年代初頭にかけてのロックやフォーク(ベトナム戦争への抵抗と深く関わる)などが有名かと思います。
70年代後半以降、政治や戦争に抵抗する音楽は少なくなり、「ロックは死んだ」などと言われることもありますが、さにあらず。探せば政治的なメッセージを含む音楽は80年代以降でも見つかります。

ということで、今回はゼロ年代の音楽、9.11テロやイラク戦争に関わりの深いロックを並べてみます。
中東で石油が産出されるようになって以降、中東の政治に深く関与していくようになる超大国アメリカ。80年代のイラン・イラク戦争ではアメリカはイラクを支援しますが、90年代の湾岸戦争ではイラクを攻撃、アメリカの対中東政策に対する中東側の怨念は、2001年の9.11テロを引き起こします。
ブッシュ、チェイニー、ラムズフェルドらの当時の政治家たちは、対テロ戦争の名目でイラク戦争を開始、イギリスや日本もその戦争に巻き込まれていきます。9.11の痛みもあったため、当初多くのアメリカ国民は対テロ戦争を支持、2004年の大統領選挙ではブッシュは再選しますが、石油利権と経済的利益のみを追求したとも言われるこの戦争を含むアメリカの中東政策に対しては、やがて反対する声も高まっていきます。

以下、当時のアメリカ・イギリス・日本のロックミュージックから5曲をチョイスし、並べてコメントしてみます。



・American Idiot/Green Day (2004)

 


Green Dayはアメリカのロックバンド。90年代にデビューし、ネガティブな歌詞を明るいメロディーに乗せて歌うスタイルが特徴で、90年代当時はネオパンクなどと言われていました。(このスタイルは90年代末以降の日本のいわゆるメロコアと言われる音楽にも影響を与えているように思います。)
「American Idiot」は2004年の同名アルバムからのシングルカット曲。この曲も歌詞を別にすればメロディーは明るく、スピーディーなリズムと合わせて聴いていて楽しい曲です。

タイトルの「Idiot」は「愚か者」の意味、愚かなアメリカ人という趣旨の曲で、戦争の扇動者に踊らされるアメリカ国民への批判と受け止めることができる歌詞になっています。
歌詞の中の「new kind of tension」(新しい緊張状態)は9.11テロやイラク戦争を表しており、これにより右往左往するアメリカの大衆を揶揄し、おれたちはそんなものには付き合わないという意思が歌詞で表示されています。
「Now everybody do the propaganda」(皆が宣伝する)という歌詞も印象的、プロパガンダは上から押し付けられるものではなく、大衆が自ら率先して関わるものでもあることが見て取れます。

ちなみにこのPVでは「fuck」「faggot」と言った不謹慎用語がカットされていますが、アルバム版では普通に歌詞を聴くことができます。
PVの映像ではバックの星条旗が溶けていっている様子が印象的で、国旗をこのように扱うPVが普通に流通し受け入れられているのは、ある意味アメリカの懐の深いところでもあります。(もし日本において、日の丸で同じことをしたらおそらくたいへんなことになります。)



・B.Y.O.B./System Of A Down (2005)

 


続いては同じくアメリカのロックバンド、System Of A Downからの1曲。
System Of A Downはハードな音楽性のバンドですが、ときに穏やかなメロディが現れたり、一曲の中でのリズムや曲調の変化が楽しい音楽もあるのが特徴的。この「B.Y.O.B.」も3種類のリズムが入り乱れ、特徴的なギターリフあり、ボーカルの交替あり、シャウトあり、メロディアスな部分もありと、構成的にはかなり楽しい音楽になっています。

タイトルの「B.Y.O.B.」は「Bring Your Own Bombs」(自分で爆弾を持参せよ)という意味で、自ら戦地に向かわない為政者たちに対し、「お前たちこそが戦争に行け」というメッセージが込められています。繰り返される「Why do they always send the poor?」(なぜ貧しい者たちが戦地に送られるのか)、「Why don’t presidents fight the war?」(なぜ大統領は自ら戦わないのか)という歌詞が印象的です。
「Dancing in the desert」「Hangars sitting, dripped in oil」などと言った歌詞からは中東の砂漠や石油利権に関わる内容が読み取れ、ストレートなイラク戦争批判の楽曲になっています。
ブッシュ大統領らのイラク戦争への姿勢を批判し、自ら戦争に向かうことになるのは貧しいものたちを擁護する内容。大衆を揶揄するGreen Dayに対し、こちらの曲はもう少しストレートな政治批判の楽曲であると言えそうです。
個人的には音楽の構成がなかなか面白く、お気に入りの1曲です。



・2+2=5/Radiohead (2003)

 


こちらはイギリスのロックバンドです。
Radioheadは90年代から活躍しているバンドですが、ゼロ年代に入りかなりエレクトロニカっぽい方向にシフト、この曲はその方向から再び少し軌道修正した2003年のアルバム「Hail to the thief」からの1曲。
この「2+2=5」はこのアルバムの第1曲で、アルバムタイトルもこの曲の歌詞から取られています。

共和党のブッシュと民主党のゴアが戦った2000年のアメリカ大統領選挙はかなりの接戦で、大きく後ろへずれ込んだフロリダ州の開票の結果、僅差でブッシュ大統領が勝利。この大統領選挙については、当時から選挙の不公正さが主張されており、「Hail to the chief」(大統領万歳)をもじった歌詞「Hail to the thief」(ドロボウ万歳)は、この大統領選挙の不公正さを表現してると言われています。
Radioheadの歌詞はなかなか解釈が難しいですが、「2+2=5」はイギリスの作家オーウェルの「1984年」に繰り返し登場するフレーズと言われており、この小説のディストピア感と、「票を盗んだ」ブッシュ陣営が始めた現実のイラク戦争下の世界情勢を関連させて考えるような楽曲になっているように思います。
前半の7拍子の不安定も曲タイトルのイメージとリンク。
なお、イギリスはイラク戦争に参加しており、この戦争は他人ごとではなかった戦争でもあります。



・アメリカ魂/↑THE HIGH-LOWS↓ (2002)

 


続いては日本のロックバンドです。
ザ・ハイロウズは元ザ・ブルーハーツの甲本ヒロトと真島昌利が中心となって結成されたバンド。ブルーハーツ時代からときに政治的なメッセージを歌詞に込める楽曲を作り続てきた彼ら。その後のザ・ハイロウズは明るいナンセンスソングなども多いですが、中には政治や社会と関わるメッセージ性の強い音楽も登場します。(この2つのバンドを比較した場合、個人的にはキーボードが大活躍し、ベースやドラムがかっこいいザ・ハイロウズの方が好みです。)
この「アメリカ魂」は9.11テロの翌年のアルバム「angel beetle」からの1曲で、作詞作曲はギターの真島昌利さんです。
上のアメリカやイギリスの楽曲に対し、こちらはイラク戦争(2003年)より前の比較的早い段階の楽曲ですが、この時点にしてはなかなか強烈なアメリカ批判の楽曲になっています。

歌詞はアメリカ人の立場で自分たちのことを歌うという内容。いきなり「有色人種はつぶせ」から始まるかなりたいへんな歌詞 笑。その後もマッチョで自己中心的なアメリカの姿勢を表す歌詞が続きます。
Bメロのちょっとマヌケなメロディ(こういう旋律はハイロウズでは珍しい)や、サビの「~だぴょん」という滑稽な歌詞が、アメリカの攻撃性の裏に潜む子供っぽさを揶揄しているようにも読めます。
「君たちの悲しみは俺にはわからないけど、俺の悲しみはどうか君たちは分かってくれ」という歌詞は、明確に9.11テロ後のアメリカの心情を表しています。
間奏部分にはギターによるアメリカ国歌の変奏も登場します。(これももし君が代で同じことをしたらどうなるか…、などということもつい考えてしまいます。)
全体的にハイロウズらしい明るさを失わず、それでいてかなり強いアメリカ批判になっており、たいへん面白い楽曲だと思います。



・夢のあと/東京事変(椎名林檎) (2004)

 


最後は女性ミュージシャンの楽曲です。
東京事変は椎名林檎が2004年に結成したロックバンドで、この「夢のあと」は東京事変の1stアルバム「教育」の最後を飾る楽曲です。アルバム「教育」はかなりがっちりしたロック色の強いアルバムですが、この「夢のあと」はスローテンポのバラードになっています。
作詞作曲は椎名林檎さん自身、元々は東京事変として発表された楽曲ですが、このライブ映像はその後の椎名林檎個人名義での歌唱・演奏のものです。
上に取り上げた4つのロックバンドはすべて男性のバンドで、政治に対する直接的なメッセージや、一部攻撃性をも含む歌詞になっていました。この曲は女性である椎名林檎が、この時代の世界情勢をどう受け止めていたかがうかがえる楽曲になっています。

椎名林檎の歌詞もなかなか難解で、どうとでも受け止められる歌詞が多く、この「夢のあと」もかなり抽象化された言葉が紡がれています。
冒頭の歌詞の「ニュース」が、真偽は不明ですが一般に9.11のニュースのことであると言われています。「悲しみでいっぱいの情景」「憎しみでいっぱいの光景」がテレビに映し出され、それを目の前の「寝息」「寝顔」(おそらく子供のものと思われる)と対比させるような歌詞が印象的で、当時の世界情勢を思い、日常の印象からの世界への思いが歌われている歌詞になっているように思います。
楽曲・メロディの盛り上げ方は感動的で、椎名林檎さんらしい1曲になっているように思います。

ちなみにイラク戦争については日本は他人ごとではありません。
上のザ・ハイロウズのころ(2002年)はまだどちらかといえば他人ごとでしたが、その後の2003年には後方支援という形で、イギリスと並んでアメリカの戦争に主体的に関わっていくことになります。
イラク戦争終結後も中東の怨念は消えず、度重なるテロ、10年代のイスラム国の台頭とその制圧など、アメリカのこの時期の中東政策は、現在の世界政治にも引き続き大きな影を落としています。


以上、カウンターカルチャーとしてのゼロ年代ロックのうち、9.11・イラク戦争・アメリカに関わる楽曲を並べてみました。
次回の音楽の記事は再び戦前に戻り、ナショナリズムとポピュラー音楽の関係について考える記事を予定していますので、ご興味のある方はしばらくお待ちください。