発育が速い胚盤胞は男の子になる? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

最近、「発育が速い胚盤胞は男の子の胚が多いのでしょうか」という質問がありましたので、論文を探してみました。下記に示す複数の論文のデータを総合してみると、その答えは、発育が速い良好胚盤胞は男の子の胚が多いようです男の子が多いのは、胚盤胞>分割胚、新鮮胚>凍結胚、体外受精>顕微受精、発育速い>遅い、となっています。女の子の場合は逆になります。

J Assist Reprod Genet 2009; 26: 433(メタアナリシス)
要約:4309名の赤ちゃんの性別メタアナリシスで調査しました。生まれた赤ちゃんの男女比は、胚盤胞移植で男児(54.5%)の出生が有意に多くなっていました。また、顕微授精と凍結融解胚移植で女児の確率がやや高くなっていました。

Fertil Steril 2009; 91: 2381(メタアナリシス)
要約:新鮮胚移植による2587名の赤ちゃんの性別メタアナリシスで調査しました。生まれた赤ちゃんの男女比は、分割胚移植より胚盤胞移植で1.29倍男児が有意に多くなっていました。

BJOG 2010; 117: 1628(ニュージーランド)
要約:全国で13,165名の女性の単一胚移植により生まれた13,368名の赤ちゃんの性別を調査しました。顕微授精(50.0%)より体外受精(53.0%)で多くの男児を出産し、分割胚移植(49.9%)より胚盤胞移植(54.1%)で多くの男児を出産していました。

Fertil Steril 2011; 95: 520(イギリス)
要約:500個の胚盤胞のTE(胎盤になる部分)の全ての染色体をCGH法で調べました。グレードが5AA&6AAの胚は72%がXY(男)で、グレード3の胚では40%がXYでした。

解説:かつては、誕生した赤ちゃんの性別で判断していたため、生まれて初めて集計ができるという状況でしたが、現在では胚の段階でCGHを行い全ての染色体(性別も含め)を判断することができます。したがって、多くの例数で、より早い段階での検討が可能になりました。最新の2011年の論文では、CGHが取り入れられています。発育が速い分割胚や胚盤胞で男児が多い現象は、牛やマウスなど他の哺乳動物でも認められています。その理由は明らかではありませんが、女児ではX染色体の片方を不活化するステップの不具合が起きる確率が高いことや男児のY染色体に増殖因子の遺伝子が存在することなどの影響が示唆されています。一方、凍結胚に比べ新鮮胚で、あるいは顕微受精に比べ体外受精で男児が多い理由も同様に明らかではありませんが、XY胚は凍結融解操作や顕微授精操作などのダメージに弱いのかもしれません。今後CGH法が広まれば、もっと多くの症例数で検討することができますので、明らかにされると思います。