「スイカと言えば塩が定番だな」
「あらそう。最近はキャラメルでもアイスでも生クリームでもチョコレートでも何でも塩味にしてしまっているものね。商品名だけでは甘いものが食べたいのかしょっぱいものが食べたいのかさっぱり分からないわ。そしてついにスイカも空気を読んで塩味になったのね。それならもう名前も【酸い果】に改名してしまえば紛らわしくなくて良いんじゃないかしら」
「いや、スイカは空気なんて読まないと思うんだけど……」
「あら、そうかしら。何でもかんでもいつでも栽培して収穫出来る技術は既に確立されているはずよ。それでも夏になるまでほとんど見かける事が無いというのは、技術の問題ではなくてスイカのプライドの問題だと思うわ。常に存在する状態になると人々の日常の中に溶け込んで組み込まれる可能性が高いし、お馴染みの食品になる事は出来ても、その分ありがたみというのは薄れてしまうものね。年中食べられるジャガイモだって本来は奇跡的な存在だと私は思うけれど、人々は大してありがたがったりしないんじゃないかしら」
「まぁ言いたい事は分かるけど、別にスイカには夏にこだわる意志なんて無いんじゃないのか?」
「そんなのは訊いてみなければ分からないじゃないの。ものを言わない存在は思考も持たないと思っていたらそこで想像力の広がりは停止してしまうわよ。スイカだって夏の王者としての自負はあるでしょうし、昨今の塩スイーツの流れを察知して塩味になったとしても不思議ではないわ」
「うーん、何か僕が意図した展開とは全く違うな……そもそも僕が言いたいのはそういうスイカ自体が塩味になる話じゃなくて、スイカに塩を振って食べるのは結構定番の食べ方だよな、って言おうと思ったんだ」
「あらそう。興味が無いから分からないわ。スイカを食べるという定番からもスイカに塩を振るという定番からも外れた女で悪かったわね」
「いや、別に食べないなら食べないで謝らなくても良いんだけど、何だか塩を振って食べる方が甘味が増す気がするんだ」
「あらそう。人体は甘味よりも先に塩味を感じるからだと思うわ。一瞬口の中がしょっぱく感じた後で甘味を感じるから、普段よりも甘く感じるんじゃないかしら。ほとんど食べた事が無いから分からないけれど」
「へー、そうなのか。じゃぁさっき甘いかしょっぱいかさっぱり分からないって言ってたキャラメルとかもスイカと同じ理由なんじゃないのか?」
「さぁ、どうかしらね。もしそうだとしても、そこまで手を加えて強引に甘さを感じさせていると、そのうち甘いもの達からの逆襲があるんじゃないかしら。既に甘味業界のプライドはズタズタだと思うわ。いつまでも酸味業界に甘い顔をしていられない、と苦虫を噛み潰したような顔で辛口なコメントをいう幹部もいるでしょうね。業務提携のはずがほとんど買収されてしまったような雰囲気で、いよいよ酸味業界との決別の日がやってくるかもしれないわ」
「……その世界観がよく分からないけど……」
「あらそう。でも人間関係も似たようなものだと思うわ。私がいつもいつも甘い顔をしていたから、あなたはすっかり酸味業界とは手を切って、甘え切った人間になってしまったものね。甘い言葉ばかり言って私を騙して誘惑して、何を考えているのかしら」
「僕は騙すつもりなんてないぞ!僕のお前に対する想いは真剣だからな。お前に対して悪い感情が一切無いし、結果的に甘い言葉だけになっても仕方ないじゃないか」
「……うるさいわね。その甘さを更に甘く感じたい私はどうしたら良いのかしら。しょっぱい嬉し涙でも流せば良いのかしら?……って、何を言わせるのかしら、みっともない」
「ううっ、まさか一人の時に感動したりしてくれてるのか……?」
「あら、何の事かしら。私が泣くはずがないじゃないの。いつも塩味のフライドポテトを食べているもの」
「全く素直じゃないな……でも僕の言葉を更に甘くしようとしてくれてるなら文句は言えないか」
「クリックしてくれれば嬉し涙が流れるかもしれないわ」
「ツイッター とかいうものを始めてみたわ」
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