第73期名人戦7番勝負/第4局「終盤戦を振り返ろう」
78手目△3三銀。
上図での持ち駒
▲羽生名人: なし
△羽生名人: 角、歩3
羽生善治名人に
行方尚史八段が挑戦する、第73期名人戦7番勝負。
羽生名人の2勝1敗で迎えた第4局は
上図78手目の局面で二日目の夕食休憩に突入。。
一時は1五の地点まで繰り出した銀を捌けないとみるや
▲2六銀~▲3七銀~と手数をかけて自陣まで引き戻した
羽生名人はその銀で、4筋での歩交換を敢行、歩切れの駒台に
貴重な一歩を乗せました。。
しかし、その歩をすぐに
行方陣営・2三の地点にオトリとして垂らし
狭い地点に馬を作ります(75手目▲1一角成)。。
いかにも苦しそう。。
羽生名人が苦心の末に手をつないでいるのは明らかで
行方八段がジッと受けに回ったのは気後れしたからではなく
勝つための必然なのだと思えました。。この辺りでは、まだ。
【 夕食のメニュー 】
おにぎり(梅ちりめん、葉山葵の茎)、赤だし
79手目▲3七桂。
上図での持ち駒
▲羽生名人: なし
△行方八段: 角、歩3
羽生名人の夕食休憩明けの一手は▲3七桂。
「棒銀」が控える2筋から仕掛けようにも、再び歩切れで
自ら動きようがないための苦肉の策にみえました。。
この手をみて、行方八段は。。
80手目△3六歩。
上図での持ち駒
▲羽生名人: なし
△行方八段: 角、歩3
「かかってこいよ」と
3筋の歩を突き出し、羽生名人を挑発。。
同時に「受け切ってみせる」という強い自信と
決意を表明しました。。
二日目の午後から
すでに攻め続けるしかない状況が続いている
羽生名人は10分の考慮で桂馬を連続跳躍。。
(81手目▲2五桂)
以下、△同歩~▲同銀~△3七歩成に
▲3四銀~△同銀~下図87手目▲2二金と進行。。
87手目▲2二金。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 歩
△行方八段: 角、銀、桂、歩3
ほとんど一本道の進行ながら
羽生名人は手にしたばかりの金を打ち込み
まずは2筋を制圧しました。。
94手目△3五銀。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 金
△行方八段: 角、桂、歩3
行方八段は玉を4筋に逃がすと(88手目△4三玉)
持ち駒を使って丁寧に2筋の封鎖にかかり
羽生名人の手を切らしに出ました。。
上図で羽生名人は
飛車を見捨てて馬で桂馬を捕獲(95手目▲2一馬)。
戦力を補強しながら細い攻めを切らさぬように
全神経を盤上に集中します。。
100手目△3五玉。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 金、銀
△行方八段: 角、桂、歩3
行方八段の狙いは「入玉」。。
手にした飛車を2二の地点に貼り付け(98手目)
3筋に作った「と」金とともに玉の前途を開きましたが。。
しかし。。
この時点での持ち時間は
羽生名人の1時間1分に対して、行方八段はわずか13分。。
残り時間の少なさが微妙な焦りを生んだのか。。次に
101手目▲1七銀。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 金
△行方八段: 角、桂、歩3
羽生名人は1筋に手持ちの銀を投入。
飛車取りをかけつつ、行方玉の進路を一つ封鎖。。
反撃のかすかな糸口が見出されたように感じますが
それでも次に▲2九か▲4八飛成で後手十分。。
の、はずでした。。
102手目△3八飛成。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 金
△行方八段: 角、桂、歩3
しかし、行方八段の飛車の逃げ場所は
「と」金の傘に入る3八の地点。。。
この時、ニコ生で解説をつとめる渡辺明棋王は
「(先ほどまではなかった)先手勝ちの変化が増えてきた」と断言。
後手に振れていたはずの形勢の針が激しく、揺れ動きだします。。
103手目▲3三桂成。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 金、歩
△行方八段: 角、桂、歩3
形勢の変化を誰よりも早く、そして強く感じたはずの
羽生名人は桂馬を飛び込ませて攻勢を強めます。。
上図から、以下
△2四玉~▲3四成桂~△同玉~▲2六銀~△3二歩に
▲2二馬~△3三桂~▲1三馬~△3六「と」金ときて
下図113手目▲3七香と激しく進行。。
113手目△3七香。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 金、銀、歩
△行方八段: 角、金、桂、歩2
後手陣で駒を捌いてから
羽生名人は行方玉の前途を完全に封鎖。。
「入玉」を阻止して、勝負を振り出しに戻しました。。
119手目▲9八玉。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 金、銀、歩
△行方八段: 角、金、桂、歩3
玉を自陣に押し戻された
行方八段は9筋の歩を突き越して端攻めを敢行。。
受け切りから一転、自慢の腕力で羽生玉を仕留めに出ました。
形勢を五分に引き戻した羽生名人は
9筋を受けた上図の局面で、指し手が震えます。。
時間のない行方八段は、直後に
9筋の歩を突き出し(120手目△9七歩成)
いよいよクライマックスへ。。
126手目△9八金。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 金、銀、香、歩3
△行方八段: 角、桂、歩3
上図の局面で次に
▲同玉と取れば△7八龍で後手の勝ち。
ということで羽生名人▲7九玉と逃がします。。
この手に対して
行方八段は最善に見える△4六桂(127手目)を投入。
「詰めろ」がかかって先手は受けの悩ましい正念場。。。
129手目▲6八銀。
上図での持ち駒
▲羽生名人: 金、香、歩3
△行方八段: 角、歩3
「これがたぶん、ただひとつの受けですよね」
終局後、羽生名人がそうコメントした▲6八銀が
勝負の明暗を分けた究極の一着。。。
▲6八銀以外の受けなら一手勝ちと読んでいた
行方八段は次に△5八角と迫るも、この瞬間
形勢は先手に傾きました。。
【 投了図・141手目▲8八玉 】
投了図での持ち駒
▲羽生名人: 金、歩2
△行方八段: 歩4
持ち時間を使いきり1分将棋に突入した
行方八段は懸命に食らいつくも、攻めれば攻めるほどに
先手陣はみるみると手厚くなり、万事休す。。
上図141手目の局面をみて
ほぼ勝勢から一転、行方八段無念の投了となりました。
逆に鬼神の追い込みで
尋常ならざる大逆転勝利を呼び込んだ羽生名人は
あらためて桁違いの集中力と精神力、そして終盤力をみせつけ
虎の子のタイトル・名人防衛に王手をかけました。。
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【 序 章 】
「私と将棋界」
柔らかブログ誕生のきっかけとなった
第21期竜王戦以降の将棋界を熱く振り返ります。
【 第一章 】
「愛知女子将棋界の駒音」
山口真子さん/中澤沙耶さんインタビュー
【 第二章 】
「明日咲く花」
今泉健司さんへのエール&ミニインタビュー