内藤文書の解題8

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内藤文書の解題4
内藤文書の解題3
内藤文書の解題2
内藤文書の解題1




つづきです。

詭弁(きべん)とは、どういった意味なのか
漢字というのは便利な言葉で部首ごとにわけて考えてみると、
言うに危ない弁舌と書きますね。

辞書によれば
詭弁(きべん)とは
1 道理に合わないことを強引に正当化しようとする弁論。こじつけ。
2 論理学で、外見・形式をもっともらしく見せかけた虚偽の論法。

ということのようです。

そもそも新国立競技場問題については、現時点では政府の方針なり文部科学省なりが、方向性を再検討しない限りこの件は見直しには向かわない状況なんですね。
しかも、本コンペの審査員10人の内の一人でしかない内藤先生は、自分の見解を示したところで、この計画進行についてはなんら影響力はないわけです。

あくまで、建築の審査員、しかもデザイン監修者を選ぶだけ、詳細な機能性とか実現性を問うて判断する立場ではない。
なので、たとえば「建築として良いと思った」もしくは「どうか?と思ったけれどザハに決まった」でよいはず。

槇先生からの異議申し立てに答えるにしても、
「大きさとか景観への影響については事前の募集要項で決まっていた。」から
「口出しできる余地はなかったんだ。ごめん」で十分。

それが、まるでこの計画遂行の全責任を背負っている人でもあるかのような切迫したポジションからの発言になっているんです。
火中の栗を拾うどころか、火中に素手を突っ込んで栗を掴みにいっている。
強烈な勇み足になっているんですよね。


なんで、なのか。
本文の中では、ご自分を市井の建築家と位置づけていらっしゃるのですが、
なにか外苑開発全体の推進の責任者でもあったかのような大層な口ぶりです。
安藤審査委員長からすれば、「きみ、ほたえ過ぎちゃうか?」じゃないかなあ。

本当に不思議なのですが、なぜ内藤さんは詭弁を弄してまで今回の悲壮な文書を提出する必要があったのかまったく理解できません。

誰かが、君とりあえず回答しといて、と追い込んだのか
建築家諸氏の中から強く強く迫った人でもいたのか
本計画の審査員権限とは別にもっと大きな切迫する使命でもあるのか

解題を続けます。

「ザハのやる気に関して、今現在、世論を誘導している諸氏は、その責任を取る覚悟があるのでしょうか。」


ザハがもしヤル気なくしたらお前らのせいだぞ!

という、建築家諸氏に対するまず最初の恫喝からの続きです。


赤字は筆者

7.異世界の話 論点のすり替え4 権威論証

構文7-1 ゲーリー批判したサンセバスチャンの人をストローマン化
スペイン北部の街ビルバオに、フランク・ゲーリーの設計によるグッゲンハイム美術館が出来て二年ほどした頃、近くのサンセバスチャンで会議があり、次の日に訪ねたときのことです。夜になって、地元の建築家たちと会食になったとき、あの建物に対する印象を訪ねてみました。あの建物のことが好きか、というわたしの問いに対して、「好きなわけがないだろう。大嫌いだ」。
構文7-2 
ストローマンを自壊させ論証。
その後に続けた言葉が面白い。皮肉っぽい笑みを浮かべて、「でも、大成功だ」、と言ったのです。
   ↓充填された語、この場合は次段の意味強化
知っての通りビルバオは、いまだにスペインからの独立運動が燻るバスク民族の主要都市です。

構文7-3 合成の誤謬。早急で極端な一般化
ゲーリーの奇妙な建物が出来たことにより、世界中から人が来るようになり、そのことはバスクの存在を世界に発信することになった、というのです。
   ↓前段で好き嫌いの議論を持ち出しているのは本人
好き嫌いを越えた戦略的な発想だと感じました。われわれもこれに習う戦略的な賢明さを持つべきではないでしょうか。

8.税金投入の是認 論点のすり替え5 媒概念曖昧の虚偽
構文8-1A 7.文からの飛躍、極論1(監修契約でしかない)
そのためには、ザハに最高の仕事をさせねばなりません。
決まった以上は最高の仕事をさせる、ザハ生涯の傑作をなんとしても造らせる、

構文8-1B 8-1前半部Aと後半部Bで媒概念が異なる。
というのが座敷に客を呼んだ主人の礼儀であり、
  ↓前段から無関係に導かれた極論2(税金投入の正当化)
国税を使う建物としても最善の策だと思うのですが、どうでしょう。

9.議論対象者の曖昧化

構文9-1 真の議論対象者について
一人の建築家として槇先生が意見を表明されたことには、全く違和感はありません。勇気ある発言に敬意を表します。
  ↓倒置法、本来なら審査員が考えの表明が必要
審査に加わらなかったとしたら、わたしもわたしなりの考えを表明したかも知れません。
構文9-2 
論点先取と多重尋問脅迫論証を導出。恫喝2
しかし、ことが署名運動にまで拡がりを見せるとなると、違和感は増すばかりです。さらに、それが組織的に繰り広げられたとなると、看過できないことになります。
構文9-3 
論点先取と多重尋問脅迫論証を導出。恫喝3
その意味するところが変わってきます。団体名で提出された署名は、その団体の意見表明となるわけですが、その団体はこのプロジェクトに対して本気で水を差す覚悟があるのでしょうか。

構文9-4 9-3を受けて 後件肯定の虚偽
建築家の良識とは、その範囲のものだったのでしょうか。

10.正論 
論点先取と媒概念不周延の虚偽
構文10-1A  ↓深めていないのは審査員
ザハの案が、建築的な議論として深まっていかないことも不満です。
あれほど個性的な案が選ばれたのですから、本来なら、建築とは何か、建築表現とは何か、建築には何が可能なのか、というより根源的な議論が巻き起こってしかるべきなのに、
構文10-1B
  ↓前段と無関係な主張。「」付けの開始
語られているのは「分かりやすい正義」ばかりです。

11.主文 主観 個人的意見?審査員権限には計画案調整も含む?
構文11-1   極論4(小ぶりにはなっていない)
要望書を待つまでもなく、事務当局では規模や予算調整に動いていましたが、現在示されている縮小案は、ずいぶん小振りになり、景観的にも絵画館から見てそれほど威圧感のないものになりました。
構文11-2
観客席の肩を流線型の形の中に収めた形態は、審査で目にした他のどの案よりも数段控えめなものになったはずです。

12.主文 主観

構文12-1   ↓ザハの発言なのか
ザハは、東京という巨大都市のアイコンを造る、と言ったわけですから、あまり控えめになりすぎるのも心配です。わたし自身は、どうせやるのなら、この建物に合わせて東京を都市改造する、くらいの臨み方がよいと思っています。

13.主文 他事例と比較

構文13-1  
大会開催後改修して規模を小さくしたロンドンのオリンピックの会場と比較して、8万人収容の問題も縮小案の俎上に上がっています。ロンドンには、この会場以外に8万人規模の収容人員を持つところが二つもあるわけですから、一概に規模だけを問題にするのは早計です。

14.論点のすり替え6 媒概念曖昧と不周延の虚偽
14-1

東京という都市は、上海、香港、ソウル、シンガポールなどとコンペティティブな関係にあります。
14-2
新興勢力の前に負け戦が続いています。
14-3A
縮退は麗しい美学かも知れませんが、
14-3B
意欲的な改革無くして、 
14-3C
高齢化圧力が増すばかりの東京が都市間競争の負け組になるのは明らかです。
14-1と14-2と14-3に論理的つながりはない。
特に14-3A、B、Cは一文の中ですら論理の一貫性欠く


結構つかれますね~。
読み解いて書くのにこんなに疲れるのは初めてですよ。
読んでて感じるこの気持ち悪さはなんなんだろう。
後半に向かってどんどん増えて、文間だけじゃなく、
1文章内でも論理の破たんが見られますから
疲れますよ~


15.主文 8万人集客条件の是認 主観
個人的な見解ですが、8万人規模の集客が数多く生まれるような都市になるためにはどうしたらよいのか、そのような東京を造っていくのにはどうしたらよいのか、と考える方が前向きの考え方ではないでしょうか。

16.伝統に訴える論証と新しさに訴える論証をミックス
16-1 歴史的事実
もともと神宮外苑は、体力の向上、心身の鍛練の場、文化芸術の普及の拠点として造営されたものです。

16-2 16-1文を繰り返しながら一部(文化芸術)を消去
大隈重信が明治天皇の墓稜として、森厳な杜とすべし、と言った内苑とは対照的に、明治天皇が好まれた近代スポーツの場として、開かれた場所として造営されたことに始まります。
16-3 16-2文で抜いた部分に付加語(新しい)を充填加工して戻す。
歴史性を問うなら、その発祥は新しい文化を取り入れ育む場所だったことも思い出すべきです。

16-4
時を経て、絵画館前の並木道など、緑多い都市公園として市民に親しまれてきたのも理解できます。わたしもあの場所がとても好きです。
16-5 論点のすり替え7  16-3の効果により「新しい東京」の正当化
その一方で、都心にあるこの場所の活用の仕方こそが、新しい東京を造る上での成否を握っているとも言えます。

17.論点のすり替え8 媒概念不周延の虚偽

17-1   構文14から一般化

この国では、とかく縮小方向で議論をまとめていく傾向があります。

17-2   17-1同義

無駄遣いをやめる、節約が美徳。

17-3   ↓前段と無関係な主張。レッテル「」

そちらの方が「分かりやすい正義」になりやすいからです。


18.次19への導入部 論点のすり替え9 媒概念不周延の虚偽

新しい国立競技場は、その姿形からして目立つという点で分かりやすいターゲットの出現ですが、今現在、掲げられている錦の御旗に依拠している限り、建築の文化に資するような議論には発展していかないでしょう。


19.加害者的ストローマン登場 論点のすり替え10 

19-1  ストローマンからの攻撃報告

異議を唱える諸氏は、振り上げた拳をどこに下ろすつもりなのでしょう。

19-2  ストローマンからの攻撃報告

国立競技場の建設を止めさせれば満足なのですか、オリンピック招致を見送れば満足なのですか、どこまで成果が得られれば矛を収めるつもりなのですか。

19-3  ↓ストローマンへの問いかけ

そう問いたい。


20.私怨を示唆、問題点の矮小化  論点のすり替え11 

20-1 

わたしは、あらゆる論理の手前には感情がある、と思っています。
20-2   ↓おそらくこの文章内で3番目に傲慢な見解です。

コンペの枠組みを作った官僚的な意志決定のシステムについては、震災復興で相手にされなかった憤懣が渦巻いているはずです。
20-3   ↓私怨をねつ造、問題の矮小化

さらには、わたしも含めた審査委員に対する嫌悪もあるでしょう。

20-4 自己被害者化

市井の建築家なのに、権力の片棒を担いでいい気になっている。そういう気分が働いているはずです。そういう無意識に突き動かされた感情が、諸氏の言葉の裏側に貼り付いています。分かりやすい目に見えるターゲットが現れ、そこに噴出する出口を求めているかのように見えます。


21.感情論へ転換 論点のすり替え12 

21-1

手前にそうした感情がある限り、批判のための理屈はいくらでも立つでしょう。

21-2 ↓おそらくこの文章内で2番目に傲慢な見解です。正義から「」外す。

神宮の外苑の景観など、いままで一顧だにしてこなかったのに、いきなりそこに正義の根拠を求めるようになる。

感情に訴え、署名を求めるには分かりやすい話です。


22.本件とは別の問題提起 論点のすり替え13 

22-1  ↓配慮を欠いた論旨(福島召喚2)

しかし、三陸や福島はいいのでしょうか。あそこで蠢いているのは、旧弊にとらわれた法律や制度そのものです。

放射能をどのように処理するのかという答えのない問いです。

22-2  ↓おそらくこの文章内で1番目に傲慢な見解です。

分かりやすいことには過剰に反応するのに、分かりにくくより本質的な問題には黙する、というのはおかしい。

もし、市民の立場に立つというのなら、良識を標榜するのなら、署名を集めるのなら、本当に怒る相手を間違えているのではないでしょうか。


23.前回のオリンピックについて  論点のすり替え14

23-1  ストローマン導入

オリンピックは短期間のイベントなのだから、無駄遣いをしないようにしてやり過ごした方が良い、という意見もあります。

23-2  ↓「ただでも誤解されやすい」を充填

たしかにオリンピックは短期間のイベントですが、世界中の人が東京という都市を目にする機会であり、ただでも誤解されやすい日本という国の本当の姿を理解してもらうのには絶好の機会です。

 23-3
 ↓首都高速、新幹線などのインフラに「青山通り
」を充填

64年のオリンピック時には、首都高速が造られ、青山通りが整備され、新幹線が通りました。要するに、あのイベントを通して、次の半世紀に渡 る発展の下ごしらえをしたのです。


24.一般家庭の話で先験的な感情を惹起

  論点のすり替え15 媒概念曖昧と不周延の虚偽

自宅に客を招くことになれば、それなりに掃除をし、住まいを整えるのは当然のことです。それがわが国の生活習慣のマナーでもあります。これを機会に、東京を次の半世紀に向けて強くするのです。


25. 長い文章の結論

  ↓建築家諸氏に「奇異な形態」論はない

新しい国立競技場は奇異な形に見えるかも知れませんが、
  ↓次のステップとは?

これを呑み込んでこそ、次のステップが見えてくるのではないかと思っています。

 



文章の仕分けはここまでです。

お疲れさまでした。
ひとまず休憩します。

続く



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