抗がん剤拒否の理由③コミュニケーション学の不在 | がん治療の虚実

抗がん剤拒否の理由③コミュニケーション学の不在

・医療者とのコミュニケーション学が存在しない

コンプライアンス(服薬遵守、処方された薬を指示どおりに服用すること)という言葉は重要だが、抗がん剤治療では強い副作用に悩まされるのだから、もっと深い所で納得しないと続かない。

患者さん側からの意思疎通のノウハウが注目されていないのは摩訶不思議だ。
患者さん困っていることがあっても、日本人特有の消極性というか、医師が忙しそうだから遠慮して黙っているというのはよくある光景だ。
それが後でとんでもないことにつながる事をわかっていないのだろう。
抗がん剤治療は未経験者には想像することさえ難しい。

高級ホテルのドアマンのサービスとは違い、医師は患者さんが訴えなけば問題はないのだろうと考える習慣がある。本来ならもっと根掘り葉掘り患者さんに問いかけたほうが良いのだが、他にやることがいっぱいあるからだ。

もちろん患者さん側からの歩み寄りが不可欠なのはいうまでもない(言ってもらわないとわからないから)が、病院にはその重要性を患者さんに教育する仕組みが無い。

ここで自分の経験を記載する。

ある70歳代の男性が進行胃がんと診断されたが、stage IVではなかったので手術の説明をした。しかし頑として受け付けなかった。話を聞いてもその理由が判然としない。手術すれば根治可能だし、しなければ2年ぐらいしか持たない。
いろいろじっくり話し込んだ所、最終的に手術を拒否した理由が「高齢だからがんの進行は遅いはず」というものだった。
はっきり言ってがんの進行速度と年齢は関係ない。

患者さんが最初からそれを口にしていたら、それを織り込んだ説明がすぐできたはずだが、本音を聞き出すのに90分以上かかった。
たまたまその時自分は時間に余裕があったから突っ込んだ話ができたが、そうでなければ途中で諦めるしかなかっただろう。
その後男性は手術を受け完治したが、こういうすれ違いは枚挙にいとまがない。