p53,RB経路によるiPS細胞樹立の抑制(その2) | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

p53,RB経路によるiPS細胞樹立の抑制(その2)

p53,RB経路によるiPS細胞樹立の抑制 」の続きです。


(8月24日追加)

インペリアル・カレッジ・ロンドンのJesus Gilらのグループによって、リプログラミング因子の発現が、DNA損傷反応の誘導とINK4a/ARF遺伝子座のクロマチンリモデリングを通して、p53, p16 INK4a, p21 CIP1の発現上昇による細胞老化を引き起こし、リプログラミングを阻害するという論文が発表されました。


Genes Dev. 2009 Aug 20. [Epub ahead of print]
Senescence impairs successful reprogramming to pluripotent stem cells.
Banito A, Rashid ST, Acosta JC, Li S, Pereira CF, Geti I, Pinho S, Silva JC, Azuara V, Walsh M, Vallier L, Gil J.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19696146?ordinalpos=5&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum


Gilらはまず、Oct4, Sox2, Klf4, c-Mycの4遺伝子をコードするポリシストロニックカセットを持つレトロウイルスベクター、もしくは4遺伝子それぞれを、また、コントロールとして細胞老化の原因となる活性型RAS(H-RAS G12V)を、ヒト線維芽細胞であるIMR90に導入したところ、成長曲線、コロニー形成解析、BrdUを取り込む細胞の割合の低下により、リプログラミング因子の発現に従いIMR90の細胞数と増殖の減少が起こることを示しました。

この際、アポトーシスの有意な誘導なしに、リプログラミング因子の発現により、G1期で停止する細胞の割合が増加することも分かりました。

また、4リプログラミング因子を発現している細胞では、細胞質の増大、senescent-associated β-galactosidase(SA β-gal)活性およびsenescence-associated heterochromatic foci(SAHF)が見られ、老化細胞と似ていることが示されました。

なお、これらは、他系統のヒト細胞であるBJ細胞やマウス胎仔線維芽細胞(MEF)でも同様であることも分かりました。

さらに、4遺伝子を一つずつIMR90に導入した場合、どの遺伝子でも同様の現象が起こることが分かり、4遺伝子を合わせた場合、異なった経路が同時に活性化され、細胞老化が引き起こされていることが示唆されました。


次に、リプログラミング初期の細胞老化誘導に重要な経路を同定するために、IMR90にOSKMベクターを導入して免疫蛍光染色を行ったところ、pST/QもしくはγH2AXが核でポジティブとなり、リプログラミング因子発現がDNA損傷反応の原因となっていることが示され、また、oxidized base 8oxoGのレベル上昇も見られ、酸化ストレスの原因となっていることも示されました。

また、ガン抑制因子であるp16 INK4a, p53, p21 CIP1の有意な発現上昇も見られ、これはBJ細胞、MEFを用いた場合でも同様でした。

さらに、以前発表された4遺伝子を発現するMEFの転写プロファイルの再解析の結果、p16 Ink4aとp21 Cip1のレベルが上昇し、少し後に減少することが分かり、IMR90の場合でも、老化因子のレベルの上昇の後に、その発現、特にp53とp21 CIP1の発現が減少することが分かりました。

また、ES細胞と体細胞の融合によるリプログラミングにおいてもp16 INK4aとp21 CIP1の発現上昇が見られることも示しました。

次に、老化因子の発現上昇がリプログラミングに対する初期反応だとすれば、Pre-iPS細胞では、そのレベルが高いまま維持されているはずだと考え、実際に、MEF由来のPre-iPS細胞においてp16 Ink4aとp21 Cip1の発現が上昇していることを示し、以前発表されたデータからも同様の結果を得ました。

それゆえ、リプログラミング間における老化誘導(RIS)は、異なった細胞種、異なったリプログラミング手法においても見られることが分かりました。


次に、RISの間、発現上昇する老化因子の寄与を解析するために、OSKMベクターとともに、それぞれp53とRb経路を抑制する、HPV16のE6, E7タンパクを共発現させたところ、どちらの発現も、リプログラミング因子によって誘導される増殖停止を緩和し、ともに発現させるとより効果的であることが分かりました。

また、p16 INK4a, p21 CIP1, p53のshRNAを用いた場合でも、BrdUの取り込みおよび増殖の解析により、増殖停止を緩和できることが示されました。


次に、INK4a/ARF遺伝子座のヒストン修飾状態をChIPで調べたところ、H3K27me3のレベルはINK4aプロモーター付近でピークに達しており、リプログラミング因子の発現に反応してINK4a/ARF遺伝子座のH3K27me3レベルが減少することが分かりました。また、同時に、H3K4me3レベルが上昇することも分かりました。

さらに、H3K27me3ヒストン脱メチル化酵素であるJMJD3の発現が、リプログラミング因子の発現により急上昇し、INK4aプロモーターへのJMDM3の結合が増加すること、トータルな発現レベルには大きな影響を与えないものの、H3K27me3ヒストンメチル化酵素であるEZH2のこの遺伝子座への結合が減少することを示しました。

なお、4遺伝子をばらばらに導入した場合でも同様でした。


次に、p53/p21 CIP1経路がどのようにRISと関連しているか調べるために、リプログラミング因子を一つずつ発現させてみたところ、Sox2, Klf4, c-Mycはどれもp21 CIP1の発現を上昇させるがそのメカニズムは異なり、Sox2発現はp53非依存的にp21 CIP1の発現上昇を引き起こすのに対し、c-MycとKlf4はp53とp21 CIP1をともに誘導し、c-MycだけがDNA損傷を引き起こしてしまうこと(γH2AXの発現で判定)が分かりました。


次に、マウスではmiR-290クラスター、ヒトではmiR-371-373クラスター、両方で見られるmiR-302クラスターのように、多能性と関連するmiRNAのいくつかは、ES細胞の正常な増殖に必要であり、p21 CIP1, Rb homolog p130, LAT2のようなネガティブ細胞周期制御因子をターゲットとすることで機能していることが知られており、RISの間、p21 CIP1だけでなくp130の発現も増加することを示しました。

また、IMR90に4リプログラミング因子を発現させても、これらのmiRNAのレベルはヒトES細胞のレベルまでは上昇しないが、樹立されたiPS細胞ではヒトES細胞と同レベルの発現を示すことが分かり、4リプログラミング因子と多能性関連miRNAの発現が相関しないことが、RIS間のp21 CIP1発現上昇を説明できるかもしれないと考えました。

これと一致して、miR-302クラスターの外来発現が増殖停止を緩和し、RIS間で見られるp21 CIP1とp130の発現上昇を抑制することを示しました。


次に、shRNAを用いて、p16 INK4a, p21 CIP1, p53のいずれかをBJ細胞でノックダウンし、4リプログラミング因子を導入して培養し、d21でNANOG, TRA-1-60ダブルポジティブなコロニーを完全にリプログラミングされたiPS細胞コロニーとして計測し、形態が異なりどちらのマーカーもネガティブなコロニーを部分的にリプログラミングされたコロニーとして計測、同様の実験をIMR90でもコロニー形態を指標に行ったところ、どちらの細胞種でも、老化因子のノックダウンにより、完全に、および、部分的なリプログラミングを受けたコロニー数がともに増加することが分かりました。

MEFを用いても、shRNAによるp16 Ink4a/p19 Arf, p21 Cip1, p53のノックダウンおよびp53, p21のノックアウト系統を用いても、リプログラミング効率が上昇することを示しました。


老化因子をノックダウンしたIMR90およびBJ細胞由来のiPS細胞コロニーをピックアップして樹立したヒトiPS細胞株は、Oct4, Sox2, Nanog, Tra-1-60ポジティブであり、外来遺伝子がサイレンシングされており、胚様体形成により胚体外組織および三胚葉に分化できることが示されました。





miRNAとの関連付けがなかなかおもしろいですね。。

DNAメチル化の阻害は、リプログラミングの中間状態にある細胞が完全にリプログラミングされるのを促進するのに対し、老化因子を抑制すると、完全に、および、部分的なリプログラミングを受けたコロニー数がともに増加してしまうことから、リプログラミングの中間地点に至る前のリプログラミング初期における細胞老化現象を抑制したことで効率が改善されたと考えられ、一時的な老化抑制の正確なタイミングを決めることが、リプログラミング効率を高めるのに必要な次のステップになるという考察もおもしろいです。





(11月20日追加)

マサチューセッツ工科大学(MIT)のJacob Hanna、Rudolf Jaenischらのグループにより、体細胞からiPS細胞を樹立するダイレクトセルリプログラミングは、確率論的なプロセスであり、p53/p21経路の阻害やLin28の強制発現(細胞増殖率依存的)もしくはNanogの強制発現(細胞増殖率非依存的)により加速させることができ、細胞分裂の数が多能性へのエピジェネティックリプログラミングのキーパラメーターとなることを示した論文が発表されました。


Nature. 2009 Nov 8. [Epub ahead of print]

Direct cell reprogramming is a stochastic process amenable to acceleration.
Hanna J, Saha K, Pando B, van Zon J, Lengner CJ, Creyghton MP, van Oudenaarden A, Jaenisch R.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19898493?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=1


Hanna、Jaenischらはまず、リプログラミングプロセスを二つのカテゴリーに分けました。‘Deterministic’モデルでは、‘all’(モデルi)、もしくはドナー集団中の‘elite’or‘stem-like’細胞のサブセットのみ(モデルii)が、iPS細胞になる能力を持っており、一定の潜時(娘iPS細胞になるまでに個々のドナー細胞が経る絶対時間もしくは細胞分裂数として定義)でリプログラミングされるのに対し、‘Stochastic’モデルでは、most if not all(モデルiii)、もしくはドナー集団中の‘elite’細胞のサブセットのみ(モデルiv)が、iPS細胞になる能力を持っているが、様々な潜時でリプログラミングされます。

そこで、どのモデルが正しいのかを調べるために、‘secondary’リプログラミングトランスジェニックシステム(「複数の細胞種からの遺伝的に均一なiPS細胞の樹立 」を参照)を用い、Oct4, Sox2, Klf4, c-Mycの4遺伝子を発現するモノクローナルな細胞集団のリプログラミングについて解析しました。

この際、単離後すぐに単一細胞として効率的にクローン化でき、iPS細胞へのリプログラミングのための限定された均一なstarting細胞集団として用いれる、pre-B細胞ステージのB細胞系譜に運命決定された細胞を用いました。

Nanog-GFPレポーターマウス由来線維芽細胞にドキシサイクリン誘導レンチウイルスベクターでOct4, Sox2, Klf4, c-Mycの4遺伝子を導入して作製されたNGFP1 iPS細胞を用いて作製されたキメラから、NGFP1由来secondary pre-B細胞を単一細胞にソーティングして個々のウェルにまき、ドキシサイクリンで処理して、Nanog-GFPレポーターの再活性化をモニターしたところ、1ウェルにつき>0.5%がNanog-GFPポジティブだと、ドキシサイクリンを除去後も再現性よく安定なNanog-GFPポジティブiPS細胞が樹立できることが分かり、クローナルな集団においてiPS細胞が出現したという最小限の閾値として設定しました。

まず、ドキシサイクリン処理後、2週間でNanog-GFPポジティブ細胞が検出され、~3-5%のウェルでNanog-GFPポジティブ細胞が検出されること、ドキシサイクリン存在下で増殖できる生きた細胞を含む残りのウェルでも、体細胞/造血細胞表面マーカーが均一にサイレンシングされていることが分かりました。

また、培養時間を延ばすと、iPS細胞が出現するウェルが段々と増え、ドキシサイクリン添加後18週までに、>92%のウェルでNanog-GFPポジティブ細胞が現れることが示され、全てではないにしろ、ほとんどのドナー細胞がiPS細胞になる能力を持つことが示されました。

これは、独立した他の実験でも再現性が確かめられ、B細胞だけでなく、CD11bポジティブな単球でも同様な動態と効率でiPS細胞が樹立されることも示されました。

ランダムに選択されたNanog-GFPポジティブ細胞集団は、安定的なドキシサイクリン非依存的iPS細胞株になることができ、調べた全てのiPS細胞で、どのタイムポイント由来のものかに関係なく、正常核型を持つこと、テラトーマおよびキメラ形成できることが示されました。また、個々のiPS細胞株では遺伝的に異なったH鎖再編成が見られ、それらのクローナルな起源が証明されました。


次に、導入遺伝子発現レベルもしくは増殖率の増加が、リプログラミングの潜時で見られたウェル間の差の原因なのかを調べたところ、ドキシサイクリンの添加時間もしくはそれらの集団がNanog-GFPポジティブ画分を含むかどうかに関係なく、リプログラミングプロセスの間の集団平均細胞倍化時間(td)と導入遺伝子発現レベルは、NGFP1クローナル集団内で似ていることが示され、潜時の差の原因ではないことが分かりました。


以上のことより、①体細胞のリプログラミングは、ほとんど全てのドナー体細胞がiPS細胞になる能力を有した継続的な確率論的プロセスであること、②クローナルな集団がiPS細胞になるまでにかかるドキシサイクリン添加時間もしくは細胞分裂数は様々であること、③ドナー細胞集団中に存在するごく一部の推定体性幹細胞がiPS細胞になるというエリートモデルを支持しないこと、④ドキシサイクリン添加時間もしくは増殖率で予見できない様々な潜時で体細胞がリプログラミングされたことは、一定でない確率論的なイベントが起こっているとするモデルiiiと一致することが示されました。


次に、p53抑制がNGFP1由来secondary pre-B細胞のリプログラミングに影響するのかを調べるために、NGFP1 iPS細胞にレンチウイルスでp53 shRNAを導入し、このiPS細胞を用いて作製されたキメラ由来のNGFP1-p53ノックダウン(p53KD)B細胞を単一細胞にソーティングし、ドキシサイクリンで処理してみたところ、p53抑制は、導入遺伝子発現や元からあるアポトーシスレベルに影響を与えることなく、集団平均細胞倍化時間をコントロールと比べて~2倍短くすることが分かりました。

また、iPS細胞形成の動態も有意な加速度で促進され、ドキシサイクリン添加後8週以内(コントロールでは17週)で、93%のウェルでNanog-GFPポジティブ細胞が得られることが分かりました。

なお、得られたiPS細胞はドキシサイクリン非依存的であり、多能性マーカーを発現し、テラトーマおよびキメラ形成できることが示されています。


次に、このリプログラミング促進が、p53抑制の増殖率に対する効果に起因するものなのか調べるために、リプログラミングプロセスを通して測った集団平均細胞倍化時間に基づき、NGFP1とNGFP1-p53KDそれぞれの潜時期間中の細胞分裂数を推定したところ、統計学的に同じとなることが分かり、これは、CD11bポジティブな単球でも同様であることが示されました。

また、潜時は、平均潜時について正規分布するのではなく、むしろガンマ分布がより適合することが分かりました。

さらに、p21のノックダウンでも、4遺伝子発現での細胞分裂率の変化とリプログラミング動態の加速を再現できることを示しました。


次に、ヒト線維芽細胞のリプログラミングを促進し、細胞周期制御因子の発現を制御することでガン遺伝子として働くことが知られているLin28強制発現の影響を調べるために、NGFP1-Lin28OE(Lin28 overexpresser)由来B細胞を用いてみたところ、同様に、細胞分裂率の増加と相関するリプログラミング動態の加速が確認され、これらより、p53/p21抑制もしくはLin28強制発現のどちらもが、全体の効率を上げるよりはむしろ、リプログラミングプロセスを加速させ、細胞がより速く分裂するようにし、ストカスティックなイベントが期間内により早く起こるような累積する可能性を増加させることが実証されました。


次に、細胞増殖率非依存的なメカニズムでリプログラミングを加速できるのか調べるために、ICMで発現している多能性因子であり、ES細胞やiPS細胞の樹立に必要で、細胞融合によるリプログラミングを促進することが知られているNanog強制発現の影響を調べてみました。

そこで、ドキシサイクリン誘導Nanogトランスジーンを含むNGFP1-NanogOE(Nanog overexpresser)由来B細胞をドキシサイクリンで処理してみたところ、4遺伝子の発現やiPS細胞形成率に影響を与えずに、リプログラミング動態を有意に加速させ、ドキシサイクリン添加後8週間以内に、94%のウェルでNanog-GFPポジティブ細胞が現れることが示されました。

また、Nanog強制発現は、集団平均細胞倍化時間をわずかに増加させることも分かりましたが、潜時期間中の細胞分裂数は有意に減少することが分かり、その平均数は、NGFP1, NGFP1-p21KD, NGFP1-p53KDでは70回なのに対し、NGFP1-NanogOEでは50回であることが示されました。

これにより、Nanog強制発現は、細胞増殖率を変えるのとは関係ない細胞内因性のメカニズムにより、リプログラミング動態を促進することが示唆されました。


次に、リプログラミングを数的にモデリングするために、一定の細胞内因性な確率kで、一段階のリプログラミングプロセスが起こると考え、初めてリプログラミングされたB細胞が出現してから検出可能にまで成長するのにかかる遅れをtp、時間をtとすると、ウェルごとの細胞数N(t)で、最初にリプログラミングが起こる率を決めることができ、リプログラミング時間の累積確率分布は、P(t+tp)≈1-e-kτ(τは‘population-rescaled time’再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞- ) となります。このrescaledされた時間で実験結果を解釈することにより、集団サイズと細胞内因性のリプログラミング効率の寄与を区別することができるようになりました。

細胞分裂率は集団サイズNを制御でき、それで時間がre-scaleされ、リプログラミング効率に影響を与えます。

様々なNGFP1株を培養し、population-rescaled timeを計算、細胞内因性確率kを推定したところ、実験結果と矛盾しないことが確認されました。

さらに、細胞内因性リプログラミングプロセスにおける確率論性に加え、細胞分裂時間、細胞数、培養中のiPS細胞の潜在的なロスにおけるゆらぎを考慮するために、それぞれの実験の詳細なコンピューターシュミレーションを行い、シュミレーション結果が上記の結果と矛盾しないことを確認しました。

これらの結果、推定されたNGFP1-p53KDとNGFP1-p21KDの細胞分裂ごとの内因性のリプログラミング効率は、NGFP1と同様であり、p53/p21経路阻害は主に細胞分裂率依存的メカニズムでリプログラミングを加速させていることが示唆されました。

ただ、p53/p21抑制のモデリング結果において、わずかに細胞内因性確率の増加が見られるものもあり、細胞分裂非依存的なメカニズムが関わっている可能性も否定できないことも分かりました。

また、NGFP1-Lin28OEで見られたリプログラミング加速は、主に、速い細胞分裂に起因する集団サイズの増加に起因することが確認されました。

一方、NGFP1-NanogOEでのみ、細胞分裂につき1.75-2倍の内因性リプログラミング率の増加が見られ、Nanog強制発現は、主に細胞分裂非依存的なメカニズムを通して、リプログラミングを加速させることが確認されました。





ほとんどの体細胞、iPS細胞に 山中教授が仮説 」など、今まで、様々な実験結果を合わせて想定されていたリプログラミングの確率論性を、実験で明確に実証しており、とてもおもしろいです。

p53/p21抑制、Lin28・Nanog強制発現のリプログラミングに与える影響が細胞分裂依存的かどうかの解析もなかなかおもしろいですが、リプログラミングは多数のプロセスの集合体であると考えられ、それぞれの遺伝子が、リプログラミングのどの時期に効いているかを調べ、それを考慮すると、もっとおもしろくなるんじゃないかなと思います。

とりあえず、他の遺伝子や化合物に関しても、同様な手法を用いて、細胞分裂依存的かどうかの解析が進むかもしれませんね。





(11月22日追加)

理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)の川真田伸先生らのグループにより、p53を抑制することで、効率的(2×10の4乗個から1コロニーだったのが100コロニーにまで改善した)に、臍帯血中に含まれるCD34ポジティブ細胞からヒトiPS細胞を樹立したという論文が発表されました。


Exp Hematol. 2009 Nov 13. [Epub ahead of print]
Effective generation of iPS cells from CD34+ cord blood cells by inhibition of P53.
Takenaka C, Nishishita N, Takada N, Jakt LM, Kawamata S.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19922768?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=5


p53抑制によるCD34陽性臍帯血細胞からの効率的なiPS細胞樹立 」をご参照下さい。





(12月26日追加)

中国科学院のDuanqing Peiらのグループにより、ビタミンCがマウスおよびヒトiPS細胞の樹立を促進することを示した論文が発表されました。


Cell Stem Cell, 24 December 2009
Vitamin C Enhances the Generation of Mouse and Human Induced Pluripotent Stem Cells
Miguel Angel Esteban, Tao Wang, Baoming Qin, Jiayin Yang, Dajiang Qin, Jinglei Cai, Wen Li, Zhihui Weng, Jiekai Chen, Su Ni, Keshi Chen, Yuan Li, Xiaopeng Liu, Jianyong Xu, Shiqiang Zhang, Feng Li, Wenzhi He, Krystyna Labuda, Yancheng Song, Anja Peterbauer, Susanne Wolbank, Heinz Redl, Mei Zhong, Daozhang Cai, Lingwen Zeng, and Duanqing Pei
http://www.cell.com/cell-stem-cell/abstract/S1934-5909(09)00624-9


Peiらはまず、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)のリプログラミングにおける活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)の生成について調べ、Sox2/Klf4/Oct4(SKO)を導入した細胞では、Sox2/Klf4/Oct4/c-Myc(SKOM)を導入した細胞やコントロール細胞と比べ、ROSが2.5-3倍増加していることを見出し、SKOによるリプログラミングがSKOMによるリプログラミングよりも低率であることと一致したため、抗酸化剤がROSを抑制することによりSKOによるリプログラミング効率を向上させることができるのではないかと仮説を立てました。

そこで、vitamin B1(Vb1), reduced gluthation(GSH monoethyl ester, GMEE), sodium selenite(Sel), ascorbic acid(vitamin C, Vc)の組み合わせを試してみたところ、Oct4-GFPレポーターを持つMEFからGFP陽性細胞が出現するのが有意に早くなり、フィーダー細胞上にまきなおす必要がなくなることが分かりました。

次に、個々の抗酸化剤の寄与をFACSにより調べたところ、Vcだけで十分であることが分かり、d16で10%がGFP陽性になることが示されました。

一方、Vb1, GMEE, Selに加え、他の抗酸化性を持つ物質であるn-acetylcysteine, resveratrol, α-lipoic acid, vitamin E, L-carnitine hydrochlorideでは、いずれも効果がありませんでした。

しかし、Vb1, GMEE, Vcの全てがSKOを導入したMEFにおける定常状態ROSレベルを減少させることも分かり、Vcの活性は、その抗酸化性に依存するものではないことも分かりました。


次に、単一細胞からのGFP陽性コロニーの形成について調べるために、遺伝子導入後d7で、3×10の3乗個ずつフィーダー上にまいたところ、Vcで処理したものでは、d20でアルカリフォスファターゼ(AP)陽性コロニーのほとんどがGFP陽性になる(コントロールではほとんどない)ことが分かり、全体の効率は~3.8%になることが示されました。

なお、これらのコロニー由来のiPS細胞は、テラトーマ形成およびキメラマウスにおける生殖系列への寄与により多能性を持つことが示されています。

また、SKOを導入した成体乳腺線維芽細胞(MaFs)でも、Vcの添加により、同様にGFP陽性細胞が増加することが示され、Vcの効果は細胞種特異的にはないことも示されています。

さらに、様々な量のVcを用いた実験により、少量(10μg/ml)のVcで最高の効果が得られたことから、リプログラミングの促進は、細胞死や抵抗性集団の選抜によるものではないことが示唆されました。

注目すべきことに、Vcは、SKO導入MEFにおけるGFP陽性細胞の増加においてvalproic acid(VPA, 「小分子化合物によるiPS細胞樹立効率の改善 」を参照)よりも効果があり、両方の組み合わせは相加的な効果を示したことから、これらは異なったメカニズムで働くことが示唆されました。

また、Vcは実験の間ずっと添加されている時に最も効果を示すこと、Vcの存在下で転写変化の加速が持続されることがマイクロアレイにより示されています。


次に、SKOMを用いたリプログラミングにも効果があるのか調べたところ、フィーダー細胞上へのまき直しがない場合、d8までにGFP陽性コロニーが現れる(コントロールでは現れない)こと、d9でのFACSによりVc処理細胞において平均2%のGFP陽性細胞が検出される(他の抗酸化剤では効果がない)こと、フィーダー細胞上へ2×10の3乗個ずつまいた場合、d14でAP陽性/GFP陽性コロニー形成率は~8.75%であることが示され、VcはSKOおよびSKOMの両方を用いたリプログラミングにおいて効率を改善できることが示されました。


次に、VcがGFP陽性/AP陽性コロニーの率を改善することから、Vcはpre-iPS細胞からiPS細胞へのリプログラミングを促進するのではと考え、混合した抗酸化剤もしくはVcを、MEFもしくはMaFs由来のpre-iPS細胞株の培養液に添加したところ、多能性マーカーを発現し、Nanogプロモーターが脱メチル化され、キメラマウスに寄与するようなiPS細胞が得られ、急速に遺伝子発現の顕著な変化を示すことがマイクロアレイにより分かりました。

また、Vcと2i(ERK and GSK3β阻害剤, 「シグナル阻害によるiPS細胞樹立法の改善 」を参照)において、pre-iPS細胞からiPS細胞を誘導する能力について比較したところ、標準的なマウスES細胞培地を用いた場合、GFP陽性細胞の割合は2i処理した細胞よりもVc処理した細胞の方が高いことが分かり、N2B27 plus LIFの場合、GFP陽性細胞の割合はVcと2iで同様であるが、増殖能はVc処理細胞の方が勝っていることが分かりました。

なお、この際、Vcで処理したpre-iPS細胞では、total ERKもしくはactive ERK(pERK)が減らないのに対し、2iで処理した細胞ではpERKシグナルがなくなることを確認しており、異なったメカニズムで効いていることが示唆されました。


次に、SKOもしくはSKOM導入MEFにおいて、どのタイムポイントでVc処理をしてもアポトーシスに有意な差は見られなかったが、リプログラミングの中期において増殖の増加が検出されたことから、細胞老化のバイパスが生じることが示唆されました。

これと一致して、遺伝子導入していないMEFでも、Vc処理により寿命が伸びることが示されました。

また、Vc処理をしているSKO導入MEFにおいて、p53とp21のレベルが有意に減少することが分かりました。

なお、これらの細胞では基礎レベルのp53が維持されていたことから、nuclear fociへのTp53BP1のリクルート(機能的なDNA repair machineryの指標)は、SKOもしくはSKOM導入MEFのどちらでも、Vcによって影響を受けないことが分かりました。

次に、Vcを介したリプログラミングにおける外来性p53活性化もしくはノックダウンの影響を調べたところ、p53アデノウイルスもしくはp53を活性化する化合物であるnutlin-3aは、SKO導入MEFにおいて、量依存的にGFP陽性コロニー形成を阻害するのに対し、p53 shRNAは、Vcなしで~100倍、Vcありで2-3倍、GFP陽性コロニーを増加させることが分かり、Vc処理はp53発現を減少させるが無くすまではいかないことが示唆され、Vcは、正常なDNA repair machineryを維持しつつ、p53レベルを減少させ、細胞老化を緩和することでiPS細胞樹立を促進していることが示唆されました。


次に、同様のことがヒト細胞でも言えるのかを調べるために、beta thalassemiaの胎児由来の皮膚線維芽細胞、胎盤絨毛性間葉細胞(CMCs)、骨膜由来細胞を使用したところ、KSR培地へ混合抗酸化剤を添加しても、リプログラミングの低い効率を改善することができず、KSRにはVcを含む抗酸化剤が既に含まれていることが判明しました。

そこで、マウスでの実験に使われたような血清を用いたプロトコールに変更したところ、複合抗酸化剤単独もしくはVPAとの組み合わせが、SKOM導入細胞においてAP陽性ES細胞様コロニーを増加させることが分かった一方、SKOでは効果が見られないことも分かりました。

また、ornithine transcarbamylase deficiency(OTCD)の患者由来の線維芽細胞を用い、SKOMを導入後、Vc+VPAで処理することにより6.2%まで、脂肪幹細胞(ASCs)でも、VcもしくはVc+VPAで7.06%までリプログラミング効率を改善できることを示しています。

なお、これらのコロニー由来のヒトiPS細胞は、ES細胞様の形態を示し、正常核型であり、内因性の多能性遺伝子の発現、導入遺伝子のサイレンシング、Oct4およびNanogプロモーター領域の脱メチル化、胚様体およびテラトーマ形成による三胚葉分化能が確認されています。





なにか出来すぎているかのように都合がいい物質ですね。KSRに既に含まれているというのがややこしいですが。。

KSR<FBS+Vcということみたいですが、KSR中のVcはうまく働いていないのでしょうか。

N2B27でも効くみたいなので、FBSと一緒に用いることが決定的というわけではなさそうですし…





(10年3月25日追加)

ソーク研究所のJuan Carlos Izpisúa Belmonteらのグループにより、Rem2 GTPaseはヒトES細胞の生存を維持し、p53とCyclin D1の制御を介してリプログラミングを促進することを示した論文が発表されました。


Genes Dev. 2010 Mar 15;24(6):561-73.

Rem2 GTPase maintains survival of human embryonic stem cells as well as enhancing reprogramming by regulating p53 and cyclin D1.
Edel MJ, Menchon C, Menendez S, Consiglio A, Raya A, Izpisua Belmonte JC.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20231315?dopt=Abstract


Rem2は、最近同定されたRem/Rad/Gem/Kir(RGK)ファミリーのRas関連GTPaseであり、体細胞を不死化するp53-induced senescenceをバイパスする因子の機能的ジェネティックスクリーニングによっても同定されています。

Belmonteらはまず、Rem2 GTPaseがヒトES細胞株において高度に発現しており、そのタンパク質の細胞膜への局在が見られるが、過剰発現させると細胞質や核でも見られるようになることを示しました。

また、ヒトES細胞の分化に伴いRem2は抑制されることが示され、ヒトES細胞においてshRNAでRem2をノックダウンすると自己複製能を失うことがcolony-formation assay(CFA)により示されました。

逆に、Rem2を過剰発現させると増殖が促進されることも分かりました。

一方、ヒトES細胞においてRem2をノックダウンもしくは過剰発現させても、Oct4, Sox2, Nanog, Klf4のような多能性マーカーには影響がないが、分化マーカーは影響を受けることが分かりました。

次に、Rem2を過剰発現させたヒトES細胞を分化誘導条件に移すと(Rem2抑制した場合は細胞が死んでしまった)、中胚葉への分化が阻害され、外胚葉への分化が促進されることが分かりました。

これらより、Rem2は真の多能性状態を維持するのに決定的な役割を果たすことが示されました。


さらに、ヒトES細胞において、FGF受容体の阻害剤処理をするとRem2が抑制されること、Rho経路の阻害剤処理をするとRem2が発現上昇することが分かった一方、JNK経路もしくはTGF経路の阻害剤処理ではRem2発現に影響が見られなかったことから、FGFもしくはRho経路を介したRem2制御の特異的経路の存在が示唆されました。

次に、ヒトES細胞においてRem2を過剰発現させると、FGFr阻害剤による増殖抑制がレスキューされることがCFAによって示されました。

また、ヒト線維芽細胞の培地にFGF2を添加するとRem2発現が10倍活性化すること、ヒトES細胞培地からFGF2を除くとRem2が抑制されることが示され、FGF2がRem2発現を制御していることが示唆されました。

次に、Rem2抑制により、Rho阻害剤のヒトES細胞生存性促進の効果が妨げられることが分かり、Rem2はRhoシグナリングと拮抗することが示唆されました。

さらに、Rho阻害剤の効果は、アポトーシスからの保護というよりは、マトリゲル上で増殖するヒトES細胞の細胞周期を早めることであることが分かりました。


次に、Rem2はp53経路を介して内皮細胞の細胞周期を制御して不死化させるということが、同グループによって示されていたので、ヒトES細胞の細胞周期におけるRem2の影響を調べてみました。

まず、p16INK4a-cyclin Dのような多くの細胞周期経路がES細胞においては機能的でないことから予想されたように、ヒトES細胞においてRem2はp14ARFに影響を与えないことが分かりました。

次に、短期のRem2欠損によりS期が減少し、G2/M期が増加することが分かりました。(長期間欠損が続くと細胞周期が停止したり細胞死が起こった。)

逆に、Rem2過剰によりヒトES細胞の増殖が促進することも示され、Rem2はヒトES細胞の急速な細胞周期の維持に必要十分であることが示されました。

また、ヒトES細胞においてRem2が欠損しても、細胞周期キナーゼのコアマシナリーの遺伝子発現はほとんど有意に変わらないことが分かりましたが、驚いたことに、cyclin D1/CDK6の発現上昇(通常、細胞周期進行を促進するので、Rem2 RNAiで見られた結果と逆である)が例外的に見られました。

さらに、Rem2欠損に伴うcyclin D1の発現上昇は、未分化コンディションにおいて部分的に細胞質で見られ、Rem2発現はcyclin D1の局在を制御することが示唆されました。

また、Rem2欠損下では、BRCA2のようなDNA損傷制御遺伝子の制御異常が見られ、アポトーシス経路を保護する役割も示唆されました。


次に、ヒトES細胞においてRem2が欠損すると細胞死が引き起こされる原因について調べ、DilCのFACS解析、DAPI染色、cleaved caspase 3のウェスタンブロッティングの3手法によりアポトーシスが増加していることを示しました。

また、Rem2を過剰発現させた際、FACSでは有意な変化が見られなかったものの、ウェスタンブロッティングにより、cleaved caspase 3が減少することが示され、非ストレス環境下においてもRem2の過剰発現によりアポトーシスを回避できることが示唆されました。

さらに、mitomycin Cで処理したヒトES細胞のアポトーシスもRem2過剰発現により減り、8倍生存性が上がること、mitomycin Cで処理した後のヒトES細胞においてRem2を強制発現させると、MDM2の誘導およびMDM4の減少が起こらなくなること、Rem2はストレス環境下におけるMDM4のユビキチン化と分解を阻害すること、Rem2強制発現はMDM2とp21CIPmRNAの誘導をブロックすること、mitomycin Cで処理後Rem2を強制発現させるとp53 luciferase reporterが抑制されることも示し、Rem2がp53経路の抑制により機能していることが示唆されました。

また、FGF2阻害剤であるSU5402がRem2発現を阻害し、結果、Cyclin D1 mRNA発現レベルを増加させること、Rem2はmitomycin Cで処理しストレス環境下にあるヒトES細胞におけるCyclin D1の分解をタンパクレベルでも阻害し、Cyclin D1が核に局在するようになり、より速い増殖および生存を可能にすることも示しました。

これらより、Rem2は、p53がそのターゲットを転写活性化することを抑制することで、ヒトES細胞における増殖とアポトーシスを調節しており、Cyclin D1の発現および局在を制御して、ヒトES細胞の生存性および自己複製を促進することが分かりました。


次に、最近、外来性のRem2がp53経路を制御し初代培養細胞を不死化すること、p53抑制がリプログラミングを促進することが示されていたことから、体細胞からiPS細胞へのリプログラミングをRem2が促進できるのか調べるために、Oct4, Sox2, Klf4の3因子だけ、もしくは、c-Myc, Cyclin D1, Rem2のいずれかをともに用いてみました。

まず、内因性のRem2がリプログラミングされたiPS細胞においてヒトES細胞と同レベルに増加していることを確認しました。

また、Cyclin D1のタンパクレベルがヒトES細胞よりも高く発現していることも分かりました。

次に、3因子にRem2を加えると、増殖が促進され、SSEA4陽性細胞が8倍増加することが分かり、これはc-Mycを加えるよりも多いことが分かりました。

逆に、shRNAでRem2を50%ノックダウンしたヒトケラチノサイトにOct4, Sox2, Klf4, c-Mycの4因子を導入したところ、アルカリフォスファターゼ(AP)陽性コロニーが60%失われることも分かりました。

なお、ケラチノサイトおよびマウス胎仔線維芽細胞(MEF)においてRem2はp14ARFレベルに影響を与えないことも示しています。

また、3因子にRem2を加えると、AP陽性コロニー数も8倍増え、これはc-Mycを用いた4因子と同様な効率であることも示しました。

3因子もしくは4因子とRem2を導入して現れるコロニー(RiPs(Rem2-induced pluripotent stem cells)と命名)をd12-18でピックアップして樹立したiPS細胞は、他のiPS細胞よりも3倍生存・増殖性が高く、3因子+Rem2よりも4因子+Rem2の方が増殖中に分化する傾向にあることが分かりました。

また、RiPsは、ES細胞マーカーであるOCT4, SOX2, NANOG, TRA-1-81, TRA-1-60, SSEA3, SSEA4陽性であること、胚様体形成を介して三胚葉分化できること、内因性の4因子が活性化しており、導入遺伝子はほぼ完全にサイレンシングされていることが示され、3因子とRem2でc-Mycと同様な効率でiPS細胞にリプログラミングできることが示されました。


次に、Cyclin D1は細胞周期の主な制御因子であり、c-Mycのターゲットであることから、細胞周期の変化が多能性の獲得に必要ではないかと考え、野生型のCyclin D1と細胞質で発現するCyclin D1変異体を強制発現させてRem2の効果を模倣してみました。

まず、3因子と野生型のCyclin D1を発現させると、S期の細胞数を増加させることでリプログラミング効率が3倍になることを見出しました。

逆に、細胞質型Cyclin D1変異体を強制発現させると、S期の細胞が無くなり、アポトーシスを起こし、リプログラミング能がなくなることも分かりました。

次に、初期リプログラミングコロニー(d12)での免疫染色により、Cyclin D1のタンパクレベルと局在を調べたところ、3因子のみを導入した場合、Cyclin D1は主に細胞質にあって不活化されているのに対し、3因子とRem2を導入するとCyclin D1のタンパクレベルが明らかに上昇し、リン酸化Rbタンパクが活性化され、細胞周期の進行が促進されることが分かり、これはプラスc-Mycでも同様であることが分かりました。

また、ヒトiPS細胞樹立におけるp53 RNAiおよびp53-null MEFを用いたマウスiPS細胞樹立により、p53欠損は、Rem2もしくはc-MycによるCyclin D1の局在に影響を与えないことも示しました。

次に、リプログラミング間のRem2の役割はp53経路と関係ないのか、その効果は増殖、アポトーシス経路を介したものなのかを調べるために、ヒトケラチノサイトに、Rem2と、p53ドミナントネガティブ(p53dd)コンストラクトもしくはp53 RNAiコンストラクトを発現させて3因子を導入してみました。

まず、3因子のみと比べ、p53を欠損させるとリプログラミング効率が8倍上昇することが分かり、これは、アポトーシスの減少と増殖細胞数の増加に起因するものであることが示されました。

一方、活性化p53の非存在下において、Rem2を強制発現させるとリプログラミングは~10倍促進されるが、これは3因子とp53ddのみを用いた場合と同等であり、Rem2は活性型p53なしではリプログラミングを促進できないことが示されました。

また、Rem2もしくはCyclin D1の強制発現により、初期リプログラミングコロニーにおけるSSEA3陽性な増殖細胞の数が大きく増加することが分かり、リプログラミングにおいて細胞周期の制御が重要であることが示されました。





ダイレクトセルリプログラミングは確率論的なプロセスであり加速させることができる 」と合わせ、これでリプログラミングにおける細胞周期制御の重要性がよりクリアに示されましたね。





(10年5月14日追加)

ハーバード大学のAlexander Meissnerらのグループにより、マウスiPS細胞樹立におけるダイナミックな単一細胞イメージングによりリプログラミング初期の特化現象を明らかにしたという論文が発表されました。

単純なエリートモデルやストカスティックモデルではない、新たなモデルを提唱しています。

成功裏にリプログラミングを受ける細胞は全て、初期の時点で細胞サイズと細胞周期のチェックポイントを乗り越え、すぐに細胞増殖が速まり、サイズが減少する一方、p53ノックダウンはそういった初期の反応を起こす細胞を増やすが、このような反応は十分ではなく、異常な非リプログラミング状態へ安定化させる中間段階であることが示唆されています。


Nat Biotechnol. 2010 May 2. [Epub ahead of print]
Dynamic single-cell imaging of direct reprogramming reveals an early specifying event.
Smith ZD, Nachman I, Regev A, Meissner A.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20436460?dopt=Abstract


ダイレクトリプログラミングのダイナミックな単一細胞イメージングにより初期の特化現象を明らかにした

統合ゲノム解析を通したiPS細胞樹立メカニズムの解析 」をご参照下さい。