ベンゾジアゼピンに関する海外の研究結果がここ最近複数発表されていますので、今日はそれを紹介します。

 結論から言えば、研究はどれも、「ベンゾジアゼピンが死を招く薬物である」ことを裏付けるものでした。

 それまで、ベンゾは、鎮静剤としてベンゾ以前多く使われていたバルビツール酸系に比べて「安全」であるという認識が広まっています。もちろん、致死「量」という点でベンゾはバルビツール酸系よりは「安全」なのかもしれません。したがって医師もその点のみを強調して、「とても安全な薬」として患者に処方していますが(依存や常用量離脱についてもほぼ考慮することなく、じつに気軽に処方していますが)、これらの研究では「安全な薬」という認識を覆す結果が出ています。

 以下、要約で紹介します。

 

Paine News network  20171120

Floridas Deadliest Rx Drug is Not a Painkiller

 フロリダの最悪の処方薬は鎮痛剤(オピオイド)ではない

https://www.painnewsnetwork.org/stories/2017/11/20/floridas-deadliest-prescription-drug-is-not-an-opioid   

注・Painekiller=鎮痛剤。ここではオピオイド系の鎮痛剤を指しています。

 オピオイド系とは、ケシから採取されるアルカロイドや、そこから合成された化合物、また体内に存在する内因性の化合物を指し、鎮痛、陶酔作用があり、また薬剤の高用量の摂取では昏睡、呼吸抑制を引き起こす(Wikipedia)薬物のことです。アヘンから始まり、モルヒネ、コデイン、ヘロイン、オキシコドン等が作られます。

米国では処方薬として購入できるオピオイド系鎮痛剤が、日本では違法薬剤であることも多く、たとえばオキシコドンは20156月、トヨタ自動車の女性常務役員が麻薬取締法違反容疑で逮捕された原因となったことでも有名になりました。

 一方、米国では、慢性痛の治療に使われるオピオイド系の鎮痛剤が乱用されており、中毒状態になっている者は190万人。死亡者は1999年から2014年までで165,000人に上るとされています。

 オピオイド系鎮痛剤は、治療的な処方と危険な処方の差がごくわずかで、薬物依存になりやすく、米国では2000年以降にヘロインを乱用した者の75パーセントが、処方薬のオピオイド系鎮痛剤の乱用から始まったとされています。

https://wired.jp/2016/04/23/americans-addicted-prescription-opiates/

 今年の10月米国のトランプ大統領もこの問題を取り上げ、鎮痛剤の乱用による薬物中毒の拡大を米国の「国家的不名誉」と呼び、公衆衛生の緊急事態だと宣言したことはニュースにもなりました。http://www.bbc.com/japanese/41772348

 

 しかし、そんなオピオイドより、致命的な処方薬がベンゾジアゼピンであると、この研究結果は言っています。

 以下訳文。

 

「フロリダ州で最も致命的な処方薬は、オピオイド鎮痛薬ではなく、ザナックスXanax(一般名アルプラゾラム・日本での商品名はソラナックス・コンスタン)、およびバリウムValium(一般名ジアゼパム・日本ではセルシン等)を含む抗不安薬の一種であるベンゾジアゼピンである。ザナックスは、昨年(2016年)、オキシコドンより多くのフロリダ人を殺した」

 

として、フロリダにおいて薬物で死亡した11,910人のうち、オキシコドンが723人、ザナックスは813人という数字を上げています。

 

「ベンゾジアゼピンはコインの次に人を殺す可能性が高い薬剤である。ベンゾジアゼピンは、2016年にはフロリダ州においてオキシコドンよりも2倍多くの死亡原因となった。オピオイドと同様に、ベンゾジアゼピンは呼吸を抑制し、過量摂取をすると呼吸を止める原因になる」

 

DRUG CAUSED DEATHS IN FLORIDA (2016)

フロリダ州における薬物関連死(2016年)

  左から、コカイン、ベンゾジアゼピン、フェンタニル、モルヒネ、フェンタニル類似体、ヘロイン、アルコール、オキシコドン、メタドン、メタンフェタミン

 

 記事では、オピオイドの危機より、フェンタニル、ベンゾジアゼピン、ヘロイン、コカインに関連した死亡を重視しています。なぜなら、そちらの死亡数が大幅に上回っており、処方薬のオピオイドによる死亡は、2017年第2四半期のマサチューセッツ州の過量摂取死亡率のわずか16%にしかなかったからです。

 にもかかわらず、政治家、メディア、公衆衛生当局は「オピオイド流行」または「オピオイド危機」 として騒ぎ立て、ベンゾジアゼピンのザナックスの流行やヴァリウムの危機を叫ぶことはない、と書いています。

 

 

もう一つ、研究結果を紹介します。

アメリカ国立衛生研究所(NIH)のデータです。

https://www.drugabuse.gov/related-topics/trends-statistics/overdose-death-rates

NIH national institute on drug abuse 20179

Overdose Death Rates 過量摂取の死亡率

米国において、2016年に推定された64,000件を超える薬物過量摂取死のうち、フェンタニルおよびフェンタニル類似体(合成オピオイド)に関連する死は20,000件を超え、死亡率の中で最も急激な増加が見られました。出典:CDC疾病管理センター

 

ベンゾジアゼピン類の過量摂取死亡数

 

 

上の図は、2002年から2015年までのベンゾジアゼピンの米国の過量摂取死亡の総数を示す棒グラフです。折れ線グラフは、女性(黄色)と男性(オレンジ色)の死亡数を示しています。

2002年から2015年にかけて、死亡者数は4.3倍に増加しました。

(※ 2015年を見ると、全米で9000人近い人がベンゾの過量摂取で亡くなっています。)

 

  

オピオイドが関与するベンゾジアゼピン過量摂取死

赤色の線はオピオイドを伴うベンゾジアゼピン過量摂取死をあらわし、紫色の線はオピオイドを含まないベンゾジアゼピンの死をあらわしています。

 2002年から2015年の間、オピオイドを伴うベンゾジアゼピンの死亡数は、オピオイドを伴わないものより2倍増加しました。

 (※ つまり、ベンゾの過量摂取にオピオイドが加わると、死亡率がかなり上がるということです。)

 

 日本では「薬物関連精神疾患の実態調査」なるものが隔年で行われています。

 手元にある資料では、2010年の結果で、2013年の『臨床精神薬理』に松本俊彦医師が論文を書いています。それによると、671例の薬物関連障害症例を主たる乱用薬物別に分類したところ以下のような結果でした。

覚せい剤 361例(53.8%)

鎮静剤(主にベンゾ及び近縁の睡眠薬、抗不安薬)119例(17.7%)

多剤57例(8.5%)

有機溶剤56例(8.3%)

鎮咳薬20例(3.0%)

大麻18例(4.2%)

その他28例(4.2%

 

 規模があまりに小さいですが、ベンゾの乱用(過量服薬)が第二位になっていることに松本医師は警告を発しています。

 しかし、過量服薬=自殺リスクという視点でのみの分析で、自殺に関連しない、乱用死については語っていません。

 それどころか以下のような意見です。

「向精神薬の過量摂取による自殺企図で搬送される患者の数が増加しており、こうした患者の8割近くがベンゾの睡眠薬・抗不安薬を過量摂取していたという。これらのベンゾは、過量摂取による致死性が低い一方で、衝動的な患者の場合には、ベンゾの脱抑制作用により、自傷行為が誘発したり、自殺念慮の行動化を促進したりする。……」

 

 今回の論文では、過量摂取による致死性の高さが示されました。

 このことはぜひとも、ベンゾの依存、常用量離脱とともに、ベンゾを処方する医師の方々には知っていただきたいことです。

 ベンゾは決して「安全な薬」ではないこと。

「健康の専門家によると、ヘロイン、コカインよりも薬物使用者の死亡率が高いベンゾジアゼピン類」

Benzodiazepines linked to higher mortality among drug users than heroin, cocaine, say health experts 

http://vancouversun.com/news/local-news/psychiatric-drugs-killing-more-users-than-heroin-cocaine-say-health-experts  2016年5月17

 という記事もあります。