「昼顔~平日午後3時の恋人たち」
第5話
悪女誕生。妻が一線を越えた日
一瞬でいい。
この胸に抱き締められたい。
それだけでいい。
それ以上のことは何も望まない。
ずっとそう思っていました。
なのに、
抱き寄せられた瞬間、
私は彼の腕にしがみついていました。
もっと彼を深く知りたいと思いました。
私の中には、
私の知らない私がいます。
**********
紗和) 後悔してる?
北野) ただこれ以上進むと、後戻りできなくなる。
紗和) 今なら後戻りできるんだ。
私は、もう後戻り、できないから。
北野) 同じだよ。でも、君を傷つけてしまいそうで。
紗和) ださっ。ここまで来てそういう事言うんだ。
もう30過ぎた大人なのに。
北野) 大人だから迷ってるんじゃないか。
**********
紗和) ねえ、どうしてかな? あなたのことよく知ら
ないのに、こんなに好きになっちゃった。
北野) だったら嫌えば?
紗和) えっ?
北野) お前なんか最低だって。
紗和) そうだよね。ホントは最低男だもんね。
北野) 最低。不良。エロ教師。
紗和) 優柔不断。意気地なし。
洋服ださいし、話つまらない。
北野) でも火星人の話はウケてた。
紗和) あれは可哀想だったから。
私、たぶんすぐあなたになんか飽きる。
きっと出会ったこと、すごく後悔する。
北野) 死ぬほど後悔する。
もう一生、
男の人に愛される事はないと思っていました。
ずっと、こんな風に、
好きな人に求められたかった。
ごめんなさい。神様。
許してくれなんて言いません。
今だけ、彼を私にください。
**********
利佳子) で、感想は?
紗和) 幸せ。今までで一番。
利佳子) 怖いわね。
あなたみたいに真面目な人の方が。
紗和) すみません。
利佳子) 謝っちゃダメよ。足を踏みいれた以上、悪女
にならなきゃ。下手に罪悪感なんか持ったら、
バレるわよ。不倫はね、することの罪よりも、
バレることの罪の方が大きいの。
紗和) 悪女。
利佳子) ご主人に電話しなさい。
一緒に携帯を捜してくれたお礼に、
私がごちそうするって言ってるって。
紗和) これからですか?
利佳子) 初めての情事の後は、何かとボロが出やす
いの。一緒にいた方がいいわ。私も、今日は
夫と一対一で向き合いたくないから。
さあ、笑って。
**********
慣れない嘘に、
背中が冷たくなりました。
ごちそうの味なんて分かりませんでした。
でも、嘘つきにならなければ、
彼には会えないのです。
**********
紗和) じゃあ、ルール決めよう。
電話はしない。来たメールはすぐに消す。
それからお互い返信がなかったら、
それ以上は送らない。
そっちの家庭を壊すつもりはないから。
見ないで。
また会えるよね?
彼は、
会いたいとは言ってくれませんでした。
禁じられた関係だからでしょうか?
それとも、
たった一度で、私に飽きてしまったのでしょうか?
**********
彼からの返信はまだありません。
でも、不倫の関係は相手を責めることも、
誰かに悩みを相談することもできません。
私は携帯を抱き締めて眠りました。
夫は、そんな私に気づきもしませんでした。
**********
利佳子) 臆病な男はいるけど、真面目な男なんてい
ないわよ。現実を見なさいよ。立場があるから、
恋にのめりこめないとしたら。それはあなたに、
立場を超えさせるだけの魅力がなかったのよ。
確かめてみたら?
**********
利佳子) 喜ばない。
紗和) えっ?
利佳子) 期待しない。明日を見ない。
紗和) どういうことですか?
利佳子) 不倫も、独身の普通のカップルと同じよう
に、ときめいて、恥じらって、ずっと一緒にい
たいと思う。でも、ゴールはない以上、必ず
別れはくる。それを理解して付き合わないと、
ボロボロになるわよ。
紗和) 喜ばない。期待しない。明日を見ない。
**********
身を焦がすような恋。
そんなものは、儚い妄想だと思っていました。
でも、気づいたら、
前も後も分からない泥沼にはまっていた私。
誰かを傷つけたいわけじゃない。
裏切りたいわけじゃない。
そんなもの恋じゃない。
ただの欲望じゃないかと言われるかもしれない。
でも…。
もう、
たった一度の過ちという言い訳はできなくなってしまう。
何もかも失ってしまうかもしれない。
引き返しなさい。
最後の声が聞こえました。
午後三時。
私は、悪女になりました。
**********
離婚の理由になるぐらい、セックスレスは罪深い。相
手がいるのに満たされない辛さは、きっと拒否してい
る側にはわからない。一緒に暮らしていくには、食の
相性が重要なように、本当は性の相性も重要なのに、
なぜか、その点はないがしろにされがちで、根拠のな
い、「愛があれば…の精神論」で片付けられてしまう。
性欲は男性の専売特許のように語られるけど、女性
にも同じようにあるし、性欲という言葉より、触れあい
たいという欲望、スキンシップを求める気持ちは男性
以上に強いんじゃないかと思う。セックスレスは、単
にセックスしないということではなくて、実は、日常的
な触れあいすらなくなってしまうことに問題があるの
だと思う。手をつないだり、抱き合ったり、キスしたり。
友達同士の軽いキスやハグのような、触れあいさえ
なくなってしまうことが多いということ。それが一番寂
しさを募らせるのだと思う。紗和は、最初はただ、触
れあう事に飢えていたんじゃないか。愛おしそうに自
分に触れてくれる人間が、欲しかったんだろうなって。
最初はただの欲望。でも、その欲望に気持ちが後か
らついてくることもある。そんな不倫が実は多いんじ
ゃないかなあと思ったりした。女は特に、何でも「恋」
にしたがるし。恋と呼んでしまえば自分を許せる、騙
せるような気がする…のかも。恋って、便利な言葉w
ドラマの中で、しばしば発せられる利佳子の言葉が、
的確でシビア。「不倫はね、することの罪よりも、バレ
ることの罪の方が大きいの」ってセリフに激しく共感。
もちろん、不倫することが悪いのは当然のこととして、
バレてしまう不倫ってのが、本当に罪が大きいと思っ
て。女の人がよく言うセリフだけれど、「浮気はしても
いいけど、バレないようにして」って。最初から遊びの
つもりなら、全力でバレないようにしろよ!って思うし。
(実は、ドラマ「若者たち」での不倫バレのシーンを観
て、つくづく、そう思ってしまったわけなのだけれど…)
そして、「臆病な男はいるけど、真面目な男なんてい
ない」というセリフにも共感。真面目といえば聞こえは
いいけど…臆病なだけ、ってのはあるだろうなあって。
大仰な紗和の独白で、いかにも深刻そうに見せては
いるけど、よくある不倫が、どんなふうによくあるのか、
丁寧に見せてもらっているような感じ。必ず別れがく
るはずの不倫のゴールをどう見せてくれるのか、そこ
が一番の興味かも。新しい道なのか、現状のままか、
現状維持の上での再生なのか…。男たちの決断も。
第1話~恋する妻たちの怖く痛く愛おしいラブストーリー
第2話~濡れたキス・・・妻たちの共謀
第3話~妻の失恋・・・本音語る七夕の夜
第4話~妻を強くする恋・・・覚悟のキス
第5話~悪女誕生。妻が一線を越えた日
第6話~秘密の恋がバレる時・・・夫の罠
第7話~恋の終わり・・・日常に戻る辛さ
第8話~妻の追求・・・修羅場はじまる
第9話~崩れていく日常・・・夫の涙
第10話~逃避行・・・試される愛の強さ
第11話~罪から始まった恋完結・・・妻が選ぶのは夫か恋人か
●「昼顔~平日3時の恋人たち」HP
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