p53,RB経路によるiPS細胞樹立の抑制 | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

p53,RB経路によるiPS細胞樹立の抑制

多能性生殖幹細胞(mGS細胞・gPS細胞)

で紹介した論文中に出てくるように、p53ノックアウトマウスではmGS細胞が高率で樹立できること、また、

山中ファクター以外の遺伝子を用いたiPS細胞樹立

で以前紹介したように、p53を抑制することでヒトiPS細胞の樹立効率が改善するということが知られていましたが、今回、京都大学の山中伸弥教授らのグループ、ソーク研究所のJuan Carlos Izpisúa Belmonte、Geoffrey M. Wahlらのグループ、ハーバード大学のKonrad Hochedlingerらのグループ、スペイン国立ガン研究センターのMaria A. Blascoらのグループ、同研究センターのManuel Serranoらのグループによって、p53 pathwayとiPS細胞樹立の関連を解析したという論文がNatureに同時に発表されました。


Nature advance online publication 9 August 2009
Suppression of induced pluripotent stem cell generation by the p53–p21 pathway
Hyenjong Hong, Kazutoshi Takahashi, Tomoko Ichisaka, Takashi Aoi, Osami Kanagawa, Masato Nakagawa, Keisuke Okita & Shinya Yamanaka
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/abs/nature08235.html


Nature advance online publication 9 August 2009
Linking the p53 tumour suppressor pathway to somatic cell reprogramming
Teruhisa Kawamura, Jotaro Suzuki, Yunyuan V. Wang, Sergio Menendez, Laura Batlle Morera, Angel Raya, Geoffrey M. Wahl & Juan Carlos Izpisúa Belmonte
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/abs/nature08311.html


Nature advance online publication 9 August 2009
Immortalization eliminates a roadblock during cellular reprogramming into iPS cells
Jochen Utikal, Jose M. Polo, Matthias Stadtfeld, Nimet Maherali, Warakorn Kulalert, Ryan M. Walsh, Adam Khalil, James G. Rheinwald & Konrad Hochedlinger
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/abs/nature08285.html


Nature advance online publication 9 August 2009
A p53-mediated DNA damage response limits reprogramming to ensure iPS cell genomic integrity
Rosa M. Marión, Katerina Strati, Han Li, Matilde Murga, Raquel Blanco, Sagrario Ortega, Oscar Fernandez-Capetillo, Manuel Serrano & Maria A. Blasco
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/abs/nature08287.html


Nature advance online publication 9 August 2009
The Ink4/Arf locus is a barrier for iPS cell reprogramming
Han Li, Manuel Collado, Aranzazu Villasante, Katerina Strati, Sagrario Ortega, Marta Cañamero, Maria A. Blasco & Manuel Serrano
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/abs/nature08290.html


山中先生らはまず、p53が野生型のNanog-GFPレポーターを持つマウス胎仔線維芽細胞(Nanog-GFP p53+/+ MEF)5000個に、Oct3/4, Sox2, Klf4の3遺伝子を導入すると11±8個、p53がヘテロ(p53+/-)だと58±56個のGFPポジティブコロニーが現れるのに対し、p53がヌル(p53-/-)だと275±181個と有意に多くなることを示しました。

また、継代5日前にそれぞれのGFPポジティブ細胞を選抜して、1つずつ96ウェルプレートにまき、23日後にコロニー形成を調べたところ、p53+/+もしくはp53+/-のMEFを用いた場合はほとんどコロニー形成が見られなかったのに対し、p53-/-のMEFを用いた場合は96ウェルプレートにつき7±4ウェルでGFPポジティブなコロニーが見られることを示しました。

これらより、p53を欠損していると、c-Mycを用いない場合でも、リプログラミング効率が10%まで上昇するということが示されました。

c-Mycを含む4遺伝子を用いた場合、p53+/+では96ウェルプレートにつき0もしくは1ウェルでのみGFPポジティブコロニーが見られるのに対し、p53+/-, p53-/-ではそれぞれ6±7, 16±10ウェルでGFPポジティブコロニーが見られ、リプログラミング効率は20%まで上昇することが示されました。

また、p53のドミナントネガティブ変異体であるp53(Pro275Ser)をOct3/4, Sox2, Klf4の3遺伝子とともに、Nanog-GFP p53+/- MEFに導入すると、GFPポジティブコロニー数が増加すること、野生型のp53もしくはtransactivation-deficient mutantsであるp53(Asp278Asn), p53(Ser58Ala)をOct3/4, Sox2, Klf4の3遺伝子とともに、Nanog-GFP p53-/- MEFに導入すると、野生型のp53の場合、GFPポジティブコロニー数が減少するのに対し、transactivation-deficient mutantsの場合、有意差は見られないことを確認しました。

なお、p53-/- MEFに3遺伝子もしくは4遺伝子を導入して現れたGFPポジティブコロニーをピックアップしてそれぞれiPS細胞株を樹立し、ES細胞様の形態を示すこと、内因性のOct3/4, Sox2, NanogがES細胞と同レベルで発現していること、導入遺伝子がサイレンシングされていること、テラトーマ形成により三胚葉分化能を持つことを示しています。

この際、4遺伝子を導入してp53-/- MEFから作製された細胞では、内因性のOct3/4, Sox2の発現が低いのに対し、Sox2, Klf4, c-Mycのトータルの発現量は、他のiPS細胞やES細胞よりも顕著に高いことが分かり、これらの細胞ではレトロウイルス発現がサイレンシングされておらず活性化されたままであることが示唆されました。

これと一致して、これらの細胞由来のテラトーマは大部分が未分化細胞で構成されており、分化細胞は少しだけしかありませんでした。

さらに、これらの細胞は、5回の継代を経た後にはES細胞様の形態を示さなくなることも分かりました。

これより、p53-/-バックグラウンドでは、c-Myc導入遺伝子は、レトロウイルスサイレンシングを抑制し、iPS細胞の樹立と維持を阻害することが示唆されました。


次に、終末分化細胞からp53ヌルバックグラウンドでiPS細胞を樹立できるか調べるために、p53野生型およびヌルそれぞれのNanog-GFPレポーターマウスからTリンパ球を単離し、anti-CD3, anti-CD28抗体で活性化させ、4遺伝子を導入しました。

p53野生型のTリンパ球からはGFPポジティブコロニーを得ることができなかったのに対し、p53-/-のTリンパ球(2×10の6乗個)からは11個のGFPポジティブコロニーを得ることができ、3つのiPS細胞株が樹立できました。

これらのiPS細胞は、ES細胞様の形態を示し、アルカリフォスファターゼ、SSEA1ポジティブであり、Rex1, Nanogを含む多くのES細胞マーカー遺伝子を発現するのに対して、Fasl, Gzma, Gzmb, IfngなどのT細胞特異的遺伝子の発現が消失していることが示されました。

p53-/- MEF由来のiPS細胞と同様に、導入遺伝子のサイレンシングは不完全でしたが、4匹の成体キメラを得ることには成功しました(c-Mycの不完全なサイレンシングのせいか4匹中3匹は7週以内に死亡)。

これらのiPS細胞、キメラの様々な組織、キメラで見られた腫瘍において、T細胞受容体の再編成が確認され、確かに終末分化したT細胞からiPS細胞が樹立されたことが示されました。


次に、p53欠損がヒトiPS細胞の樹立効率を向上させるのかを調べるために、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)に、p53(Pro275Ser)もしくはp53 carboxy-terminal dominant negative fragment(p53DD)を、3もしくは4遺伝子とともに導入したところ、どちらのp53ドミナントネガティブ変異体を用いた場合でも、iPS細胞コロニー数が顕著に増加することが示されました。

また、ヒトp53に対するshRNAを用いてノックダウンを行った場合でも同様に、iPS細胞コロニー数が顕著に増加することを確認しました。

なお、retinoblastoma protein(RB)の抑制や、アンチセンス配列に1塩基の欠損を含むshRNAでは、このような効果が得られないこと、マウスp53の導入によりshRNAの効果を抑えられることが確認され、樹立されたヒトiPS細胞はテラトーマ形成により三胚葉分化能を持つことが確認されました。


このような効果に重要なp53ターゲット遺伝子を同定するために、p53野生型のMEFとp53ヌルのMEF、および、HDFとp53ノックダウンHDFのグローバルな遺伝子発現をマイクロアレイで比較したところ、MEFでは、p53ヌルの方が1590個の遺伝子が5倍以上高発現、1485個の遺伝子が5倍以上低く発現しており、HDFでは、p53ノックダウンの方が290個の遺伝子が5倍以上高発現、430個の遺伝子が5倍以上低く発現していることが分かりました。

また、マウス-ヒト間では、MYB, RAB39Bを含む8つの遺伝子が共通して高発現しており、p21, BTG2, ZMAT3, MDM2を含む27個の遺伝子が共通して低く発現していることが分かりました。

そこで、4リプログラミング遺伝子と、もしくはそれらとp53 shRNAとともに、4つの高発現遺伝子と7つの低発現遺伝子をレトロウイルスによりHDFに導入したところ、4つの高発現遺伝子ではどれでもp53の効果をまねることができなかったのに対し、7つの低発現遺伝子のうち、MDM2を用いた場合、p53抑制をまねることができることが分かりました。

また、p53 shRNAの効果を打ち消すことができたのは、p21およびマウスp53だけでした。

さらに、p21の強制発現は、p53-/- MEFからのiPS細胞樹立を著しく抑制すること、野生型MEFに4遺伝子を導入するとp21のタンパクレベルが顕著に増加すること、c-Mycを除いた3遺伝子を導入した場合ではp21のタンパクレベルでの増加は微量であること、p53ヌルMEFでは、4遺伝子もしくは3遺伝子のどちらを導入した場合でもp21タンパクの増加は見られないことを示し、iPS細胞樹立におけるp53ターゲットとしてのp21の重要性が明らかになりました。


最後に、「ウイルスを使わないでiPS細胞を樹立 」で用いた、Oct3/4, Sox2, Klf4を2A peptideで繋いだプラスミドベクターおよびc-Myc発現プラスミドベクターを、Nanog-GFP p53+/+ or p53-/- MEFに何度もトランスフェクションして、遺伝子挿入のないiPS細胞を樹立できるか調べるために、1.3×10の5乗個のMEFに7日間毎日2種類のプラスミドをトランスフェクションしたところ(d21からpuromycin選抜開始)、野生型の場合、最初のトランスフェクションから28日経ってもGFPポジティブコロニーが得られなかったのに対し、p53ヌル細胞からは、~100個のGFPポジティブコロニーが得られました。

ランダムに12個のコロニーをピックアップしたところ、そのうちの7つではプラスミド挿入が見られず、樹立されたiPS細胞はキメラに寄与でき成体まで成長できることが示されました。



Belmonte、Wahlらはまず、MEFにc-Mycを導入すると、p53の量と活性が増加するとともにp21発現が増加することを示し、これはp53分解に重要なMdm2のアンタゴニストであるp19 Arfの誘導によって引き起こされることを示しました。

p21タンパクレベルの増加は、Klf4のみ、Oct4とSox2の2遺伝子、Oct4, Sox2, Klf4の3遺伝子をMEFに導入した場合にも観察されました。

この際、リプログラミング因子を導入すると、γ-H2ax(γ-H2afx)fociが増加することが分かったことから、リプログラミング因子の発現が、DNA損傷によるp53活性を引き起こしているかもしれないと考えました。

また、以前iPS細胞樹立に使われた様々なマウスとヒトの細胞株におけるp53とp21の発現を比較したところ、おもしろいことに、効率的なリプログラミングが可能なケラチノサイトは、他の細胞種に比べ、p53とp21のタンパクレベルが低いことが分かりました。さらに、3遺伝子を導入した後のp21誘導は、線維芽細胞よりもケラチノサイトの方が低いことも分かりました。


次に、p53のshRNAを用いて、p53のmRNAおよびタンパクレベルを60-80%まで減らすと、NanogポジティブなiPS細胞コロニー数が2-4倍増加すること、p53 activating agentであるNutlin-3aが量依存的に、p53 shRNAで処理して出てくるNanogポジティブなiPS細胞コロニー数を減少させることを示しました。

一方、p53-null MEFでは、リプログラミング効率が少なくとも10倍まで増加し、これはNutlin-3aによって減少しないことを示しました。また、p53 +/- MEFでも、3遺伝子によるリプログラミング効率が野生型よりも高いことを示しました。

培養のストレスは細胞老化およびp53の活性化を引き起こすけれども、すべてのp53遺伝子型の細胞のうち、老化マーカーであるβ-galactosidaseポジティブなのは1%もないことも分かり、また、p53+/- MEF由来のiPS細胞コロニーにおけるp53遺伝子のヘテロ性の欠損は検出されなかったことから、p53の量がリプログラミングに影響することが示唆されました。

また、p53-null MEFは遺伝的に不安定なので、様々な細胞において3遺伝子が発現した結果、リプログラミング効率が向上したのではないかと懸念されましたが、p53-null MEFにおけるp53タンパクの再発現がリプログラミング効率を減少させることも示しました。

さらに、p21 shRNAがリプログラミング効率を約3倍向上させること、その効果はNutlin-3aによって量依存的に打ち消されること、3遺伝子を導入した際、アポトーシス促進物質であるBaxが誘導されること、BaxアンタゴニストであるBcl2の強制発現により、2、3、4遺伝子を導入した際のアポトーシスが抑制され、NanogポジティブなiPS細胞コロニー数が10倍まで増えることを示しました。


次に、3遺伝子がp53の量を増加させることから、その安定性のコントロールがp53を介したリプログラミング抑制に決定的であると考え、Arf shRNAによってp19 Arfレベルを減少させることで、p53の安定性を落とし、リプログラミング効率を改善できるか調べたところ、p19 Arfレベルを2-4倍減少させると、3遺伝子によるリプログラミング効率が約2倍向上することが分かりました。

p19 Arfおよびp16 Ink4a(ともにCdkn2a遺伝子座として知られるInk4a/Arf遺伝子座のalternative reading frameによってコードされる)をともに減少させると、4-5倍のリプログラミング効率の改善が見られ、p16 Ink4aと拮抗することによるretinoblastoma(Rb)の腫瘍抑制機能が、p53減少と協同して、リプログラミング効率を改善したことが示唆されました。

さらに、p53の決定的な抑制因子であるMdmx(Mdm4)の変異体(Mdmx3SA)をホモに持つマウス由来のMEFおよび胸腺細胞では、p21の基礎発現が低い上、DNA損傷によって誘導されるp21レベルも低く、c-Mycがvivoでp53を活性化する能力が抑制されるのですが、Mdmx3SA MEFでは、3遺伝子によるリプログラミング効率が~7倍まで向上することを示しました。


次に、Klf4は過剰に発現するとガン遺伝子として働くことが知られており、また、それだけでp53を活性化することが示されたので、p53発現を抑制することで、Oct4とSox2の2遺伝子のみでiPS細胞を樹立することができないか調べるために、p53 shRNAをレンチウイルスで、Oct4とSox2をレトロウイルスでMEFに導入しました。

遺伝子導入後4週間でES細胞様の形態を示すコロニーが現れ、解析した6つのコロニーのうち4つでiPS細胞株(2F-p53KD-iPS細胞)が樹立され、その全てがアルカリフォスファターゼ, Nanogポジティブであり、ES細胞と類似した遺伝子発現を示し、Oct4, Nanogのプロモーター領域の脱メチル化、内因性のOct4, Sox2のES細胞と同レベルの発現、ES細胞と同様の細胞周期、胚様体形成およびテラトーマ形成により三胚葉分化能を持つこと、心筋に高率で分化誘導できること、グローバルな遺伝子発現もES細胞と類似していること、キメラに高率で寄与できること、ジャームライントランスミッションすることを示しました。


次に、ヒト胎児線維芽細胞(HEF)および若年上皮ケラチノサイトのリプログラミングにおけるp53発現抑制の影響を調べたところ、コントロールのshRNAを導入した場合、3遺伝子もしくは4遺伝子のどちらでも、4週間経ってもHEFからNanogポジティブなコロニーを得ることができなかったのに対し、p53 shRNAを導入した場合、2週間で高率にコロニーが得られることが分かりました。

また、p53 shRNAを導入したHEFからは、効率は低いものの、2遺伝子だけでもiPS細胞を樹立することに成功しました。

さらに、p53のドミナントネガティブ変異体(p53DD)を用いてp53活性を抑制した時、ヒト初代培養ケラチノサイトからの3もしくは4遺伝子によるリプログラミング効率も改善することを示しました。

なお、この際、Nutlin-3aでその効果が打ち消されることはなく、p53 shRNAよりも効率的にp53活性を抑制していることも分かりました。

3F-p53DD-iPS細胞は活発に増殖し、多能性関連転写因子や表面抗原を強く発現しており、胚様体形成により三胚葉分化能を持つことが示されました。


最後に、ES細胞において、DNA損傷に対する反応としてp53がNanogを抑制するということが報告されていることから、MEFにおいてもp53がNanog発現を抑制しているのではという可能性を、p53野生型およびp53-null MEFのどちらでもNanog mRNAは検出できるレベルで発現していないことを示して否定しています。



Hochedlingerらはまず、Oct4, Sox2, Klf4, c-Mycの4遺伝子をドキシサイクリン誘導レンチウイルスベクターでMEFに導入して作製したiPS細胞由来のキメラをかけ合わせて作製した“secondary”MEFでは、継代を重ねたものよりも継代初期にあるものの方がより効率的にiPS細胞を樹立できること、継代を重ねるとβ-galactosidaseポジティブな老化細胞が蓄積されることに着目し、Ink4a, Arf, Cip1の転写レベルも継代とともに上昇することを示しました。

また、低酸素濃度(4%)でMEFを培養することで、これらが相殺され、複製寿命が延び、リプログラミング効率が3倍上昇することを示しました。


次に、最初の細胞集団におけるInk4a/Arf遺伝子座の発現状態がリプログラミングに影響を与えるのかを直接的に調べるために、Arf-GFPノックインレポーターマウス由来のMEFをpassage 3でソーティングして4遺伝子を導入したところ、Arf-GFP high MEFよりもArf-GFP low MEFの方が2倍、iPS細胞コロニーを得れることが分かりました。

樹立されたiPS細胞において、Arf-GFPの発現は検出されず、内因性のInk4aおよびArf転写レベルも抑制されていたことからも、これらの老化関連経路の抑制がリプログラミングに重要であることが示唆されました。

これは、MEFで4遺伝子を6日間発現させるとArf-GFPの効率的な抑制が見られることと一致した一方、リプログラミング因子一つ一つだけではArf-GFP発現の効率的なサイレンシングに不十分であることを示しました。

Ink4a/Arf遺伝子座のサイレンシングが、リプログラミングにおいて変化する他のどのようなマーカーと相関するのかを調べるために、以前、「iPS細胞樹立に必要な導入遺伝子発現時間の解析 」で紹介した論文で同定した表面マーカーとArf-GFP発現との関係を調べたところ、Arf発現は、Thy1-, SSEA1+分画で特に抑制されており、SSEA1+ Arf-GFP high細胞と比べて、SSEA1+ Arf-GFP low細胞の方が3倍リプログラミング効率が高いことが分かり、Arfの低い発現は、中間段階にある細胞からiPS細胞になるものを濃縮するためのマーカーとして有用であることが示唆されました。

なお、iPS細胞やES細胞では、MEFよりも、Ink4a/Arfのプロモーターが高メチル化状態にあるが、d6でArf-GFP発現が抑制された細胞ではメチル化はまだ見られず、ドキシサイクリンを除くとArf-GFPの発現が回復し、iPS細胞を樹立できないこと、d9のSSEA1+分画で初めてメチル化が検出されるようになることも示しています。


次に、線維芽細胞におけるInk4a/Arf遺伝子座の欠損は細胞の不死化を引き起こすことから、不死化された体細胞は初代培養細胞よりもリプログラミングされやすいのか調べるために、まず、自発的に不死化したメラノサイト株であるMelan A細胞を用いたところ、初代培養メラノサイトよりも4倍効率的(1%)近くにiPS細胞を樹立できることが分かりました。

このiPS細胞は、テラトーマ形成により三胚葉分化能を持つことが示され、キメラに寄与することも確認しました。

なお、Melan A細胞ではp16 Ink4aタンパクが検出できなかったとのこと。

次に、不死化されたメラノサイトと初代培養メラノサイトのリプログラミング効率を正確に計測するために、樹立したiPS細胞を体外で分化させて、secondary細胞を樹立したところ、初代培養メラノサイト由来のものでは、1.5%程度であったのに対し、Melan A細胞由来のものでは、~65%まで上昇することが分かりました。

さらに、あるサブクローンからソーティングした単一細胞からは、なんと100%の効率でiPS細胞を樹立することができることも分かりました。

なお、Melan A-iPS細胞から作製したsecondary MEFからも、~40%の効率でiPS細胞を樹立でき、体外で分化させたものと同様でした。


次に、線維芽細胞におけるTrp53(p53)もしくはInk4a/Arfの欠損で、自発的な不死化細胞での表現型をまねることができないか調べたところ、Trp53, Ink4a/Arf, Arf欠損細胞のどれでも、野生型と比べて30-40倍iPS細胞コロニー数が増加することが分かりました。

さらに、Trp53-/- iPS細胞由来のsecondary MEFでは、~80%もの効率でiPS細胞を樹立できることを示しました。

また、長期にわたる増殖能が影響したのではなく、単に不死化細胞における増殖率の変化がリプログラミング効率を向上させたという可能性を否定するために、Trp53-/-および野生型のMEFの、低血清(0.5% FBS)、高血清(15% FBS)条件下でのリプログラミング効率を比較したところ、増殖が不利であっても、野生型よりもTrp53-/-細胞の方が効率的にリプログラミングされることが示され、不死化細胞の長期にわたる増殖能がリプログラミング効率の向上に重要であることが示唆されました。

また、野生型細胞では安定したiPS細胞を得るためには8日間の導入遺伝子発現が必要だが、Trp53およびInk4a/Arf変異細胞からは、それぞれ3, 4日間のみの導入遺伝子発現の後にiPS細胞コロニーが得られることも示しています。

驚いたことに、Thy1-, SSEA1+中間細胞数と、野生型と比較したTrp53-/-におけるリプログラミング効率の間に相関が見られなかったことから、リプログラミング中の不死化細胞は、コントロール細胞と同じ障害を通り抜けるが、不死性が、そうでなければリプログラミングに失敗する細胞に、iPS細胞を形成する能力を与えるということが示唆されました。

この仮説をさらに検証するために、野生型もしくはTrp53欠損のsecondary細胞をドキシサイクリン存在下で培養し、d0, d3, d6, d9のタイムポイントでThy1+, Thy1-, SSEA1+細胞を単離して、フィーダー細胞上にまき、ドキシサイクリンの有無で分けて培養しました。

すると、野生型細胞の場合、ドキシサイクリン存在下では、全てのタイムポイントにおいて、SSEA1+集団から優勢にiPS細胞が現れ、ドキシサイクリンがないと、d9でのSSEA1+分画からのみiPS細胞が得られたのに対し、Trp53欠損secondary細胞の場合、ドキシサイクリン存在下では、Thy1, SSEA1の発現状態に関わらず、高率でiPS細胞が得られる上、ドキシサイクリンがなくても、d3以上の全ての細胞分画からiPS細胞を得ることができました。


次に、MEFにおける恒常的なTrp53の欠損は、リプログラミングに有利な遺伝的異常を選抜するかもしれないので、Trp53 shRNAをレンチウイルスで野生型のsecondary細胞に導入したところ、MEFにドキシサイクリン添加後、どのタイムポイントでshRNAを導入しても、コントロールよりも高率でiPS細胞コロニーが得られることが分かりました。

さらに、Trp53 shRNAで処理することで、Thy1+, Thy-細胞からも、SSEA1+集団と同様の効率でiPS細胞が得られることを示し、iPS細胞を形成するのに失敗した細胞にリプログラミング能を与えるのは、Trp53の抑制で十分であることを明らかにしました。

また、老化培養処理した細胞でも、Trp shRNAによりリプログラミング能を回復できることも示しています。


最後に、ヒトの不死化細胞でも同様のことが言えるのかを調べるために、初代培養およびTERTで不死化したヒトケラチノサイト株でリプログラミング効率を比較したところ、TERTで不死化したヒトケラチノサイトは、由来となった初代培養ケラチノサイト株の継代初期よりも、~20倍効率的にiPS細胞様のコロニーが得られることを示しています。



Blascoらは以前、「iPS細胞におけるテロメラーゼによるES細胞様特徴の獲得 」で紹介した論文で、テロメラーゼ欠損マウス由来の第三世代MEF(G3 Terc-/- MEF)はテロメアが短いため、増殖率が正常なのにも関わらずiPS細胞が樹立できないが、テロメラーゼによって、短くなったテロメアを伸張させることでiPS細胞を樹立できるようになることを示しており、短くキャップのないテロメアを持つ細胞など、DNAが損傷した細胞のリプログラミングには、リプログラミングを妨害する障壁があるのではないかと考え、DNAが損傷した細胞の増殖を防ぐのに決定的に関わっているp53との関連を調べました。

まず、MEFに、Oct4, Sox2, Klf4の3遺伝子を導入してiPS細胞を樹立する際のリプログラミング効率におけるp53の有無の影響を調べたところ、野生型のMEFの場合、アルカリフォスファターゼポジティブなコロニーができる効率は0.72±0.05%だったのに対し、p53-null MEFの場合、平均で4倍効率が改善し、コロニーの出現も3日早くなることが分かりました。

また、ヒトの胎児線維芽細胞(BJ細胞)に、Oct4, Sox2, Klf4, c-Mycの4遺伝子を導入した際のリプログラミング効率についても、p53 shRNAを同時に導入することで10倍効率が改善することを示しました。

G3 Terc-/- MEFを用いた場合、野生型に比べ、約10倍効率が落ち、2-3日コロニーの出現が遅れるのに対し、G3 Terc-/- p53-/- MEFを用いた場合では、p53-null細胞と同レベルのリプログラミング効率にまで回復し、G3 Terc-/-コントロールと比べ54倍、野生型細胞と比べて6倍の効率改善を示しました。

これらの結果が、少量のγ線や紫外線の照射などのDNA損傷でも同様なのか調べたところ、どちらの場合でも、照射されたMEFの方がコントロールよりもリプログラミング効率が低かったのに対し、3遺伝子とともにp53 shRNAあるいはanti-apoptotic proteinであるBcl2をレトロウイルスで導入することにより、リプログラミング効率が回復することが分かりました。


次に、典型的なiPS細胞コロニーが現れる前の、iPS細胞が形成される間の初期における、p53活性の直接的な証拠を探すために、遺伝子導入後d9-10, d11-13およびiPS細胞における、アポトーシスを起こしている細胞の割合を計測したところ、遺伝子導入後d9-10, d11-13の野生型細胞の有意な一部分(それぞれ10%, 15%)がアポトーシスを起こしていることが分かりました。

また、G3 Terc-/-細胞では、遺伝子導入後d11-13において40%がアポトーシスを起こしており、iPS細胞の樹立が難しいことと一致しました。

これらに対し、p53-/-およびG3 Terc-/- p53-/-細胞では、遺伝子導入後d11-13においてもほとんどアポトーシスは見られず、ネクローシスにも違いは見られませんでした。

d9での野生型およびG3 Terc-/-細胞におけるアポトーシスの増加に伴って、p53およびp21タンパクレベルがγ線照射野生型MEFと同レベルになったのに対し、そのようなことはp53-null細胞においては見られませんでした。


次に、もしDNA損傷を受けた細胞が、p53欠損によって、iPS細胞になることを許容されるのであれば、リプログラミング間および樹立されたiPS細胞において、p53-null遺伝子型ではDNA損傷反応(DDR)の活性化が残存していることが期待される一方、アポトーシスで除かれるようなDNA損傷を受けておりp53が活性化した細胞ではほとんど見られないはずなので、DDR活性化の証拠となるγH2ax(γH2afx), 53BP1(Trp53bp1) fociの存在について調べたところ、遺伝子導入後d9でのp53-/-およびG3 Terc-/- p53-/-細胞において観察され、樹立されたiPS細胞およびそれ由来のテラトーマにおいても、残存が観察されました。

さらに、G3 Terc-/- p53-/-細胞において、γH2ax fociを持つ細胞の有意な一部分(>75%)で、Trf1(Terf1)テロメアタンパクが形成するtelomere-induced DNA damage foci(TIF)との共局在が示され、テロメアの機能異常が示唆されました。

また、複製誘導DNA損傷と関連のある核全体のγH2ax染色が、遺伝子導入後d9でのp53-/-細胞およびiPS細胞で多く見られたことから、リプログラミング過程の間に、この種の内因性のDNA損傷が起こったことが示唆されました。

この他、遺伝子導入後d9でのp53-/-細胞においてAtmリン酸化が検出され、さらにリプログラミング間でのDDR活性化が示唆されました。


次に、リプログラミング間におけるDNA損傷細胞の排除におけるp53のユニークな役割を調べるために、DNA切断の修復に関わり、ないとDNA損傷の内因性レベルを増加させるタンパクであるAtmと53BP1の欠損がリプログラミングに与える影響を調べたところ、Atmもしくは53BP1を欠損したMEFでは、野生型と比べて、リプログラミング効率が劣ることが分かり、p53がDNA損傷シグナリング経路を統合するのに中心的な役割を果たし、Atmや53BP1などのDDRの上流構成体はDNA損傷細胞がリプログラミングを受けるのを防ぐのに必要でないことが示唆されました。


次に、p53-null細胞でのリプログラミングには、染色体損傷の増加が伴うのかどうか調べたところ、短くなりキャップのなくなったテロメアは、染色体の末端同士の融合を引き起こすことが知られているのですが、p53-/- iPS細胞は、野生型と比べて、6倍も末端同士の融合が起こっており、G3 Terc-/- p53-/-およびG3 Terc-/- iPS細胞では、それぞれ40倍、37倍も起こっていることが分かりました。

染色体の切断および断片化も、p53-/- iPS細胞では、野生型と比べて、6倍増えており、G3 Terc-/- p53-/-およびG3 Terc-/- iPS細胞では、それぞれ10倍、13倍増えていることが分かりました。

G3 Terc-/- p53-/-およびG3 Terc-/- iPS細胞における染色体融合の増加に伴い、染色体末端が、テロメアシグナルを検出できないもしくは‘signal-free ends’の状態になることが、高率で(それぞれ30%, 40%)起こることも示されました。

なお、テロメアは、由来とするMEFと比べて、野生型とp53-/-のiPS細胞とで同様に伸張するが、G3 Terc-/- p53-/-およびG3 Terc-/- iPS細胞では、さらなる短縮を受けてしまうことから、p53欠損は、テロメア長とは無関係に、G3 Terc-/-細胞のリプログラミングを許容することが示唆されました。


最後に、p53-/-およびG3 Terc-/- p53-/- iPS細胞におけるp53欠損は、キメラやテラトーマへの寄与能に影響を与えるのかどうか調べたところ、p53-/-およびG3 Terc-/- p53-/- iPS細胞のいくつかは、増殖後、典型的な丸いiPS細胞様の形態を失っていたが、NanogとOct4を高発現しているコロニーをピックアップすることで、キメラを得ることに成功しました。

p53-/-キメラはジャームラインにも寄与できたのですが、G3 Terc-/- p53-/-キメラは14日齢で重度の小腸萎縮により死亡しました。

一方、調べた全てのp53-/-およびG3 Terc-/- p53-/- iPS細胞で、テラトーマ形成能が確認されました。



Serranoらはまず、Ink4/Arf遺伝子座にコードされている3つの重要なガン抑制因子p16 Ink4a, p19 Arf(Cdkn2a), p15 Ink4b(Cdkn2b)をコードしている遺伝子Ink4a, Arf, Ink4bの発現は、MEFと比べて、iPS/ES細胞で抑制されており、p21のレベルも同様に抑制されているのに対して、幹細胞マーカーであるNanogおよびEsg1(Dppa5a)を高発現していることを示しました。

また、iPS/ES細胞において、Ink4aのプロモーターはメチル化されておらず、MEFと比べて、H3K9me3のレベルが低く、H3K27me3も低い一方、H3K4me3レベルは高いことを示し、さらに、H3K27me3→H3K4me3のsequential ChIPを行い、Ink4aおよびArfプロモーターはともに、H3K27me3とH3K4me3を同時に持つ‘bivalent’な状態にあることを示しました。

ES細胞においてbivalent domainの約半数はOct4, Sox2, Nanogのいずれかと結合していることが知られていますが、これらのタンパクはどれもInk4/Arf遺伝子座の3つのプロモーター領域への結合が検出されないことも分かりました。(Klf4は結合する)

iPS細胞におけるInk4/Arf遺伝子座の機能を調べるために、分化後に正常に再発現するかどうか調べたところ、iPS細胞とES細胞で同様の再活性化パターンを示すことが分かり、また、iPSキメラマウスで自然発生したテラトーマにおいてp19 Arfの再発現が見られたことから、Ink4/Arf遺伝子座は、iPS細胞においてエピジェネティックなリプログラミングを受けており、bivalentでsilentな状態になっていて、分化にあたって再発現できる能力を保持していることが示唆されました。


次に、遺伝子を導入せず、リプログラミングに用いる培養条件によってのみだけなら、Ink4/Arf遺伝子座は高度に活性化されるのに対し、Oct4, Sox2, Klf4の3遺伝子を導入した場合、Ink4/Arf遺伝子座の活性化は妨げられ、d4-5には明らかな差が見られるようになることを示しました。

一方、単一の遺伝子もしくは2つの組み合わせでは、部分的にしか活性化の抑制は起こりませんでした。

次に、この遺伝子座におけるサイレンシングがリプログラミングに固有のもので、それゆえに、この遺伝子座が機能しないような条件下でもサイレンシングが起こるのかどうかを調べるために、事前にレトロウイルスでSV40 Large-Tを導入したMEFに、3遺伝子を導入してみたところ、機能的なRbとp53を欠損し、Ink4/Arf遺伝子座が、発現レベルは高いのにも関わらず、機能的には関係なくなった状態にあったのが、3遺伝子の導入後、d3にはInk4/Arf遺伝子座の高発現が減少し始め、徐々にサイレンシングが進んでいくことが分かり、3遺伝子によるリプログラミングは、元からあるInk4/Arf遺伝子座がサイレンシングされた細胞を選抜するのではなく、積極的にこの遺伝子座のサイレンシングを進めることが示唆されました。


次に、このInk4/Arf遺伝子座のサイレンシングがリプログラミングの効率を制限しているのではないかと考え、MEFに3遺伝子を導入後、d10, d12でアルカリフォスファターゼポジティブなコロニー数を計測し、レトロウイルス感染効率で補正を行って解析したところ、野生型のMEFの場合、0.54±0.26%だったのに対し、Ink4a/Arfを欠損したMEFの場合、平均して15倍効率が改善することが分かりました。

なお、これで樹立されたInk4a/Arf-null iPS細胞は核型安定で、テラトーマ形成により三胚葉分化能を持つことが示され、キメラに寄与できることも確認されました。

また、Arfのみの欠損でも7倍リプログラミング効率が改善し、p53欠損と同様の効果であること、p21欠損では4倍リプログラミング効率が改善することが示されました。

さらに、c-Mycを加えた4遺伝子を用いた場合でも、Ink4a/Arf欠損で効率改善が見られること、Ink4a shRNA, Arf shRNAもしくは両方を、3遺伝子とともに導入した場合でも、効率改善が見られ(Arfの方が効果的)、両方用いた場合では、遺伝的にヌルな細胞で見られたのと同様な効率にまで改善することも示しました。

また、新生仔マウス由来のケラチノサイトを用いた場合、Ink4a/Arf欠損により100倍以上の効率改善が見られ、Ink4a/Arf欠損はp53欠損よりも顕著な効果を持つことが示唆されました。

この他、野生型MEFを用いた場合、d7では線維芽細胞様の形態を示しているのに対し、Ink4/Arf-null MEFを用いた場合、この時点でES細胞様の形態を示すコロニーが見られ、また、アルカリフォスファターゼやSSEA1ポジティブなコロニーの出現もInk4/Arf-null MEFの方が早く、iPS細胞コロニーの出現が早くなる効果があることも分かりました。

この際、リプログラミングの初期段階において、Ink4/Arf-null MEFの方が増殖率が速くなるが、一旦iPS細胞が樹立されると変わらなくなることも示しています。


次に、human TERTを導入したヒトIMR90線維芽細胞(IMR90-TERT)に、3もしくは4遺伝子とともにINK4a shRNAを導入したところ、リプログラミング効率が改善されたのに対し、ARF shRNAではそのような効果がないことを示しました。

なお、樹立されたヒトINK4a shRNA-iPS細胞は、内因性のSOX2, NANOG, アルカリフォスファターゼ, SSEA3を発現しており、テラトーマを形成できることが確認されています。


最後に、Ink4/Arf遺伝子座の発現は加齢に従って活性化することが知られていることから、老化がリプログラミング効率を減少させるのか、また、この遺伝子座の抑制によりレスキューできるのか調べるために、>2年齢の老いたマウス由来の皮膚線維芽細胞(MSF)と2月齢の若いマウス由来のMSFについて調べたところ、若いマウス由来のMSFよりも老いたマウス由来のMSFで有意に発現が上昇しており、リプログラミング効率の低下を伴うことが示され、また、老いたマウス由来のMSFをInk4a/Arf shRNAで処理することで、若いマウス由来のMSFと同様のリプログラミング効率にまでレスキューされることを示しました。





いや~おもしろいですねぇ。。

なぜリプログラミングの効率は低いのか?

なぜ4遺伝子を全て強制発現させてもiPS細胞になる細胞とならない細胞があるのか?

という重要な疑問の解明に迫る大きな成果です。


一時的なp53抑制や化合物によるアポトーシス経路の直接的な阻害という戦略を用いることが考えられますが、4つ目の論文で明らかになったように、p53の抑制により、表立っては現れないような潜在的なDNA損傷が蓄積されてしまい、将来的なリスクが高まる可能性があるので、慎重な検証が必要になりそうですね。

長期的にみてガン化の率が高まる可能性もあるだろうし。。


個人的には、3つ目の論文のディスカッションに出てくる、Ink4a/Arf遺伝子座のエピジェネティックなサイレンシングによる不死性の獲得が、体細胞からiPS細胞への変換におけるボトルネックとなり、その低いリプログラミング効率および速度の遅さの原因となっているが、Trp53やp19 Arfは染色体安定性に重要であり、臨床応用におけるその操作は注意を要する。よって、体性幹細胞や前駆細胞のような、活性化したTrp53もしくはp16 Ink4aやp19 Arfの内因性レベルが低い、もしくは、内因性の増殖能が高いような初代培養細胞集団が、効率と安全性を両立できるソースとなるのではないかという意見が的を得ていると思います。

ただ、同じ細胞種内でもp53レベルは細胞個々によって変わるので、Arf-GFPみたいなレポーターとの併用がおもしろそうだと思います。


あと、4つ目と5つ目の論文のディスカッションに出てくるように、リプログラミング因子のいくつかは腫瘍形成を促進することから、p53-/-で見られたようなDDRは、悪性化の背景として報告された癌遺伝子誘導DDRと同等であると考え、リプログラミングと悪性化の両モデルにおいて、損傷を受けた細胞が広がるのを制御するのにp53が決定的であるという意見や、悪性細胞とES細胞の類似性から、悪性腫瘍への障壁としてのInk4/Arf遺伝子座の既知の活性と、脱分化への障壁として報告された新たな活性を対応させて考えるという意見がおもしろいですね。

iPS細胞のガン化マーカーの探索にあたって重要なヒントとなるのではないでしょうか。





p53-p21経路によるiPS細胞樹立の抑制(その2) 」に続く。