「フェルメール全点踏破の旅」を読む! | とんとん・にっき

「フェルメール全点踏破の旅」を読む!

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著者はニューヨーク在住のジャーナリストである朽木ゆり子、「盗まれたフェルメール」とか「謎解きフェルメール」など、ジャーナリスティックにセンセーショナルなタイトルの本を出しており、そのせいか今まで敬遠してきた著者の一人です。が、この本、「フェルメール全点踏破の旅」、もちろん出版社の企画に著者がうまく乗った本ですが、やはりフルメールを知る人には誰もがうらやむ企画でもあります。ということで、ついつい買って読んでしまいました。新書ですが、ヴィジュアル版ということで写真はすべてカラーだし、案に相違してけっこう楽しめました。出版社からの内容の紹介は下記の通りです。


日本でもゴッホと並ぶ人気を持つ17世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール。その作品は世界中でわずか30数点である。その数の少なさ故に、欧米各都市の美術館に散在するフェルメール全作品を訪ねる至福の旅が成立する。しかもフェルメールは、年齢・性別を超えて広く受け入れられる魅力をたたえながら、一方で贋作騒動、盗難劇、ナチスの略奪の過去など、知的好奇心を強くそそる背景を持つ。「盗まれたフェルメール」の著者でニューヨーク在住のジャーナリストが、全点踏破の野望を抱いて旅に出る。


フェルメールの絵は、2004年に「画家のアトリエ」が日本に来ました。NHKの新日曜美術館で「画家のアトリエ 」を取り上げて、美術家の森村泰昌 に依頼してアトリエも再現し、モデルも森村が女装して写真を撮影したことや、「カメラ・オブスキュラ 」を専門に研究している方が出て、フェルメールの画法を巡っての議論がされていたことを、ブログに書いたことがあります。その後、2005年には「窓辺で手紙を読む女」、そして「恋文」が来ました。残念ながらフェルメールの絵は、僕は一枚も観ていないようです。


真珠

つい先日観たウッディ・アレン監督の映画「マッチポイント」、主演はスカーレット・ヨハンソン、なかなか演技派ものでしたが、その前に観たのが「真珠の耳飾りの少女」でした。著者によれば、世界的なフェルメール・ブームの原因の一つは、英国に住む米国人作家トレーシー・シュヴァリエが書いた小説「真珠の耳飾りの少女」(白水社、2000年)と、それを下敷きにした映画のヒットだとしています。小説は、フェルメール家で働く若い女中が、画家に望まれて「真珠の耳飾りの少女」のモデルになる様子を描いた物語です。映画では、官能的な唇を持ちながら純粋な雰囲気を併せ持つスカーレット・ヨハンソンが女中役を演じたことから、画家との恋愛や妻の嫉妬が強調された映画になりました。


もちろん、フェルメール家の女中が「真珠の耳飾りの少女」のモデルだったという証拠はどこにもありません。フェルメールで言えば、酒場で陽気に酔っぱらっている群像、室内の親子、林檎の皮を剥いたり、縫い物をしている女性、手紙を書いている女性、室内で楽器を弾く人々、等々、市民の日常的な生活を描いた風俗画が描かれています。肖像画、そして絵のモデルについて、著者は「トローニー」という言葉を使って説明しています。肖像画の形をとった人物像の半身像、これが美術用語で「トローニー」と呼ばれる絵だそうです。トローニーとは、フランス語でトローンtorogne(頭という意味の俗語)からきた言葉で、特定の人物を描いたものではない、不特定の人物の半身あるいは頭部像と定義しています。


朽木ゆり子は、執筆の動機や背景を次のように記しています。この本は過去十数年にわたる私の「フェルメール病」の集大成と言ってもいいだろう。きっかけは、ある男性ファッション誌から、フェルメールの作品全点を見に行って、創刊号に紀行文を書いて欲しい、と持ちかけられたことにあった。私にメールを送ってきた同誌の副編集長は「こんな荒唐無稽なことを頼んでいいのだろうか」と悩みながら依頼のメールを書いた、と後で教えてくれた。それを荒唐無稽とも思わず、喜々として旅に出た私はやはり「病気」だったに違いない。と。


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