夢と現を掻き乱す、筒井康隆×今敏の名コンビ「パプリカ」 | 忍之閻魔帳

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■DVD:「パプリカ DX版
通常版Blue-Ray版UMD
■CD:「パプリカ オリジナルサウンドトラック」

劇場用作品としては「東京ゴッドファーザーズ」から3年振りとなる
今敏監督の期待の最新作。それが「パプリカ」である。

【あらすじ】

他人の夢に入り込み、共有することができる機械「DCミニ」。
最先端の精神治療に役立てるべく開発中の夢のマシンが、
何者かによって突如盗難された。
未完成の「DCミニ」はアクセス制御がされていなかったため、
本部のサーバーに不審者が侵入、
研究員の脳内が乗っ取られ、自殺や事故を引き起こした。
事件解決に乗り出したのは、謎の女性セラピスト「パプリカ」。
本当の犯人を見つけ出すため、
彼女は危険な夢の中へとダイブしていった。


「パプリカ」のブログパーツが配布中という記事の中で、

>ストーリーは「妄想代理人」、夢の世界の演出は「千年女優」といった印象

と書いたのだが、そのものズバリな内容であった。
人間の脳内をテーマに、極彩色の映像が猛スピードで展開する
今監督らしい作品に仕上がっている。
「千年女優」の特徴であった「騙し絵」的な場面転換は
ますます磨きがかけられ、夢と現を行き来するストーリーを掻き乱す
絶妙な効果を生んでいる。

アニメを使った人情劇、つまり「アニメらしくない作品」を作ろうとした
「東京ゴッドファーザーズ」が主要キャストを俳優で固めていたのに対し、
「パプリカ」の主要キャストは林原めぐみと古谷徹。
声を聞いただけで代表作が何本も思い付く
アニメ界を代表する二人を起用する一方で、
今監督と筒井氏も声優として登場している。
このお二人がお世辞にも上手いとは言えず、
最初は苦笑しながら観ていたのだが、ある時ふと思った。
林原・古谷の両名が完璧な「作り物の世界」を構築する建築家なら、
今・筒井の両名は観客を現実に引き戻す壊し屋なのではないかと。
結果的にそうなったのか、意図的なものかは不明だが、
スクリーンの向こう側に観客がさらわれないための
舫い綱の役割を果たしている。

導入部分のテンポが悪いことと
映像の使い回しが若干気になったのが難点ではあるが、
前半の状況説明は後半の為に避けて通れない部分であろうし、
使い回しに関しても、デジャヴュに似た効果を得るための装置と
好意的に解釈することも可能なので、
耐えられないほどの難点ではない。

私的には、「イノセンス」ほど説教臭くないことが嬉しかったが、
理論尽くめで考える方々には受け容れ難い部分も多かろうと思う。
難しいことはあまり考えず、映像マジックと平沢進の音楽に身を任せ
90分間の「夢物語」を楽しめばそれでいいのだ。
分からない部分は分からないまま放っておけばいい。
映画サイトで良く見掛ける「なんだか良く分からなかったけど面白かった」は、
本作に対する最大級の賛辞であり、
今監督にしてみれば、「してやったり」といったところであろう。

「時をかける少女」「パプリカ」「鉄コン筋クリート」。
大ヒットした作品こそない(「鉄コン」も無理であろう)が、
2006年は劇場用アニメの当たり年と言えるのではないか。

平沢進の音楽は本作も出色、サントラCDも即買いした。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:パプリカ
    配給:ソニー・ピクチャーズ
   公開日:2006年11月25日
    監督:今敏
    出演:林原めぐみ、古谷徹、江守徹、他
 公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/paprika/
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