の関係を満たす。これを図1のように3次元で考えると、
で与えられるが、簡略化して式(1-1)で表わすとする。また、振り子の運動方程式を解くことで、振動数νと力学的エネルギーEの関係、
が得られる†。さらに図1において、電磁波の圧力がする仕事Wは電磁波の放射が壁面に当たるエネルギーの総和であるため、
を満たす。
以上の条件から、式(1-1)の両辺を微分すると
の関係を得る。この関係と式(1-3)から、新たに
を得る。また、空洞の体積をVとすると、V=L3であるから、合成関数の微分より
となり、式(1-6)は
と書ける。この式は、空洞の体積を断熱的にdVだけ変化させたときのs番目の固有振動のエネルギーの変化dEsを示す。この式(1-8)を(1-4)に用いると、空洞の体積をdVだけ変化させるために必要な仕事dWが
で与えられる。これは、ΣEsが空洞中の全エネルギーであることから、ΣEs/Vは空洞中の単位体積あたりのエネルギーであり、エネルギー密度を示す。このエネルギー密度をUと書くと、式(1-9)は
と書ける。この式から、立方体のそれぞれの壁に及ぼす放射圧の平均が、(1/3)Uであることがわかる。ここで、エネルギーがした仕事Wをエネルギー密度を用いて表すと、W=VUと書けるため、式(1-10)は
となる。この微分方程式を解くと、
を得る。このAは積分定数である。
式(1-12)を元にカルノーサイクルによって、この系の状態変化を考える。
図3.空洞のカルノーサイクル
条件より、断熱系を想定しているため、式(1-12)よりサイクルの出発点1において、U=U1、V=V1であるとすると、A=U1V14/3を得る。さらにこのAを式(1-12)に用いると、状態2の体積V2は
と求められる。
次に、状態2の空洞を温度T2の熱浴に浸して、等温的に体積変化を行い、体積V3まで膨張する。この状態3におけるエネルギー密度はU2に等しい(これは理想気体の内部エネルギーから得られる)。このことから、空洞のエネルギーはΔU=U2(V3-V2)だけ増加するため、空洞は膨張のために、熱浴から熱量を吸収する。また、このとき空洞は式(1-10)により、放射圧(1/3)U2を壁に及ぼしつつ膨張するため、この過程の間に外部に向かってΔW=(1/3)U2(V3-V2)の仕事がされる。よって、この過程で吸収される熱量ΔQ=Q2→3は、熱力学の第一法則により、
となる。これに式(1-13)を用いると、
と書ける。
次に、再び空洞を熱浴から切り離して、断熱的に膨張させる。エネルギー密度が初めのU1に戻るまで行い、その状態を4とする。式(1-13)の結果と同様に、体積V4は
で与えられる。エネルギー密度がU1であるため、状態4における空洞の温度はT1になるはずである。そのため、今度は温度T1の熱浴に浸し、等温的に空洞を圧縮して体積V1へ移行する。こうして空洞は出発点の1に戻る。この状態4から1への過程では、空洞は熱浴に熱エネルギーを放出する。その量は式(1-15)の結果と同様に、Q4→1は
である。
これらの結果から、このサイクルは熱力学の第二法則により
が成立たなければならない。そこで、式(1-15)と(1-17)をここに用いると、
を得る。これを満たす解は
である。ここで、エネルギー密度Uは、温度Tのみの関数であるため、式(1-20)から
となる。□
出典:量子力学Ⅰ 朝永振一郎著 P.1~ 第一章エネルギー量子の発見
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†については、次回詳細を示す。
今回は熱放射の理論として、歴史的に初めて得られたステファン・ボルツマンの法則についての証明をまとめた。量子力学の礎となったことで、名前程度は知っている人も多いだろうが、個人的な勉強不足から、今一度細かく導出をしてみた次第である。
ステファン・ボルツマン定数σは今回のような、古典的な波動の理論と、熱力学の理論では決定することができないようであるため、別の機会に追って議論する必要があるだろう。
今回の証明では、断熱系の空洞を想定して計算を行ったが、要するにこれは、熱放射である電磁波を一切減衰させないという意味で、黒体と同義である。
放射のエネルギー密度が温度の4乗に比例するというのは、学生の頃に非常に奇妙に感じたものである。物理学において、ある物理量の4乗の関数など聞いたことがなかったためである。しかし、こうして実際に手を動かして求めてみると、議論自体は正しいようであり、このような結果を得て良しとしたボルツマンの慧眼には恐れ入る。
統計力学の徒として、ボルツマンに敬意を表する。