2013-03-15 00:00:00
釣り針が刺さったとき
テーマ:医学とはちょっと違う
"運はいろんな形をして現われる。
とすれば、どうしてそれがわかる?"
"人間は負けるわけにはいかないのだ。"
いずれも
ヘミングウェイ原作の
老人と海での一節だ。
主人公の老漁師は
三日間にわたりカジキやサメと死闘を
繰り広げかろうじて勝利したが
獲物のカジキは骨だけとなってしまった。
学生の頃授業をサボって
読んだ記憶があるが、
老人の戦う姿勢に妙に興奮
したものだった。
そのとき、やっぱり
自分には漁師の血が流れているのだろうかと
思い至った。
幼少の頃、
神奈川から
両親の実家近くの漁師町に引っ越してきた。
漁師の親戚たちが住む町だ。
そこでの暮らしになじめずにいると、
当時現役バリバリの漁師の祖父から
「Yujo、お前をとっておきの場所に釣りに
連れて行ってやる」
と言われた。
"磯釣りだ!"
そう期待して小型の船に乗せられ
連れて行かれたところは
なんと
祖父の所持する養殖場。
沖に浮かべてあるもの。
そこで育つ魚たちは
生まれてこの方、人間から与えられる
餌で生きてきた連中だ。
だから
人影に気づくと我先にと寄ってきて
釣り針を投げるといとも簡単に釣れてしまう。
文字どおりの入れ食い状態で
餌すら不要のようだった。
バケツ一杯の魚を実家に
持ち帰った。
しかし
祖父には申し訳ないが、
こんな作られた環境では正直全く
面白くなかった。
それを察した祖母が
翌日すぐ近くの波止場へ連れて行ってくれた。
「さあ、ここで思う存分釣ってみなさい。」
リールも何もない
ただ釣り竿だけを渡されたため
餌をまず探した。
ゴカイのようなものを掘り当て
それを慎重に釣り針に刺した。
ドキドキしながら
思い切り後ろに振りかぶり
そして海へ向けて振りかぶる。
大きく弧を描いて放たれた
釣り糸は遠い海へと吸い込まれていく...。
ように見えた。
ところがその後、水面をかすめた
釣り針から餌のみがポチャリと落ちて
そのまま
こちらへ舞い戻ってきた。
そしてあろうことか我が太ももに釣り針がザクッと
突き刺さったのだ。
見るも無残な状態だった。
泣きわめいて
祖母の下へ走るがジタバタすれば
するほど釣り針が突っ張り
強烈な痛みが走った。
祖母はこのあわれな状況をみて苦笑した。
「あんた、自分を釣ってどうするの。
大丈夫だから、ちょっと待ってなさい。」
そう言って
倉庫から釣り糸の切れはしを
もってきて
刺さった釣り針の中ほどに結びつけた。
その糸を
ピッと引っ張ると
釣り針は一瞬で抜けていった。
抜けかけた歯に
糸を巻いてピッと抜く。
あの感覚で拍子抜けするほど
痛みを感じなかった。
漁師の家に嫁ぎ
何十年もの間
祖父の漁を支えてきた
祖母ならわではの所業だった。
(漁師の間ではよく知られた方法
らしい)
これまで
10回くらい
釣り針を刺さった患者さんを
みてきたが
祖母の釣り針抜き
テクニックを使うと
まず、成功するし
これが医者の必殺技なのか
という好奇の目でみて
感謝される。
しかし
自分を吊り上げるという
ヘマをしたことは
当時、親戚中に知れ渡り、
Yujoは釣りの才能がないとか
祖父の好意を無にしたあげく
自分自身を吊り上げ手がかかるとか
散々になじられ記憶から消し去りたい
くらい苦い思い出だった。
それがまさか
こんなところで役に立つとは
人生とは本当にわからないものだと
不思議に思う。
先日、当直中
数年ぶりに
釣り針を腕に刺した男の子が
救急外来にやってきた。
いつものごとく
外科用絹糸をまきつけ華麗に
抜いて差し上げようと
したとき
いつもと違うことに気づいた。
その釣り針には
返しの数が三箇所ほどにあり
一度刺さると絶対抜けないような
凝ったつくりをしていて
どうみても祖母の方法で
抜くのは無理だった。
"それでも外科医は負けるわけにはいかないのだ。"
泣きわめく
子供さんをどうにかこうにか
あやしながらわずかに局所麻酔をし
返しの部分を皮膚から貫通させてから
ペンチでポキッと切断し摘出した。
この一連の操作は
教科書的な正攻法で治療としては
うまくはいったのだが
かなり痛い思いをさせてしまった。
「あの子、しばらく病院嫌いになるでしょうね。」
外来のナースはそうつぶやく。
僕はだまって
それにうなずきつつ、
"いいや、きっとこの事件を
バネにしてたくましくなってくれるはずだよ。
ひょっとして人生変わるかも。"
そう心の中でつぶやいた。
応援よろしく!
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とすれば、どうしてそれがわかる?"
"人間は負けるわけにはいかないのだ。"
いずれも
ヘミングウェイ原作の
老人と海での一節だ。
主人公の老漁師は
三日間にわたりカジキやサメと死闘を
繰り広げかろうじて勝利したが
獲物のカジキは骨だけとなってしまった。
学生の頃授業をサボって
読んだ記憶があるが、
老人の戦う姿勢に妙に興奮
したものだった。
そのとき、やっぱり
自分には漁師の血が流れているのだろうかと
思い至った。
幼少の頃、
神奈川から
両親の実家近くの漁師町に引っ越してきた。
漁師の親戚たちが住む町だ。
そこでの暮らしになじめずにいると、
当時現役バリバリの漁師の祖父から
「Yujo、お前をとっておきの場所に釣りに
連れて行ってやる」
と言われた。
"磯釣りだ!"
そう期待して小型の船に乗せられ
連れて行かれたところは
なんと
祖父の所持する養殖場。
沖に浮かべてあるもの。
そこで育つ魚たちは
生まれてこの方、人間から与えられる
餌で生きてきた連中だ。
だから
人影に気づくと我先にと寄ってきて
釣り針を投げるといとも簡単に釣れてしまう。
文字どおりの入れ食い状態で
餌すら不要のようだった。
バケツ一杯の魚を実家に
持ち帰った。
しかし
祖父には申し訳ないが、
こんな作られた環境では正直全く
面白くなかった。
それを察した祖母が
翌日すぐ近くの波止場へ連れて行ってくれた。
「さあ、ここで思う存分釣ってみなさい。」
リールも何もない
ただ釣り竿だけを渡されたため
餌をまず探した。
ゴカイのようなものを掘り当て
それを慎重に釣り針に刺した。
ドキドキしながら
思い切り後ろに振りかぶり
そして海へ向けて振りかぶる。
大きく弧を描いて放たれた
釣り糸は遠い海へと吸い込まれていく...。
ように見えた。
ところがその後、水面をかすめた
釣り針から餌のみがポチャリと落ちて
そのまま
こちらへ舞い戻ってきた。
そしてあろうことか我が太ももに釣り針がザクッと
突き刺さったのだ。
見るも無残な状態だった。
泣きわめいて
祖母の下へ走るがジタバタすれば
するほど釣り針が突っ張り
強烈な痛みが走った。
祖母はこのあわれな状況をみて苦笑した。
「あんた、自分を釣ってどうするの。
大丈夫だから、ちょっと待ってなさい。」
そう言って
倉庫から釣り糸の切れはしを
もってきて
刺さった釣り針の中ほどに結びつけた。
その糸を
ピッと引っ張ると
釣り針は一瞬で抜けていった。
抜けかけた歯に
糸を巻いてピッと抜く。
あの感覚で拍子抜けするほど
痛みを感じなかった。
漁師の家に嫁ぎ
何十年もの間
祖父の漁を支えてきた
祖母ならわではの所業だった。
(漁師の間ではよく知られた方法
らしい)
これまで
10回くらい
釣り針を刺さった患者さんを
みてきたが
祖母の釣り針抜き
テクニックを使うと
まず、成功するし
これが医者の必殺技なのか
という好奇の目でみて
感謝される。
しかし
自分を吊り上げるという
ヘマをしたことは
当時、親戚中に知れ渡り、
Yujoは釣りの才能がないとか
祖父の好意を無にしたあげく
自分自身を吊り上げ手がかかるとか
散々になじられ記憶から消し去りたい
くらい苦い思い出だった。
それがまさか
こんなところで役に立つとは
人生とは本当にわからないものだと
不思議に思う。
先日、当直中
数年ぶりに
釣り針を腕に刺した男の子が
救急外来にやってきた。
いつものごとく
外科用絹糸をまきつけ華麗に
抜いて差し上げようと
したとき
いつもと違うことに気づいた。
その釣り針には
返しの数が三箇所ほどにあり
一度刺さると絶対抜けないような
凝ったつくりをしていて
どうみても祖母の方法で
抜くのは無理だった。
"それでも外科医は負けるわけにはいかないのだ。"
泣きわめく
子供さんをどうにかこうにか
あやしながらわずかに局所麻酔をし
返しの部分を皮膚から貫通させてから
ペンチでポキッと切断し摘出した。
この一連の操作は
教科書的な正攻法で治療としては
うまくはいったのだが
かなり痛い思いをさせてしまった。
「あの子、しばらく病院嫌いになるでしょうね。」
外来のナースはそうつぶやく。
僕はだまって
それにうなずきつつ、
"いいや、きっとこの事件を
バネにしてたくましくなってくれるはずだよ。
ひょっとして人生変わるかも。"
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