読む人 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 図書館へ行く。毎日のように通い詰め、既に数万年が経過しているが、まだ目を通していない蔵書が山のようにある。未読の書物は尽きる気配がない。そもそも世間で新たに発表される出版物の量が私の読書速度を常に上回っているのである。だから、私は容赦なく読み漁る。手加減はしない。永遠に続いていく道を歩いているのだという揺るぎない確信が心地良い安堵感をもたらしてくれている。
 
 ここのところ私は料理の指南書を重点的に読み耽っている。そこで仕入れた知識を参考にして自宅で実際に作ってみる場合もある。大抵は予想通りの味になる。滅多に外れないので私としては鼻が高いのだが、的中した事実を他人に証明できないので歯痒い。

 美術評論にも関心を持ち始めた。実際に美術品を鑑賞する機会はあまり多くないので紹介されている作品は馴染みがないものばかりだが、まだ未踏の芸術分野にも広大な世界が広がっているのだと想像してみると心が躍る。読書の合間に美術館を巡ってみようかと考えている。

 どうも時間が足りない。調理する人と、美術館巡りをする人が必要である。そういえば、過去には旅する人や音楽を聴く人などと袂を分かったはずだが、彼等は達者に暮らしているだろうか?自分という人間はどうやら薄情に出来ているらしく、分裂した後はほとんど音沙汰がない。事後報告がないので欲求を託したというよりも、欲求を失ったという実感が強い。まぁ、こちらとしても欲求が失われたからには、もはや用済みなわけだが。


「人」シリーズ

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