ベンゾジアゼピン系薬剤による離脱症状に苦しんだ経験をもつAさん(40歳、男性)の話を紹介する。


Aさんが心療内科を初めて受診したのは2008年の11月。その1ヶ月前に突発性難聴で左耳が聞こえなくなり入院、治療を受けた。しかし、完全に聞こえるようにならず、耳鳴りが残ったため、精神的にショックを受け、調子を崩してしまう。

心療内科での診断はストレス性不安障害。そして、以下の薬を処方された。

メイラックスmg 朝夕 各1錠

ドグマチール50㎎ 朝夕 各1錠

レンドルミン0.25㎎ 就寝前1錠

 眠れるようになったので、レンドルミンは2週間ほどで服薬をやめた。しかし、メイラックス、ドグマチールは調子が良くなっても処方され続けたので、4ヶ月を過ぎたころ、Aさん自らが主治医に中止したい旨伝えて了承された。

 しかし、2、3日後、漠然とした不安感を覚え、それは日に日に大きくなり、同時にまた耳鳴りもひどくなった。薬を止めたことが原因かと思い再び心療内科を受診(以前の医師は転院しており、別の医師の診察を受けた)、再び以前と同じ、メイラックスとドグマチールを処方された。

 3ヶ月後、調子を取り戻したので、主治医と相談の末、服薬を中止。

 前の医師もそうだったが、この医師も、いきなりの断薬だった。そのときに、離脱症状の説明はおろか、徐々に薬を減らしていく漸減法にも一切触れることはなかったという。

 そして、またしても断薬後、不安感に襲われ、さらに今度は睡眠障害が現れた。

 心療内科へ行くと「不安感が強いようですね」と言われ、別の薬(統合失調症の薬・リズパダール)を出される。

 しかし、効果は現れず、1ヶ月後には入眠困難となり、再びレンドルミンが処方された。

 最初は効いたが、1週間ほどで効かなくなり、イライラ感が募り、物にあたったり、精神的に不安定に。

 主治医にこのことを話すと、今度は別の睡眠導入剤(ロヒプノール)と、またしても統合失調症薬リスパダールが処方された。医師の見解は「睡眠障害の原因は不安感からくるもので、それを取り除かなければ解決されない」というものだった。

 しかし、いまAさんは、このときの症状は明らかに離脱症状であったと確信している

 常用量での依存が形成され、それが進行することで、服薬しながらも離脱症状が現れたのだ。


 その後さまざまな症状が出現し、それを医師に訴えるたびに抗うつ薬(ルボックス)など処方されたが、どれも効果がない。医師は「効かなければ薬を増量する」とAさんに告げる。

 しかし、症状は日に日に悪くなる一方。特にひどかったのは睡眠障害と自殺念慮で、外出もままならない状態となった。(仕事は不可能となる)。


 この時点で、ベンゾジアゼピン系薬剤、メイラックス、ロヒプノールで計9ヶ月間服用したことになる。

 しかし、医師はAさんがさまざまな異変を訴えても、それを離脱症状とは認めず、引き続きリスパダールとロヒプノールでしばらく様子を見るとの方針。そして、改善しないAさんに対して主治医は首をかしげるばかり、何ら明確な指示を出すことができなかった。


 Aさんは見切りをつけて、セカンドオピニオンを求めて5つの心療内科(国立病院を含む)を渡り歩くことになった。

 しかし、すべての医師が「服薬期間と量からみて離脱症状とは考えられない。あったとしても2週間ほどで消失するはず」との見解だった。

「ならば、私の今の症状は何なんですか?」と問いただすと、

「それは主治医に聞いてください」と差し戻す。


 そうした医師の対応もAさんを追い詰めた。

 誰も理解してくれない。離脱症状であることは確実なのに、専門の医師たちは、精神の病としか受け取ってくれない。

 孤立無援の思いにかられ、その頃からAさんを「自殺念慮」が襲うようになった。

 どうやったら楽に死ねるか……。


 一方で、ぼろぼろの精神状態ではあったが、薬について必死でインターネットで調べまくった。そして、たどりついたのが「グリーンフォレスト」である。

 ここではベンゾジアゼピン系薬剤による依存、離脱症状の情報を公開し、減薬、断薬のアドバイスも行っている。(http://bz-drug-info.hp.infoseek.co.jp/

 Aさんは電話カウンセリングを受け、これまでの経緯と現在の症状を話した。するとカウンセラーは「それは間違いなく離脱症状です」と言ってくれた。やっと理解してくれる人に出会えた。Aさんはほんのわずかながら希望を見出した思いだった。

 そして、その時に教えられたのが以下のようなことである。

①日本の精神科医にはベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状について詳しい知識を持っている医師は極めて少ない。(一部の内科医と脳神経科医にはいるらしいが)

②決定的な治療法や特効薬はなく、薬を減らしながら、耐えるしかない。

③ベンゾジアゼピン系の離脱症状は、人間が経験する苦痛の中でも最高レベルであること(拷問に等しい)。

 それにしても、こんな地獄の苦しみが自分に耐えられるだろうか?

 Aさんには自信がなかった。そして、相変わらず自殺のことを考えていた。


 そして、苦しみが頂点に達したとき実行してしまったのである

「スーッと意識がなくなっていく感覚。今でもはっきりと覚えています。支えていた手が離れ、首つりの状態になりました。ところが、ネクタイは自分の体重に耐えられず切れたのです。(今では、まだ生きろということだと思っています)。そして、少しだけ自分を取り戻し、思いとどまりました。」

 Aさんから送られてきたメールの文章だ。


 そのような状態で、Aさんは主治医の医院にもどり、なんとか助けてほしいと訴えた。が、そんなAさんに医師がやったことといえば、睡眠導入剤の変更とリスパダールの継続処方だった。

 まったく当てにならない。Aさんは二度とこの医師のところへは行かないと誓った。


 Aさんは、カウンセラーの示すスケジュールに従って、2009年の10月中旬から減薬を開始した。

 まず、ロヒプノール1mgセルシン5㎎に置換して、体調を見ながら2週間をめどに1㎎ずつ漸減する。

ロヒプノールは睡眠導入剤なので断薬後に大きな不眠が出る。したがって、安定剤のセルシンのほうがベターであるとのことだった。また、セルシンはロヒプノールに比べて力価(薬の強さ)が低いので、身体への負担が少ないのだ。これは減薬ではよく使われる方法だ。

 完全に断薬するまで3ヶ月の予定。


 スタートして4、5日は調子が良かったが、その後体調が悪くなった。

一番つらかったのは、睡眠障害である。体は疲れているのに眠れない。何度も薬を飲みそうになったが、なんとか乗り切った。

そして、2010年の1月中旬、なんとか断薬までたどり着くことができた。「地獄の苦しみ」をAさんは何とか乗り切ることができたのだ。

そこからさらに、支障なく日常生活が送れるようになるのに3ヶ月かかった。

現在は何とか以前のように生活している。しかし、まだ睡眠は不安定だ。いつぶり返すか、恐れながらの毎日である。


今振り返ると、自殺未遂にしろ、異常な感情や行動は、すべて薬のものであったとAさんは思う。現に、自殺企図はロヒプノールの離脱症状が原因だろうとカウンセラーに言われた。

これははっきりいって「薬害」である。そして、こうした薬害を生みだす薬がいとも簡単に処方され、しかも処方され続け、医師は医師で、そのことで引き起こされた離脱症状を決して認めず、それだけでなくさらに薬を増加させる。そして、患者は自分の意思に反して、どんどん薬漬けにされていくのだ……。


こんなのは医療ではないだろう。医療どころか、医原病といってもいい。医師が自ら処方薬によって病気を作りだしている。



Aさんの言葉を以下にあげる。

「なんといっても向精神薬についての情報が少なすぎます。そして、現在の精神医療現場は本当に病院経営優先で患者の味方ではないと思います。多くの場合、初診は1ヶ月待ちなど当たり前。外来でも多くの患者がごった返しています。そして、診察は3分程度の簡易なもので(患者の回転率を上げるためか)、十分な説明もなく処方して終わりなんですから。」


 もう一度言う。

 こんなのが医療だろうか?