カイジの地獄チンチロに関する経済的考察 2
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カイジの地獄チンチロに関する経済的考察 7最終章

さて、またまたカイジについての考察です。

カイジが鉄骨渡りを終えてなんにも得ることも無く、日々悶々と暮らしているころに、またもや遠藤にちょっかいを出して、誘われ、いや、さらわれ、帝愛グループに囚われの身となり、工事現場で働かされるのが、地下帝国、地獄チンチロ編です。

その地底の作業所というこれ以上ない最低中の最低の中で、一発逆転を夢見るカイジたちがチンチロりんに誘われていき、そこでまたもや莫大な借金を重ねていくのが、この地獄チンチロ編の醍醐味なわけですが、
なんで、こんな地下の強制労働所みたいなところにカイジがとらわれなければならないんだろう?本当に強制なの?と不思議に思ったわけなんです。

というのも、この地下帝国というのは案外、快適なんですね。
カイジ達は自らの境遇に嘆き節ですが、昭和30~40年代の高度成長期におけるダム現場や地下鉄工事現場の「タコ部屋」と呼ばれるような劣悪な環境どころか、むしろちょっとしたホテル、寂れた温泉地の場末旅館の雑魚寝部屋以上の快適さがここにはあるんです。
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つまり、足を伸ばして寝る場所もあり、空調も行き届いた畳敷きの大部屋、確かに一般的な個室みたいなプライバシーや外出の自由はありませんが、それなりに充実した施設。
粗食とはいえ、案外、清潔に維持された食堂も完備。


工事現場といえば、史上最大の難工事といわれた現場があります。

戦後復興の時期に国内の工業用電力不足を補おうということで進められた、国家的プロジェクト。
黒部ダムの建設です。
「黒部の太陽」という木本正次の
小説によって、現実に取材したノンフィクションとして多くの感動を呼び、かつては石原裕次郎主演の映画「黒部の太陽」、最近ではTV番組のプロジェクトXでも紹介されました。
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ゼネコン列伝でもご紹介したいと思っているのですが、この黒部ダムの工事現場では、運搬も断崖絶壁を人力で命掛け、平地が限られているなかで、作業
宿舎も人跡未踏の峻険な谷間に急造。
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トンネル内部の工事も大型削岩重機がまだ普及していないころであり、発破と人力と削岩機により掘削、途中で水脈にぶち当たったり、地熱に悩まされたり、

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作業現場で使用するブルトーザーも、平地で分解してポッカと呼ばれる山男たちが数人で山上に運搬し再組み立てしてやっと使用するといった現場だったそうです。

この黒部ダムの完成によって、日本の高度成長期は支えられたのです。
ここまでの大変な工事をおこなった先人の凄さには
本当に頭が下がります。
実現できないんではないか、と危ぶまれた工事でしたが、戦後復興という大きな国民的目標があり、不可能に挑んだ技術者と誰も出来ないんなら俺がやってやる、というひとりひとりの作業員の職人魂が炸裂したことによって、このような難事業が完遂されたんだと思います。

それに比べると、カイジはしょっぱなからヘタりまくっていました。

そんな環境下で繰り広げられるチンチロりん、茶碗にサイコロを振って出た目で争うタイプの昔からある賭博ですが、茶碗にサイを振ったときに出る音がチンチロリンだからこう呼ばれています。

そもそも、この地下工事の背景としては、帝愛は都内のいずれかの地に地下帝国と呼ばれる地下核シェルターを準備しており、その中の屋内テニスコート場として整備中の工事現場にカイジ達は送り込まれているということになっています。

その工事現場はこんな様子なんですが、建設現場を見たことがないカイジは一見してもの凄い劣悪な工事現場に送り込まれているかのように錯覚しています。

が、この程度の工事現場は、この日本では、実は大した規模ではない。

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ユンボが1台、自走式の自由断面掘削機1台、ブルトーザー1台、エンジン発電式の投光器数台、砂利運搬の鉱山用トロッコ数台
そんな程度の規模です。

ですが、ここでも帝愛は結構こだわりを見せております。

まずこの破砕した岩石と砂利を運搬しているトロッコなんですが、ここで使われているのはかつての鉱山用トロッコ、既に国内では製造メーカーがありません。これをいずれかの閉山した鉱山から入手してきて、わざわざレール無しの状況下で運搬に苦労させています。サスペンション無しの金属車輪が轍(わだち)に食い込んでいますよね。
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現在このような工事シーンでは不整地運搬車といわれる自走式のバケット車があるんです。「草刈車まさお」とか「ブッシュカッタージョージ」、「立ち乗りひろしです」など、「ものづくりは演歌だ!」をキャッチフレーズに、製品に面白いネーミングを施すことで有名な作業運搬車メーカー株式会社筑水キャニコムの、もっとも軽微な「コンクリート砂男」くらいは、使わせてあげればいいのに、と思いました。「うきはから世界へ」キャニコムマン5号のブログ
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そのトロッコ以外は、一般的な工事重機とその関連機器です。
ブルトーザーとユンボはいわずと知れた、
世界に誇る建設重機の一流メーカーコマツ製だと思います。
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エンジン発電式の投光器は最近一般的なバルーン式ではなく、
首振り反射カバー付きということから、デンヨー製 でしょう。
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実は、この地下工事でもっともレアなアイテムは自由断面掘削機なんです。

自由断面掘削機とは、ショベルアームの先端に掘削用のカッターを装備し、トンネルの壁面の岩盤をガリガリと削っていく、そして破砕した岩石をお尻からコンベアーで吐き出す自走式の重機です。
いわゆるトンネルを自らの径で掘り進むシールドマシーンとは異なり、地下空間を削り広げるマシーンですね。

この自由断面掘削機の
トンネル工事業界憧れのブランドカーメーカー、
はたらく自動車好きの五歳児たちの間でも、最も有名な企業が存在します。
その企業の名は、カヤバ システム マシナリー株式会社
株式会社カヤバ工業、株式会社カヤバレイステージ、日本鉱機株式会社と合併して出来た企業です。

その前身は1919年(大正8年)、萱場資郎が設立した萱場発明研究所を母体とし、戦時中には、ゼロ戦の主脚油圧装置やカタパルト、そして「カ号観測機」というオートジャイロの対潜哨戒機を生産していたカヤバ工業です。
また、現在のステルス戦闘機に通じる無尾翼機である萱場シリーズ(1型~4型)を設計していたことでも知られています。萱場はラムジェットエンジンの「萱場かつおどり戦闘機」も構想しており、最終的に萱場シリーズはメッサーシュミットMe163を参考にする際に、国産ロケット戦闘機「秋水」に受継がれています。
参考:無尾翼機の世界

戦後のカヤバ工業は二輪車、四輪車のショックアブソーバーメーカーとして世界的な企業で、そちらはKYB株式会社として有名です。


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トミカのラインナップにも登場しています。

自由断面掘削機では、カヤバ システム マシナリー株式会社の先端松ぼっくり型をしたカッターヘッドドリル形式の、ブームヘッダーRHシリーズが主流なんですが、

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カッターヘッドをつぶさに見ていくと、カイジの現場はカヤバではないんです。
ブームヘッダーRHをこの帝愛地下帝国、カイジ地獄チンチロ編の現場では使っていない。

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ここでは横軸型クロスヘッダータイプの
自由断面掘削機を使用しています。

なかなか珍しい重機なんです。

現在この横軸型の岩盤掘削ヘッダーを用いた自由断面掘削機を製造しているのは、
株式会社コバヤシです。
青函トンネルにも携わった会社で、トンネル内部に保護コンクリート吹きつける工法重機を日本で初めて開発した会社です。

しかも、
株式会社コバヤシが誇る自由断面掘削機の名は、

スーパーヘッダー「神威(かむい)」 ATM70

えっ、神威(かむい)?!
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福本ファンなら、神威(かむい)!この名は聞いたことがありますよね。
平井銀二のところで、森田が大変な目に会わされたことがある!

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神威(かむい)!
偶然なのか、なんなのか、もの凄いものを引き当ててしまいました。
さすが、福本先生!いや、帝愛!と言うべきか、、、
だからカヤバのブームヘッダーRHシリーズではなく、
横軸型クロスヘッダータイプなのか!

といった前段の振りで、早くも帝愛がただ単にカイジたちに借金返済のためだけに、
懲罰的にこの地下帝国を建設しているわけではないな、、、、
という思いが強くなったんです。

2に続く
 

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