彫刻家 片桐 宏典さん 第9回 ~社会との接点について アートイベントUK98について~ | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」


みなさま こんにちは。

彫刻工房くさか 日下育子です。


今日は素敵な作家をご紹介いたします。

彫刻家の片桐 宏典さんです。




片桐 宏典さん
ケイト・トムソンさん
お二人とも彫刻家であり、ご夫妻でもいらっしゃいます。



前回の日下育子からのリレーでご登場頂きます。
     
第1回  第2回  第3回  第4回  第5回  




片桐 宏典さん  

    第1回 ~三陸のリアス海岸が原風景にあります~ 

           第1回続き 略歴のご紹介

    第2回  ~彫刻でコミュニティーと関わってきました~ 

    第3回  ~芸術家の共働制作で「宇宙」を表現しました~

    第4回  ~アートをプロフェッショナルにやっています~

    第5回 ~制作テーマ①  ストリームラインのシリーズについて~
    第6回   ~制作テーマ②  サウンドインスタレーションについて~ 

    第7回  ~制作の素材と想い、 舟の作品について~

    第8回  ~制作の素材と想い、階段状の作品について~



第9回目の今日は、片桐 宏典さん、ケイト トムソンさんが1998年に
岩手県で企画・実践された岩手アートフェスティバルUK98を糸口にアートと社会との関わり
についてお話頂きました。


最初、盛岡市の大通り何カ所かのショップを使って展示をしようというささやかだったプランを
県内の小さな美術館やギャラリーの大きなネットワークを組み、また小岩井農場を組み入れて、
大々的にやってみようというプランに展開された精力的な取り組みについてお聴かせ頂きました。


アートの持っている力を社会で発揮された貴重な事例だと思います。


お楽しみ頂けましたら幸いです。


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ウオーターマーク

「ウォーター・マーク ~北上川の四季」
スウェーデン黒、岩手産白花崗岩
本体寸法   700x700x800cmH
いわて沼宮内アートロード計画 「シンボル・モニュメント」
岩手県岩手町いわて沼宮内駅前
2003





シンフォニア

「シンフォニア(交響曲)」
岩手産白花崗岩、クリ
450x180x900cmH
岩手県二戸郡奥中山いわて子供の森
県営テーマパーク施設のシンボル・モニュメント
2002





岩手町国際彫刻シンポジウム2003

岩手町国際彫刻シンポジウム
(片桐宏典:共働製作)
2003






「ホワイト・リーフー白き岩礁ー」






「ホワイト・リーフー白き岩礁ー」 ボール




「ホワイト・リーフー白き岩礁ー」 ベンチ





「ホワイト・リーフー白き岩礁ー」

岩手産白御影石

本体寸法  50mx50mx2m

青森県階上町

青森県階上町道の駅ふるさとにぎわい広場広場彫刻

1994

メモ

階上町道の駅ふるさとにぎわい広場の噴水を中心とした石の環境空間的作品。

海をモチーフにした様々なオブジェ、ベンチが組み合わされている。

北三陸の穏やかな海岸と臥牛山の裾野に広がる丘陵地帯。泉から湧き出る水のリズムは生命の脈打つエネルギーであり、そのまわりの表情豊かな石の数々は、海の岩場/岩礁 (Reef) を象徴しています。
岩礁は、自然の生命を育むのに最適な棲み家で、したがって、大いなる自然の象徴とも言えます。

われわれはこの自然の恩恵を享受し、慈しみながら、人間社会の活動を営んでいるのです。
自由なかたちの石のまわりで、想像の翼に身を託し、さまざまな物語にひとときの想いを馳せて下さい。









「Streamline Coordinate」

インド産黒御影石

114 x 15 x 50 cm H,

2013






エクリプス2011

「Eclipse- Prominence 2011-e3」
スウェーデン産黒御影石
59 x 18 x 59 cm high
2011





覚醒する風景2011

"覚醒する風景ー邂逅"
インド産黒御影石
50 x33 x 330cmH
2011





スTorso2011

「Streamline-Torso」
スウェーデン産黒御影石
48x11x10.5cmH
2011





スBjin 2010


「Streamline-Bjin」
スウェーデン産黒御影石
50 x 25 x 220cm
2010





スTorso3 2009

「Streamline-Torso3」
スウェーデン産黒御影石
193 x 22 x 20 h cm
2009







春雷」
玄武岩 
60×8×25㎝H

1996






日下
15年ほど前に私が片桐さんに
「何かをするときに誰と自分一人の力で出来ない時に、
 誰かとつながって協力してやれたらいいけれども、
 誰と繋がったらいいのかも分からない」とお話したことがありました。


その時、片桐さんは「誰と繋がるかという問題じゃないんだよ。」
と仰ったことが印象に残っています。
私は、それは彫刻家・芸術家の側から社会に対して企画提案を行うことが
ちゃんと出来なきゃいけないよとか、物事を推進する実行力を身に見につけなきゃいけないよ
という意味で仰ってらっしゃるのだと受け止めました。


そして、プロフェッショナルに活動されている方は違うな~、と強く印象に残りました。
そういう実践面でのお考えをお聴かせ頂けますでしょうか。



片桐 宏典さん
誰かと繋がるかというよりも、具体的な事例をお話します。
ケイトと佐藤一枝さん と三人で企画して行なったUK98 というアートイベントがあります。
あれなんかは、はっきり言って非常に無謀とも思える企画でした。



日下

無謀といいますと?



片桐 宏典さん

ケイトと一枝さんが話していた最初のプランというのは、
盛岡市の大通り何カ所かのショップを使って、
そこで展示をしようかというささやかなプランだったんです。


けれども、お金集めなどいろんな効率を考えた時には、基本的に大きい方がやりやすいんですよ。
それで、県内の小さな美術館やギャラリーぜんぶの大きなネットワークを組んで、
それから小岩井農場も組み入れて、大々的にやってみようというプランになりました。


あの当時は、中心となる岩手県立美術館がまだなかったのです。


公会堂アートショウ(※第6回 に掲載)の最初の頃もそうなんだけど
ステージ関係のコンサートとか喫茶店まで含めて、トータルな社会的な現象として
多角的にアートを提示するという企画です。


もちろん展覧会だけではなく、イギリスから作家を呼んでの講演会、ワークショップ、レジデンスなど
盛りだくさんでした。それにパーティも。




日下
そうですか~!すごいことですよね~!?
それだけ大きくすると資金面も含めて運営が大変になるのではないでしょうか?



片桐 宏典さん
だって、企画が良ければ良いほど、みんな一緒にやりたがる訳だから。




日下
ああ、なるほどそうですね~。(感心)




片桐 宏典さん
そうすると作家の質も上げられるし、お金も集められるものなんです。
その企画では、結局4千万円ぐらい集めたと思います。



日下
すごいですね~!(驚嘆!)



片桐 宏典さん
イギリスで実行委員会を別に立ち上げて1千万以上集めて、日本でも2千5,6百万。
当時はまだ県などで予算をわりと持っていて、それがギリギリ間に合ったんですね。




日下
本当にUK98 は岩手県盛岡市を中心に、エリアも広範囲にわたっていましたし、
なにより、岩手とイギリスの優れた現代アーティストを一堂に見ることが
できたのがとっても素晴らしかったですね。
アートと岩手をじっくり楽しみながら旅行できるような充実した内容でしたね。



片桐 宏典さん
ずっとシンポジウムに関わって30年、大抵のことはもう実践したと思ってます。
街にでかけて、コミュニティーに飛び込んで行って、
共働制作やって、石彫教室もトークは勿論のこと、遊び場も創ったし。
とにかくもう彫刻にまつわる実験は大なり小なり、ある意味やり尽くしました。


だから今、どこかでアートのプロジェクトをやっているのを見ると、
彫刻じゃなくても、いわゆるトリエンナーレとかでもすぐに問題も可能性も分かります。
ただ社会自身が変わってきているので受け容れ方が少しずつ違ってきている。


いまはアートのエンターテイメント性が強く求められていて、
僕らが実践してきた大切なシンボルを創るような、コミュニティーの根っこと関わる部分が
今、ワークショップの方に移ってきているんですよ。
作品じゃなくて、子供たちと一緒に何かワークショップをしましょうとか、
パフォーマンスアートみたいなのがあったりとか。


でもやりたいことはいつも同じで、部分が変わってきていると言うだけの話。
石の作品じゃなくて、子供たちと一緒にワークショップで制作をやったりというのが
もっと重要、直接的になってきたということがあります。


だから、とにかくいろんなレベルでいろんな形で関わっていくほど
アートってすごい力を持ってきていて、本来の力を発揮できるんじゃないかなと思います。

あるいは、作品一個だけのシンボルを置くみたいな。
それこそ、神殿のいい所に壺を一個納めるみたいな。




日下
神殿のいい所に壺を一個納めるといいますと・・・。




片桐 宏典さん
それは、神殿があって、聖域があって、何かそこに置くとしたら
「あなたなら何を置きますか? かたちは何になりますか?」
という答えを考えてみる。


あるいは神殿のまわりのマーケットまで含めて、
お祭り的に贅沢にアートで全部関わりたいとか。
そのぐらいアートで啓蒙しないと人間は変えられない、みたいなことでしょうか・・・。



日下
ああ~、そうですね~。深いですね~。




片桐 宏典さん
僕が仙台一高 という高校に行って良かったのは、進学校から良い学校に入るという面だけじゃなくて
僕らの時は、やっぱり安保闘争の末裔だからそういう社会性を考える部分がすごく強かったんです。
(越後妻有アートトリエンナーレ、アートディレクターの北川フラムさん と話している時に感じるのは、

彼は完全に全共闘世代 なんですよ。直接の運動はしていなくても、社会に対する姿勢が。

だから他の人と違って、
彼にとってアートとは社会を変えるための手段なんですよ。


だからこそ、越後妻有アートトリエンナーレが単に普通の展覧会じゃなくて
アートがコミュニティーや社会を牽引するような、ああいうかたちに行くんですよ、彼の場合は。
そこがやっぱりすごい。


そして、やっぱり信じているんだね、アートで変えられるんだということを。
本当に変えられるかな~と思うかもしれないけど、変えられるんだよ、あそこまでやれば。
というところじゃないかな。上手く言えないけど。




日下
すごいですね~。

ありがとうございます。



片桐 宏典さん
僕もケイトと一緒にやっていて、やりやすいのは
彼女もそこら辺を目指しているからだろうし。
YES,WE CAN! みたいな。




日下
彫刻家としての制作活動も私生活も、ケイトさんと同じ理念で一緒に活動出来るということは
本当に素晴らしいことですね!!
今日も素晴らしいお話をありがとうございました。






"Wave Ship"



「 Wave Ship 」
カラーラビアンコ大理石
300x60x75cmH, 250x50x45cmH
みなとみらい中央街区42地区所蔵
2011




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編集後記


 私が片桐 宏典さん、ケイト トムソンさんに初めてお会いしたのは、
私が大学の副手1年目の冬に、お二人の住む岩手県岩手町にある㈲浮島彫刻スタジオを
訪問した時でした。 大自然の中の広いスタジオに姫神産の巨大な原石が置いてあり
「大学の石彫場とはスケールが違う!」と感動したのを覚えています。


 片桐 宏典さんは私が学生の頃から、
「宮城教育大学の在学中から、そのままヨーロッパに渡って彫刻家になっている方」として
有名な存在の方でした。
今現在は、1年の半分ずつをイギリスと日本を行き来しながらの活動をされているそうです。


 今回のお話で私に響いた事は二つあります。

一つは、大きい企画ほど運営が困難になるのかと思いきや、良い企画ほどみんなが一緒に

やりたがるし、それによって資金も集まれば、質もより高められるということ。
もう一点は、片桐さんの言葉で、『神殿があって、聖域があって、何かそこに置くとしたら
「あなたなら何を置きますか? かたちは何になりますか?」という答えを考えてみる。』

ということです。


 どこを神殿と考えるかは、その時々の個別の案件に寄るかと思いますが、

彫刻家にとっては永遠の宿題のような問いかけだと思いました。


 次回は、リレー作家の紹介、今後の活動予定、

そして興味津々の「あなたにとってアートとは?」の質問にお答えいただきます。


どうぞお楽しみに。


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◆片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんのホームページ
 浮島彫刻スタジオ 



スターリング大学(イギリス)での展示
 片桐 宏典さんの紹介ページ 

 スターリング大学 Corridor of Dreams 「夢の回廊」 インタビュー動画)

 (全23分中、お二人と作品が映るのは11:30~15:30頃です。)

 

 スターリング大学 アートコレクション 片桐 宏典さんの紹介ページ 

 スターリング大学のFacebook ⇒Art Collection at the University of Stirling


                        ⇒片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんの作品写真





◆開催中の展覧会です。
 「As Ithers See Us」
【期間】2014年3月11日(金)~9月末日まで
【時間】11:00~21:00
【料金】有料
【場所】Pobert Burns Birthplace Museum, Murdoch's Lone, Alloway, Ayr KA7 4PQ, UK
tel 0844 493 2601 email
burns@nts.org.uk

http://www.burnsmuseum.org.uk/




日本・石の野外彫刻―ストーンアート写真集
  藤田観龍 著(写真)  本の泉社
 

 片桐 宏典さんの作品写真と手記「石彫というジャンル」(318ページ)
 ケイト トムソンさんの作品写真が掲載されています。



彫刻家 片桐 宏典さん 第1回続き 略歴のご紹介



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