ニシュタリ / メガマソ | 安眠妨害水族館

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ニシュタリ(生産限定盤)/メガマソ

¥3,996
Amazon.co.jp

CD1 【ニシュタリ】サイド
1. ザファーストニムバス
2. スノウィブルー
3. タイダルピンク
4. とても小さくて、きっともう見えない。
5. サイレントガール
6. エインシャントソング(ボーナストラック)

CD2 【シングルズ】サイド
1. MISS WAVES
2. shooting St.arz
3. リフレイン
4. VIPER
5. St.Lily

メガマソの2年ぶりとなるフルアルバム。
前作と同様、初回限定盤はコンセプトディスクと、シングルを中心にまとめたディスクの2枚組。
初回盤と通常盤では、ボーナストラックが差し替わっています。

本作は、Gt.涼平さんの見た夢から膨らませて、世界観を構築したとのこと。
過去の楽曲とのリンクもあるようですが、【ニシュタリ】サイドでストーリーが完結するように構成されているので、単体で十分に楽しめます。
世界観の解釈については、一部ネタバレも含みますので、まだ未聴の方はご留意を。

星の周りを巡る衛星。 星の人々からは衛星と認識されているが、名称は古来より「ニシュタリ記念宇宙ステーション」という名で伝わっている。
 「ニシュタリ記念宇宙ステーション」自体の情報は名称、そしてごく僅かに星の言語に残る伝承以外は失われていたため、詳細は把握されていない。
近年、ついに星の科学技術が星間飛行可能なレベルに達したため、 宇宙ステーションに留学生を送り込むこととなった。


オフィシャルで公開されている設定は上記の通りですが、本編は、留学生がニシュタリ記念宇宙ステーションに降り立ってからのストーリーが紡がれています。
留学生が、そこに住んでいる"白服人"をレポートする傍ら、"黒服人"による切ない物語が進んでいく。
「ザファーストニムバス」と、「タイダルピンク」が留学生と白服人の話。
「スノウィブルー」と、「とても小さくて、きっともう見えない。」が黒服人の話。
「サイレントガール」が、並行して進行していた2つの物語を結びつける、ネタバラシ的な楽曲となっており、ひとつひとつで完成しているのだが、最後に答えが明らかになったときのカタルシスが、その切なさを何倍にも増幅していると言えるでしょう。

初回限定盤には、劇中歌となる「エインシャントソング」が追加収録されているほか、物語を実体化させるためのイラスト集がハードカバーの絵本のような仕様で付属。
涼平さんの世界観にどっぷり浸かりたいのであれば、こちらをファーストチョイスとすべきなのですが、即日完売してしまっているので、手に入れにくくなってしまっているのが難点ですね。
それを踏まえて涼平さんなど制作陣がブログで一部解説を加えていたりするので、手に入れることができなかったリスナーは、そちらも参照されると良いかと。

さて、楽曲ごとにも触れていきたい。
「ザファーストニムバス」は、留学生がニシュタリ記念宇宙ステーションに降り立つシーン。
変則的なリズムと、独特の譜割りは、相変わらずの涼平節。
ずっしりとしたバンドサウンドと、スペーシーなシンセのギャップが特徴的です。
サビでポリリズムが、キャッチーなのにどこか不安を与えるような表現として効いていて、これは面白いな、と。
ちなみに、"CDを聴き始めて3分18秒、きっとあなたは“きゅん”と胸を掴まれる。"というキャッチコピーに該当するフレーズは、ラストシーンのキラキラとアウトロが進行していく部分。
それまでは不安の象徴だったシンセが、ヘイローとなって光に満ちるイメージを与え、確かにとても印象的なポイントですな。

「スノウィブルー」は、大きく2つのメロディで構成されているのだが、どちらもサビのようにインパクトが大きい。
疾走感で切なさを表現するシンプルな手法ながら、濃い楽曲が揃った本作においてリードトラックとなるだけあります。
一転して、「タイダルピンク」はバンドサウンドを最低限に抑え、打ち込み全開で構成された不思議なナンバー。
アップテンポなのだが、わざとチープにしたサウンドにより、フワフワとした浮遊感がある。
なんとなく、アヤビエ時代の「猫夜亭」に通ずるサウンドメイクというと、伝わりやすいかな。

「とても小さくて、きっともう見えない。」は、Vo.インザーギさんの歌唱力を最大限に活かしたスローバラード。
黒服人パートのラストシーンということで、ストーリーの核心に迫るワードも出てきて、クライマックス感を演出します。
壮大に、ドラマティックに。
徐々に盛り上がっていく構成には鳥肌が立った。
「サイレントガール」は、メガマソらしいアッパーチューン。
王道曲を加えることで、アルバムとしても引き締まる工夫といったところか。
本作の中でシングルカットするならこれ、といったキャッチーさがありました。

「エインシャントソング」は、劇中で黒服人の特殊な頭の形をした女性が、世界がリセットされる際に歌う歌。
そのため、女声ボーカリストによって大部分が歌われています。
涼平節を女性が歌うというのも、面白いものですね。
ウィスパー気味の声質がとても好み。
実質的にはアンサーソング的な側面もあり、最後の一部分だけインザーギさんが歌うというギミックにより、その部分でのメッセージ性が強まっているところにも感心させられた。

【シングルズ】サイドについては、「shooting St.arz」と「リフレイン」が新曲です。
位置づけとしては、単体で世界観が完結するため、"シングル"なのだとか。
世界観をがっつり、となると涼平曲ばかりになってしまうため、インザーギさんが作曲した楽曲はこちらで救済、という意図もあるのかもしれませんけれど。
「shooting St.arz」は、新曲群ではもっともハードな疾走チューン。
「リフレイン」は、3拍子で進行する歌モノ。
この手の楽曲でも"ヴィジュアル系っぽさ"が出てきた感があり、インザーギさんもなんだかんだでシーンに染まったよなぁ、と思ったり。

最後になりますが、再度、世界観について。
黒服人は、実は白服人が管理しているミラーボールタンカー内の住人。
白服人からしてみれば、黒服人は豆粒のようなサイズであることが、イラスト集の最後で理解することができる。
定期的に世界はリセットされるのだが、その際に頭のかたちが特殊な女性が「エインシャントソング」を歌うことで、黒服人の死骸は水に分解され、サイレントガールによって運び出されて次の世界が始まっていく…ということと解釈しました。
(楽曲に登場する男女の黒服人は、輻射室にいたため分解されず、後に死骸がサイレントガールのもとに流れ着く)
カタカナ文字が半角で表記されているのも、ニシュタリ記念宇宙ステーションでは出来る限り通信データの容量を圧縮する、という設定に基づくものとのこと。

夢の世界を、きちんとストーリー立ててオチまでつけた作品にまで昇華。
圧巻だな、と思ってしまうのですが、涼平さんの非現実的な世界設定をリアリティありありと表現して受け入れさせてしまうスタイル、これは"夢"の世界と近いのだと考えれば、妙に納得してしまった。

音楽的なまとまりよりも、ストーリー的なまとまりにより成立している作品だけに、歌詞を重視しない聴き方をする人にはピンとこない部分もあるのかもしれないが、世界観の徹底こそがヴィジュアル系の醍醐味。
そう考えているリスナーにとっては、これ以上ない一枚です。

<過去のメガマソに関するレビュー>
MISS WAVES/VIPER
動かなくなるまで、好きでいて。
雪はまだ降り注いでいるか?
Loveless, more Loveless
M of Beauty
キスミイチュチュ(メガマチュ)
櫂の目塔の属領
バイパー
ニューロマンサー(神経系亜人性)