「謎解きフェルメール」を読む! | とんとん・にっき

「謎解きフェルメール」を読む!


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先日読んだ小池昌代の「タタド」という本、三つの短編からなっています。「タタド」「波を待って」、そして「45文字」という作品です。その「45文字」ですが、主人公が東京に出てきて5年がたち、いきなり故郷の友達に会うところから始まります。中学時代の女友達のことがつい最近夢に出てきて、その同じ中学時代の男友達でした。君は何をしていると聞くと、編集の会社を作ったという。本とかパンフレットをつくっていて、忙しいらしく、仕事を手伝ってくれと言われます。そのまま友達の家に行くと、つい先日夢に見た女友達が彼の奥さんでした。


で、仕事ですが、美術全集、コンパクト版のビジュアル本で、名画鑑賞の入門書のようなものでした。絵の下にキャプションを入れる仕事で、一行、15文字まで、最大3行、はみ出し厳禁。その最初の仕事が、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」、英語のタイトルは「ミルクメイド」です。本文には「アムステルダム国立美術館に収蔵されている。1660年頃に製作されたもの。フェルメール代表作のひとつ」と書き込まれている。紆余曲折があって、最後に書いたのが次の文章。「注意深く牛乳を傾ける女。すべてが制止している清潔な室内で、落下する牛乳の筋だけが動いている。」というもの。46文字、一文字多いが、最後の句点は「ぶらさがり」で処理してもらえるから、これでいい、と。


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この作品「45文字」のテーマは、フェルメールとは違ったところにありますが、それにしても「牛乳を注ぐ女」について、微に入り細に入り書かれています。窓からの光の入り方とか、右下にある足温器のこととか、机の上の固くて頑固なパンとか、ミルク壺の傾きと流れ落ちる速度とか、女性の身分が女中であることがみてとれるとか。

さて、新潮社のとんぼの本、「謎解きフェルメール」を通して一気に読んでみました。著者は小林頼子と朽木ゆり子、共にフェルメール研究の著作を数多く持っている第一人者です。国立新美術館の「フェルメール『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展」を、多少意識してのことです。フェルメールの関する本は、朽木ゆり子の「フェルメール全点踏破の旅」、有吉玉青の「恋するフェルメール」に続いて、3冊目になります。この本、フェルメールに関しておおよそのことが書いてあり、「通史」として読むのに最適でした。僕が持っているのは、2005年5月30日第7刷のもの。最初の発行は2003年6月25日ですから、わずか2年で7刷です。


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なぜか「牛乳を注ぐ女」が最初にでてきます。「フェルメールはどこがどう凄いのでしょうか?」として、透視図法通り描いていないことが上げられています。ご丁寧に窓側の壁と平行にテーブルを置き直した画像まで載せていますが、僕は単に斜めにテーブルを置いただけのことだと解釈しても、なにも差し障りはないと思いますが、いかがでしょう?朽木ゆり子も「全点踏破」で小林頼子の説を踏襲していますが。「真作か?非真作か?」、「ダイアナとニンフたち」ですが、小林頼子はフェルメールの作ではないとしていますが、朽木ゆり子は小林とは異なった説のようです。いずれにせよ、フェルメールになる前のフェルメールらしくない作品とでも言うのでしょうか?もう一つ、「赤い帽子の女」と「フルートを持つ女」は、小林はフェルメールの作品ではないとしていますが、朽木はメトロポリタン美術館のリドゲの仮説を引用して、トローニーで「自画像」ではないかとしています。


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フェルメールが、同じ黄色い上着を着た女性を3枚も描いていたなんて、これを読むまで知りませんでした。「カメラ・オブスキャラ」の解説や、絵の中央の焦点から線を引いたものなどは分かり易かった。P96の「あれあれ、こんなフェルメール、あったっけ?」は、フェルメールの創作の秘密を知ったようで、おもしろい。つまり、背景と人物を取り替えても絵画として成り立つ、あるいは骨格は同じで、置物と人物を描き加えるだけでフェルメールの作品ができてしまう、とういうことなのではないでしょうか。この本、デルフトの街の紹介もあり、同時代の画家との比較もあり、写真が大きくて、分かり易い編集です。そして最後の「フェルメール年譜」と「フェルメールが見られる美術館」はよくまとまっており、フェルメール初心者にとっておおいに役に立ちそうです。


「謎解きフェルメール」新潮社


フェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展


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