小林頼子の「フェルメール 謎めいた生涯と作品」を読んだ! | とんとん・にっき

小林頼子の「フェルメール 謎めいた生涯と作品」を読んだ!

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小林頼子の「フェルメール論―神話解体の試み」という単行本が、八坂書房から刊行されているのは知っていました。やや大判で分厚いこの本を、本屋で手に取って見たことがあります。しかし、1998年の発行というのでやや古いことと、価格が8295円(税込)とやや高価なので、今まで買うのを躊躇していました(増補新装版も出ているようですが)。小林頼子はフェルメール研究の第一人者と言われており、この本「フェルメール論―神話解体の試み」は、彼女のフェルメール研究の集大成だそうです。副題の「神話解体の試み」とは、「フェルメールは没後忘れられ19世紀半ばに再発見された」という俗説の見直し等々、蔓延する神話的言説の解体を試みた渾身の研究書だということのようです。


さて今回、角川書店から発行された文庫「フェルメール 謎めいた生涯と作品」は、1998年に八坂書房より刊行された上記の「フェルメール論」から、「主として作品分析にかかわる部分を抽出し、加筆・訂正・削除を施し、さらに第一章として、画家の生涯を簡単に概観した新原稿を書き下ろして編まれた」ものです。黄色い表紙に青いターバンを巻いた「真珠の耳飾りの少女」が、印象的に配置されています。帯には「名画を手元に。隠された秘密も解き明かすハンディサイズのガイド本」とあります。


文庫化にあたっては「フェルメール論」の掲載されていた基本史や資料編、注や索引はすべて省略したものとなっています。全体として「フェルメール論」の内容の1/4程度が収録されています。文庫化の狙いは、当然ですが、「手軽にどこでも読める」こと、そして「バックの底にあっても邪魔にならないフェルメール本」ということにあるようです。しかも「全作品カラー掲載!」、まさに僕のような読者には、願ってもないフェルメール本です。その「フェルメール論」、刊行からちょうど10年、小林は今回改めて読み通して、書き直すべきところがほとんどないと自信を示しています。僕が分かりにくかったのは「フェルメール研究の核となる様式論に厳密に取り組んでいたからだと自負する」としている「様式論」についてです。建築の様式はよく分かるのですが、僕の理解力のなさに起因しているとは思うのですが、絵画の様式は、よく分からないままでした。


小林頼子の「フェルメール 謎めいた生涯と作品」を一気に読みました。今まさに東京都美術館で「フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち」という展覧会が開催されています。フェルメールが生涯残した作品はわずか30数点、そのうちの7点が上野の東京都美術館に集結しています。それに合わせて、でしょうが、芸術新潮9月号は、愛蔵版特集として「やっぱり気になるフェルメール」、そしてこの雑誌の特徴は「世界全16美術館完全ガイド付」となっています。お金と時間さえあれば、この雑誌を手にフェルメール全点踏破も夢ではありません。昨年の暮れには、「『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展」が、国立新美術館で開催されました。


小林頼子は、「フェルメールがかくも愛されるわけは、どこにあるのだろうか」と問います。その答えとして「作品数が少なく希少性が高いこと」、「作品の光学画像を思わせる特徴があること」、「犯罪の匂いがついてまわること」、「昨今の展覧会事情」などの外的要因と共に、「17世紀絵画なのに、鑑賞のために特別な神話や宗教の知識がいらないように思えること」、そして「作品が、形も、構図も、考え抜かれ、何一つ変更ができないほど完璧につくられていること」などを挙げています。



ve4 「フェルメール論―神話解体の試み」(単行本)
著者:小林頼子
価格:8295円(税込)
出版社: 八坂書房
発売日:1998年8月
近年、欧米で300年ぶりにフェルメール作品を一堂に会した展覧会が開かれ大変な話題を呼んだことは記憶に新しい。その影響もあり、この数年間にフェルメールに関する研究は、格段に広がりと深みを増した。生前における画家としての活動・知名度・人間関係・経済状況を見直させる史料の発掘、X線写真等による個別作品に関する最新の諸情報、そして、「フェルメールは没後忘れられ19世紀半ばに再発見された」という俗説の見直し等々、近年発表された史・資料、解釈、分析は実に多くを教えてくれる。本書は、これら最新の研究成果をふまえた上で、さらに新たな発想に基づく新しいフェルメール像を提示し、蔓延する神話的言説の解体を試みた渾身の研究書である。



ve3 「芸術新潮 2008年9月号」
価格:1500円(税込)
出版社: 新潮社、月刊版
発売日:2008年8月25日








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