Wikipediaの「ベンゾジアゼピン薬物乱用」というページを見てほしい。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%82%BE%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%82%BC%E3%83%94%E3%83%B3%E8%96%AC%E7%89%A9%E4%B9%B1%E7%94%A8

  じつは、この項目、最近になって書き換えられていたことをご存じだろうか。

どこが書き換えられているのか?

下のグラフとその説明文は、書き換えられる以前のものだ。(旧バージョン)

  これは、国際麻薬制委員会が出している各国の人口1000人あたりのベンゾジアゼピン系睡眠鎮静剤消費量である。少し見にくいが、日本は左から2番目、つまり世界第二位の消費国ということだ。

しかし、この数字には、グラフの説明文にもあるように「デパス」はカウントされていない。この報告書の出た2010年当時、デパスは向精神薬に指定されておらず、それでカウントされていないのだ。もちろん、デパスの処方量を考えると、デパスをカウントした時点で、日本はベルギーを抜いて、世界第一位の座を手に入れることになる。

 

ところが、である。

これが現在のWikipediaではどうなっているか?

ネットで調べてもらえばわかるが、グラフはまったく同じものを使いながら、下の説明文がこう変わっているのだ。

 

各国の人口1000人あたりベンゾジアゼピン系催眠鎮静剤消費量 (国際麻薬統制委員会)[7]

日本は高齢化の影響で消費量が多いと示唆されている。ベンゾジアゼピン系抗不安薬の統計は別に存在し、日本は平均的な消費量である。

 

高齢化の影響で消費量は多いものの、「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」については、日本は「平均的な」消費国というのだ。このグラフでは世界第二位のままになっているにもかかわらず、グラフの説明として「平均的な消費国」とはいったい何を言っているのだろう。

しかもデパスが向精神薬に指定された現在、日本が「平均的な消費量」の国であるわけがない。

 

また、別の項目にも書き換えがある。

例えば、「各国の状況」の項を見てほしい。

旧バージョンでは以下のような国際麻薬統制委員会の報告書を大きく取り上げ、日本がベンゾ処方量がいかに多いかを記している。

 

 

ところが新バージョンの「各国の状況」の日本の説明は以下のとおりなのだ。

日本[編集]

ベンゾジアゼピン系医薬品は、厚生労働省告示による「投薬期間に上限が設けられている医薬品」に該当し、14日分か30日分を限度に投与の制限が定められている[35]。ジアゼパム、ニトラゼパム、クロバザム、クロナゼパムなどの一部製剤は90日分が上限と定められている[35]

 

日本のベンゾジアゼピン系抗不安薬の消費量は、諸外国と比較し平均的である。日本のベンゾジアゼピン系催眠鎮静剤の消費量は、高齢化の影響で多くなったと示されている[36]

 

厚生労働省の定める2014年の診療報酬規定においては、抗不安薬・睡眠薬を3種類以上投与した場合は診療報酬が減額され、かつ厚労省への届け出義務が定められた(多剤大量処方#政府による規制)[37]

 

こうした情報の出展は、注の36と記してある通り、

^ a b c AVAILABILITY OF INTERNATIONALLY CONTROLLED DRUGS (pdf). www.incb.org (国際麻薬統制委員会 en:INCB). (2015) 201668日閲覧。

 

国際麻薬統制委員会の2015年の報告書によるものだ。確かに、それを確認すると、

http://www.incb.org/documents/Publications/AnnualReports/AR2015/English/Supplement-AR15_availability_English.pdf

この51頁の210に抗不安薬についての解説があり、54頁の216に睡眠薬についての解説があり、それぞれ、ここに書かれているようなことが記されている。

としたら、国際麻薬統制員会に日本の誰がどのような数字を報告したのかということが問題になってくる。

そこで考えられるのは、厚生労働省の科学研究事業の一つとして行われた「向精神薬の処方実態に関する研究」である。研究者代表は国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所所長の中込和幸氏。

この研究では、医師の向精神薬の処方実態や抗精神病薬の高容量症例の減量に関する研究が行われ、その結果を以下のように総括しているのだ。

「向精神病薬全般として2005年~2009年にかけて増加傾向に歯止めがかかり、特に抗不安薬に関しては減少傾向が見られる。とくに2012年以降は力価や用量の減少が目立つようになっている。」

 

この中込研究でいうところの「2012年以降減少」という言葉は、この年に減算措置をとったことに対する帳尻合わせに思えて仕方がない。

なぜなら、同じ研究班の分担研究として奥村泰之研究員(医療経済研究機構)が行った調査では、別の結論が出されているからだ。それによると、診療報酬改定後(減算後)においても、抗不安薬と睡眠薬の多剤処方への効果は限定的であるというのである。

  読売新聞2015年8月21日(夕刊)でも、「ベンゾ系薬剤、過剰処方2割」と題して、ベンゾ処方の規制を行っても、導入前と処方量が変わっていないことを伝えている。

 

研修を受ければ、多剤処方が可能に、

ところで、この減算措置についてだが、決められたのは以下の剤数である。

抗不安薬 3剤以上 睡眠薬3剤以上

抗うつ薬4剤以上 抗精神病薬4剤以上

この場合、処方料等がマイナス算定されることになっている。

 

そもそも薬というのは、多剤を想定せずに治験が行われている。それを3剤だ4剤だと規定すること自体おかしな話だが、ともかく、抗不安薬、睡眠薬はそれぞれ2剤まではよしということになり、ベンゾという観点で考えれば、ベンゾ4剤までOKであると厚労省がお墨付きを出したようなものである。

また、抗うつ薬と抗精神病薬についてはなんと3剤までいいことになっている。3剤の併用に有効性があるという研究結果は一つもないにもかかわらずだ。

しかも、抗精神病薬エビリファイを例にとれば、エビリファイ内用液、エビリファイ持続性水懸筋注用、エビリファイ錠、エビリファイOD錠、全部使っても1剤ということになる。さらにリスパダールOD錠、リスパダールコンスタ筋注用、リスパダール内用液、リスパダール錠を全部出しても、まだ2剤だ。

しかも、抗うつ薬、抗精神病薬に関しては、減算措置をザル法にするやり方まで存在する。

例えば、この減算措置に猛烈な反対をした日本精神神経学会。そのホームページには、こんな記事が出ているのだ。

 

https://www.jspn.or.jp/modules/specialist/index.php?content_id=30

「精神科薬物研修」

本学会は、薬物療法の内容をもって精神医療の基本となる通院精神療法を減算することおよび各薬剤の薬効、相互作用、患者特性等を無視し薬剤の種類数のみで規制することは、ともに不合理であり、精神科医療の在り方を壊すことになるとして、本規定に強く反対しました。(略)専門家が行う薬物療法には多剤併用を使用せざるを得ない状況があり、適切な薬物療法の教育研修は学会自らが取り組むべきものである、という本学会の主張が取り入れられました。2014331日付の厚生労働省保険局医療課発の事務連絡において、具体的には、本学会精神科専門医であり、かつ薬物療法に係わる一定の研修を受けた精神科医が処方する抗うつ薬・抗精神病薬については、減算の除外要件とするとされました。

 

何のことはない、研修を受ければ、いくら多剤大量処方をしてもお咎めなしということだ。「専門家が行う薬物療法には多剤併用を使用せざるを得ない状況がある」?

いやいや、そういう状況は、専門家であるはずの精神科医が「最初から安易に多剤併用を行ってしまった結果の状況」以外の何ものでもないはずだ。

何としても多剤処方を手放したくない……そのための詭弁であり、ごり押しである。

 

ともかく、こういうことは平気で行うことができるのが精神医療界なのだ。

したがって、このWikipediaの書き換えにしても何らかの「悪意」を感じざるを得ない。裏にはベンゾの被害を何としても「なかったことにしたい」勢力がいるのではないだろうか。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、日本は「平均的な」消費国?

あり得ない。