連載ですので続き物となっております。
Vol.1 ・Vol.2 ・Vol.3 ・Vol.4 ・Vol.5
Vol.6 ・Vol.7 ・Vol.8 ・Vol.9 ・Vol10 から先にお読みください。
七転び八起き -Vol.11-
放課後テニスコートに行くとそこは異様な空気に包まれていた。
悲愴な形相で今にも泣き出しそうな部員達・・・。
あのレギュラーのみんなも真剣な面持ちでストレッチをしている。
ストレッチでここまで張り詰めた空気って・・・どんな練習!?
常勝立海大!!を掲げているだけあってすごい!!とでも言えばいいのだろうか?
でも昨日はこんなにキンキン耳鳴りがしそうなほど緊迫してなかったよね!?
恐る恐る「こんにちは・・・・・。」と声をかけると一斉に視線が私に集まった。
なに!?なんなの!?
なんとなく睨まれてるぅ~!?
戸惑いを見せる私に、恐い顔をしていた精市君がゆっくりと歩み寄り、
今まで見たこともないような冷たい視線を送ってきた。
背筋が凍る・・・・。
「悪いけど今悠奈の顔見たくない。」
「え・・・?」
「でも帰ることも許さない。」
「は?」
「ふぅ・・・。とりあえず今憂さ晴らししてるから気が晴れるまで部室にでもいてくれないかな?」
そう言って手渡された部室の鍵。
意味がわからない・・・。
私の顔を見たくない?何か怒らせるような事をしただろうか?
だけど帰るのもダメって・・・・。
しかも憂さ晴らしって言ったよね?
じゃぁ、この状況はもしかして私のせい・・・・・?
そりゃ部員達から睨まれるわ!!
申し訳なくて、いたたまれない気持ちになる。
理由はわかりませんがスミマセン・・・。と心の中で謝りながら
私は複雑な気持ちを抱えテニス部の部室へと向かった。
昨日はキングと初対面を果たし怒鳴られたり、仁王君にキ・・・・・いや、忘れよう・・・。
そんなこんなであまり部室内をゆっくり見る事はなかったんだけど・・・。
壁や棚には歴代テニス部が収めた功績の証である賞状やトロフィーが飾られていて
本棚にはズラリと並んだビデオやDVD、ノートなどが並べられている。
「綺麗に整頓されてるな・・・。絶対神経質で几帳面な人だね。」
「お前にはそう見えるか?」
「うん。だって・・・・・・・えぇ!?」
あまりに綺麗に並べられた棚を見て思わず洩らした独り言に
返ってくるはずのない返事が返ってきた。
「柳君!?」
ここの部員は忍者修行もしてるんですか!?
部室に入ってきた事にまったく気付かなかった・・・・。
「この棚は俺が管理している。」
「そうなんだ・・・。って言うかなんでいるの!?」
なんか普通に会話してるけどいいんですか!?
「精市があんな調子では練習にはなるまい。」
「そうだ!ねぇ?精市君はどうして怒ってるの?」
「わからないのか?」
「わかんない。」
「教えてやらないでもないが・・・・。」
「ホント!?教えて!!何!?何!?なんなの!?」
理由もわからないのに怒られるとか気持ちのいいもんじゃない。
知っているなら是非教えて欲しい!!
私が懇願の眼差しで柳君を見上げていると、時計をチラリと見た後
「俺に協力してくれるなら教えてやろう。」と言われた。
「協力って?」
「得たい情報がある。」
「それを私が調べるの?」
「いや。そうではない。ただ黙って俺のする事に合わせてくれればいい。」
「する事って・・・・?」
そう聞いた時、部室の向こうから誰かの足音が聞こえ扉が開かれる音がした。
「っ!!!」
誰が来たのだろう?と扉の方へ視線を移した瞬間、
柳君の左手が私の腰を引き寄せ、右手は顎を捉える。
そして次の瞬間には整った顔が今にも触れてしまいそうなほど近づけられた。
密着した体に目の前にはドアップの柳君。
しかもいつも伏せられている瞼が・・・・・・開眼してるんですけどぉぉぉぉ!!??
声を出そうにも驚きすぎて声がでない!
それに唇の前には柳君の長い人差し指が添えられていて
「声を出すな。」と言われているようだ・・・・。
だけど息が触れてしまいそうな距離・・・。
そして体に伝わる柳君の鼓動・・・。
これって・・・なんの羞恥プレイですかぁぁぁ!?
耐え切れず瞳を硬く閉じると小さく柳君が笑った気がして余計に恥ずかしくなる。
それにしても長い!!いつまでこんな事してんの!?
てか、なんでこんな事になってんの~!?
テンパった頭で必死で考えていると聞き覚えのある声が柳君の向こうから聞こえた。
「蓮二。いつまで待たせる気だい?」
その声は~!!!!
さっきコートで聞いたよりもさらに低い地を這うような声に私は柳君から飛び退いた。
「せ、せせせせせせせいいちくん!!!!」
「そんなに待たせたか?すまなかったな。」
焦る私を前に冷静な柳君と表情の読めない精市君が向き合っている。
「どういうつもりなのか是非聞きたいな。」
「説明が必要か?見たままだがな。」
「蓮二が無理やり悠奈にキスしてたって事?」
「無理やり?そう見えたのか・・・?それともそう思いたいのか・・・?」
「蓮二。これ以上俺を怒らせない方がいい。」
なんですかこれはぁ~!?
何の修羅場!?
間違ってるよね!?何かが間違ってるよね!?
秋と呼ぶにはまだ早く、残暑の残るこの季節。
だけど全身鳥肌立っちゃうほど寒いんですけどぉぉぉぉぉ!!!
身を震わせながらどうしたものかと考えていると、
「予想以上だな。」
「へ?何が・・・?」
「俺の用事はもう済んだ。先にコートへ戻っている。」
一人勝手に納得して、柳君はさっさと部室を出て行ってしまった。
えぇ~!?今この状況で私を置いていくんですか!?
って言うか、約束は~!?
精市君が怒ってる理由教えてもらってないし!!
部室には、呆然と柳君が出て行った扉を見つめる私と唇をかみ締め俯く精市君。
気まずい・・・・。気まずすぎる!!
私も何もなかったように立ち去ってもいいですか?
何か声をかけて逃げ出そうかと思ったけれど、
ふと見た精市君の握られた手が震えている事に気付き
私はその手にそっと自分の手を添えた。
「・・・・・なんのつもり?」
「そんなに強く握ったら手が傷ついちゃうよ?」
「だから?」
「テニスできなくてもいいの?」
「悠奈には関係ないだろ?」
「でもっ!!」
そんな悲しそうな顔で・・・・そんな苦しそうな目で私を見るくせに
差し伸べた手を振り払おうとする姿は、警戒心を剥きだしにした野生の猫のようだ・・・。
「精市君・・・。」
もう1度ゆっくりと手を重ねてみたものの、何て言葉を書ければいいのかわからず、
ただ名前を呼びながら・・・包み込むようにその手を握り締めた。
「ごめん・・・。」
ポツリと囁かれた言葉に顔を上げると、弱弱しい笑みを浮かべ、
もう1度「ごめん・・・。」と言いながら私を抱きしめた。
「精市君・・・?」
「少し・・・・少しだけでいいから・・・このままでいて・・・・。」
きつく抱きしめられた腕の力はさらに強まり、苦しいほどだったけれど
私はそっと、精市君の背中に自分の手を回した・・・・。
***************************************
今回は柳とユッキーでした。
前回のキングのお話とは打って変わってなんだかシリアスな終わり方ですね・・・。
ユッキーどうした!?ww
蓮二の謎の行動はご想像にお任せします(笑)
そろそろ仁王書きたい・・・。(勝手に書けよ)