カイジの地獄チンチロに関する経済的考察 1
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カイジの地獄チンチロに関する経済的考察 7最終章

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地下帝国に入れられたカイジですが、

カイジもこの地下帝国に入れられた当初は、こんなところすぐに脱出してやる!と
1日外出券という権利が50万ペリカあれば買えるのです。
それを、さっさと買い取って国外に出て資金調達をしてやる!と息巻いていました。
労働の疲れを癒そうとする他の地下帝国民のビールやつまみの買い食いを尻目に、
それまでは一銭も使うまいとするカイジ。

しかし、そんなカイジの決意を揺らがせるような誘い、誘惑、勧誘。
最初の給与日からカイジが所属するE班の班長である大槻が、カイジに無駄遣いするように迫って来ます。
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しかも、「北風と太陽」でいえば、班長大槻はもちろん太陽作戦。
ここのところの掛け合いが、このカイジ地獄チンチロ編の醍醐味。

この境遇から脱出してやる!
と必死に冷えたビールの購入を我慢しているカイジに対し、

「無理はいけないよ、、続かない、、」とか
「ダメだなあ、欲望の開放が実にへた、、」だとか
「自分へのご褒美の出し方としては最低だ、、」とか
「無駄遣いするときにきっちりやっとかないと、次の節制はできない、、」とか、
人の心を盗る、弱い心に沁みる、最高に気の利いた言葉のオンパレード。

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我慢だとか克己だとか、そういったものがまるで無駄であるかのように、
いや、むしろやせ我慢こそが人の弱さなんだよ、、といったような、
心を抑えつけると返って反発するものだよ、、とか
素直に消費しようよ、、、と
悪魔のごとき柔和な誘い文句で迫って来る。

ここら辺の展開が、リアリティをもって読者に迫ってくるところが、
福本作品の凄さなんですよ。
人間の弱さを突いた、恐ろしいまでの、心理描写ですね、
でも、
冷静になって考えてみれな、要はビールを一本飲むかどうかに過ぎない。
そんな些細なエピソード。
それが一大事なんだ!ここでは!

この描写に64ページも裂いてあることの意味。

しかも、班長大槻の部下沼川にいたっては、ビール1本売りつけるのに卑屈なまでに必死です。
そして、カイジに無駄使いさせることに成功したことを、このE班の班長大槻はものすごく喜んでいる、仲間と共に。
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この無駄遣いが、なぜここまで大問題なんだろうかと気になったんですよ。

地下帝国の経済規模を示すグラフです。
国民総生産GDPが13億6500万ペリカ
、返済7億8000万ペリカ、施設費、食費が4億4850万ペリカ、1億3650万ペリカが年間消費量、ということでした。

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この赤線で書いた消費のところが問題なんではないか、、
と考えたわけなんですが、
地下帝国の国民がビールやつまみを買わないで我慢しだすと、
大変なことが起きる可能性があるのです。
経済用語でいうところの「マネーの退蔵」、「マーシャルのKの上昇」という問題です。

「マネーの退蔵」とは、マネーリスク(どこに投資しても儲からないとか、金利が下がって銀行預金してもしょうがないとか、お金を使うのが怖いとか、)が高まってくると、
お金を市場に出さないでタンスに閉まってしまうような状況をいいます。
お金を貯蔵してしまうような状態です。

「マーシャルのKの上昇」とは、近代経済学の父、ジョン・メイナード・ケインズの師匠にあたるアルフレッド・マーシャルが唱えた、一定の経済活動を維持するのにどれくらいの通貨が必要かを示す指標のことです、マネーサプライ(通貨供給量)をGDP(国内総生産)で割ったもの。

今、全世界、特に日本で起きているような経済的に非常に危険な兆候なんです。

つまりどういうことかというと、この地下帝国では最低限の生活のインフラは完全保障されているんですね。
とするならどうなるか、カイジたちは、毎月の労働報酬であるペリカを使わなくても生きていける。
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そして、地下帝国の国民の全てが、一日外出券を求めてペリカを使わなくなってしまうと、地下帝国には銀行がありませんから、預貯金を集めて再度市場に流す機構、再投資する先がない。
だから、全国民がタンス預金している状態になります。

しかし、翌月もペリカは発給されていくので、1年後にはマネーサプライが1割アップの状態になります。この地下帝国は情報も入って来ませんから、消費者動向経済トレンドも変わらないといってもいいでしょう。
それがずっと続くんです。
アメリカのドル発行元のFRB(連邦準備制度理事会)と同じように、地下帝国には中央銀行がなく、
ペリカは国家が管理する通貨ではありません。
帝愛(地下帝国準備機構)が自由に増刷することができるため、流通通貨の量が増えてもかまわないと、どんどん発行するかもしれませんが、、、

ちょっとびっくりする話なんですが、アメリカでは建国以来国家の中央銀行が成立していないんです、民間銀行が国の通貨を発行している。
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                   バーナンキFRB議長
FRBのニューヨーク連邦準備銀行という名の民間組織の株主とは、ロスチャイルド銀行、ラザール・フレール、シフ銀行、ウォーバーグ銀行、リーマン・ブラザース、クーン・ローブ、ゴールドマン・サックス、チェース・マンハッタン銀行などそしてオーナーです。
しかもそのうち、
ロスチャイルド銀行、ラザール・フレール、シフ銀行、ウォーバーグ銀行は、アメリカの企業ですらない、ヨーロッパの銀行です。
地下帝国で言ってみれば、兵頭や黒崎、失脚した利根などがペリカの発行を決めることができるような、そんなリアルワールドが身近に存在している事実。

だから、簡単にペリカは増刷されるでしょうね。
そうなると、日本円との為替相場の方が問題になってきます。
円とペリカは固定相場ですが、
実質はどんどん円高ペリカ安に向かっていきます。

ペリカの通貨としての信用が下がるのです。

そして、輸入ビールや輸入ポテチの価格上昇は益々購入意欲を下げていきますよね
現時点でも日本円で220円のビールが5000ペリカ、実質500円なわけですから、ビール1本1000円になってしまってもまだ買う人がいるのかという問題。
もしくは価格を定額にすると意外と早く、為替レートの相対価値で輸出国の原価と同じくらいまでに落ちて儲け無しで売らなくてはならなくなる。
いわゆる貿易赤字ですね。


外出券を購入分にはまだ、地下帝国内なのでペリカでいいんでしょうが、
問題は外出時の外貨の持ち出しです。
外出時には、その人間は所持しているペリカを日本円に交換して持ち出す。
旧ソ連のような共産国では、亡命に加え頭の痛い問題です。

実質の通貨価値が下がっているにも関わらず固定相場を維持するなら、輸出産業がない地下帝国の経済はそのうち崩壊する。
実質この為替差益で利することも可能になります。幕末の日本における金と銀の換算レート1:5と国際レート1:15の差益でずいぶん儲けた外国商人がいました。


といった意味では、
帝愛とすれば地下帝国でのペリカ退蔵を防ぐという明らかな命題がある。
だからこその、E班班長大槻と仲間の石和、沼川による必死の説得。
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大槻が余裕をもってカイジをカモっているように見えましたが、
彼らは彼らなりに必死だったんですね。

ここまでの精緻な地下帝国準備機構によって地下帝国を維持しようとする帝愛の意図とはなんのか、その辺りを本格的に考察してみたいと考えて全体の相関関係図を作成してみました。
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これがペリカ経済と日本の関係を示す全体像です。
そして、この地下帝国の国内産業というのは地下工事という公共工事のみ、というモノカルチャーなんですよ。

4につづく
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