☆精液所見による体外受精妊娠の男女比の違い | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、精液所見と体外受精妊娠の男女比の関係を調べたものです。

Fertil Steril 2016; 105: 897(日本)
要約:2007~2012年新鮮胚移植を実施し単胎妊娠で出産した赤ちゃん27,158名の性別と精液所見の関連を後方視的に検討しました。なお、日本産科婦人科学会の全国の登録データを用いました。下表のように、受精方法により男女比(男児/全出生児)に有意差が認められました。

      体外受精   顕微授精(射出精子)   顕微授精(精巣精子)
出産数   14996名      12164名         646名
男女比    53.1%       48.2%         47.7%

体外受精では、精子の運動率低下(<40%)の場合の男女比(51.0%)は、運動率正常の場合の男女比(53.4%)より有意に低下していましたが、顕微授精では精子の運動率による男女比に有意差を認めませんでした。また、体外受精の場合も顕微授精の場合も、精子数と男女比との関連は認めませんでした。

また、分割胚(49.9%)と胚盤胞(52.9%)の男女比にも有意差を認めました。したがって、男児の多い順に並べると、体外受精+胚盤胞(55.3%)>体外受精+分割胚(52.0%)>顕微授精+胚盤胞(50.0%)>顕微授精+分割胚(47.3%)となります。

解説:受精の際の男女比を一次性比と言い、出生時の男女比を二次性比と言います。最新の調査では一次性比は50%と報告されていますが、二次性比は多くの先進国で51%です(105~107名の男児に対して100名の女児)。一次性比と二次性比が異なる理由として、ヒトとしての生物学的な特徴であること以外に、生活環境、社会環境、経済環境、父親の年齢、戦争、自然災害などの関与が報告されています。本論文は、日本全国の体外受精のデータを用い、受精方法、精液所見、移植胚の時期による男女比を分析した初めての報告です。

基本的に顕微授精は体外受精より精液所見が不良ですので、本論文の前半部分は「精子運動率が低下すると女児が多くなる」ことを示唆しています。後半部分「分割胚より胚盤胞で男児が多くなる」のは、新鮮胚盤胞移植では最も成長速度の速い胚が選ばれる傾向がありますが、成長速度の速い胚は男児の確率が高いと報告されています。また、女児の胚盤胞はX染色体の1本の不活化がうまくいかないものが含まれるため、早期に淘汰されるのではないかとも考えられています。

男女比に関しては、下記の記事を参照してください。
2016.1.4「女の子が欲しい時、夫に痩せてもらう?」
2015.3.4「タイムラプスを使って女の子の胚を選別できる?」
2014.12.14「地球温暖化により女児が増加!?」
2014.6.14「☆体外受精、顕微授精による赤ちゃんの男女比」
2013.6.27「☆性別の選択(男女生み分け)その2」
2013.6.20「☆性別の選択(男女生み分け)その1」
2013.3.10「発育が速い胚盤胞は男の子になる?」
2012.11.27「女性のストレスが強いと女の子が生まれる?」