A Musica De Edu Lobo Por Edu Lobo/Edu Lobo | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 このところサボり気味だったジムに行ったはいいけど、調子にのりすぎて筋肉痛になってしまった。わかっていることだが、いきなりハードにやったから効果があるものではなくインターバルを空けずに日々、地道に続けていかなければ意味がないのだ。これは色んな事に通ずる。作曲についても同様のことが言えるのではないだろうか。天から舞い降りてくるかのごとく、次から次にメロディーが思い浮かぶ、なんて事は余程の天才作曲家にしかあり得ないと思う。まれに次々にメロディーが思い浮かびことがあっても、それは日々のメロディーを探し求めて思い悩む苦行の中から生まれてきたものである。この世のモノとは思えないくらい美しいメロディーとか心地良いメロディー、まだ誰もきいたことのないような斬新な音使いのメロディーなんてのが、そう易々と生まれるわけがない。日々研ぎ澄ますべく磨き続けている感性と鍛錬し続けている作曲の筋肉がある時、理想的な状態でかみあった時に極上のメロディーが生まれてくる。生み出すべき努力を継続していかないと、このような奇跡の瞬間は訪れない、などと凡人の自分は日々言い聞かせているわけだ。商業音楽の場合はメロディーを書き上げる上で、さまざまな制約があるわけで、そういったものとは別に何の制約も受けない音楽を追求いていくことが許されれば、それこそ音楽家冥利に尽きるというものなのだが。
 さて、世の中に有能な作曲家は沢山いるけれどEdu Loboほど自分の創作意欲に対して率直かつ自由に活動して、尚且つ成功を手に入れている音楽家は中々いない。創作の自由を優先し、音楽に真摯に向かい合ってきたEdu Lobo。それゆえに多作家ではないが、GismontiPascoalJobimは別格として、その独創性や自己のIdentityを明確にした質の高い作品は自分にとって衝撃であった。天才作曲家の一人であることは疑いの余地はないが、寡作であるがゆえに日本などではその圧倒的な才能に対して話題になることは少なかった。しかしGiles Petersonが取り上げたことによりダンスフロアにLoboのナンバーが響き渡った時は痛快であった。北東部に伝わる民族音楽の多彩なRhythmが融合された躍動的なBeatに、Carlos LyraChico Buarqueと並び硬派な歌詞がのせられたLoboの曲で、皆が気持ち良さそうに踊っている。自分もその一人であったのは言うまでもない。

 『A Musica De Edu Lobo Por Edu Lobo Com A Participacao Do Tamba Trio
Edu LoboElencoから65年にリリースしたデビュー・アルバム。『エドゥ・ロボによるエドゥ・ロボ、タンバ・トリオと共に』という邦題がついている。そのタイトル通り、Tamba TrioLuiz EcaBebetoRubens Ohanaとの共演である。全12曲、Loboの作曲であり、Tamba Trioの見事な演奏で名曲の数々が永遠の輝きを放っている。Rio de Janeiro生まれのEdu Loboであるが、作曲家である父Fernando Loboが北東部Pernambuco州出身であることが作風に大きな影響を与えている。Nordeste的なさまざまな要素が融合された土着的神秘的、独特のRhythmが躍動する音楽、そして北東部の人々の苦しい生活を歌った庶民目線の歌詞泥臭さと洗練という相反する要素を共存させ、例え悲しい歌詞を歌っても前向きで生命感に満ちた音で人々に希望を与える。だからこそLoboの曲は時代を越えて人々を魅了し、高揚感を与え続けるのだ。それにしても本盤での、わずか21歳の若者が紡ぎだす独創的なメロディーの完成度の高さは驚くべきだ。
アルバム1曲目は“Boranda”。“さあ行こう”というタイトル通り、故郷を旅立たなければならない北東部の人たちの心情を歌っている。
Resolucao”はLui Ecaの素晴らしいピアノのイントロから惹きこまれてしまう。Ecaのピアノ・ソロも最高であるが、Loboの個性的で美しいメロディーと、“決心”というタイトル通り何があっても自分が変わることがないと決意表明したかのような歌詞が印象的だ。
Stringsとピアノの不安げなイントロから始まる“As Mesmas Histórias”はElegantなメロディーを歌うLoboの男前な歌声が炸裂。Loboの声の魅力はもっと評価されるべきだ。
BebetoFluteによるイントロが印象的な“Aleluia”は北東部の漁師の苦しい生活を描きながらも前向きなRuy Guerraの歌詞が素晴らしい。多彩なRhythmパターンとBebetoのFluteなどTamba Trioの演奏が貢献している。
Cancao Da Terra”は土着的なChorusに導かれたナンバー。BebetoのFluteとChorusが効果的。
弾き語りのZambi”。独奏的なメロディーとLoboの歌声に圧倒される。Vinicius de Moraesによる歌詞もまた北東部にまつわるものであり、Loboの表現力の高さも素晴らしい。
名曲中の名曲Reza”。初めてこの曲を聴いた時の衝撃は今でも忘れない。優美なStringsとTamba TrioのChorusが、また素晴らしい。
続いても名曲“Arrastao”。というか、これだけ名曲が揃っているデビュー・アルバムは、そうはないのである。“地引き網”というタイトル通り北東部の漁師の生活を歌った曲。見事な構成力と溢れだす独特のメロディーに言葉を失う。20歳になったばかりの若者が、どうしてこんな作品を書けるのだろう!
甘美なメロディーの“Requiem Por Um Amor”。
Cheganca”はGentleなLoboの歌声が素晴らしい。Ecaのピアノ・ソロとBebetoのFluteも最高。心地良過ぎる大好きな作品。
洗練を極めた転調とLoboの歌声に言葉も出ない“Cancao Do Amanhecer”。
最後を飾るのは“Em Tempo De Adeus”。A Cappellaで始まりViolinとLoboのVocal、ピアノのみでシンプルに聴かせるナンバー。それゆえ哀しげなメロディーが、その歌詞とともに胸を打つ。

参考資料:尊敬するケペル木村さんの日本盤CDの解説を参考に致しました。
(Hit-C Fiore)