働き手重視のワークシェアリングとは(「週刊金曜日」1月23日号より) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

このエントリーは、国家公務員一般労働組合のブログ「すくらむ」様との連帯エントリーです。「すくらむ」様のエントリーはこちらです。


「ワークシェアリング」は貧困に直結する - 非正社員の均等待遇、社会保障整備、派遣法改正が必要

http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-10198466661.html



「週刊金曜日」1月23日号(735号)に、朝日新聞編集委員の竹信三恵子さんが『「賃下げの方便」から「連帯による安心」を ワークシェアリングに必要な基盤整備とは』というタイトルの記事を書かれています。(以下、引用部分は青で表記します)

金融危機により急速に雇用破壊が進んだことにより、急激に注目度が上がった「ワークシェアリング」ですが、竹信さんによりますと、最初に打ち出したのは「全国ユニオン」だということです。以前、当ブログでも「連合通信」の記事 としてご紹介し、その際は賃下げではなく休業補償としていることを評価しましたが、竹信さんは「労働分配率が下がり続ける中で働き手の取り分を増やし、増えた分を非正規社員の雇用維持や待遇改善に回して格差縮小を図れという正社員と非正社員とのワークシェアリングを求めたもので、非正社員中心のリストラに待ったをかける狙いがあった」(「週刊金曜日」1月23日号・p29)と評価していらっしゃいます。

このように、労働者の側に立ってワークシェアリングを考えるならば、雇用維持を確実にすることが大前提となります。しかし、財界が前向きな姿勢を見せている「ワークシェアリング」とは、正社員の賃下げに狙いが向いています。ここに労働者は注意する必要があります。


竹信さんは、日本がモデルにしようとしている欧州の「ワークシェアリング」が、実は日本政府や財界が構想しているものとは大きく異なり、労働者重視の側面を持つものであることを指摘しています。その部分を、少し長いですがまとめて引用します。


 モデルに挙げられた欧州の例は、実は日本のものとは大きく異なる。フォルクスワーゲンの場合、確かに賃金カットはあったが、失業手当などを組み合わせて月収分を維持するなど、働き手を貧困に追いやらない工夫があった。オランダは、労働時間に比例した賃金や年金を短時間労働者に保障する「パートの均等待遇」を導入、96年には労働時間による差別を禁止し、何時間働きたいか働き手が選べる仕組みを整えた。これによって、硬直的な労働時間では働けない人たちに職場参加の幅を広げた。正社員の半分の時給で雇用保障もないパートや派遣会社から注文ひとつで送り込まれる派遣社員を増やして、会社の雇いやすさだけに偏った日本の「多様就業型」とは異なる、働き手重視の側面があった。

 厚労省のワークシェア類型から落とされたのは、フランスの週35時間制によるワークシェアだ。政府が法定労働時間を短縮して雇用の総量を増やすもので、政府が社会の大枠の仕組みを変えることで雇用を増やすワークシェアの原型ともいえるものだが、こうした政策的措置は無視された。

(中略)

 欧州では、こうした「会社の外」の人のための分厚い安全ネットも蓄積されてきた。だからこそ、フォルクスワーゲンはカットされた賃金を、失業手当などで補うことができた。オランダのパート労働者は、教育や福祉への手厚い公的サービスのおかげで、短時間労働を選んで賃金が減っても最低限の生活を保障された。

(「週刊金曜日」1月23日号・p28)


以上の竹信さんの指摘からわかるように、日本政府や財界が言う「ワークシェアリング」とは、欧州における労働者保護の側面を排除し、賃下げのみを取り入れようとしている偏った「ワークシェアリング」であると言えます。それを「今は雇用維持が最優先だから」という建前に説得されて受け入れてしまっては、ワーキングプアの拡大に手を貸すことになってしまいます。

雇用維持のための対策は確かに必要ですが、それは賃下げという労働者のみに痛みを強いるものであってはならず、経営者の努力と政府の労働者保護の強化と同時に進められるものでなければならないと思います。