カイジの鉄骨渡りに関する建築的考察1
カイジの鉄骨渡りに関する建築的考察2
カイジの鉄骨渡りに関する建築的考察3

カイジの鉄骨渡りに関する建築的考察5最終章

カイジの考察シリーズには
この2日で22万アクセスもあり、思いのほかたくさんの方々に来ていただけました。
読んでいただいた方々に御礼申し上げます。いろいろとご質問いただいたりご指摘いただけましたことも励みになりました。

そろそろまとめにはいりたいと思うんですが、
そもそもこのカイジの鉄骨渡りのエピソードは周到なプロットのもとに描かれていまして、読者を恐怖と歓喜と絶望的な脱力感に陥れながら、こんなくだらなくも破天荒なエピソードの中に何か哲学、生きることの哲学みたいなものがにじみ出てくるという、福本マンガの特徴が集約していると思うんですね。

まず、カイジたちが狭くて黒い箱の中に閉じ込められて、いきなり鉄骨渡りのスタートラインにつくその初回。

鉄骨渡りパート1
ここに集まった観客は、ちょっと小金をつかんだという事業家や遊び人、いっときの成功感覚に酔いしれるギャンブラーたち、いってみれば普通の酔狂な客でしかない。
にもかかわらず帝愛側では、電光掲示板すら準備してある。

ここでの山場は自分が助かりたいために他人を押しのけることができるのか?
同時にそれが社会の摂理、自然の摂理であること、その厳しさを圧倒的な極限状況下で感じとることになります。

今、目の前で人を押しのけ落とす、自分の真後ろから自分を落とそうとする他者。
誰かを蹴落とす、誰かを犠牲にする、誰かの肉を喰らって勝ち残る、そんな認めがたい事実、それを突きつけられる。

獣なら躊躇なく襲いかかれる。
しかし、それを断固拒否できるのが人間。
人は誰でも、他者を助けたい、他者と共感したい、そんな心がある。

だから、その二者択一の場面で、思わず涙が出る、みんな泣いてしまう。
それが感情。
みんな泣きながら他人を蹴落とす、そしてカイジ、、、
そこを兵頭や利根川は見たかった。

この1回目鉄骨渡り、ホテルの低層部で繰り広げられる鉄骨渡りは、
気をつけないとバランスをくずすおそれはあるものの他者との競合による試練。
鉄骨そのものは、その高度からいって一般的な構造材料で構成可能なレベルであることは「考察1」で検証しました。


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上記はカイジの鉄骨渡りに関する建築的考察1の構造計算結果です。

掲載した構造計算結果について溝型鋼材を片側でしかみていないのはなぜ?というご質問がありました。

そうなんです、溝型鋼材は片側半分でしかみなかったんです。
それは、この左右は厳密には合わせ梁ではないから、
ちょっと専門的な話になりますが、
これは間違いではなくて初めから片側半分でしか見れないな、、という判断なんです。
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カイジの鉄骨渡りでは1回目のときにすでに梁に筋目が表現されてますよね。
実は1回目の鉄骨は横への合わせ梁にする必要もない、細長い台形の鋼管を作ってもいいんです。

合わせた梁は巾が2倍になりますが、梁せい(下図のH寸法)がそのままなので、梁の曲げに対しての強度(専門用語で断面二次モーメントといいます、力に抵抗する縦軸における反回転力の目安)が二倍になるわけではないんですね。

断面二次モーメントというのは建築構造でよく出てくる専門用語なんですが、要は下図のような考え方です。
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また足の位置によっては体重が左右に均等に分担され多少積載加重が軽減される瞬間もありますが、
一般的に建築の構造は安全側の片側全加重分担で判断すべきと考えました。

このわざわざ半割りにして、構造的に一体とはいいがたい、一部をつないだもの、
このことにより、ひと手間余計にかかっている。
なのに、1回目からわざわざ半分に割って再構成することを利根川は選択した。

この時点で利根川たちが、あえて梁を半分に割ったのは、実は渡りきった挑戦者を次の鉄骨渡りパート2で電流を通したタイプへいざなうときの布石になっているんです。

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二回目の鉄骨は、プレストレス導入鉄骨梁と読んでいますが、これは上図の黄色いところにあるウェブスチフナーという部位が、ちょうど竹の節のように一定間隔でならび、そこにネジ付きの鉄筋がねじ込まれることでプレストレスを導入します。

鉄骨渡りパート2
なぜ鉄骨を割っているか、
それは、ビルとビルの間に渡しかけた方では、電流を流す必要があった。
この電流を流した鉄骨を構成するために最初からこの計画は練られているんです。
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つまりはこうです。
あの鉄骨に触れたときに電流を流すには、導電体は1本ではダメ。
電線に止まったスズメが感電しないように、一本の電線では電位差が生じないから電流は流れない、さわったところで目の前でショートなどしない。
だから二本必要、電位差を生じさせた電流が流れる道。

そのため、この鉄骨梁は真ん中で電気的に絶縁された溝型鋼が二本でひとつになる構造になっているんです。
この合わせ目に手がかかったとき、左右の梁をまたいで感電する、触れた瞬間人体を通じてショートする。
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しかし梁の中心の合わせ目は極力薄くしたい、そこで電気絶縁性が高く厚みの薄い絶縁耐熱型のシリコン樹脂、ポリイミドフィルムなどを挟み込み使っていると思われます。
ポリイミドフィルムとは携帯電話の中にも発電機やモーターの中にも絶縁体としてはいっています。

帝人「テオネックス」
三菱樹脂「ダイアホイル」
東レ「カプトン」

この2回目と1回目はまったく同じ鉄骨に見えなくてはならないんです。
その強度やたわまないことや、左右合わせの梁という物理的特性も、
なぜなら、
パート2での醍醐味は、
いったん出来たこと、能力的に可能なこと、物理的に同じ条件が、感情によって実行できなくなる、恐怖によって行動に制限がかかる。

機械であればパート1もパート2もなんなくクリア、むしろ観客からあおられない、攻めてくる敵がいないパート2の方が断然楽勝。

それが、できない、人は、機械じゃないから。
落ちたら即死、触れば感電落下即死、渡れたはずなのに、出来るはずなのに。
それが感情。

みなさんもそんな経験はありませんか?
練習では楽勝の格下の相手に本番の県大会では一回戦負け、模擬試験ではなんなく通過点、それが本番の受験では簡単な問題をミス、契約前になるとプレゼン資料の作成の手がとまる、
これはすべてこの2回目の鉄骨渡りと同じ、同じ心理、同じ現象。

そこまでの状況づくりをするためには、1回目と2回目とも一見同じ鉄骨でなくてはならない。
絶対に、
だから割った、わざわざ鉄骨を割った、25メートルだから余計たわむ、
そこであのハイテク技術が必要になったんですね。


しかし、パート1、パート2でひとつだけ違うことがあるんです。

それは利根川が時間を気にしていたことなんですね、
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渡り終わるまでの制限時間が設けられていた。これはなぜなのか

カイジの鉄骨渡りに関する5 最終章に続く


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