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じ、次回こそ、終われるはずっ!
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「これはどうにかしてほしいことじゃなくて、お願いなんだけど……」
「私にできることでしたら、根性でなんとかします!」
(↑その根性ではいかんともしがたい曲解思考)
「…キョーコちゃんの"お母さん"のところにもご挨拶に行きたい」
「は……?」
「俺と一緒に暮らしてほしいんだ これからずっと」
「いいんですか? …本当に?」
ぱあっと瞳を輝かせた後に、おそるおそる様子を見つめてくる。
そんな可愛らしい反応の意味を、彼は学習能力により正確に察する。
「言っておくけど、弟子とかじゃないからね?」
「え…」
それ以外に何が?と表情で物語る少女に、どまんなかストレートな求愛球が投げられた。
「俺のお嫁さんになって」
「は………………」
それはもう、勝手にバットに当たる勢いの球である。
言葉だけであれば曲解のすきもあるのだが、指輪を差し出されながらの発言に、さすがの少女も本気でプロポーズされているのだと認識した。
(※実のところ、挨拶にうんぬんの前置きはプロポーズの言葉と同時に指輪を出すための時間稼ぎ)
「もちろん、これは婚約指輪だよ 結婚指輪は一緒に選ぼう」
しかし、もう疑問の声をあげることすらなくキョーコは口をあんぐりと開けたまま硬直していた。
「そんな驚かなくても…俺も君も結婚できる年齢じゃないか」
再度の呼び掛けで、何とか恋のスペースデブリ地帯から帰還したばかりの少女は、うなだれながら呟いた。
「無理です……敦賀さんが本気で私を好きになってくれていたとしても無理なんです……
私は演じることもできない愚か者になるなんてできません」
身を切るような思いで言葉を吐き出し、腕をつっぱねることで距離をとろうとした。鈍りそうになる決心を振るい立たせるように思いっきり力をこめる。
そして、当然に解放などしてもらえるはずもなく。
頭上から声が降り注ぐ。
しかし、それは落胆する様子もないあっさりとしたものだった。
「なんだ そんな心配してたの?」
彼自身の経験から、怖れるものがあって1歩を踏み出せなくなる心理はストンと理解できた。
「"なんだ"って…!」
一方、尊敬する人間相手とはいえ、キョーコは自らの根幹に関わる深刻な悩みをその一言で片づけられたことに怒りを覚えた。
「私にとって、演じることはやっと見つけた大切な私の一部なんです! それができなくなるなんて、死にも等しいことなんです!!」
いやむしろ、演技が好きだという気持ちを認めてくれたと思っていただけに、そこにはかなりの苛立ちがこもっていた。
「うん 知ってる だから、これだけ演じることが好きな君が、ずっと俺のことだけ考えるなんて無理なのに、いらない心配してるなって」
蓮は、神々しい笑顔とともにその杞憂を解そうとする。
さきほど思っていたことが誤解だったと分かり、元からの怯えに申し訳なさもあいまって、少女は再び俯いた。
「……でも、バレンタインのときは 私…未緒になれなくて……」
「そうなったときには俺が救いあげるよ」
全力で振り払おうとしていても、蓮は優しい言葉を甘いテノールで囁きながら包み込み続ける。
キョーコは、それらに流されそうになるのを必死でこらえていた。
「だめです…今でも…こんなふうに面倒をかけてばかりだから……さらに不甲斐ないことになります…」
今でも、ふらつく足下を支えるように、そのからだのなかに包まれている。
震える心臓が邪魔をして、はっきり響く主張をすることもできずに、弱々しく抵抗の言葉を絞り出すだけ。
腕も震えてしまって、年下の少女すら振り払うことはできないだろう。
「面倒だなと思ったことなんてないよ 逆に、少しは俺にも救わせてほしいくらいだ」
向けられているのは、愛おしさのこもった眩い笑顔。
(本当に、常人には手の届かないところにいるのが似合う人よね)
そんな風に自分を受け容れる蓮が眩しくて、その遠さになおさら切ない気持ちが募る。
「救ったなんて…覚えありません 私、いつも敦賀さんに頼ってばかりで……」
「御守役の依頼が終わったときに言ったんだけど覚えてない?『役をやり遂げられたのは君がいてくれたから』だって」
「それは…敦賀さんが堕ちるのが嫌だっただけで
救うだなんてキレイなものではないです ただ、尊敬する演技者でいてほしいって、私のためにしたことです」
今まで箱に閉じ込められてきた想いを表に出せば、そこにはただ醜いモノだけが詰まっている。
キョーコにはそんな風にしか思えなかった。
「それじゃあだめなの?」
そう問いかける彼に、かすかに憂いの色があることにキョーコは気がついた。
(どうして、今まで気がつかなかったのかしら)
そんなはずがないという盲信が消えた目で見てみると、言動のそこかしこに蓮の好意が感じ取れた。
「キョーコちゃんと演技をするのは楽しいから、俺にできるアドバイスはしたいと思うし、それで芝居も俺のことももっと好きになってくれたらなんて下心もある」
誰よりも芝居に真摯に向き合っている蓮の発言に思わず声が漏れる。
「うそ……」
「本当のことだよ もっと輝く姿を見たいのも、ずっと笑っていてほしいのも、色々な下心も全部キョーコちゃんが好きだからなんだ
こんな"好き"は嫌?」
「………いや、じゃないです…」
思わず、その問いかけに答えていた。
ほうと息を吐く音が聞こえたかと思えば、顔に少し重みがかかる。
「よかった…軽蔑されなくて」
寄り掛かるような抱擁と、心底ほっとしたような呟き。
それと一緒に、最後の鍵がゴトンと落ちる音をきいた気がした。
「軽蔑なんてしません 私なんか…醜い下心だらけです」
その細腕が、恐る恐るといった様子でその広い背中に回される。
「そんな心ごと欲しくてたまらないんだ」
笑みを咲かせながら、蓮はふたたび答えを求めた。
「ねえ…お願いきいてくれる?」
キョーコは綻ぶ花のようなはにかみ笑顔でコクリと肯いた。
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最終更新日:2013-12-09
※よほどのシーンじゃないと注釈機能をOFFれない書き手です
通常ではこういうシーンくらいですね(´∀`;)