誤記の確認と、グローバルドシエ | 特許翻訳 A to Z

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1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

esp@cenet書誌の誤情報」からの続きです。
出願日の誤りは、esp@cenetの責任「ではない」と思う、という話でした。
そう考える根拠は、以下の3つの情報にあります。

(1) グローバルドシエ(※注)で出願番号07/848,155を確認すると、1992年9月3日の表示がある。
(公開日の06/28/1994を頼りに、9と3のどちらが月でどちらが日かわかります。)



(2) US 5,323,976号のファミリであるカナダ出願(CA 2091192)を、カナダ特許庁のデータベースで検索すると、優先権データとして米国の07/848,155が「1992年9月3日」で登録されている。

 


(3) 当該カナダ出願の公報にも、同じく1992年9月3日が表示されている。

 

 

以上のように、出願の時点ですでに、「1992年9月3日」という誤記が存在します。
このため、おそらくesp@cenetの責任ではないだろうと考えました。

米国特許庁の全文データベースには、特許公報の誤記がそのまま登録されていました。
同様、esp@cenetにも、公報や出願書類の誤記が影響し得ることを示す、典型的な例だと思います。


最後に、この連載の発端になった権利化までの期間の長い出願には、下記の特許などがあります。紫色で示した4件以外は、譲受人が政府関係です。


米国特許第6,760,396号、第6,728,328号、第6,706,089号、第6,687,324号、第6,650,270号、第6,525,579号、第6,313,782号、第6,234,014号、第6,226,341号、第6,222,898号、第6,201,846号、第6,175,625号、第6,130,946号、第6,118,732号、第6,097,812号、第5,132,080号第5,095,234号

誤記ではなく本当に長いのは、どうやら67年が最長のようです。

シリーズコードの範囲が、全文データベースのTips on Fielded Searchingに掲載されており、これと出願年を照らせば、誤記の有無をある程度は判断できます。
 



※グローバルドシエ (Global Dossier)
荒っぽい言い方をすれば、簡易的・横断的な包袋閲覧の仕組みのようなものです。
日本特許庁は、「第5回五大特許庁長官会合の結果」の報告で、グローバルドシエを「各庁のドシエ(包袋)情報等を仮想的に統合し、一元的なサービスを提供する共通システムを構築する将来ビジョン」と説明しています。

比較的最近になって出てきたもので、庁の言う包袋情報「等」の「等」に何が含まれるのか、日本の包袋や米国のファイルラッパーと何がどこまで違うのか、あるいは実質同じではあってもサービス提供の構想が新しいがゆえに呼称も区別しているのか、まだ完全には把握しきれていません。

ドシエは、たとえばesp@cenetのEuropean Patent Registerあるいは、普通に公報を検索して書誌情報にあるリンクから取得できます。
(すべての書誌にドシエがリンクしているわけではないですが、あれば表示されます。)
また、esp@cenet上に情報がなくても、出願国の特許庁で取得できることもあります。

具体例として、上にあげた米国特許とファミリにあたるカナダ出願には、どちらもesp@cenetにドシエ情報が存在しません。
でも、優先権の基礎出願にあたる07/848,155のドシエは、米国特許庁で閲覧できます。
(PublicPairで該当する出願を検索すると、書誌の上にある「Patent Application Information Retrieval」に、リンクが出ます。)
All IP5 Officesにチェックが入っていても、米国の情報しか出てきませんから、これがすべてでしょう。

07/848,155に対応する出願は放棄されており、当時の米国には出願公開制度もなかったため、esp@cenet上に公報がありません。
こうした出願のドシエが手に入る可能性が高いのは、出願国の特許庁です。

私が翻訳者になったばかりの頃は、包袋閲覧・取り寄せといえば紙「だけ」で、たった1行の情報のためでも、結構な費用をかけて包袋の中身を入手していました。
それが次第に電子化され、今では、こうして外国からもある程度ならいつでも無料で情報が手に入るのですから、便利な時代になったものだと思います。

(完)

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