鵺 / Kagrra, | 安眠妨害水族館

安眠妨害水族館

オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

鵺/kagrra
¥2,415
Amazon.co.jp

1.鬼遊の唄
2.魔笛
3.鵺の哭く頃
4.混沌
5.し、み、め、ゆ、き、さ、あ
6.白い魔手 (2ndプレス以降)

2000年にリリースされ、その後も何度も追加プレスされたKagrra,の1stミニアルバム。
2ndプレス以降は、ボーナストラックも収録されています。

その後、マイナーチェンジを繰り返しながら、ネオ・ジャパネスクという音楽を確立していく彼ら。
前身バンドでの活動や、デモテープのリリースはありましたが、実質的に、名前を売ったのは、このCDということになるでしょう。
当時は、「,」の付かない、Kagrra表記でしたね。

この時期は、「和」のサウンドを追求するために、ヴィジュアルシーンのベースであるダーク系のナンバーと融合させるアプローチをとっている。
それは、後期の彼らを知ってしまっていると、あれ? こんなにダークでバンド感があるバンドだったっけ?と思ってしまうくらいです。
案外、激しくツタツタしたドラムや、疾走系メロディアスナンバーの様相を纏っていたりしていて、そこに和をモチーフにしたフレーズが滑り込んでくるようなイメージ。

しかしながら、これが当時では衝撃的だった。
王道的な楽曲の中でも、妖しくも風雅な世界観が、ありありと見て取れる。
ヴィジュアルコンセプトや、歌詞についても、和を重視する表現が徹底されていて、いきなり本格的な雅楽的サウンドに取り組むよりも、効果的だったのではないかと振り返ります。
特に、テーマだけではなく、文体まで古文を再現するような歌詞は、現実離れした世界観に誘う力を持っていました。

その異質さは、トップバッターの「鬼遊の唄」から、存分に発揮されている。
サビをすべてファルセットで歌い上げるという邪道な構成が、疾走感のある王道ダークに、不気味なおどろおどろしさをもたらしているのです。
続く、「魔笛」も絶妙。
一層ストレートさを増し、歌メロとしては、所謂和風なフレーズは使われていないのですが、空間を意識させるギターのリフが、ぼんやりと月が浮かんだ闇夜を想起させる。
こんなナンバーまで、和風に聴かせてしまうのか。

「鵺の哭く頃」は、和音階を駆使した歌メロと、大陸的なアレンジによって、これまた、とてもKagrraらしい雰囲気。
クリアに儚さを表現する部分と、ディストーションをかけてダークさを強調する部分、メリハリのあるギターの二面性が、能面のようで面白い。
ドロドロとした「混沌」は、どっぷりと沈み込むようなバラード。
地の底から沸々と怨念が込み上げるような序盤から、浄化され、幽玄な雰囲気を増していくサビへの移行が秀逸です。
テンポは一定ですが、黒い面と白い面が交互に押し寄せ、内面的にはタイトル通りカオスな展開。

初回盤のラストは、「し、み、め、ゆ、き、さ、あ」にて、華やかに。
初期の代表曲であり、メロディアスに駆け抜けるサビの構成がたまらない。
一志さん特有のファルセットも効果的に使用されていたり、途中で三拍子になる展開の工夫もあります。
ベースのフレーズが独特なので、そこにも注目。

追加収録の「白い魔手」は、ベースソロとノイズ音からスタートするロック色が強い楽曲。
少し、彼らの音楽性からは外れたサウンドかと思っていたら、1曲通して聴いてみると、確かにKagrraだから凄い。
一般的には、一志さんの歌い方によって、「和」の要素が強まっていると捉えられていそうですが、実は、ギターのセンスが重要なのかな、と。
ギターが入ると、一気にKagrraっぽさが増すというか、割と王道なギターソロもこなしているのに、世界観が消えないベストな線引きを知っているようです。

やや、一曲一曲に詰め込む傾向があり、ボリューム感がたっぷり。
そういう意味では、ミニアルバムにしたのは正解かも。
後期は、もっとコンパクトに洗練されていきますが、「和」に対するイマジネーションの強さは、本作がもっとも伝わってきますかね。
スキル面での粗さは残ってしまいますが、プレス数の多さに恥じない名盤。

<過去のKagrra,に関するレビュー>
百鬼絢爛
桜花爛漫