永遠に階段を | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 一定の速度を保ちながら意識が滑らかに階段を上り続けていた。夢を見ているという自覚を持った瞬間を境として環境と行為が固定化されたらしかった。疲労は感じなかったが、すぐに飽きた。しかし、その状況から抜け出せなかった。私は階段を上り続けた。

 階段はどこまでも尽きなかった。私は気が遠くなっていくように感じた。ただ、その一方で、次の瞬間にも階段が途切れるかもしれないという可能性に対して不安を抱いていた。どうも意識の根底では既に現状に順応しているらしく、変化を忌避する気持ちが生じていた。

 しかし、永遠に上り続けられる階段など実在し得るはずがなかった。地面から遠く離れれば重力の影響が軽減していき、やがて足が階段を踏まなくなるはずだった。だから、現状は荒唐無稽な夢の産物であるのに違いなかった。その確信はあるのだが、目は覚めなかったし、状況にも変化が起きなかった。

 私はいっそ一切の違和感と自覚を捨て去り、永遠に階段を上っていくだけの単純な存在になりたいと望んだ。飽きるという心理自体に飽きていた。そもそも私は階段を上っているという現状の他にはっきりと思い出せる記憶を持っていなかった。

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