寝る人 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 自宅で寝る人を世話している。彼は常時、睡眠状態にあり、滅多に目覚めない。私の眠りを代行してくれている。彼のおかげで私は睡眠を取らないで生きていける。

 その替わりに私は彼が心地良く眠っていられるように快適な環境を整えている。寝室の壁は防音素材で出来ているので外部の音が伝わってこないし、空調設備によって温度や湿度が調整されている。それに、窓がなくて室内の照明が灯されていないので私がその部屋で行動する場合には眼球の暗視機能を活用する必要がある。

 寝心地が悪くて睡眠が浅くなれば私の意識も影響を受けて気持ちがぼんやりとしてくるので彼の世話を怠るわけにはいかない。少なくとも一日に二回は点滴を打って栄養を補給してやる必要があるし、濡れタオルで全身を拭いて垢を取らなければならない。或いは、定期的にシーツを取り替えなければならないし、部屋を掃除しなければならない。それに、たまに屋外に運び出して日光浴の機会も設けている。

 寝る人の世話はなかなか骨が折れる作業である。おかげで私は数日間に渡る旅行などには縁がない生活を続けている。ずっと眠らないで活動しているが、その割には行動範囲が狭い。

 ただ、私は鬱憤を抱えているわけではない。それどころか、現在の生活に幸福を覚えている。なぜならば、私は寝る人を愛おしく感じているのである。彼の世話をずっと続けていたいと思っている。彼の安眠が私の意識を支えている。結局のところ、私達は一人の人間なのである。


「人」シリーズ

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