連載ですので続き物となっております。
Vol.1 ・Vol.2 ・Vol.3 ・Vol.4 から先にお読みください。
七転び八起き -Vol.5-
絡まる視線・・・漂う香り・・・響く吐息・・・・。
今のは夢・・・?それとも現実・・・・?
嘘であって欲しいと思う・・・。
だけど私の口の中には・・・丸まったガムが転がっている。
崩れ落ちそうな足を踏ん張り何とか体を支え、
立ちふさがる彼から逃げ出そうとしたその時・・・
激しい音を立て部室の扉が開いた。
「ヤベ・・・・また真田副部長に・・・って仁王先輩!?
はぁ・・・また違う女ッスか!?部室に連れ込んだりして
幸村ブチョーに怒られてもしりませんよ!?」
部室へと飛び込んできた人物は、私と仁王君を目にし
一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに呆れ顔で視線を逸らし
深いため息をついた。
「人聞きが悪い・・・連れ込んだんやのうて自分で飛び込んできたんじゃよ。」
「へえ・・・アンタ勇気あんね。」
そんな会話をしながら自分のロッカーを開き
スルスルとネクタイを解いていく・・・。
えっ!?この状況で着替える気ですか!?
ってかその前に覆いかぶさる様に立つこの人どうにかしてください!!
必死に視線で訴えてみても、まったく気にもとめず
シャツのボタンに手を掛け上から順に外していく。
私が1番会いたかった切原君。
無邪気な笑顔が可愛いと私達報道部でも人気が高く、
こんな弟がいたらいいよね~、なんてよく言っていた。
だから可愛いイメージが強くて、もっと少年のような感じかと思っていたのに
肌蹴たシャツから覗く胸元は思った以上に引き締まっていて
急に込み上げてきた恥ずかしさに、慌てて視線をずらした。
「顔が赤いぜよ?」
「!!」
「赤也の着替えに欲情したんか?」
からかう様な口調で顔を覗き込まれ一気に顔に熱が篭る。
羞恥のせいで沸騰した頭は冷静さを失い、
私は突き放すように前に立つ仁王君の胸を押し、
手の中にあるガムを奪い返し、部室を飛び出した。
「なんなんスか今の・・・?」
「幸村が連れてきた・・・新しいオモチャじゃよ。」
扉が閉まる前にそんな声が聞こえた気がした・・・・・。
別に初めてのキスは、どこで、どんなシチュエーションで・・・なんて
乙女チックな憧れがあるわけでもなかったけど
相手くらいは好きな人がよかった・・・・。
あんな風に初めて会った人に奪われるなんて・・・・。
なんか今日は耳舐められたりキスされたり厄日だな。
しかも相手はあの精市君と仁王君ときた・・・。
もし誰かにバレたら私の学園生活終わったも同然だ・・・。
ボーっとした頭でフラフラと歩いていると
いつの間にかテニスコートの前まで来ていて
私を見つけた丸井君が駆け寄ってきた。
「原!!遅すぎだっつーの!何してたんだよ!?」
「へ?あ・・・ごめん・・・。」
「なんかあったんか?」
「な、なんかって?」
「ん?お前グリーンアップルの香りがする!?」
「えぇ!?そ、それは・・・・。」
「あぁ~!!なんでこれ開いてんだよ!?お前食ったのか!?」
「えっと・・・・あの・・・・。」
手に握り締めていたガムの封が切られれいる事に気付いた丸井君が
悲壮な顔で私に詰め寄ってくる。
「これは仁王君が開けて、口移しで食べさせられた。」
なんて言えるわけないし・・・どうしよう!?
必死で頭フル回転で言い訳を考えていると
私の肩を掴みカクカク揺らしている丸井君の後ろを
悠々とした足取りでこの原因となった人物が歩いていた。
何その顔~!!
まるで他人事のように「さてどうする?」とでも言いたそうな顔で
私達を横目で見ている。
くっそ~!!覚えてろ~!!!
「おい!聞いてんのかよ!?」
「き、聞いてます!!あの、その、ガ、ガム食べちゃってごめんなさい!!」
「人のもん勝手に食うなんて信じらんねぇ!!」
「ごめんね・・・。ま、丸井君が好きな味がどんなのか知りたくて!!」
「はぁ!?」
「丸井君が好きって言うくらいだからすごいおいしいんだろうな・・・・
って思ったらすぐにでも食べたくなっちゃって!!」
我ながらなんて苦しい言い訳・・・。
しかもこれって言い訳というか・・・自滅?
だけど丸井君はなぜかすごく嬉しそうに微笑み
「なんだ、それならそうと言えって!!で?ウマイだろぃ!?」
と、グリーンアップルのおいしさについて語りだした。
なんかよくわかんないけど・・・機嫌を損ねずにすんだのか?
ホッと胸をなでおろし、愛想笑いで丸井君の話しに相槌を打ちながら
数メートル先でこちらを見ている仁王君に視線を向けると
なんとなく満足そうな顔で小さく頷き、
そのままふらりとどこかへ行ってしまった。
何がしたかったのだろう・・・・?
よくわからない人・・・・・。
彼の背中を見送りながら私は心の中でそう思った。
「馬鹿もん!!遅刻など言語道断!!」
丸井君のガム語りからやっと解放され、
お詫びに明日ガムを箱買いしてくる約束をさせられていると
パーンッ!と鳴り響く音と共にフケ顔キングの怒声が聞こえてきた。
声のした方を見ると、人が宙を飛んでいる。
えぇ!?吹っ飛んでますけどぉ!?
仁王立ちで立つフケ顔キングの足元で
頬を押さえ倒れているのはさっき部室で会った切原君。
これって体罰じゃないの!?
隣の丸井君を見てみれば、なんて事ない顔で「約束忘れんなよ。」
なんて話を続けている。
マジですか!?心配してあげないの!?
「丸井君、いいの?」
「何が?」
「何がって・・・切原君叩かれてるよ?」
「そんなの日常茶飯事だぜ?」
「そうなの!?テニス部って体罰制!?」
それってどうなの!?
遅刻して鉄拳とかありえなくない!?
だけど丸井君が言うようにここでは当たり前の光景なのだろう。
誰も気にも留めていない様子・・・。
「グラウンド100週!!」
鉄拳だけではなくグラウンドまで走らせるの!?
しかも100週って・・・。
自分の事じゃないのにやりきれない気持ちになる。
何も言わず立ち上がり走り出した切原君を
なぜだかそのまま見送る事が出来ず、私はその背中を追いかけた。
NEXT
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やっと赤也登場。
だけど進展は次回に先送り・・・。ww
引っ張る引っ張る♪←