☆性別の選択(男女生み分け)その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2013.6.20「性別の選択(男女生み分け)」で、世界における「性別の選択(男女生み分け)」の現状をご紹介しました。その際に、パーコール法やピンクゼリーなど日本で行われているその他の方法はどうですか、という質問がありましたので、論文を調べてみました。

①Fertil Steril 1971; 22: 303
要約:XY精子の選別に酸性•アルカリ性(pHの変化)が有用であるかを検討しました。7名の健常男性の精液を用い、pHを様々に変化させた細いチューブを準備し、それに入ってきた精子を回収し、染色してX精子かY精子かを調べました。しかし、pHを変化させたチューブ内のXY精子の比率に有意差は認められませんでした。

②J Assist Reprod Genetics 1998; 15: 565(台湾)
要約:12層のパーコール密度勾配法によるX精子の選別(遠心後のボトムの精子を回収)を、10名の健常男性の精液を用いて行いX精子かY精子かをFISH法で確認しました。X精子の選別を行わない場合のX精子の割合は49.5%(41.4~53.6%)、パーコール法を用いた場合には52.2%(48.4~55.6%)と有意差を認めました。

③J Reprod Dev 2004; 50: 463(日本)
要約:パーコール密度勾配法によるX精子の選別(遠心後のボトムの精子を回収)とY精子の選別(遠心後のトップの精子を回収)を、牛の精液を用いて行いX精子かY精子かをFISH法で確認しました。遠心後のトップのY精子の割合は52.9%、遠心後のボトムのX精子の割合は55.7%と有意差を認めました。また、遠心後のトップの精子は、ボトムの精子より運動性が悪い精子となりました。

④Reprod Biomed Online 2008; 16 suppl 1: 18(ドイツ)
要約: 742名のドイツ人にインターネットで、「男女生み分け」について調査を行いました。回答者のほとんどは女性でした(736名: 99.2%)。もし「男女生み分け」が可能だとしても絶対にしないという方が82.7%いました。ピンクゼリーやブルーゼリーの仮説がもし正しいと仮定して、この方法を行うかもしれないと答えたのは19%でした。また、第1子に女児を希望する方が27%、男児を希望する方が11%でした。

⑤Veterinary Med International 2011; ID 894767(スエーデン)Review
要約:家畜の世界では、生産性や品質などの目的で、「性別の選択」が必要になることがあります。精子の重さによる選別が行われた場合、XY 精子のDNA量の違いは、わずか3.8~4.2% です。しかも、精子の成熟に伴い精子の比重が変化しますので、重さだけで分離するのは困難です。現在最も有効であるのは、蛍光色素でラベルしたフローサイトメトリーによる精子のソーティングです。しかし、これとて完璧な方法ではなく、畜産業会では効果的かつ実用的な「性別の選択」方法の登場を待ち望んでいます。

⑥Los Angeles Times 1999, Nov. 15(米国)
要約:「日本の夫婦はピンクを考える」と題して、日本独自の生み分けの実態について紹介しています。日本人はかつては男の子を後継者として望みましたが、最近では女の子を望む場合が多く、アンケート調査によると80%が女の子を望むようです。特に、第2子、第3子になると、ほとんどの方は女の子を望みます。日本で最も行われている「男女生み分け」の方法とは、基礎体温や酸性•アルカリ性のジェルを用いた「ローテク」なものです。日本の人口動態統計によると、出生児の男女比は105.4:100であり、男性51.3%、女性48.8%となります。この比率は1899年以降毎年変わっておらず、自然の摂理に基づいた確率と考えられます。一方、日本の近隣諸国では男の子を望む傾向が強く、出生児の男女比は中国が118:100、韓国が117:100、台湾が110:100です。これは、妊娠中の「性別の選択」により、女の子が中絶により少なくなっているためであると言われています。日本では、このような人為的な方法は行われていませんので、結局出生児の男女比は120年以上変わっていません。つまり、日本で行われている「男女生み分け」法は、男女比を変えるに至っていません。

解説: パーコール法によるXY精子の選別は、X精子がY 精子よりわずかに重い(DNA量が3~4%多い)ことを利用しています。一方で、良い精子は悪い精子より重いため、遠心後のボトムの精子は良好なX精子が多く、トップの精子は悪いY 精子が多いことが理論的に考えられます。まさに②③⑤はそれを示していますが、パーコール法によるXY精子の選別は、動物でもヒトでも実際にはX精子が52~55%にすぎず、「男女生み分け」のレベルとしては確率的に不十分な数値です。

一方、ピンクゼリーは、pH(酸性•アルカリ性)による精子の選別です。①はその根拠となる科学的データが乏しいことを示しています。また、④⑥は本法について懐疑的に考えている論調です。

最終的には、⑤に示す「蛍光色素でラベルしたフローサイトメトリーによる精子のソーティング」というところに落ち着きます。