指揮姿を見る | れぽれろのブログ

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だいぶ以前に、ピアノの演奏を「見る」という記事を書いたことがあります。

・エチュードを見る

https://ameblo.jp/0-leporello/entry-11557676563.html

今回は指揮者編です。
音楽は聴覚文化であり、当然音を「聴く」ことが第一なのですが、演奏会に行くと奏者の演奏姿を見ることになり、これは視覚的にも楽しいものです。

オーケストラにおいても、指揮者の身振りを観察するのも、演奏会に出かける一つの醍醐味です。
20世紀後半以降、テレビ・ビデオ・動画サイトの普及により、演奏姿を観察することもかつてよりは容易になり、映像向けのパフォーマンス(例えば、目をつぶって指揮をするカラヤンなど)も行われるようになります。

以下、いくつかの演奏動画を貼り付けて、指揮姿についてコメントしてみます。



・カルロス・クライバー

 

 

指揮姿の華麗さと言えば、何よりもまずこの人をあげなければなりません。
この映像はリヒャルト・シュトラウスのオペラ「薔薇の騎士」の1979年のバイエルン国立歌劇場での演奏で、一般に名演とされているかなり有名な演奏です。
3時間以上あるオペラですが、とにかくこの序奏の部分(1分55秒~4分50秒)だけでも見てほしいです。
2つ振りと4つ振りを使い分け、とにかく華麗で演技的に演奏するクライバーの姿。
腕と手首のしなやかな動き、くるくる回りゆらゆら揺れる指揮棒。

オケのコントロールも素晴らしく、緩急の取り方は絶妙というほかない、名演とされているもうなずけます。
2分30秒あたりからの加速とその後の減速、4分13秒の主題のコントロールもゾクッとします。
音楽研究家の岡田暁生さんは「名演」と呼ばれる演奏に関して、「どんな文脈に当てはめても「やっぱり凄い…」となる確率が桁外れに高い音楽」は確かに存在すると書かれておられます。
自分は演奏による差異はそんなに気にしない方で、名演など個人の主観によるところが大きいと考える方ですが、それでもこの映像を見ていると、これはやはり名演なのではないか、という気がしてきます。



・サイモン・ラトル

 


ゼロ年代のころ、自分はNHKの「芸術劇場」という番組をよく見ていました。(この番組は2011年に終了。)
「芸術劇場」はクラシック音楽や演劇や古典芸能を取り扱う番組。
当時のこの番組のクラシック音楽に関する放送のうち、この人の指揮姿が一番面白いなと思って見ていたのが、サイモン・ラトルです。
ここに取り上げたのは、1998年のバーミンガム市交響楽団によるマーラーの交響曲2番。ラトルの身振りと動き、顔の表情も含めて、この指揮姿はお気に入り度が高いです。
激しく振りかぶったり、かなり大仰に指揮する部分もあれば、手を全く動かさずにオケに任せて「流す」部分(2楽章、31分30秒あたりからのピチカートの部分など)もあり、首の動きだけで指揮したり、顔の表情で指揮したり(笑)など、パフォーマンスも様々。
陶酔的な表情になったり、その他、眼をむいて口を開ける部分などは大昔のNHK教育の小学生向け社会科番組「はたらくひとたち」のケンちゃんみたいな表情(←お分かりでしょうか 笑)になるのも笑えます。
ここ10年くらいの映像を見ていると、ラトルは少し年を取って太ったせいもあってか、残念ながら動きのキレは衰えてきているように見えます。
ちなみに、4楽章(45分15秒~)で登場する歌手はアンネ・ゾフィー・フォン・オッターで、上のクライバーつながりで言えば、1994年のウィーン国立歌劇場&クライバーの「薔薇の騎士」でオクタヴィアンを演じていた歌手です。この4楽章の歌唱も素敵で、必見です。



・シャルル・デュトワ

 


かつてNHKでは上記の「芸術劇場」の他に、「N響アワー」というNHK交響楽団によるのクラシック音楽の単独番組も毎週放送されていました。
このN響において90年代後半からゼロ年代前半まで音楽監督を務めていたのが、シャルル・デュトワです。
自分はゼロ年代に「N響アワー」もだいたい毎週見ていたので、このデュトワの指揮姿は懐かしいです。
この映像はモントリオール交響楽団による、ベルリオーズの「ローマの謝肉祭」(この曲は一時期「N響アワー」のオープニングテーマ曲にも使われていました)。
上記のクライバーやラトルの大仰さに比べると、デュトワは淡々と棒を振るタイプで、派手さはありませんが、個人的にこの指揮法は好きでした。
デュトワは肩をあまり動かさず、上腕の動きも最低限で、肘から先だけを動かして指揮するパターンが多く、これが意外とスマートでかっこいい気がします。
4分55秒あたりからの有名な主題の部分の指揮ぶり(5分10秒あたり)など、なかなかいい感じ。
N響はデュトワのあと、ウラディーミル・アシュケナージが音楽監督になりますが、アシュケナージはどことなく体が硬く、指揮姿があまりスマートではないので、見栄えはデュトワの方がよかったな、などと当時感じたように記憶しています。



・エサ=ペッカ・サロネン

 


現在は映像で指揮姿を見ることは容易になりましたが、やはり指揮姿は生演奏で直接鑑賞するのも良いものです。生演奏の場合、指揮姿は(P席がある会場は別にして)後姿を鑑賞することになります。
後ろから見た指揮が良い感じなのは、自分が鑑賞した中ではパーヴォ・ヤルヴィやジョナサン・ノットなど何名か思い当たりますが、やはり一番雰囲気が良いのがエサ=ペッカ・サロネンです。
サロネンは指揮台の上を自在に動き回り、右を向き左を向き指示出しをする、指揮棒ありと棒なしを使い分けるなど見た目の印象が楽しい、後ろからずっと指揮姿を見続けていたくなるような指揮です。
この映像はフィルハーモニア管弦楽団によるマーラー3番の1楽章、2017年の演奏です。
会場で後姿を見るのとはまた違う、前からの指揮姿も面白いですが、個人的には会場で見慣れている遠目で見る後姿(32分55秒あたりからの感じなど)を見ると、やっぱりサロネンはいいなという感触を受けます。



以上、4人を取り上げてみました。
後ろの2人は少し趣味的ですが、クライバーの華麗な動き(とくに80年代以前)と、ラトルの身振りと表情による指示出し(とくにゼロ年代まで)は、必見だと思いますので、ご興味のある方は他の動画を探して観察してみても面白いと思います。